サブタイ通りあのISが登場しますが、設定に幾つか違いがあります。これは平行世界の設定という事でご了承願います。
準決勝第二試合
篠ノ之箒VS織斑一夏
ファイッ!
『え~、続きまして準決勝第二試合を行います』
第一試合の雪兎の蹂躙劇の衝撃から観客席が落ち着いたのを見計らい薫子が第二試合の選手紹介を始める。
『青コーナー、前の試合では逆転劇を見せてくれた武士道ガール!篠ノ之箒!』
『・・・・紅椿は数少ない第4世代機だ。その能力は未知数。油断は禁物だな』
『前回の刃衣だったか?あれと通常形態の使い分けが今後の課題だろう』
その箒は少し緊張した表情でアリーナに現れる。箒は元々専用機持ちではなかった。だが、一夏と共に在りたいが為にそれまで嫌悪していた姉・束に専用機・紅椿を求め、その初陣である福音戦では一夏や雪兎に多大な迷惑をかけた。更に京都では油断からオータムに剥離剤改で暴走させられ再び一夏に救われた。そんな自分が一夏の隣に立つ為に挑んだこのトーナメントだったが、前の試合の後の一夏と鈴の姿を見て酷く胸が締めつけられる感覚を覚えた。それが醜い嫉妬だと箒も気付いており、そのせいで心が曇っているのを箒は自覚していた。
(・・・・こんな私に一夏と並ぶ資格があるのか?)
そんな迷いを抱える箒だが、試合は待ってはくれない。
『赤コーナー、この試合を制しライバルの元へ辿り着けるのか!?織斑一夏!』
『ISを知り、初めて触れたのが一年前とは思えない成長だな』
『まだまだあいつはひよっこだ』
やはり千冬は一夏には厳しい。
「ははは・・・・やっぱ、千ふ、織斑先生は厳しいぜ」
そんな千冬のコメントに苦笑しながら入場する一夏だが、内心では先程雪兎から聞かされた言葉が頭を離れなかった。
『一夏、もしかすると次の試合で箒が・・・・いや、紅椿が暴走する可能性がある』
『えっ?』
『前に京都で暴走した際に束さんが掛けてたリミッターの一つがぶっ壊れちまったらしい』
『でも!あれは俺が夕凪燈夜で!』
『・・・・紅椿の、ISの方はそれで何とかなった』
『なら何で・・・・まさか!?』
『ああ、問題は
その後、一夏も紅椿の真実を聞かされた。まさか自分の知らないところでそんな事が起きていたとは知らず、一夏はショックを受けたが、箒の成長次第では何れは赤月もちゃんとコントロール出来るとも聞かされ、トーナメント中に暴走しなければ今後はそのコントロールの為の訓練に移行するとも雪兎は言っていた。つまり、問題なのはこの試合が最も暴走する可能性が高いという事だ。
(箒・・・・)
『今回バトルフィールドは・・・・これだ!』
二人が思い悩む中、ARプログラムによってバトルフィールドが生成される。生成されたのは無数の桜に囲まれた幻想的なフィールドだった。
『・・・・これはまた絵になるフィールドが』
『白式と紅椿で桜というわけか』
『・・・・このランダム設定、本当にランダムなんだろうな?』
こうもピッタリなフィールドが選ばれたことに千冬はが疑いの目を向けるが、間違いなくランダムである。
『そ、それはさておき、準決勝第二試合、試合開始!』
千冬の視線にビビりながらも試合開始を告げる。
「・・・・箒、いくぞ!」
「こい!一夏!」
まだ吹っ切れてはいないが、一夏は試合に集中する事にし、煌月白牙と雪片参型を手にする。それに対し箒も雨月と空裂を手にした。
「はぁ!」
「ふん!」
白と紅の刃がぶつかり合う度にその衝撃で桜の花が舞い散る。が、箒の方が若干押され気味であった。
「くっ・・・・(一夏はまた腕を上げたというのか)」
そう!これは雪兎との特訓で一夏が剣の実力を取り戻し、技を学んだ事で腕を磨き、白式の強化で更なる力を得たからだ。対して箒はまだ紅椿の能力を十全に使えているかと言えば実はまだ五割も満足に使えておらず、紅椿に振り回されているのが現状だ。
(それに比べ私は・・・・これではもう一夏にとやかく言う資格は無いな)
入学当時に剣道を離れていたと聞き憤慨した箒だったが、その実力は既に越えられたと思ってもいいだろう。それが箒には嬉しくもあり、悔しくもあった。
(力が欲しい・・・・一夏と共に戦う力が、一夏と並ぶ力が!)
