最強はすぐそこにいる。生徒会室にいる。
生徒会室は他の部屋とあまり変わらない。豪華絢爛な扉とかない。創作の世界じゃないのだ。部屋の中は結構さっぱりしている。四人で顔を突き合わせられる程度の折り畳み式の長机があるだけ。多少の小物があるけれど特別な物はない。唯一さっぱりとした空間の中で存在を主張している木彫りの熊があるだけ。
生徒会室には更識楯無一人で仕事をこなしている。
書類に目を通しては判子を押していく。
紙の擦れる音と判子を押す音だけが生徒会室に響いていた。
何もない。
放課後の生徒会室は楯無とオレしかいない。
さっきまでは織斑千冬がいて、今回の事件についてあれこれと追及してた。
楯無がのらりくらりと回避していたけど。
オレには気が付いてくれなかった。
世界最強と言われても気が付けなかった。
気が付いてくれる人間は楯無の他にはいない。
楯無だけが気づいてくれる。
オレに気が付いてくれる。
もしも楯無がいなくなったら、楯無がオレを無視するようになったらと思うとゾッとする。
誰にも気が付いてもらえなくなる恐怖。
楯無に見捨てられたらと込み上げてくる恐怖。
怖いんだ。
楯無に見放されることが。
だからオレは楯無の望む通りに山田真耶を自己犠牲ありきで仕留めた。
おかげでこっちも毒で暫く大変だった。
なんせ衰弱して全く動けないし、虚の奴がオレの身の回りの世話を理由にやりたい放題してくれやがるし、本音は癒しでオッケーだし、楯無は意味深な笑みを浮かべるだけだし。
今は毒も完全に抜けて肉体的にも回復したが、仕事をする気はさらさらない。
楯無からは居てくれればいい、とスカウトされたのだ。仕事するわけがない。
「楯無。また襲撃とかあったりするのか」
今回は無事に撃退した。
事前に情報収集できたこと、相手が高が学生と甘く見積もっていた為にオレたちが優位に立つことができた。
そもそも楯無がいる時点でこちらの勝ちは決まっている。
完璧超人は名前だけじゃない。
テロリストがいかに腕の立つ相手であったとして楯無にしてみれば赤子の手を捻るよりも簡単なことだ。
世間一般のもてはやすだけ強さじゃないのだ。
織斑千冬が十人に分身して総攻撃仕掛けてきても楯無が苦戦することはないはずだ。
今回の結果を受けて、二度とテロリストが襲撃してこないことを期待したいが、物騒なこと考える奴らには無駄な期待だろう。
「分からないわ。ただ私たちの害にならなければ放っておいてもいいんじゃないの」
書類の処理は止まらず、どうでもいいと口にした。
「そういうもんか」
「そういうものよ。今回は害もあったし、轡木さんから依頼があったの」
「轡木のジーサンが。聞いてないけど」
「言ってないもの」
「マジか。もしかしてオレだけか」
「虚ちゃんにも本音にも言ってないわ。言っても言わなくても変わらないから」
「確かに変わんないけどさ」
微笑むだけで終わった。
変わらない。
その言葉がオレたち三人への評価だろう。
言っても言わなくても従順に従う存在。
決して対等な立場ではないこと。
拒否権がないこと。
虚は崇拝している。自分より圧倒的に優れている楯無を神のように信頼し、決して袖を分かつことはない。
本音は依存している。アイツは頭がいいくせに考えることを放棄して、楯無の指示に疑問を挟むことなく遂行する。楯無が指示を与えなければ何もしないし何もできない奴になってしまっているのだ。のほほん癒し系だけどな。
オレは縋っている。人に気づかれにくい体質であっても楯無だけがオレの存在を必ず見つけてくれるのだ。ほかの誰もがオレに気が付かない中で。そんな楯無がもしもオレを見つけられなくなったら、オレに価値がなくなって無視されるようになったらと。絶望して心が壊れてしまいそうだ。
オレたち三人が楯無を裏切ることは万に一つもない。それぞれが楯無にもたれかかって自分の足では立てなくなってしまっているのだから。
「一年生はもうすぐ臨海学校。きっとまた何かあるんでしょうね」
楯無が言うと真実になりそうだ。
発言には気を付けてほしい。
「本音一人じゃ大変そうだな」
「ああ、大丈夫よ。本音には他の生徒たちと同じように楽しみなさいと言ってあるから」
「それでいんじゃねーの。アイツはのんびりしてるのがお似合いだよ」
「どう、せっかくだから一緒に臨海学校に行ってくる?」
「そりゃあないない。面倒ごとに巻き込まれるのはごめんさ」
「それは残念」
「何が残念だよ。オレは平穏が一番好きなんだぜ。今回みたいな直接戦闘は勘弁だぜ」
毎回毒でばたんきゅーはさすがに嫌だ。
と言ってもまた楯無の思惑通りに動く時がくる。
その時が暫く来ないことを願うしかない。
木彫りの熊に祈るか。祈るしかないか。
非常に雑な流れですがこれにて終了となります。
何コレ?と思われる終わり方で申し訳ありませんでした。