まったりはそこにいる。
オレのすぐ隣にいる。
抱きしめるとふわぁっといい匂いが鼻孔をくすぐる。これで香水付けてないんだから、人間捨てたもんじゃない。あるく芳香剤。
しかしキナ臭い。
本音じゃない。
転入生が、だ。
転入生は三人も来た。
オレのとこじゃない。本音のとこと簪のたとこだ。
一年一組。織斑千冬が担任を勤めて、織斑一夏が在席するあの一年一組だ。
一年一組。篠ノ之博士の妹とか、イギリスの代表候補生とか在席する一年一組だ。
厄介者を全部放り込んだ負担の一極集中の魔窟。そこに更なる負担を放り込む学園上層部の鬼畜の所業は如何なものかと。
一年一組に送り込まれたのは二人。
フランスからシャルロット・デュノア。
ドイツからラウラ・ボーデヴィッヒ。
チームヨーロッパだ。
フランスのデュノアは男装が趣味なのか、転入時の資料ではシャルル・デュノアになっていた。どこまで自分の男装が通じるのか、最もチェックの厳しいIS学園で試そうという魂胆が見え見えだ。
挑戦することは技能向上に繋がる。
その心意気や良し。
向上心の欠落は停滞か堕落のどちらかしかない。
嘘だ。
シャルロット・デュノアは男装趣味じゃない。
分かり切っていることだ。
織斑一夏の存在がシャルル・デュノアを作り出した。
男同士の方が何かとお近づきになれるしな。
「デュッチーはねぇ、男装がちょっと下手そうだったよー」
本音に言われちゃおしまいだ。
飴玉一つ投げれば、本音はぱくりと口でキャッチする。可愛い。
「怪しからな。そもそもISを扱える希少な男が代表候補生なんだよ。すげーなフランス」
「うーん。人材不足かもよー」
「その言葉でも済まされんぞ。しかも、代表候補生にまで祭り上げられてる割にはメディアで取り上げられない不思議さ。パッと出てき過ぎだ。あれか、フランスの情報操作すげーな」
おかし過ぎるのなんの。
日本みたく二人目のISを動かせる男子が見つかりました、と大仰に騒ぎ立てなければ。
事態の重大さに対しての反響がなさすぎ。
「ま、かんけーないからいいんじゃないのー」
生徒会の役割はあくまで学生生活の統括だけだ。関係ない。
「ただ、お上に言われてんだろ。織斑一夏を守れって。そういう意味では関係あんじゃね」
一年一組に本音が配置されている理由。
オレが学園側に対してスパイ紛いをした理由。
楯無が学園が隠している内容に拘った理由。
世界最強の弟なんてネームバリューがそうさせてるわけじゃない。
貴重なサンプル。
女にしか扱えなかったISの領域に男が入ってきた。
男女関係なくISを使うことできる可能性だ。
誰だって織斑一夏というサンプルが欲しくなる。
ISの稼働データ、皮膚片、DNAととにかく関わりがあるものなら何でもいい手に入れたくなる。
最悪な強硬策に出る奴だっているかもしれない。
だから、対暗部用暗部なんてカウンター組織の党首である更識に声がかかった。
なし崩し的に巻き込まれたオレたちがいる。
道徳を信じろ。
善良な人間であれ。
そう言い聞かせなければ萎える。
スマホを指でくるくると回す。
「もう一人。ラウラ・ボーデヴィッヒ」
「おりむーをぶっ叩いていたよー。すごく痛そうだったー」
「仮にも軍人らしいからな。それも織斑千冬に師事してたとかな」
「でもそんくらいかなー」
「ま、そんなもんだろ」
「それよりも問題はもう二人目のISを扱うことのできる男の子だよねー」
世間を騒がせている二人目の男子。
つい最近発見された正真正銘の本物のIS適正のある男子だ。
二人目は一年四組所属。
簪と一緒だ。
織斑一夏と同じ立場に立たされた少年の名前だ。
「初日からおりむ―が色々と声をかけてたよー。あっちもホッとしてたかな」
女子しかいない場所。
知らない奴でも同性がいるだけで変わる。
接触してみようか。
それとなく近づいてみるか。
どうせ、楯無から探りをいれるように指示が出る。
あの完璧超人め。
本音を抱きしめる。
一息入れる。
腕の中に納まる落ち着くような暖かさ。
いい匂いがする。
「うー、抱き枕じゃないんだぞー」
本音が不満を漏らす。
満足そうな顔をしているが。
オレも満足。
幸せは手の届くところにある。
冒険がそれに気づかせてくれるようだが、オレは冒険せずとも気がついている。
「……たっちゃんもお姉ちゃんもなかなか来ないね」
「来ないな」
「ふわぁ。寝ちゃいそー」
「寝てもいいんじゃないか。二人が来たら起こしてやっから」
「お願い」
オレと本音だけが早く来た時のやりとり。
本音は抱きしめられたまま眠り始める。
コヤツに場所や状況なんて関係ない。
本音を堪能できるのでよしとする。
柔らかい頬っぺたを突いて楽しむ。
二人がやってくるまでの間ずっと。