学年別タッグトーナメント。
全校生徒が一丸になって挑むイベントである。
学年ごとにトーナメント形式で試合を行って優劣を競う。
その場において守落杏地は言葉を発せずにいた。
どうしてこうなっている。
事態は既知の流れと違いを見せている。
一夏とシャルに敗れたラウラがヴァルキリー・トレース・システム通称VTシステムを発動させてしまい、それを一夏が打ち破ってラウラを救出する。
それが原作の流れだ。
だけど、目の前で行われているのはシャルが箒を踏みつけて、ラウラがその隣で気さくに話しかけている。
一夏はどうすることもできずにいるだけだ。
モニターに映る映像がドッキリだったり。
思いたくても思えない。
たった一人しかいない控え室。
他の生徒のリアクションも見れない。
緊急放送も流れない。
事実か嘘か分からない。
こうしているしかないか。
ベンチに座り込んで事態が鎮静化するのを待つ。
どうせ俺にはどうしようもないんだから。
せっかくのオリ主なのにいまだに専用機もなくスポットも当たりそうにない。行動したくてもモノがなけりゃどうにもならない。
それに一夏は主人公なんだろうからさ。絶対に解決してくれる。
そうだ。
結局そうだ。
俺なんていなくても回るさ。
オリ主だからなんとかなるなんて上手い話はない。
だけど、原作主人公なら上手い話もあるんじゃないか。
モニターに映る一夏。
苦しそうだ。
助けて、と訴えてきた少女は実は敵だったことに。
試合とは言え、敵対した幼馴染が人質に取られていることに。
何もできない自分に。
本当に苦しそうだ。
うん。
あー、そうだ。
そうなんだよな。
原作ってなんだよ。
主人公ってなんだよ。
何が現実を受け入れた、だよ。
都合で言ってること変えてんじゃん。
都合が悪い時は物語みたいに話して。
都合がいい時は現実だって物分かりよく話して。
馬鹿丸出しじゃん。
なんで生徒会に鍛えてもらったんだか。
現実なんだよ。
全部全部クソッタレな現実だ。
だから悔しくて怖くて痛くて目をそむけたくなる。
専用機がもらえなかった。世界で二人目の男子なのに。一夏ほどに勇気がないことに。
武器がなければ探せばいいのに。もしかしたら襲われるんじゃないかって思うってしまうことに。
特訓したことに、実戦はもっと惨いのに。
見なかったことにすれば、考えなかったことにすれば、行動できないと言い訳すれば。
全部なかったことにできるかも。
日本人は事なかれ主義だ。
だれが非難できる。
アリーナ内の誰もが動けていないのに。
男子だから動けってか。
無理だよ。
だって一夏だって動けてないんだ。
土台無理な話だ。
ああ、そういえば本音から飴貰ったな。
甘い。すごく甘い。
まるで俺だよ。
甘いだよ。なんでもさ。
「頑張れ、応援している」
だから、頑張れ。
頑張って少しでも事態が収まる様に動け。
幸い、この部屋からは出られるのだから。
学年別タッグトーナメントなんて気にしない。
そんな暇はない。
更識簪にとっては目の前に打ち捨てられている出来損ないのISを完成させることが急務だ。
勝手に争っていればいい。
簪はため息をつく。
形は完成した。
後は、スラスターや火器管制システムの調整。
ISとしては動く。
だけど動くだけで飛べやしない。
武装だってろくについていない。
それでも着実に進歩している。
全て意地だ。
意地によって歩んできているのだ。
何をするにも簪の脳裏に過るのは完璧超人と称される姉の姿だ。何をやらせて完璧にやってのける。そつなくこなす、なんて無難な出来栄えではない。常に一流だ。
簪が物心ついたときから姉は姉だった。
更識楯無の名前を継ぐことが当然のようだった。
刀奈という名前が仮初の名前だと言わんが如く。
最初は姉を尊敬していた。
しかし簪が一を聞いて十を知っている間に、姉は一を聞くまでもなく十を知っていく。
次元が違うのだ。
それでも凄いお姉ちゃん程度の認識でしかなかった。
その認識は周囲の大人たちによって崩された。
更識家次期党首を決めなければならなくなった。
大人たちはことあるごとに私と姉を比べ合わせる。どちらが党首として優れているか。更識家を背負っていくことができるか。
