最強はすぐそこにいる。
オレの目の前にいる。
優雅に紅茶を堪能する姿は深窓の令嬢のようで、画家でもいれば被写体として描き始めるに違いない。紅茶の香りに微笑みを浮かべ、そっと口にするのは育ちの良さを感じさせてくれる。
実際に育ちは悪くない。英才教育ともスパルタとも取れる教育を受けてきたの。今更不作法を働くわけがない。
不作法を働くとしたら、何かしらの意図があってのことだ。ロクな意図もないさ。
楯無は報告書の隅から隅まで視線を走らせる。
傍から見ると、読んでんのか怪しいが、きちんと読んでいることだ。
あれでも遅く読んでいるに決まっている。いつもパッと見て裁量しているくせに。
パパッと終わらせて余暇を楽しめばいいのに。
オレなら終わらせること終わらせて好き放題する。
スマホをいじいじ。
暇だからスマホ。
「当たり障りのない報告書ね。具体的に書いてはあるけど、深層部分を意識して書いていないような報告書と言わざるを得ないのが結論」
報告書が机の上に置かれる。
満足いくものではない。
生徒会長更識楯無は溜息と共に言った。
満足いかなくてもそれが結果であれば納得する。
深いところまで探りたくないオレの意見。
知ったが故に面倒なところまで身体を突っ込んでしまったからこそ、これ以上の深入りをしたくないんだ。親父が不倫してたなんて、どんな気持ちで受け止めろっていうんだよ。
あの親父め。鶏肉派とか豪語しておきながら牛丼屋に入りやがって。
「満足いくものではないわ」
「なんで二回言った」
「満足いくものではないわ」
「続けざまに三回言うな」
暗に報告しろってか。察しろってか。日本人魂を見せろってか。
確かにオレは報告できる。報告書に書かれていないことを言うことができる。そりゃあ、報告書に書かれていないことをテキトーに話せばいいだけだ。
盲点。まさしく盲点。
「この報告書に関わることでお願いね」
残念だ。
報告書。
クラス対抗戦における所属不明IS襲撃事件報告書。
一年一組クラス代表織斑一夏と一年二組クラス代表凰鈴音の試合中に所属不明のISが襲撃してきた。
二人によって無事撃破された。
襲撃してきたISは無人機だった。
破損状況は酷く解明は不可能。
これらのことが詳細に書かれている。
これで十分だ。
楯無の方はそう簡単に飲み込むことができないらしい。
「襲撃してきたISが無人機なのは本音からの報告で嘘でないことが分かるけど、本当に解明できなかったのかしら。何一つとして情報を得ることができなかったなんてねぇ」
「意図的に記載してないだけだろ。その意図を組んで口を噤むべきじゃないか」
「むしろ逆よ。意図的に記載してないということは、その痛い腹を探ってほしいってことではなくて」
「なにそれ。マゾじゃあるまいし」
「そうでないなら、もっと巧妙に隠し立てするのがプロでしょ」
「さすが更識楯無。完璧人間様は違うじゃんか」
「そうね。ちゃんとした報告を聞こうかしら。アナタの言う完璧人間を騙せることを喋れないようなら、包み隠さずに本当を話しなさい」
穏やかな声だ。
穏やかに優しくこっちの首を絞めてくる。
比喩だ。
実際には何もされていない。
「さあ、時間は沢山あるから」
ニッコリと人のよさそうな笑顔でオレを威圧してくる。
背中を嫌な汗が流れる。
ビビっているわけじゃない。
逆らえないんだ。
諦観してるだけだ。
勝ち目のない相手にビビる必要なんてない。だって勝てないって分かってんだからな。
更識楯無。
実力的にも立場的にも逆らうべきじゃない。
話す。
オレがこっそりと収集した情報はコイツの一体何に役立つのか。
「ふうん。コアは未登録のもの。つまり新品。となると送り主は決まるわね。織斑一夏くんが入学してきたことと関係ないと断ずることはできなくなる」
なんで嬉しそうなんだか。
厄介事を抱え込んでしまったって頭抱えろよ。似合わないけど。
どうせ、楯無が本気を出せば終わるんだ。
解決の手間を楽しむのか。
そんな人間でもないくせに。
オレたちの仕えるお嬢様は何なら手こずる。
何を前にしても余裕そうだから分からない。
「ふふふ。それよりもまたおかしな小説が送られてきたみたい」
情報に対して特になし。もう楯無の中では終わったんだな。
すとんと腑に落ちる。
スマホをいじいじ。
楯無は真剣な様子で送られてきた小説を読み進める。
「稚拙ね。趣味の域を出ないわ」
「じゃあ趣味なんだろ」
「そうね、趣味なんだと思う」
「他人の趣味にとやかく言うつもりはないけど文才はないかしら」
「とやかく言ってんじゃん」
「アナタも悪趣味はほどほどにね」
小説を脇に置いた楯無の視線が射貫いてくる。
射貫かれる錯覚を覚える。
「なんのことやら」
気づかれていないと思っていた。
安心しきっていたので動揺してしまうぞ。
まさかここまで他人に意識を向けているとはまったく考えてなかっただけに、弱みを握られた気がする。
「無銭飲食。褒められた趣味じゃないわ」
くすりと笑みを漏らしている。
美少女だから絵になる。
そしてオレは逆らえない雰囲気が増す。
証拠がないと反論しようものなら楯無は証拠を出してきそうだ。
「他の人に自慢しちゃだめよ」
しねーよ。