Fate/Grand Apocrypha〜亜種聖杯大戦〜   作:古代魚

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第4話~決闘準備2~

 命が遺棄される。

 虚空に穿たれた孔。そこへと投げ込まれる生贄があった。

 効率よく、価値無き(いらない)ものを利用する術式。

 そこから生み出される資源(リソース)はどれほどのものであっただろう。

 声なき悲鳴が響き渡る。

 幾度も幾度も、捨てられる己らに抗うように。

 その声に応える存在はなく――否、一つだけ。

 命が捨てられていく孔から、這い出たモノが哄笑を上げる。

 マスターは在らず。

 

 ――ク。クハハハハ! ここは元より地獄の底。

 ――ならばいざ行かん。恩讐の彼方まで!!

 

 誰にも知られずに廃棄孔より産み落とされた彼は、世界に向かって産声を上げる。

 誰にも届かぬはずの声は、彼の知らない所で誰かに聞き届けられた。

 

 

 

 ハッと藤丸は飛び起きる。

 今の状況がわからない。マシュに見下ろされて、何か小動物に頬を舐められているような感覚。

 

「先輩……大丈夫ですか?」

「えっと……オレ、確か」

 

 思い出す。マシュと一緒に彼女の部屋に上がって。

 それからは? 彼の記憶はそこで途切れていた。

 

「すみません、先輩はリビングに入ると同時にフォウさんのダイナミックアタックを受けまして」

「フォウ、さん……?」

「フォウ! フォーウ!」

 

 自分ともマシュとも違う第三の声。藤丸の耳元から聞こえたそれに反応して藤丸が首をそっとそちらに向けると。

 

「フォウ」

 

 犬とも猫ともつかぬもふもふの生き物がそこにいた。

 驚いた藤丸は反射的に飛び起き、くらりとした頭を抱える。

 

「急に動くと危ないです、先輩。先輩を襲ったフォウさんにはよくよく言い聞かせたので、今後は大丈夫かと。アタックの後は先輩を気に入ったようですし」

「フォウさんってこの子?」

「はい」

 

 白と薄紫が混じるふわふわの毛並の生き物はマシュの肩に乗れてしまうほどに小さい。

 それなのに藤丸を打ち倒すほどのアタックをかけてくる力を持つ。

 見かけによらず恐ろしい生き物だと藤丸は思った。

 

「フォウさんは私の故郷から一緒に日本にやって来たいわば同居人です。元から私以外の前には姿を現さないので、その……先輩にアタックを仕掛けたことに驚きました」

「オレもすごいびっくりした」

 

 行儀は悪いが藤丸はその場に胡坐を掻いた。

 立ち上がるとまだクラクラしそうだったのだ。

 

「先輩、あちらのソファには行かないんですか?」

 

 マシュが言っているのはリビングの中央にある、シンプルなソファのことだ。

 だが藤丸は首を振った。

 

「もう少しだけここじゃ駄目かな?」

 

 藤丸の姿をしゃがみこんで心配そうに覗き込んでいるマシュは辛いだろうが。

 二度もマシュの前で倒れると言う失態よりはいいだろう。

 藤丸はそう判断したのだ。

 

「はい、先輩が動けるようになったらソファに移動しましょう。そちらで天文台(カルデア)と連絡を取ります」

天文台(カルデア)?」

 

 藤丸はマシュの言っている言葉の意味が分からず首を傾げるばかりだった。

 

 

 

 陽がどんどん傾いていく。

 その中をルヴィアは校舎を歩いて回っていた。

 正直なところ、聖杯戦争そのものに興味はない。

 先祖はかつて聖杯戦争で酷い目に遭ったのだ。忌避してしかるべきである。

 だが、聖杯そのものはエーデルフェルトのコレクションに加えるにふさわしい。

 先祖が聖杯戦争に参加したのもだいたいそんな理由だったのだろう。

 ルヴィアが校舎を回っているのは、昼休みの藤丸と凛の会話を聞いていたからだった。

 

「全く、ミス遠坂も(わたくし)が覗いている事に、最後まで気づかなかったなんて意外ですわ」

 

 学校に残っている人間を丁寧に暗示を掛けて家に帰していく。

 凛は意外と詰めが甘い。一斉下校の時刻になっても教員は残る。

 そうしたことを考慮していないのだろう。

 神秘の流出を防ぐ為に、校舎は無人にしなくてはいけなかった。

 

「あら、あそこにいるのは」

 

 生徒会室に出入りしている人間だ。

 茶髪にボーっとした顔。生徒会の一成をよく手伝っているのを時折見かける男子生徒だった。

 

「まだ残っていらしたの?」

 

 声を掛け、注意を引き寄せてルヴィアが暗示をかけようとした時だった。

 

 ――バチン!

 

 魔術が弾かれる。それが物理的な音になったようだった。

 掛けた魔術は初歩中の初歩。ただの暗示である。

 それなのに、弾かれた。ということはそれなりの魔術師ということになる。

 人差し指を男子生徒に向ける。呪い。ガンド。

 だがそれさえも――。

 

「呪い、とはいい度胸ですねぇ。魔術師」

 

 男子生徒の隣にいつの間にか青い服の女性が立っている。

 誰かが来た気配はない。ということは急に現れたという事。

 魔術を使ったとしても、ルヴィアの目からしてもこの一帯で自分以外に魔術を使った形跡はない。

 導き出される結論は、彼女は人間ではないという事。

 

「なるほど。貴方がサーヴァントですわね」

「左様、妾は魔術師(キャスター)のサーヴァント。そなた、呪うたな? その呪い、倍にして返してやろうか?」

 

 急に雰囲気や喋り方までがらりと変わったキャスターを名乗った女性は符を指に挟み、構えた。

 

「キャスター」

 

 あわや一触即発というところで、男子生徒はキャスターのモフモフとした尻尾を引っ張った。

 それだけでキャスターの雰囲気がまたがらりと変わる。膨れ上がった気配は霧散し、消え失せる。

 

「あいた!」

「防御用のお札持たせて置いてくれたのキャスターだよね? 俺は無事だし、呪われてないからキャスターは落ち着いた方がいい」

「ああん、もう! 白野さま。こういうのはどっちが格上か思い知らせるのが重要なんです」

「キャスターがゴメン。俺に何か魔術掛けようとしたみたいだけど、エーデルフェルトさんは魔術師?」

「聖杯戦争のマスターというわけですのね。見かけで判断したのは失策でしたわね。()()()()()()()()()()()()()早く下校することを警告しますわ。特にミス遠坂に出会わないように」

 

 真面に戦って勝てる相手ではない。

 符をキャスターが取り出した時点で、エーデルフェルトのガンドを跳ね返したかのようにスカートの裾の一部が丸く焦げていた。

 けれども弱みを人に見せてはならない。それが魔術師の名門としてのあるべき姿だ。

 胸を張って警告をし、ルヴィアも下校する。残っていた人間は彼だけだった。

 警告はしたのだ。巻き込まれても彼の自業自得だろう。

 だが、ルヴィアはキャスターを男子生徒のサーヴァントだと最後まで勘違いしたままだった。

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