Fate/Grand Apocrypha〜亜種聖杯大戦〜   作:古代魚

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第3話~決闘準備1~

 放課後となった。

 凛は皆が帰った後の空っぽの教室で瞑想していた。

 気を高める事、気を鎮める事。これができてこその武術である。

 聖杯戦争のマスターと戦う。恐らくサーヴァントも来るだろう。

 藤丸だけが相手ならば、魔術で脅せばいい。

 その令呪を放棄するようにと。

 

「面倒なことになったなぁ」

 

 ランサーには念話で決闘をすることを告げた。

 だが彼からの返答は自分は参加しないとのものだった。

 屋上で凛が出ていってからも彼は残っていた。

 何か藤丸のサーヴァントについての手がかりを得ていないかと期待していたのだが。

 

 ――儂が死合うに見合った相手ならば。

 

 それ以外には興味が無いようだった。

 彼がこの聖杯戦争に来た理由も、神の如く強き者と槍を交えることだ。

 武の極致。ランサーが目指すのはまさにそれ。

 凛は、世界と合一し気配すら消すその技量に見惚れた。

 これならば、根源に至れるかもしれない。そんな夢を見た。

 けれどもランサーが言うには、彼の技量ではまだ武術を極めたとは言えないのだそうだ。

 だからこそ、彼は強き者を求める。強き者達と槍を交えさせるために彼は召喚に応じた。

 

「なかなか、厳しいお師匠様だこと」

 

 彼と組んで気づいたことがある。

 ランサーの脚の置き方、呼吸の仕方。凛が教わった八極拳に酷似している。

 恐らく名のある八極拳の使い手なのだと思うが、あまり武術の歴史について彼女は詳しくはなかった。

 

 ――儂が見た限り、あの小僧に手こずるようならば功夫を一からやり直しだな。

 

 それは藤丸の事を差しているのか、藤丸のサーヴァントを見てまで言った事なのか、凛にはわからない。

 だが決闘に彼が参加しないというのならば、藤丸と駆け引きをしても無駄だろう。

 

「あら、ミス遠坂。何故一人残っているのかしら?」

 

 凛の気づかないうちに、放課後の空き教室にそぐわぬ淑女がそこに立っていた。

 振り向いた凛はしかめ面。この世で一番見たくなかった物を見るように。

 

「その言葉、そっくりそのままお返しするわよ。ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト」

「あら、心外ですわ。(わたくし)は可愛い妹が部活見学をしたいと言うものだから、終わるまで待ってるだけでしてよ」

 

 凛は彼女――ルヴィアの『私の妹』という単語に過剰に反応してしまう。

 焦燥にも似た想いが胸を焦がす。何故よりによって、父は何故よりによってあの子をエーデルフェルトへ養子にやったのか。

 

「……そう。それをわざわざ私に言うためにここに来たのかしら? 確か貴方はC組のはずよね」

 

 凛の言葉は刺々しさを増していく。

 

「ええ、これはついでですわ。真面目な話、セカンドオーナーの遠坂の家には伝えないといけないと思ったのですわ。例えば――私の家に教会の使いが来た、とか」

「え、それって……」

「聖杯戦争……亜種聖杯だったかしら? エーデルフェルトの家は二度と聖杯戦争には参加しないつもりだったのですけれど」

 

 興味が湧いたのだとルヴィアは言った。

 優雅なハイエナと言われるエーデルフェルトの次期当主が興味を持つ。その意味に凛は背筋を震わせた。

 

「令呪が出たとかそう言うわけじゃないでしょうね。あんたも、あの子も」

「出ていませんわ。だからこそ、参加者としてではなく戦果を頂きたいと思うのは当然でしょう?」

 

 くすくすとセットした金髪を揺らし、ルヴィアは笑う。

 エーデルフェルトは完全に敵ではない。そのことに凛は胸を撫で下ろす。

 できるならば、敵対したくはなかった。それもあの子とは。

 

「そう。私はこの亜種聖杯戦争とやらを叩き潰すつもりよ。遠坂の霊地で勝手なことした罪、贖ってもらわないと。その邪魔をするなら、たとえエーデルフェルトの者でも容赦しないわ。だから、ルヴィアもそのつもりで」

「おお、怖い。ミス遠坂らしい野蛮な考えだこと」

「野蛮って何よ」

「魔術と武術のいいとこどりで根源を目指そうというその志が、ですわ」

 

 武術はほんの嗜みである、とでも言うかのように髪をかきあげ、彼女は身を翻した。

 

「ミス遠坂の方針は尊重しますわ。でも、私が好きに動く分はいくらミス遠坂といえど邪魔はさせません」

 

 きっぱりと彼女が残した言葉は凛の表情を曇らせるには十分すぎた。

 まさに彼女とは虫が合わない。けれども、武術と魔術で根源に至ろうと言う遠坂の家の方針を口では貶めつつも完全に否定しない。

 それどころか、万が一根源の可能性が垣間見えればその手法を簒奪するだろう。

 

「はあ……これ以上ルヴィアが深く絡んでこないといいんだけど」

 

 

 

 

 藤丸は授業をすべて終えるとすぐに校門の外で待つ。

 昼休みのマシュとの逢瀬を見ていた同級生たちが意味ありげに藤丸を見ては通り過ぎていく。

 

「お待たせしました、先輩」

 

 マシュが来ると藤丸はホッと一息ついた。

 何回か同級生にからかわれ、困っていたのだ。

 だがそんなところを後輩に見せるわけにもいかず、笑いかける。

 

「よし、行こうか」

 

 行くと言ってもほとんど帰るのと変わらない。

 何せ隣同士だ。時間をあまりに気しなくていい事だけは確かだった。

 

「今の時期、校門が閉まるまでに二三時間ですね。もし、通信が繋がれば先輩に会ってほしい人がいるんです」

「会ってほしい人?」

「はい。私に日本での文化を教えてくれた人なんですが、先輩の事を話すと是非お話したいとのことで。時差があるので通信は繋がらないかもしれませんが」

 

 時差があるという事はマシュの故郷の人なのだろうか。

 

「あと、フォウさんが先輩を気に入ってくれるといいんですが」

「フォウさん?」

「はい。私の……何と言ったらいいのでしょうか。一番近いのは『友達』ということになると思います。家にいるのでついたら紹介しますね」

 

 そう言った彼女の足取りは弾んでいて、思わず藤丸も口元が緩んだ。

 これから決闘の為の作戦会議だというのに。

 だけど戦うのはマシュである。そう思うと少しだけこの時間が続けばいいのにと藤丸は思った。

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