分かっていた。
勝ち目の少ない相手。
曲がりなりにも元代表候補生で現在テロリスト。
IS戦では勝ち辛い。
こっちの攻撃はほとんど直撃できてない。
あっちの攻撃はバカスカ当たり始めてる。
オレの相手の注意から外れやすい特性も真耶が慣れてしまえば優位には働かなくなる。奴の目は常の私を捉え続けていた。
不適切な人事。人材の得手不得手を読み取り適切な配置をすることが優れたリーダーの素質なら楯無の奴は大失態を犯した。
やはり完璧超人と言えど所詮は人間でしかない。
戦闘面ならばだ。
一つ側面を見ただけなら間違いの結果。
オレは負けて殺されるだけ。
ガタガタブルブル。
ケータイのマナーモード。
知っている。
楯無の奴がそんな失敗はしない。采配全てが的確でミスなどあり得ない。
未来を先読みしていると錯覚するほど。
むしろそうであれば腑に落ちるんだが。
真耶の攻撃で吹き飛ぶ。
壁に叩きつけられたがISの搭乗者保護機能で無事。
でもそれが最後だ。
無様にも大した手傷を負わせることもできずに敗北。ISは待機状態に戻る。
腑抜けてる。
疲れた。
「ふう。慣れてしまえばどうってことないですね。もっと実技練習をすべきですよ」
酷評だ。
「こういう荒っぽいこと苦手なんでね。テロリストして生徒に銃向ける反面教師には勝てるわけねえだろ」
待機状態になったISを床に叩きつける。ちょっとひびが入った。煙みたいなのが出た。
「ああ!? 量産機といえどISなんですよ。もっと丁寧に扱ってあげてください。授業で教えましたよね。ISは装着者のことを理解しようとするからパートナーなんですよ」
「急に教師面に戻んな」
「せっかく確保しようと思ったのに」
「急にテロリストに戻んな」
「どっちですか」
「知るか。踏ん切りつけろよ」
「じゃあテロリストで。だってもう教師としてはいられませんからね。それにこれから生徒一人殺してしまわなければなりませんから。でも、IS学園の生徒でありながら、ISを大事にしない子には罰を与えなければなりませんから、もうちょっとだけ教師しちゃいましょうか」
ブレードを切っ先を床に向けてカツンカツン。少しづつ近づいてくる。
「IS専用の武器を人に当てちゃダメなんですけど、ISが不当な扱いに怒っての抗議ですから、私には止められそうにないんです」
どう見ても真耶の意思だ。
カツンカツンと迫ってくる刃。
教師生活が長くなると発散しきれないストレスが猟奇的方向に変換されてどっかで爆発するのだろうか。それとも本人の元々の性質が隠せなくなっただけか。
童顔で眼鏡で巨乳で小動物系で猟奇的。
属性を詰め過ぎじゃね。
冗談さておき動けない。
もう疲労が限界迎えているし、生死を分ける直接戦闘なんて初めてだからブルって身体が言うこと聞かない。
なんて嘘だ。
疲労は本当で身体も動かないのも本当だ。
でも今更、戦闘ごときでブルって動けなくなるなんて甘ちゃんじゃない。
「あれれ、本当に動けないみたいですね」
足に触れるか触れないかのギリギリのところまでやってきたブレード。
いつまで経っても動かいことで真耶も気が付いたみたいだ。俺が無力化されていることを。
真耶は危険性がなくなったことにISを解除した。学園内を動き回るのには不適切な大きさだ。建物の中では解除して動くだろう。
動けないオレ。
もう手の打ちようはない。
後は結果待ちだ。
真耶は仲間からの通信が入った。
内容は吉報かと思いきや凶報。
真耶の顔が険しくなっていく。
「悪い知らせみたいだな」
どうせ楯無にも虚にも本音にも負けたんだろ。
生徒会メンバーはオレ以外勝利した。
「甘く見ていたわけではなかったんですけど。どうやら退散するべきですね」
逃げ出そうとする真耶。
追うことはできない。
追う必要はない。
結果待ちだ。
逃げようとした真耶が倒れる。苦しそうにせき込みんでいる。
オレもオレで耐えられずにせき込む。
続いて真耶の身体が痙攣する。
種を明かすと毒ガス。
我が家に伝わる暗殺用の毒ガス。
それをある程度薄めたものだ。
待機状態のISの中に仕込んでいた。
結果はご覧の通り。
真耶の痙攣が止まってピクリとも動かなくなる。
まだ生きているけど放っておけば死ぬ。
戦術的には負けたけど戦略で勝ったわけだ。
だけど、このままだとオレも毒で死ぬ。一応は耐性を持っているけど無効化できるほどじゃない。
ちょっと効き辛くだけ。そうじゃなきゃ真耶より先に効果が出てる。
正直、このまま真耶がISを解除しなかったらどうしようかと思った。
さて解毒剤はある。
あることにはあるが戦闘で疲労し毒ガスに侵されて身体は全く動かない。つまりは解毒剤を身体に打ち込むことができない。
IS戦で勝てればこんなことにはならなかった。
最初から負けると分かっていたけど。
段々と視界がぼやけてきた。
きっと教師がやってきて惨状を目の当たりにする。
だけどオレの存在には気が付いてくれないだろう。
存在感を見せなきゃ気が付かれない。
死ねば存在感もなくなる。
気が付かれないまま死んでいく。
誰にもだ。
誰にも気が付かれない。
恐い。
恐ろしい。
誰にも見つけてもらえないなんて。
対暗部用暗殺者として一流なはずの両親でさえオレを見つけ出すことができなかった。簡単にその首に刃を突き立てることができた。
オレが必死になって存在をアピールしなきゃ一般人は気づいてくれない。
虚も本音もオレには気が付けない。
あの天才である簪でもだ。
誰も誰も誰も気づいてくれやしない。
でもでもでも……それでもオレはおかしくならずに生きてこれた。
普通ならおかしくなるけど、オレは正常なまま生き続けていられる。
いいや正常じゃないかも。
心の支えがあればどんな偉業だって達成できるだけでなく、非道でしかないえげつない行為をいともたやすく行える。
反社会的な相手とは言えど殺害できたのは、オレにも柱となるモノが存在しているからに他ならない。
柱だ。生きるために必要な支え。
心の支えだ。
それを失ったら間違いなく壊れる。
それが嫌だからなんでもする。
正道も外道も行ける。
だから。
「気づいて……楯無」