Fate/Passionate Romancia 作:Ekeko
リップは一回しか当たりません・・・
鈴鹿はなぜか四回もきてますが。
屋上で遠坂凛から聞かされた衝撃も治まらないまま、校舎へと戻ってきた。
頭がまだグルグルと回っている錯覚を覚える。
「始さん、大丈夫ですか?」
心配そうな声音でリップが聞いてきた。
そんなに酷かったのだろうか、自分は。
少し無理して明るめに「大丈夫だよ」と返事をする。
姿は見えずとも、雰囲気は何かを言いたげだったがそれ以上は何も聞いてこなかった。
確かに大丈夫ではない。
こんな戦争に参加するだけの覚悟はおろか、記憶すら無い状態なのだ。
けど、それでも。
あの時、何も持たず、死を待つだけの自分に手を差し伸べ、共に戦うと言ってくれた少女は傍にいる。
せめてその奇跡に、恥じる事が無いように。
それだけが、何も持たない今の自分の「戦う理由」だった。
「そこのマスター、待ちたまえ」
不意に背後からの声に振り向くと、神父の姿をした男がいた。
声を聞いて思い出す。
予選の時、リップと初めて会った時に聞こえてきた声の主だ。
「何ですか?神父様」
「いや何、本戦の出場を祝おうと思ってね。
私の名は言峰。この聖杯戦争の監督役を務めるNPCだ。
神父の姿はあくまで『元の人物』の者に過ぎんよ。」
そう言って嗤う姿は神父とは思えない笑みだった。
悪辣さ、とでも言うような物がにじんでいる。
『元の人物』というのはどんな聖職者なのだろうか・・・
知るのが怖くなる。
「迷える子羊に、この戦争の詳しいルールを教えておこう。」
「ここから出られるのは、最後に戦って生き残ったただ一人って話ですか?」
「そこを理解しているのならば話が早い。
その最後の一人を決めるため、この聖杯戦争はトーナメントの形式で行われる。
現存する128名のマスターで、七回戦まで決戦が行われ、最後まで勝ち残った者に聖杯を与える。
次に、一回戦ごとに与えられた猶予期間は6日間だ。
その間、一回戦ごとにアリーナに現れる暗号鍵を7日目までに入手する事を忘れない事だ」
「猶予期間内にトリガーを手に入れる事が出来なければ?」
「決戦を迎えることが出来ない、即ち脱落ということになるな」
ただ座して待つだけでなく、猶予期間を活かして出来る限りの事と、すべきことをしろ。
どうやらそういう事らしい。
「ちなみに君の一回戦の対戦相手だが、どうやらシステムにエラーが発生していてね。
もう少し待っていてくれたまえ」
そうして神父は廊下の向こうへと消えていった。
正直、あの邪悪そうな神父が監督役という時点でこの戦争も危ない気がしてきたが、気にしていてもしょうがない事だ。
「それじゃ、とりあえずアリーナに向かおう。まずは戦い方を理解しないとどうしようもない」
「はい、まかせて下さい。
相手を思い切り潰すのは大得意です!」
「・・・わぁー、すげぇー」
眩しい笑顔で凄い事を言ってくれる。
まあ、頼もしいと受け取っておく事にしよう。
言峰神父から説明を受けた後、一階にあるアリーナへとやってきた。
一階の扉をくぐれば、そこは既に見慣れた校舎ではなかった。
海の中に浮かぶ迷宮、といった感じだろうか。
どこかおとぎ話めいた世界に放り込まれた気分だった。
「今日はあまり奥まで行かないで、その辺のエネミーで訓練しましょう。」
「そうだな、よろしく頼むよ。リップ」
「任せてください、怖いけど、がんばります!」
グッとガッツポーズを取ったリップに少し見とれてしまう。
が、すぐに意識を切り替えてアリーナを進んでいく。
少し進むと浮遊する立体キューブのようなモノが見えてきた。
「リップ、あれがエネミー?」
「はい、一番弱っちいエネミーです。始さん、指示をお願いします。」
「ああ、頼むよリップ。あいつを倒してくれ」
指示をうけると同時に、リップは砲弾か何かの如く相手へ向かって跳んだ。
爆発的な勢いで迫るリップに対して、敵のキューブは固まるような動作で防御の様な体制に移る。
しかしそんなものは彼女には関係ない。
「潰れて!」
肉薄した相手に思い切り黄金の腕を叩きつける。
防御など意味をまるでなさない。
圧倒的すぎるともとれる彼女のパワーは、相手の守りを苦も無く破り、破壊した。
「凄い・・・防御の上からでもお構いなしに・・・」
「私、力と耐久力だけは他のどんなサーヴァントにも負ける気はありません。ただ・・・」
「ただ?」
「今の私は、本来の力が十全に出し切れてないみたいです・・・」
そう言って申し訳なさそうにリップはうつむいてしまう。
一体何故そんな事になったのか・・・
おそらくは俺のせいだとは思う。
俺には遠坂や他のマスターと違い、記憶や魔術師としての経験が何もない。
ようするに新米のマスターなのだ。
そんな俺がリップの力を十全に引き出すのは難しいのだろう。
「でも!もっと戦いをこなして、始さんが戦いに慣れていけば、私も本来の力を取り戻せると思います」
此方がどんな顔をしていたのかはわからないが、リップが励ますように言った。
「ですから、これからもアリーナで鍛えていきましょう?私、ノロマですけど精一杯やりますから」
「そうだな・・・俺も三流のマスターだ。そんな俺でもやれるだけやるよ」
