IS 生徒会にてちょっと   作:ネコ削ぎ

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みんな忙しいんだけどちょっと!?

 考えろ。

 織斑一夏は必死にならざるを得ない。

 目の前で余裕の表情を浮かべているシャルロットとラウラ。

 この二人を前にして箒を無事に救出するにはどうすればいいのか。

 下手に突っ込めば返り討ちにあうだけだ。かと言って手をこまねいて進展することもないのも事実だ。焦ってガムシャラやっても無駄だろうが。

 ラウラは軍人だ。胆力は一夏の比ではない。

 一夏がどのような行動をしたところで対処されてしまう。

 どうすればいい。

 頭は悪くないが今まで一般人だった。

 このような事態に対して打つ手などすぐに浮かぶはずもない。

「篠ノ之を助けたくばISを解除してこちらに向けて投げろ。全て丸く収まる」

 ラウラはこともなく言う。

 言葉を全面的に信用していいのならその通りだ。

「でもさ。大切なISを、それも貴重な男子の稼働データを持ったISをあげますなんて簡単に言うのは世間が許さないよね」

 シャルロットが意地悪く言葉を重ねる。

 ISの希少さを考えればシャルロットの言う通りだ。それもテロリスト相手に要求を呑むなど世界が納得しない。

 テロリストには屈しない。それが各国の主張であることは昔から明言されているルールだ。

「命は重いのだろう。キサマにとって価値ある存在だ。無視する気ではないだろう」

「このISをボクたちが手に入れたら、世界でもっと酷いことが起こるかも」

「命を取るか」

「ISを取るか」

「決断しろ、織斑一夏」

「決めようか、一夏」

「かつて教官は栄光を捨ててまでキサマを助けだした。教官の顔に泥を塗るつもりか」

「でも、ISを渡してその結果で起きた惨事が、一夏だけでなく織斑先生への非難に繋がっちゃったりするんじゃない。日本ってそういう国でしょ」

「コイツを助けることとISを天秤にかける必要はないと思うのだが」

「ボクはどちらを選択しようとも飲み込むよ。でも、周りはどう思うかな」

 織斑一夏を痛めつける言葉。

 どちらを選ぼうが、守りたいと思う千冬姉を傷つける結果になる。

 一夏としてはISを渡してでも箒を助け出したい。

 だが、シャルロットの言葉がその決断を妨害する。

 それだけではない。

 本当に箒を解放するかも分からない。

 二人は敵地で囲まれている状況だ。そう簡単に人質を手放すほど素直なはずがない。

 だからこそ一夏は歯を食いしばって選択しないことを選択するしかなかった。

「い、一夏」

 踏みつけられ動き封じられた箒が呻く。

「構わず討てぇ。私のことなど気にするでない」

 気にしないことはできない。

 一夏にとっては大切な幼馴染。捨てられるほど安っぽい関係じゃない。

 だからこそより一層動けなくなる。

「無理言うなよ! 見捨てられるか!」

 見捨ててなるものか。

 高まる気持ちも行動するほどの爆発にはならない。ならない様に抑え込む。

「テロリストの言うことを聞くのか!?」

「違う。お前を傷つけられたくないだけだ!!」

 状況が許せば恋が進展する。

 しかし、状況が違うので恋は生まれず重い沈黙が生まれるだけだった。

 誰もが動き出さない中でIS学園全体に放送が流れた。

 

『全校生徒皆さん並びに来賓の皆様。この放送を聞いている全ての皆様。こんにちは。本日は学年別タッグトーナメントが行われているわけですが、トーナメント期間中に起きる事態は全て生徒会に任せております。全て任せております。それでは』

 

