雄大かつ荘厳な姿をたたえていた名実ともに日本一の山、富士山。
しかし、今やその姿は魔の山と言う単語がぴったりくる醜悪かつ不気味な姿となっていた。
そしてここを起点として、暗雲が世界中に広まり始め、富士山周辺では昼間にもかかわらず夜間のようになっていた。
その光景は世界中の報道機関が緊急ニュースとして報道しており、大混乱を巻き起こしていた。
Dr.フライ「ヒャヒャヒャヒャ!! どうだ愚民ども、もっとおびえろ。混乱しろ。その負の感情が全てこの世界を暗黒に変える力となるのじゃ!!」
その報道を流す小型端末を脇に置きながら、富士山頂から下を見下ろしていたDr.フライは実に気分よさそうに高笑いをした。
Dr.フライ「さて、あとは奴隷どもをとらえてきて、最後の工事をやらせるだけじゃ。負の感情に満ちた奴隷が暗黒世界襲来の良き供物となるじゃろう。行けマイナーども!!」
Dr.フライの命令に従って、大量のマイナーが富士周辺の町を襲撃し片っ端から人々を連行していっていた。
テレビ局
この異常事態に局内も上を下への大パニックに陥っており、取材に出かけるもの情報を収集するもの、番組編成の緊急変更その他でごった返していた。
そんな中、険しい顔でモニターを睨みつけていた甲斐節子をようやく専属のカメラマンが見つけた。
カメラマン「あぁせっちゃん、やっと見つけた。取材行くんだろ」
節子の性格をよく理解しているこのカメラマンは、いつものように突撃取材を敢行するであろうことを見越して準備を万全に整えていた。
しかし、今日の節子の返事はいつもとは違っていた。
節子「ごめん。取材はあんた一人で行って。私他に行かなきゃいけないところがあるの」
カメラマン「えっ!? ちょっ、ちょっと待った。なら俺も一緒に…」
予想外の返事を残して走り出した節子に驚きつつも、慌てて追いかけていこうとしたカメラマンだが、節子に止められた。
節子「ごめん、そこカメラ禁止なのよ」
一人取り残されたカメラマンは呆然としながらつぶやいた。
カメラマン「せっちゃん一体どうしたんだ? いつもなら大スクープって言って飛んでいくのに…」
節子(事ここに至って、スクープなんか追ってる場合じゃない。できる事なんて限られてるけど、プリキュアの手助けをしないと…)
これまでいろいろな報道をしてきたが、それは全て名誉欲。
ひいては自分のためである。
人のために全力で頑張って戦っている人がいるというのに、あまりにも恥ずかしい事であった。
それを今更ながらに痛感した節子は、遠藤平和科学研究所に向けて車を飛ばしていた。
警視庁
上司「河内くん。それはどういう事かね?」
河内「ですから今申し上げたとおりであります。しばらく単独で行動させていただきたいのです」
この非常時に突拍子もないことを言うなとばかりに、河内警部を怒鳴りつけた上司だったが、河内警部の表情は崩れなかった。
上司「いいかね。富士山が連中に占拠され、あのような姿に変えられてしまった。以前アメリカが占領された時と同じような事態がこの瞬間にも起こるかもしれんのだよ」
そんな河内警部に対して、上司は必死に感情を押さえ込み、噛んで含めるように状況を説明した。
が
河内「それは重々承知しております。ですから単独行動を許可していただきたいのです」
上司「君は本当に状況を理解しとるのかね!? 単独で動いて何をするつもりなんだね!?」
全く意見を変えない河内警部に、上司は当然とでも言える質問を行った。
河内「はっ、状況を誰よりも理解しているからであります。私は過去幾度となく次元皇帝パーフェクトの一派どもの事件と関わり、はっきりとわかったことがあります。それは悲しいかな我々だけの力ではあの連中に対抗できないということであります」
上司「それは我々も嫌というほどわかっている!! だがだからと言って何もせんわけにいかんだろう!! 君が一人で動いたところで何かが変わるのかね!?」
河内「変わります!! いえ変えてみせます!! 詳しいことは今は説明できませんが、必ずや事態を打開してみせます。では」
言いたいことはすべて言ったというように敬礼をすると、河内警部は上司の制止も聞かず部屋から出ていった。
河内(この状況が危機的だということぐらい俺でもわかる。以前のアメリカの時は彼女達のおかげで何とかなったが、今回もうまくいくとは限らん。彼女達の力がギリギリ届かなかった時のために、できることを全力でやるんだ!!)
