『全校生徒皆さん並びに来賓の皆様。この放送を聞いている全ての皆様。こんにちは。本日は学年別タッグトーナメントが行われているわけですが、トーナメント期間中に起きる事態は全て生徒会に任せております。全て任せております。それでは』
聞こえた。
生徒会が動く。
楯無の奴は見越していた。
集めた情報は役に立つ。
見立ては完璧だ。
アイツの場合は未来予知と言っても過言じゃない。
状況は最悪。
観客席は騒がしくて歩き辛い。
パニックを前にして冷静に対処できる人間が何人いるのか。この観客席にはほとんどいないのは確かだ。
パニックにならずにいるのは一握り。
オレの情報に合致する奴らばかりがケロリとしている。
一見すると慌てているように。
しっかり見ると緩慢。
大根役者の集まり。
おでんの具がいっぱい。
暇だから歩きながらスマホ。
対象にブスリ。
ブスリブスリ。
亡国機業に組みする人間が倒れていく。
外交問題に発展しそうな展開だ。
IS学園で各国の要人達が謎の死を遂げる。
こりゃあ亡国機業の仕業に違いない。
罪の擦り付けでもするかい。
次々と仕留めていく。
アリーナでは織斑一夏がVTシステムに支配された箒に防戦一方だ。
負けは確実。
ラウラ・ボーデヴィッヒとシャルロット・デュノアが亡国機業側の人間であることはとっくに知っていたが、山田真耶が同じく亡国企業の人間であることはつい最近知った。
当然だ。
調べたのは極々最近だったから。
別に楯無は正義の味方じゃない。
だから、事前に芽を摘むなんて慈善事業を行うわけがない。
だが、起きる事態に対応はする。
ことが起きたら行きますよ。
反社会主義の連中をサヨナラさせた。
次は管制室にいる反面教師だ。
道中、全力疾走する織斑千冬とすれ違った。
ブリュンヒルデも人の子だ。弟守るために必死なようで。
オレにはない。
そんな必死さは。
「ハロー。山田先生」
管制室にはISを装着した真耶がいた。
相手は突然現れるオレの存在に息を飲んでくれた。
「……ど、どうしました。緊急事態なんですよ。早く避難してください」
事態収拾を図る先生。そう見せようとするだけ。
管制室内でISを装着しては説得力もない。
馬鹿か。
「先生。見え見えじゃんか。IS仕舞えよ、テロリスト」
「……ごまかせませんよね。じゃあ始末しましょうか」
誤魔化す気はない。武器を構える。
「舐めるなよ。何もなしに来るか」
真耶が量産専用機を持っているのなら、こちらにも量産専用機がある。
打鉄をベースにカスタマイズした愛機。
スプリッター迷彩がカッコいいと自負している一品だ。
「教師連中で敵に回られると厄介なのは織斑先生とアンタだから。生徒会メンバーで最もぶつかり合いの苦手なオレには荷が勝ちすぎると思うんだけど」
「それを私に言われても困りますけど」
「愚痴くらい言わせろ。生徒のことを気にかけろ」
「なら先生の忙しさを気にかけてくださると助かります。なにせ、IS学園の教師は大変ですから」
「なるなよ」
「お給料がいいんです。それに私の知識を生かせる仕事が良かったので」
「じゃあテロリストとの二足わらじはやめろよ」
「テロリストはお仕事じゃなくてボランティアです」
「最低最悪なボランティアだな。とても学生には勧められねー」
「でもいるんですよね」
「知ってる。人生棒に振ってるぜ。それが就活の足しになると思ってんのかよ」
高校生にもなってテロリスト。高校生をテロリスト。昨今の亡国機業は人材不足で喘いでいるということか。
しかし、真耶といいボーデヴィッヒといいデュノアといい、人材を選ぶ目は持っている。今回の作戦は奴らにとって重要なのだろう。
楯無には重要じゃないが。
楯無にとっては学園内で起きた騒動の一つに過ぎない。
そして今回は自分とその配下のオレ達が出た方が片付くとでも考えているだけだ。
「じゃあ、先生に歯向かっちゃう生徒に荒っぽい教育指導をします。こういう暴力的な応対は織斑先生の領分なんですが」
真耶がアサルトライフルを構える。
連携がなっちゃいないとは言えど、二人の専用機持ち代表候補生を相手取り勝利している。苦戦は覚悟の上だ。
「社会の圧力を素直に受け入れられないのが学生だからな」
ブレードをコール。
狭い管制室の中での戦い。
相手に気付かれないオレでも、嫌でも目を引くISを装着してしまえば逃げ隠れは無理だ。
しかし、相手の注意からは外れやすい。