 突然の放送。

 誰もが首を傾げるしかなかった。

 当然、織斑一夏も首を傾げた。

 なんだ今の放送は、と。

 シャルロットとラウラは呆れた。

 学園最強と謳われる更識楯無は既に動きを封じられている。

 頼るべき存在は役に立たなくなっているのだ。

 今の放送にどれほどの意味があるものか。

 ラウラはそれでもと一応の警戒は見せた。素早く観客席の様子を確認する。なにか異常はないかと。

 それが故に小さな異変に気が付いた。

 観客席の一角。

 来賓が固まる場所で一人の男がもがき苦しんで倒れた。

 一人倒れると、また一人倒れた。

 少し離れた位置にいた女も倒れた。

「な、なに?」

 シャルロットも異変に気が付いて確認する。

 倒れるのは全て亡国企業に組みする者たちばかりだ。

「うぉぉぉ!!」

 チャンスは訪れる。

 一夏は零落白夜を起動して切りかかる。

 横薙ぎに振るわれた一撃は苦も無く避けられてしまった。

「待たせた!!」

 しかし、相手が距離を取った為人質を救出。

 当たれば御の字だが、一夏の目標は箒の救出。

「い、一夏ぁ」

 気丈に振舞っていた箒の瞳に涙が溢れる。

 そして、纏っていたISがドロリと溶け、箒の身体を覆いつくした。

「馬鹿が。人質で終わらせるほど単純じゃないのだ」

 ラウラは腕を組んで静止した。

 箒がヘドロに包まれ、一つの形を成す。

「ヴァルキリー・トレース・システム。教官の紛い物だが、キサマを潰すには適当だ」

 織斑千冬の姿形を真似たISが刃を向ける。

 

 

 

 

 考えろ。

 織斑千冬は冷静に思考する。

 山田真耶はにっこりと柔和な笑顔を浮かべている。

 余裕綽々。言うことなし。

 右手には拳銃がある。

 狙いは放送を担当している生徒だ。

 管制室の誰もが動けずにいる。

 いまだ千冬も動けず。

 この距離からの接近は間に合わない。

 間合いが遠いのだ。

 瞬時加速でも使えれば話は別なのだが、人間は生身化物染みた加速などできるはずもない。よく人間止めてると陰口叩かれる千冬だってできない。人間止めてないのだ。

 投てきで拳銃を弾き飛ばせば。

 真耶は仮にも代表候補生だった。

 そして亡国企業の人間でもある。

 対処されてしまうだろう。

 厄介な状況だ。

 千冬一人であれば弾丸回避しつつ接近して両腕の関節を外して無力化して仕舞いだ。わずか十秒貰えるだけで鎮圧できる。

「どうします織斑先輩。まさしく大ピンチですけど」

「だな。お前のせいだろ」

「ですね。打つ手なしですよね。バッドエンドですよね。こっちは勝利宣言してもいいですよね」

「勝手にしろ。打つ手ある、とお前をしばき倒せればいいのだがな」

「人質居ますからね。それに織斑くんも安心できない状況です。お姉さんとしても無視できない感じでしょうか」

 当たりだ。無視できるはずもない。

 千冬には家族は弟しかいない。

 一夏だけだ。一夏だけしかいないのだ。

 両親が蒸発してからはたった二人だけ。

 二人しかない家族で、無視して見捨てるなんて選択は何があったとしてできない。

「時間が解決してくれますよ織斑先輩」

「目的のISを手にすれば潔く退くのか。信じろと」

「信じてください。ねぇ、先輩と私の仲じゃないですか」

「先輩を裏切った後輩と、後輩に裏切られた先輩という仲だな」

「……信じろって言うのは土台無理ですよねぇ」

「言ったのはお前だろ。よって信じられん」

「ええと、もしかして増援待ってますか。さっきも言いましたけど、この学園の戦力は封じられていますよ。誰も動けません。私以外の教師陣はそれぞれのアリーナで囚われの身。ドアがロックされただけで無力化なんて、文章だけで見れば間抜けに聞こえますね」