今の自分の力の無さはどうしようもない。
なら、明日からは少しでも力を上げていかなければならない。
決心も新たに、迷宮を進んでいくと、エネミーのキューブとはまた別のキューブが見つかった。
「これは?」
「それはアイテムのフォルダですね。中に何か役に立つアイテムが入っているかもしれませんよ」
「宝箱ってわけか」
箱を調べてみるとデータ化されたアイテムが出現した。
木刀のようなものだ。
「礼装ですね。装備すればコードキャストがつかえるかも」
「コードキャスト・・・これでか・・・」
電脳空間で使用されるプログラム。
これに魔力を通せば術式を起動できるという仕組みらしい。
戦力の足しになりそうだ。
幸先の良さに少し上機嫌になりながら、この日は校舎に戻った。
マイルーム。
聖杯戦争の参加者一人一人に用意された個室。
2階の教室から入れるその場所に戻ると、中は普通の教室のままだった。
個室は個室でも、ベッドもなにも無い。
「これじゃ休めないな・・・リップ、ちょっと待ってて」
リップを部屋の隅で待機させ、適当に机を一か所に、壁際に積み上げる。
物を教室の中央などに置いておくと、リップの腕が当たってしまう可能性があるからだ。
「こんな感じだけど・・・休めるか?」
「私は大丈夫です。始さん、ありがとうございます」
「どういたしまして。明日からも頼むから、今日は休んでくれよ」
「はい、おやすみなさい。始さん」
そう言って彼女は机の山に座って、眠り始めた。
眠り始めたのだが・・・
「すぅ・・・」
寝顔に思わず見とれてしまう。
記憶がなくなる前の自分は、それはもう余程・・・女性に縁が無かったのではなかろうか。
思わずじっと見つめてしまう程だ。
そしてもう一つ。
寝息と共に、ゆっくりと上下する凶悪な二つのモノ。
具体的には口にできない。
目を逸らそうと思うも、視線が外れてくれない。
アリーナで戦っている時も、大きく揺れるソレに視線がいかない様にするにはかなりの精神力を強いられた。
しかしだ、幸いにして今は眠ってしまっている訳で・・・
少しくらいなら見ていたとしても咎められたりは・・・しない、はず。
(うん、仕方ないな。少しなら仕方ない。仕方ないから仕方ない)
何がどう仕方ないのか分からないが、そのまま上下する胸を眺めてしまう。
ベルトの様な物だけで支えられた胸をそのまま凝視していると・・・
「どこを見ているんですか?」
と、不満げな声が聞こえてきた。
ミシミシと音が立っているような錯覚を覚えながら、首を少し上に上げると・・・
「起きてらしたんですか・・・」
「はい♪なんだか視線をかんじましたから」
素敵な笑顔を浮かべた、自分のサーヴァント様がいらっしゃった。
瞬間、正座の体勢に切り替え、思い切り地面に頭をこすりつける。
「も、もうしわけアリマセン・・・」
やっちまった・・・
そんな考えが頭をよぎる。
女子としては不愉快を通り越して泣きたくなるような状況だと思う。
初日からこんな真似をしてしまうとは・・・自己嫌悪で死にそうだ。
「始さん!」
「アッハイ!」
声をかけられて見上げると、リップは顔を赤くして頬を膨らませて、とんでもないことを言い放った。
「む、胸ばっかりみてると!胸の中にしまいこんじゃうんだから!」
※
ふと、目を覚ます。
目の前には新しく契約したマスター。
傷つきながらも、最後まで前を向いて、戦う意思を示した人。
そんなこの人は、何時かの世界で出会った人によく似ていた。
栗色の髪をたなびかせ、赤いドレスを纏った少女を連れた人。
私を許してくれた人・・・
もう出会う事は無いけれど、彼女はきっと今でも、あの薔薇の皇帝と手を取って歩いている。
なら私も、そんなあの人に、救われて恥じない自分になりたい。
いつか、愛し、愛される人・・・そんな人に出会いたい。
道のりは遠い。
今は、新しく契約したこのマスターと歩いていこう。
彼に触れられた手の甲の熱は、まだ冷めていない。
たとえ別れが訪れようとも、この熱を忘れたくない。
「ありがとう、始さん。」
明日からも、お願いしますね・・・
※
「おはよう、リップ。よく眠れた?」
「はい。私は大丈夫ですけど、始さんは・・・」
「ああ、平気だから。うん・・・ちょっと考え事を・・・」
あの後、昨日のリップがした発言のせいで、頭がフル回転しっぱなしだった。
眠れたのは大体深夜だったか・・・それくらいに衝撃的な発言だった。
(しまう?・・・胸の奥・・・)
思わずまた考えがループしそうな思考を頭の隅に追いやっていると、携帯端末が鳴り響いた。
取り出してみると、何やら表示されている。
『2階掲示板にて、次の対戦相手を発表する』
いよいよだ。
7日後に訪れる決戦の相手。
緊張から端末を持つ手が汗ばむ。
そんな自分を誤魔化すように、乱暴に端末をしまって廊下に出る。
掲示板の前には人だかりができていた。
それらをかき分けるように掲示板をのぞき込んでみると一枚の紙が掲示板に貼られていた。
一つは自分の名前、暁 始
もう一つは対戦相手の名前。
マスター:ジナコ=カリギリ
「ジナコ・・・カリギリ・・・」
それが七日後に戦う相手の名前。
見たことも聞いたことも無い相手との戦いは、ここで始まった。
ワカメだと思った?
残念!ジナコさんです。