色物少年はそこにいる。
目の前にいる。
生徒会室には雑巾が転がっている。
この部屋の清掃は虚によって行われている。奴は小さなことにも目が行くので生徒会室は清潔の一言で表せる。
お嬢様には綺麗な部屋でのびのびとしてほしい。
虚が清掃に力を入れているのはそれだけの理由だ。
オレには分からない話だ。
別に俺が汚いことを気にしないということじゃない。汚い部屋では寝覚めが悪いし。
ただ、他人の為に潔癖なほどに掃除するのが分かんないだけだ。
綺麗すぎる部屋は汚すのに抵抗がある。
抵抗なく部屋を汚すのは本音が最初だ。
アイツが部屋をいの一番に汚してくれるからオレも抵抗なく部屋を汚すことができるというもの。
とは言えど、進んで部屋を汚すなんてことはしない。
お菓子のカスとか落ちても気にしなくなるだけ。そこまで気を使わなくていいいのは心に余裕ができる。
潔癖なほどの掃除をする虚なんだけど、意外にも手を出さないものもある。
一つは木彫りの熊。
オレの管轄だから手を出さないでいてくれる。おかげで木彫りの熊はオレの心を癒してくれる。
一つは床にへたり込んでいるボロ雑巾。男子を相手に掃除というのは如何わしい意味にしかならない。虚の趣味を疑うぜ。
ボロ雑巾は布仏姉妹の訓練という名のストレス解消の餌食にされて精魂尽き果てている。
無残だ。
五体満足なのが唯一の救いじゃないだろうか。
守落杏地は強くなっている。
虚の評価だ。
強くなっているんだけど一年の代表候補生はおろか織斑一夏にも及ばない。
織斑一夏もなんだかんだしっかり訓練しているのだから、遅れてやってきた守落が追いつくのは至難。
守落の方に才能があれば話は変わるんだけど、残念なことに織斑一夏の方が才能溢れている。
同じ男子でも差が生じる。
十人十色なんだから仕方がない。
たまたま一夏に才能があった。
たまたま守落には一夏ほどの才能がなかった。
それでも守落は強くなりつつある。
でもまだ弱いんだよな。
「誰か手を貸してくれてもいいじゃないですか」
守落がダラダラと立ち上がって席に着く。その間に手を貸す者はいない。
生徒会室は決して広くない。四人が顔を突き合わせられる程度の折り畳み式長机がかなり存在感を主張しているのだから。
そこに一人追加しても長机は満員なので、部屋の隅にパイプ椅子を設置して無理やり増設。
守落は部外者でしかない。
「え、まさかの無視」
無視だ。
楯無は紅茶を楽しんでいるだけ。
虚は紅茶の淹れるだけ。
本音はお菓子を食べるだけ。
オレはスマホをいじるだけ。
生徒会はいつも通りだ。
部外者の声も聴きやしない。
生徒会は守落の訴えに耳を貸さないくらいには忙しいのだから。
「学年別タッグトーナメントは来賓が多くて困るわね」
「仕方がありません。三年にはスカウト、二年には一年の成果の確認。人材発掘のベストタイミングですから」
「一年の私たちには関係ないんだけどね~」
「代表候補生になる気のない奴にも関係ないけどな」
「なんというか。やる気の欠片も感じらないんですけど」
「やる気ねえって。企業に売り込む魂胆がないからさ」
「そうですね。私は更識に仕える人間ですから。それに技術職の方が性にあっていますので、選手としての未来はありえない」
「私もお姉ちゃんとおんなじかな~」
熱意のない。
オレは楯無と組んでいるから勝利は揺るぎない。
虚はそもそも試合には乗り気でない。
本音も同じだ。
このメンツで熱意があるのは守落くらいだ。
守落のパートナーは本音だけど、それでも熱意あるんだからすごい。
「試合のことよりも、何か面倒なことがありそうで嫌な気持ちになるわね」
楯無は書類を一枚見える位置に置く。
「ラウラ・ボーデヴィッヒと織斑一夏。因縁があるからこそこ何か起こりそう」
書類には名前が書かれている。
今回起こるであろう面倒事に関わる人間と、不測の事態に対処できそうな人間のリスト。
しかし、書類は名前しか書かれていない為に一見すると何のリストかは分からない。
現に守落は首を傾げている。
「なんすかこれ」
「生徒会外部お手伝いリストです」
「……明らかに手伝えなさそうなのがいるんですけど。ボーデヴィッヒあたり」
「織斑先生経由なら手伝ってくれることでしょう」
虚はケロッと嘘ついている。
「オマエは自分のことでも考えてろ。生徒会の手を借りて訓練したんだから、優勝とまではいかなくてもそこそこ勝ち進めよ」
「う、頑張ります」
引き攣ってる。
「カラでもいいから自信持てよ」
「ういっす」
「まあまあ。守落くんも初めて観衆前での試合だから。緊張しない方が無理よ。でも、頑張れ男の子」
楯無が勇気づける。
それに気をよくしたのか、守落は男らしい決意した顔で頷いたのだった。