速田家
豪母「豪!! どこに行くの!? 世の中がこんなことになってるって時に!!」
世の中がパニックになっているという状況にもかかわらず、一人家を飛び出そうとしていた豪に、豪の母は怒鳴りつけた。
母親としては当然の感情であろうが、豪も譲る気は無かった。
豪「じいちゃんとこだよ!! こんな時だからこそ行かないと!!」
豪母「何バカなこと言ってるの!! それとこれと何の関係があるの!?」
豪「わけは全部終わってから話すよ!! 無事に終わったらね!!」
豪母「豪!! 待ちなさい!!」
そう言い残すと、豪は母親の制止も振り切り遠藤平和科学研究所に向けて走って行った。
遠藤平和科学研究所
研究所地下の格納庫では、先日のDr.フライの海底研究所の爆発でボロボロになった三冠号の修理が急ピッチで行われていた。
遠藤「えぇい、今更もう潜水艇モードへの切り替えシステムなどいらん。修理手順からオミットして… その代わりに装甲材質を強化すると同時に出力と推力をアップさせて…」
このギリギリの状況下で三冠号の改良を行っている遠藤博士に、ランが差し入れを持ってきた。
ラン「おじいちゃん、テレビの報道はもちろん、ネット上でもすごいことになってるわ。 富士山麓の自衛隊はほぼ壊滅してるっていうし、もう少し作業を早くできないの? 改造なんかしなくていいじゃない」
遠藤「えぇい、みなまで言うな!! あの状況下に対応させるようにせんと返り討ちにあうのがオチじゃ!! 可能な限りの強化はしておかんと…」
頭をかきむしりながらの作業ロボットへのプログラム変更に、遠藤博士は軽いパニック状態に陥っていた。
豪「じいちゃん!!」
遠藤「やかましい!! 今度はなんじゃ!?」
そこに威勢良く飛び込んできた豪にイラついたように怒鳴った遠藤博士に、豪も少しひるんでしまった。
豪「うっ、ごめん。それより節子さんから連絡入ったよ。ヨーロッパに行ってる宝六博士を日本に呼ぶ手はずがついたって」
遠藤「何!? 本当か!!」
豪「うん。こんな状況で空港がパニックになってるけど、テレビ局が呼んだってことでスムーズにいったみたい」
遠藤「よっしゃ!! あやつが来てくれれば作業がはかどる。あれを応用したものを完成させれば…」
一方、リーフとダイーダは交代でボディのメンテナンスを行っていた。
光の精霊でもある彼女達が取り付いたことで簡易的なメンテナンスは自動で行うことは出来るものの、一度徹底的にやっておくべきと判断したのである。
京香「よし、リーフさん。あなたのボディの骨格部分と関節部分のチェックは万全よ」
リーフ「ありがとうございます先生。でもすごいですね、遠藤博士でさえ私達が取り付いた所為で変質したこのボディのチェックは大変だったのに」
京香「それほどでもないわ。骨格と関節の部分は機械になってるとはいえ、人間のものとあまり変わらないもの。もっとも私じゃその部分だけで精一杯だけど」
京香先生もできることを手探りながらも探しており、リーフとダイーダののチェックを手伝っていた。
ダイーダ「リーフ、ボディのチェックが終わったらライナージェットの最終調整よ。それからあっちの方も準備しておきましょう」
京香「あっちって? 遠藤博士が用意しようとしてるもの?」
ダイーダ「それとは別の秘密兵器です。捕まってる人達を助けるためのものです。それが無理でも奴らの作戦の進行を少しでも遅らせることができれば…」
皆がそれぞれできることをやっている中、河内警部が飛び込んできた。
河内「いやぁスマンスマン。公務員はいざという時になかなか融通がきかなくて困る」
ラン「あっ河内警部」
ダイーダ「河内警部、待ってました。実は是非とも協力してほしいことがあるんです」
河内「おう、なんでも言ってくれ。この河内、全力で手助けさせてもらうぞ!!」
ダイーダの真剣な表情とともに告げられた頼みに、河内警部もドンと胸を叩いて力強く応じた。
一時間ほどして、どうにか修理の終わった三冠号で富士山麓に向かいながら、ダイーダは同行を頼んだ河内警部に作戦の概要を説明していた。
河内「なるほど。奇襲を兼ねた救出作戦か」
ダイーダ「はい。いっぺんに捕らえられた全部の人を助けるのは困難ですが、可能な限りの人を救助したいんです。それに…」
リーフ「アメリカの時にもそうだったけど、人を捕まえて奴隷にして働かせるのは、マイナスエネルギーを蓄積させることが本当の狙いらしいんです」
二人の説明を聞いて、河内警部はかねてからの疑問が一部氷解していた。
河内「ふ〜む。あの戦闘員、マイナーだったか。あいつらに作業をやらせないのはそういう理由もあるのか。だからこそ人々を救出すれば奴らの作戦をわずかでも遅らせることができるということか」
ダイーダ「連中の作戦はタイミングが大切みたいなんです。上手く時間を稼ぐことができれば、以前の時のように撤収に追い込めるかもしれません」
リーフ「あいつら、自分達の基地を爆破しちゃったしね。この場をしのぐことができれば…」
河内「大逆転可能ってことか。よし行くぞ」
作戦の意図を理解した河内警部は気合を入れていたが、そんな河内警部にダイーダは申し訳なさそうに言った。
ダイーダ「すみません。連中のところに潜入するなんて危険なことに一緒に来てもらって。ですが、さすがに豪や博士には荷が重すぎますので…」
河内「何を言うか。市民の安全を守るのが警察官の仕事だ。お前さん達だってそうだろう。精霊の国の特別警備隊員さん」
暗くなった空気を打ち消すかのような河内警部の自信に満ちた堂々たる言葉に、ダイーダも力強く頷いた。
リーフ「見えた。あれがフジサンだよね」
河内「ああ。全く碌でもないことをやってくれた連中だ。日本人の誇りをあんな姿にしやがって」
ダイーダ「秘密兵器も準備はできてるわ。このまま突っ込むわよ」
リーフ・河内「「了解!!」」
第48話 終