「ISのおかげで女性の地位は飛躍的の向上したが、元々の身体能力が向上した訳ではないからな。無理からぬことだ」

「意外にも量産専用機を所持している人もいないですし。織斑先輩あたりは持っていると思ったんですけど、こっちも意外に持っていないんですね」

 たはは、と困った笑顔を浮かべる真耶。IS学園の防衛能力の低さを甘く見ていたのだろう。

「教育機関だからな。実戦を知らぬ教師がほとんどだ。平和の象徴だな」

「平和ボケの象徴ですよ。言葉間違えちゃうと生徒の皆さんに笑われちゃいますよ」

「物騒な連中の言いそうなことだ」

「教師の中で一番の警戒対象である織斑先輩はこのありさまですし、学園最強の更識さんも私の仲間が抑えてますから。もう全て完了ですよ」

 勝利を確信している。

 千冬も勝利を確信した。

 意識の外へと追いやってしまっていた。

 どこかで自分一人しかいないと思い込んでしまっていたのだ。

 真耶の言葉で思い出したのだ。

 そして勘違いしていると気が付いてしまった。

 分かってしまえば余裕が生まれる。

 千冬は深呼吸して本当の意味での冷静さを取り戻す。

 放送が流れた。

 

 

『全校生徒皆さん並びに来賓の皆様。この放送を聞いている全ての皆様。こんにちは。本日は学年別タッグトーナメントが行われているわけですが、トーナメント期間中に起きる事態は全て生徒会に任せております。全て任せております。それでは』

 

 

 学園の最高権力者の声だ。

 学園長の轡木十蔵。

 放送は彼によって行われた。

 生徒会に全て任せている。

 意味が分からないと首を傾げる真耶と、なるほどと納得する千冬。

「織斑先生! 観客席が!?」

 そして管制室の生徒が悲鳴を上げる。

 モニターに映るのは来賓席にいた人間が崩れ落ちるところだった。それも一人二人と数を増やしていく。

 動揺し、意識をモニターに移した真耶を無力化することは千冬にとっては朝飯前だった。

 拳銃を持つ右腕を捻り上げ地面に押さえつける。

 崩れ落ちた人間たちは亡国企業の関係者か。

「総員撤収」

 管制室から生徒たちが逃げ出す。

 残ったのは千冬と真耶だけだ。

 だがアリーナの様子を見て千冬は舌打ちする。

「まだ手はある。篠ノ之さんは人質兼戦力として徴収させていただきました」

 モニターに映るのはVTシステムによって操り人形と化した箒が一夏を攻撃しているところだった。

「そしてぇ!!」

 真耶の身体を粒子が包む。

 千冬が飛びのくと、ISを纏った真耶が銃口を向けてくる。

 厄介なことだ。

 生身であれば今の制圧で終われていた。

 しかし、そうはいかないのが人生だということを千冬は思い知った。

「量産専用機を持っていたんですよ」

 本当に厄介な奴だ。

 量産専用機。

 世界で467機しか存在しないISを、ある程度質を落とすことで量産化し、それを各人に合わせチューンアップしたのがそれだ。

 ISの量産機。

 ISそのものが圧倒的な力を持つというのにそれを量産することができるようになった。

 驚くべきことではあるのだが、ISとして量産機として致命的な問題を抱えている。

 まず、コアの製造コストが洒落にならない。ポンポン手軽に作ることができないのだ。

 次に、コアネットワークが存在しない。つまり、IS同士での通信や、情報共有ができないのだ。おかげで通信は既存の装置を使用している。

 更に、セカンド・シフトといった進化が存在しない。

 そして最後に部分展開ができない。

 それら欠点を抱えるのは量産型の宿命なのかもしれない。

 だが、亡国企業は量産専用機を用意できるほどに資金が潤っている。

 いくらの資本があるのか。

「羨ましいものだ」

 馬鹿ではない。

 冗談でもない。

 千冬は真っ向勝負を諦めた。

 戦術的撤退。

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