一度でも視界から消えれば、相手は一瞬見失って再認識にわずかなスキを作ってくれる。
実力の低さを自身の体質でカバーする。
真耶はオレとの戦いにやり辛さを覚えている。
だが、実力ある教師は喰らいついてきた。
「厄介な相手です。掴み辛い」
「そりゃあどうも」
「貴女が生徒会に所属しているのも分かる気がします」
「無理矢理の所属だっての。好き好んで面倒な世界に入る気はねーぜ。今からでも生徒会顧問にでもなるか」
「副担任だけでも大変なんですよ。生徒会顧問なんて余力ありません」
グレネードがモニターを爆砕する。アリーナの様子は分からなくなった。
「亡国機業やめればいいじゃん」
「やめませんよ。私は力が欲しいんです。昔から自信が持ててませんから、自信という力が必要なんですよね。それをあの人は分かってくれた。私を求めてくれた。だから世間ではテロリストと罵倒されるようなことも行えちゃうんですよ」
遠近共にスキのない立ち振る舞いは、射撃を不得手とするオレには厄介以外の何物でもない。
「支える柱が必要だったってわけかい」
何もない人間なんていない。
明るくて何もなさそうな人間でも、支えになっている柱みたいな人やモノがあるものだ。
心の支えがあればどんな偉業だって達成できるだけでなく、非道でしかないえげつない行為をいともたやすく行える。
反社会的な相手とは言えど殺害できたのは、オレにも柱となるモノが存在しているからに他ならない。
家ではない。
家柄諜報や暗殺に特化しているんだけど、家には思い入れも重圧もない。
仕える主である更識でもない。格上の家なだけ。
好意を寄せている男でもない。男の為にとか重い女じゃないし。というか男いないし。
『全校生徒皆さん並びに来賓の皆様。この放送を聞いている全ての皆様。こんにちは。本日は学年別タッグトーナメントが行われているわけですが、トーナメント期間中に起きる事態は全て生徒会に任せております。全て任せております。それでは』
聞こえました。
生徒会が動きます。
楯無様は見越していました。
集めた情報は役に立ちます。
見立ては完璧です。
お嬢様の場合は未来予知と言っても過言ではありません。
掌握され、いまだ取り戻せずにいたシステムが復旧する。電子戦を得意とする教師や生徒達を差し置いて、虚は紅茶で唇を湿らせながら打ち勝つ。
凡人達では無理でも、虚ならば簡単だった。
伊達に更識に仕えているわけではない。
虚にとっては更識に仕えているのではなく楯無個人に仕えているのだが。
学園のシステムを操作して扉を封じる。余計な手間を省く。
敵の行動を制限する。そして、障害物となり得る一般生徒を閉じ込めておく。邪魔なのだ。
スマホで連絡。相手は楯無。
その間もパソコンで作業する。
各場所の監視カメラをモニターすれば既に妹の本音が接敵していた。
アリーナでは亡国機業に組みする連中が次々と息絶えていた。
それらを楯無に伝える。
全ての報告を終えた虚は敵を迎え撃つ。
既にサインは送っておいたのだ。
ハッキングを妨害していることを。どこにいるのかを。
サインに反応した敵はISを纏った姿で現れる。
サイレント・ゼフィルス。
イギリスのBT兵器搭載型ISだ。
裏取引によって亡国機業の手に渡ったガラクタ。
所詮は烏合の衆の一部に過ぎない存在と、虚は十分に見下す。
「盗人が堂々としていますね。恥ずかしいことで」
虚は自分自身が有能な人間であると自負している。
「言うじゃないか。腰ぎんちゃくの分際で」
そして、自分以外のほぼ全てが劣りに劣る平凡な人間でしかないと結論付けている。
挑発など乗るわけはない。
楯無から託された量産型打鉄を展開し、先手必勝の二丁バズーカで攻撃を開始する。
「量産専用機だと。情報になかったぞ」
「調べが甘いのです。愚か者さん」
ゼフィルスの装着者が驚くのをいいことに、虚はその動揺を突くかの如く高火力で圧倒する。
烏合の衆に探られ暴かれる程度に甘いと思われていたとは。
腹立たしい。
更識楯無に仕える私達がそんな甘ちゃんか。甘ちゃんに見えるか。
「下等ですね。妄想豊かに真実が見えませんでしたか」
炸裂する弾頭が壁や床を抉っていくのも気にならない。ゼフィルスの精密射撃も共に気にならない。精密だからこそ予測しやすく避けやすいのだ。
「お嬢様の手を煩わせてはいけませんね」
虚は敵を圧倒するだけだった。