私は頑張った。党首になるために様々な勉強をした。その中には表に出せないような内容のものもある。
頑張って頑張って、初めて姉に勝ちたいという欲が生まれた。
きっと、姉に褒めてもらいたかったんだよ。
いつまでもお姉ちゃんお姉ちゃんと袖を引っ張って助けを求めるんじゃなくて、姉の方から助けてほしいと手を差し出してくることを期待して。
一緒に頑張っていこう。
その言葉が欲しかったのかもしれない。
支え支えられの関係が欲しかったのかもしれない。
でも無理だった。
姉は全てを終わらせられる。
私が手助けしなくても。
だから頑張って頑張ってできることを増やしても無駄だった。
周りは諫めてくる。
私は天才、姉は規格外だと。
なにそれ。
じゃあ、なに。
頑張っても無駄なの。
絶対に勝てないの。
だって、ヒーローは最後は頑張って勝つもの。
私だって勝てるよ。
勝てるんだって。
なんでもいいの。
なんでもいいから勝ちたい。
姉を超えたい。
この打鉄弐型はその為のものだ。
完成すれば変わる。
姉を打ち負かすことができるのだ。
簪は一つの想いだけを胸に勤しむ。
しかし、それを阻むものがいる。
「あら。このようなところにいらっしゃいましたか」
ビジネススーツの女。
簪は目を向けるが、覚えのない女だった。
「はじめまして。ISの装備開発企業みつるぎからきました。巻紙礼子と申します。名刺は切らしていますのでまた今度」
お辞儀をして上げた顔は獲物を見つけた獣の様に酷くゆがんでいた。
「またがあればの話だがな!」
巻紙礼子の皮を脱ぎ捨てたオータムが吠える。
学年別トーナメントは中断している。
あってはならない乱入者によって再開することも困難な事態に持ち込まれてしまっている。
学園はハッキングを受け、全てのアリーナは敵に主導権を許してしまった。
織斑一夏は人質を取られ、篠ノ之箒は人質にされ、織斑千冬も人質を取られ、生徒たちは人質にされ。
それを知らされようが、更識楯無は落ち着いて紅茶の香りを楽しんでいる。鼻孔を擽るほのかな香りは、布仏虚の主を喜ばせようと厳選した上質なものだ。
夏の訪れを告げる暖かな風に包まれ、楯無は校舎屋上のテラスにて余暇を楽しむ。
日の光を浴びたIS学園は活気に溢れていて、今にもあちこちから楽しい声が聞こえてもよさそうなものなのに、今はただ静まり返っている。
テーブルの上にはタブレット端末が置いてあり、今起きている事態をリアルタイムで映し出している。
由々しき事態だ。
誰もがそう思う。
しかし、顔色一つ変えない女がいる。
更識楯無。
彼女は日常の一部でしかないと気にも留めない。
対面に座るスコール・ミューゼルは不敵な笑みを浮かべながらも注意深く観察する。
なぜ、こうも冷静なのかと。
更識楯無は学園最強と呼ばれるだけでなく、生徒間の悩みに対して真摯に対応するほどに人の好い人物と言われている。たまにお茶目な悪戯をすることもあるが、人望によって許されている。
そんな人物が生徒が危険に晒されている事態に眉一つ動かさない。
感情のコントロールが上手いようね。
スコールは結論付けた。
状況は亡国企業に有利だ。
IS学園は盾もなく抵抗の一つできない。
アリーナ内の自動ドアは制御され、教師が助けに入ることもできない。ISと使い手が分離されてしまえばそれまで。
それに教師といえど強いかは別だ。シャルロットとラウラの二人を止めることもできないだろう。それにもう一つ手を打っている。
IS学園内の専用機持ちは把握している。
その内の二人はラウラが事前に潰した。修理中のISはこれから確保に向かう。
学園地下に隠されている暮桜と無人機のISコアはエムが。
開発中のISはオータムが。
織斑一夏のISはシャルロットとラウラが。
残りの専用機持ちは更識楯無と、ダリル・ケイシー、フォルテ・サファイアの三名。
更識楯無は目の前で紅茶を啜っている。
そしてダリルはスコールの隣に立ち、フォルテは楯無の背後に立っている。
二人とも既にISを展開している。
「予想外のことはおこるもの。貴女は予想できたかしら」
学園の専用機持ちの半数が亡国企業に通じていた。
「さて、学園最強さん。頑張ってみせてくださるかしら」
スコールは静かに微笑んだ。