その時、箒の内から何か、錆び付いた鎖が砕けたような音と共に再び箒の瞳が真紅に輝き力が溢れ出す。
「はぁ!」
「くっ、箒の力が・・・・」
突然箒の力が増した事に困惑する一夏。力だけではない。その技のキレやスピードも格段に上がっている。
「そうだ!この力があれば私は!」
『マスター!箒さんの瞳が』
「紅い瞳・・・・これが雪兎が言っていた」
「一夏ぁ!今のお前の相手は私だ!私だけを見ろ!!」
だが、次第に力に飲まれ始めた箒は一夏が自分以外の誰かを思い浮かべる事すら許さない苛烈さを見せる。
「やめろ箒!その力は!」
「五月蝿い!うるさい!ウルサイ!」
それでも一夏の防御を破れない事に苛立ち、更なる力を欲する。
「もっとだ!もっと力をよこせ!紅椿!いや・・・・【赤月】!」
そして、箒にその名を口にした。雪兎達が最も警戒していたその名を。すると、紅椿を覆っていた装甲がパージされ、紅椿とは似て非なるIS【赤月】が姿を現す。
「あれが・・・・赤月」
真紅の装甲であった紅椿とはまた色合いの違う深紅の装甲を持つ赤月。
「これが私の力だ!」
「箒!」
『ちっ、完全に飲まれやがったか・・・・あの馬鹿が』
「雪兎!」
その時、一夏に雪兎から通信が入る。
『予定通り俺や織斑先生達で突入して赤月を止める。その後、一夏は夕凪燈夜でーー』
「その事なんだが・・・・俺一人でやらせてくれ」
雪兎は赤月が暴走した際の作戦を改めて伝えるが、一夏はそれを一人でやりたいと言い出した。
『一夏、お前は状況が判ってるのか?』
「判ってる!でも、これは俺がやらなきゃダメなんだ!」
『・・・・はぁ、お前は一度言い出したら聞かねえからな。無理だと判断したら勝手に介入する、いいな?』
「ああ!」
おそらく言っても無駄だと雪兎は判断し、本当に危なくなったら問答無用で介入すると告げた。
『邪魔されたくなかったらさっさとあの馬鹿を叩き起こしてこい』
「おう!」
迷いの晴れた一夏は赤月とも対等に渡り合うも、赤月には絢爛舞踏がある。更に時間を掛ければ雪兎達が介入してきてしまう。
「何か、何か手は・・・・」
『マスター、彼女を正気に戻せればいいのですね?』
「手があるのか?白式」
『ええ、赤月とコアネットワークを繋いでまとめて
「アンダーワールド?」
『以前にマスターがラウラさんや私達が話したあの場所です』
白式が言うには、至近距離に接近できればその精神世界に箒と赤月を連れ込む事が出来るのだと言う。
「それを使えば箒を助けられるんだな?」
『はい・・・・しかし、精神世界で私達が敗れればマスターが無防備になるか、最悪マスターも・・・・』
「箒と同じ状態になる、か」
『はい』
そんな一か八かの手ではあるが、一夏は笑みを浮かべてこう答えた。
「やってやるさ。一か八かなんて今更だぜ、白式」
今までも雪兎のお膳立てはあったとはいえ、何度もそんな状況をくぐり抜けてきた一夏にとって、そんな事に今更であった。
「それに、俺が失敗しても雪兎や千冬姉達がいるんだ。なら、俺は何も怖れず前だけ見ていられる」
『はぁ・・・・マイスター達の気持ちがよくわかりますね』
『白式お姉ちゃん、今更だよ』
「頼む二人とも、俺に力を貸してくれ」
『当たり前だよ、私達は
『行きましょう、マスター』
そこからはエナジーウイングで高速移動を繰り返し、隙を探し回避を続ける。
「避けてばかりかっ!一夏ぁ!」
そんな一夏に暴走し、気持ちが昂っている箒は次第に攻撃が単調かつ大振りになっていく。
『マスター!』
「ああ!今だ!」
そして出来た一瞬の隙を突き、光を纏わせた左腕を箒に突き出した。
「いけぇええええ!!」
その瞬間、一夏と箒を白い光が包み込んだ。
気付けば一夏はバトルフィールドと同じ桜の舞う場所にいた。違いがあるとすればそれはここが夜のように暗い事だ。
「ここが・・・・」
『赤月とリンクした精神世界です、マスター』
「なら、ここに箒が・・・・」
『はい』
『こっちだよ、
白凰に導かれた先にいたのは今より少し幼い箒だった。その箒は自分の殻に閉じ籠るように踞っていた。
「箒・・・・」
一夏が声をかけるも箒には反応が無い。
『マスター、おそらく赤月に関する記憶を取り戻して、その罪悪感から閉じ籠ってしまったのでは?』
「箒、いつもの強気な箒はどこにいっちまったんだよ?」
「・・・・」
一夏が再び呼び掛けると、無言ながら箒に少しだけ反応があった。
「赤月の話は雪兎から聞いた。でも、だからってずっとこのままでいるつもりかよ!」
「・・・・お前に、何が分かる」
やっと一夏の言葉に返事を返した箒だが、その声にいつもの覇気は無い。
