最強はすぐそこにいる。
オレの目の前にいる。
学年別タッグトーナメントはすぐそこまで迫っている中であっても、緩やかな時間軸で生きている人間がいる。
絶対的な自信家か、極度の楽天家のどちらか。どちらでもないことは幼少の頃から知っている為に身体が震えそうになる。
更識楯無はそういう人間だ。
強者ではない。
そんな常識とかいう陳腐な言葉の檻には収まらない。
いいや、収めきれまいさ。
絶対強者。
強者であることが崩れない。
だからこその最強だ。
楯無はただ時が来るのを待っているだけ。期待も不安もないことだろう。タッグトーナメントなど関係ない。
「報告があがってんぞ」
アリーナの一つで生徒間による不適切な私闘が行われたと。
報告書には、セシリア・オルコットと凰鈴音が転入してきたばかりのラウラ・ボーデヴィッヒと戦闘。ISダメージレベルC、操縦者も怪我を負って医務室に運ばれる事態となった。
被害者はオルコットと凰の二名。ISは暫く使用不可能となった。タッグトーナメントに出場することはできない。
加害者はラウラ・ボーデヴィッヒ。ISのダメージは軽微にてタッグトーナメントに何ら支障なく。生粋の軍人らしい戦績に流石の一言を呟いておこうか。
この度の私闘は、騒ぎを聞きつけて乱入した織斑一夏とシャルロット・デュノアによって被害拡大を防ぐことができたと、目撃した学生が証言している。
最終的には織斑千冬によって学年別トーナメントまでの間に私闘禁止で片が付いた。
布仏姉妹が守落杏地をイジメている裏側ではそのようなことが起きていたのだ。
オレはオレでイジメには参加せずにそこらをぷらーっとしてた。暇過ぎる。
トーナメントと楯無と組むことになっているから練習の必要なし。
相方が強すぎる。
「イベント前の騒動はいただけないわね」
「イベント中ならよしってか」
「どうせ起こるでしょう。織斑一夏と守落杏地の二名がいるんだもの」
「で、生徒会はどうする」
「前回同様よ。降りかかった火の粉だけ払うわ」
「前回は火の粉が降りかからなかったからな。あったのは報告書の情報秘匿くらい」
「生徒会はあくまで学生生活の統括。お上の依頼はともかくとして、イベントに対して何を対策しろというのかしら」
なにも。
ただ、風に揺られる木々の様にしてればいいんじゃないか。
木彫りの熊を愛でる。
今日も雄々しい熊だ。
「そういえば、この前の……アイツ等が再戦望んでんぞ」
「前のアイツ等って誰さん?」
楯無がきょとんと首を傾げる。
「あのほら、居たろ奇襲してきた二人組」
「居たわね。有象無象過ぎて忘れてたわ」
楯無はこともなく言ってのける。
恐い。
恐いな。
木彫りの熊を愛でる手も震えてる。
「忘れてやんなよ」
「それは申し訳ないわ。気をつけましょうか」
「そうしてやってくれ。で、どうすんのさ」
「再戦ね。構わないけどタダじゃ勿体ないかしら」
「何を強請るんだよ」
あの二人も大変だ。
「じゃあ再戦お受けしますクソ共、ってメール打っとくぜ」
「お願いね。あともう一つお願いがあるのだけど」
面倒なお願いを。
最強は傾く。
傾いてしゃがんで飛んで。
不規則な攻撃を前にして、一連の流れを理解しているかのように避ける。
涼しい表情が全てを物語っている。
ただ避けるだけの動きを90秒の間行う。それの直系二メートルの円の中でだ。
「はい、終了」
ストップウォッチがカチッと。試合終了を告げる。
これでようやく終了した。
再戦の了承を返し五分と経たずに試合。
急遽行われる試合ということだから、会場の確保なんてできるわけなく。
仕方がないので、長机を畳んで隅やって簡易的な会場を生徒会室に設置。
場所が場所だ。
縦横無尽に戦われると不味い。
木彫りの熊が壊れる。
だから試合にルールを設けなきゃいけない。
二メートルの円の中で楯無が攻撃を回避もしくは防ぎきれるかどうか。
結果は二戦二勝。
一回戦目はボクシング女子ことレキシー・イケェラシー。今回は素手で参加。
二回戦目は剣道女子こと
楯無が当然に勝ったので、ある約束して終了だ。すでにお帰り。
ハラハラしない試合だった。
八百長とかズルとかではない。
でも勝つことが分かる試合だ。
知らない人なら凄いとガキみたいに憧れるんだろうさ。
オレからしてみれば、ですよね~、だ。
「さぁ、片付けましょうか」
試合なんてなかったみたいだ。
長机を配置すればいつもの生徒会室。
楯無は定位置に座って残りの書類に目を通し始める。
「虚ちゃんや本音の方は捗っているかしら」
書類が一枚二枚と移動してる。
仕事も化け物か。
「知らね。よろしくやってるんじゃないか」
「それじゃあ私たちもよろしくやろうかしら、虚ちゃんから巫女服を預かっていることだしね」
「バイトの時期はまだ先だぜ。カレンダー見ろよ」
「常識を打ち破ってこそよ」
「よせやめーい。やめろ!!」
腕を振り払いたくても払えない。
再び振り払おうとしても払えず。諦めずに何度も振り払おうとする。仕舞いには蹴りを放つがそれも防がれ、お姫様抱っこされる。
「さぁ、可愛がってあげる」
もう逃げられない。