「私は思い出したんだ・・・・紅椿の時が、あの時、お前に庇われた時よりも前に・・・・私は、とんでもない失態を犯していたんだ」
箒が言っているのはおそらく赤月が暴走し、千冬がそれを止めた一件の事を言っているのだろう。
「私には、私にはやはりISに乗る資格などなかったのだ!あの時も!福音の時も!そして、今回も!私がISに乗ったばかりに起こった事だ!」
「箒・・・・」
そんな箒の慟哭に一夏も言葉が続かない。
「軽蔑したろう?これが私だ・・・・都合の悪い事は忘れてのうのうと生きていた私にISを扱う資格、ましてやお前といる資格など・・・・」
「そんな事はない!」
だが、続く箒の言葉に一夏はすぐさま言い返す。
「誰かと一緒にいたいのに資格なんているか!そもそも箒は俺の幼馴染だろうが!」
「幼馴染なら鈴もいるであろう!私がいなくなったところで誰もーー」
そう箒が言いかけたところで一夏は箒の頬を叩いた。
「えっ?」
「誰も悲しまないとか言うつもりか!?そんな訳ねぇだろうが!!」
「・・・・いち、か?」
叩かれるとは思っていなかった箒が唖然としつつ一夏を見上げると、一夏は酷く悲しそうな顔をしていた。
「だったら何で俺はここにいる!?いなくなっても構わないようなやつの為に命を張る訳ねぇだろうが!この大馬鹿野郎!!」
「だが、私は・・・・」
「間違ったってんなら謝ればいい!償えばいい!だから、そんな寂しい事言うなよ、箒」
「私、は・・・・また、やり直して、いいのか?」
「ああ!」
「お前の、そばに、いて、いいのか?」
「ああ!だから帰ってこい!箒!」
一夏が伸ばした手を箒が恐る恐る握ると、暗かった空間に陽の光が射し込み、箒の姿も幼い姿から元の箒へと戻っている。
『やれやれ、手の掛かる主な事だ』
すると、そこに巫女装束姿の箒によく似た少女が現れる。
「君はあの時の!」
「お前は・・・・紅椿、いや、赤月なのか?」
『そうだ。私は赤月であり紅椿でもある』
それは赤月及び紅椿のコアの管理人格であった。
『織斑一夏、主が世話になったな』
「箒の姿でそう呼ばれると違和感が凄いな」
『では私も一夏と呼ばせてもらおう。一夏、改めて礼を言う』
「礼なんていいよ。俺はこの馬鹿な幼馴染を叩き起こしにきただけなんだから」
「ば、馬鹿とはなんだ!馬鹿とは!」
「やっといつもの箒に戻ったな?」
「はっ!?」
『・・・・夫婦漫才は帰ってやってくれ』
そんなやり取りをしていると、一夏と箒の姿が薄れ始める。
「これは」
「もう帰れってことかな?」
『そういう事だ・・・・一夏、主を頼む』
「ああ、任された」
一夏の返事を聞き、赤月は笑みを浮かべたところで一夏と箒の意識が現実へと浮上した。
精神世界にいたのは現実ではほんの一瞬だったらしく、現実では丁度二人を包んでいた光が消えたところであった。
「戻って、きたみたいだな」
「・・・・すまない、一夏。また迷惑をかけた」
赤月も再び紅椿の姿に戻っており、暴走は止まったようだ。
「気にすんなよ、幼馴染だろ?」
「・・・・そこは、もう少し踏み込んだ関係でも」
「何か言ったか?」
「何でも無い!」
鈍感は治ったものの、鈍感主人公に有りがちな難聴は治っていないようだ。
「それよりも試合はどうするか・・・・」
「それに関しては私の棄権でいいだろう。ここで仕切り直しをするのはちょっとな」
「いいのか?」
「ああ、その代わり・・・・次の試合、勝てよ」
「ああ!」
結局、試合は箒の途中棄権で一夏の勝ちとなった。また、箒の暴走は感情が昂り過ぎたせいという事にされ、箒は念のために精密検査を受けることになり試合後に束らに連れて行かれた。
「全く一夏のやつめヒヤヒヤさせやがって・・・・でも、箒も紅椿と対話して制御出来るようになったか」
暴走していたとはいえ赤月の猛攻を耐えていた一夏と紅椿を制御出来るようになった二人の試合を見て雪兎はぶつくさ言いつつも二人の成長を喜んでいた。
「これは明日の決勝も期待出来そうだな」
思った以上の一夏の成長に雪兎は笑みを浮かべて明日の決勝戦を心待ちにするのだった。
難産だった・・・・
少し書いてる期間に空きあったのでおかしいところがあったら感想とかで指摘して下さい。
次はやっと決勝戦・・・・今回程はお待たせしないつもりですが、どうかお付き合い下さい。
次回予告
とうとうトーナメントも決勝戦!これまで圧倒的な力を見せてきた雪兎と一回戦毎に成長を遂げてきた一夏。そんな二人が決勝戦という大舞台で遂に激突する!
次回
「決勝戦!雪兎VS一夏! 兎、ちょっぴり本気出す」