IS―兎協奏曲―   作:ミストラル0

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今回からは第一部の最終章となる春休み編。春休み編とは書いてますが、色々な事を詰め込んだ章になると思います。第二部のキャラの顔出しもあります。


それではISー兎協奏曲ー第十六幕にして第一部完結章開幕です。



十六章 兎と春休み
140話 春休みと新たな仲間 兎、名付ける


少々トラブルはあったものの、無事にトーナメントを終え春休みに入った雪兎達。IS学園では長期休暇は主に母国へ成果を報告に帰る生徒に配慮して長めの休暇が設けられている。

 

「ふぅ」

 

そんな中、雪兎は一般の部のトーナメントで得た量産機のデータをまとめたり、とある合同プロジェクトで開発され、試作したはいいが乗れる者がおらず、結局はプロジェクト・フロンティアに押し付けられたとある試作機の改良をしたりしていた。

 

「雪兎、そろそろ一度休憩したら?」

 

「ああ、丁度一区切りしたところだしな」

 

そんな雪兎にシャルロットは紅茶を差し入れ休憩を促し、雪兎の見ていた画面を覗き込む。

 

「それが例のじゃじゃ馬?」

 

「欧州イグニッションプランとプロジェクト・フロンティアの共同開発した新型【黒雷】。加速性能がちょっとぶっ壊れてて並みのパイロットじゃGに耐えきれずに意識が飛ぶんだとよ」

 

そこに映っていたのはイグニッションプランとプロジェクト・フロンティアが持てる技術を注ぎ込んで開発した次世代機【黒雷】。このIS、そのじゃじゃ馬っぷりからテストパイロットの半分以上を病院送りにしたというとんでもISなのだ。

 

「ISにはパイロット保護機能あるのに?」

 

「それ以上のGが掛かるらしい。調べてみりゃトップスピードはライトニング・アサルトやバルニフィカスに劣るが、トップスピードに至るまでの時間はその半分以下。ほぼ一瞬でトップスピードまでいっちまうから掛かるGがとんでもない事になってる」

 

「なるほど・・・・確かにその加速じゃパイロット保護機能もまともに機能しないね」

 

「よっぽどの耐G適性なきゃ使いこなせんさ、こいつは」

 

「なら加速性能に制限を掛けてみたら?」

 

「そしたら今度はまとも動かねぇときた」

 

「うわぁ、なんて極端な・・・・というか、どうやって減速するの、それ」

 

「AIC」

 

「えっ?」

 

「自身に一瞬だけAICかけて無理矢理停める」

 

「・・・・馬鹿なの?それ思い付いた人」

 

「今回ばかりはシャルに同意するよ」

 

最終的に他の技術者達もお手上げ状態になり、雪兎に預けられたのだが、雪兎を持ってしてもその改良はあまり進んでいないという規格外のISだった。

 

「多少は加速Gを軽減は出来たが、正直俺でも意識飛ぶかもしれん」

 

「それ、人間が乗れるの?」

 

「・・・・人間辞めねぇと乗れないかもな」

 

「というか、よくこんなIS作ったよね」

 

「・・・・まあ、原因は俺が提供したデータのせいなんだがな」

 

おそらく、某一角獣シリーズと某玉璽のデータが使われたのだろう。その目の付け所に関しては是非とも直接話してみたいと雪兎は考えていた。

 

「あとはこの前のトーナメントで使われた量産機の稼働データ?」

 

次にシャルロットが見つけたのは量産機の稼働データだ。PF産の鋼、フランスのリヴァイヴⅡ、イギリスのブルー・アクシス、ドイツのハイゼの4種だが、既に配備済みのリヴァイヴⅡや打鉄と操作性の変わらない鋼と違い、ブルー・アクシスとハイゼの2種は今回のトーナメントが初の表舞台という事もあって選んだ生徒は少なく稼働データも少ないようだ。

 

「来年度からは中国の新型量産機やアメリカの量産機も加わるらしいから一般生徒にも戦術バリエーションが増えてくるだろうな」

 

「専用機持ちだからって気が抜けなくなってくるね」

 

今までは打鉄とリヴァイヴの二択だったのに比べると、来年度から入学してくる生徒はかなり恵まれた環境で学べるだろう。そんな事を話していると、雪兎の端末に通信が入る。

 

「・・・・はい・・・・えっ?本当ですか!?」

 

「雪兎?」

 

雪兎の驚きようにシャルロットが首を傾げると、雪兎は通信を終え、その理由を説明する。

 

「前に研究所で助けた子いたろ?あの子が目を覚ましたらしい」

 

「えっ!?ほんとに!」

 

「今から面会してこようと思うんだが、シャルはどうする?」

 

「一緒に行く!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が支度をして保護した少年がいる病院へと向かうと千冬、束、雪菜の三人が病室の前にいた。

 

「来たか」

 

「織斑先生達も彼の様子を?」

 

「ああ、少し気になる事があってな」

 

「気になる事?」

 

「それはこの束さんが説明しよう」

 

それに質問答えたのは束だった。

 

「彼は色々と特殊だからね、自我や知識の有無の確認、洗脳や暗示等が掛かっていないかとかの確認だよ。結果は自我はあるし知識も会話は出来る程度にはあるし、洗脳や暗示、危険思想とかもなさそうだね。というか、あの子は色んな意味でかなり真っ白だよ!」

 

あの研究所がどういう施設だったかを考えればこれらの調査はされても仕方あるまい。

 

「でも、問題が一個だけ」

 

「問題?」

 

「・・・・あの子、IS適性あるみたい」

 

「「・・・・えっ?」」

 

「皮肉だよねぇ~、私に嗅ぎ付けられて放棄した実験体の一人がその成功例だったなんて」

 

そう、保護された少年は奇しくもあの研究所で行われていた「人為的に男性のIS適性者を産み出す」という研究の成功例だったのだ。

 

「・・・・おいおい、とんでもない爆弾じゃねぇか」

 

「ああ、だから今後は病院から学園に移す事になる」

 

「あの子の保護と教育の為ですか?」

 

「その通りだよ、シャルちゃん」

 

三人目の男性操者を保護するというのと、ほぼ真っ白な彼をマドカのように裏組織に利用されないようにする必要がある。千冬達はその移送計画を話していたらしい。

 

「あの~、誰かいらしたのですか?」

 

すると、病室から雪兎達の話し声を聞いた少年と思われる声がした。

 

「ああ、お前の会いたがっていたやつが来た」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず詳しい話は帰ってからという事となり、雪兎とシャルロットも少年と対面する事に。二人が病室へと入ると、薄紫色の髪をした見た目より少し幼い印象を受ける少年がベッドから身体を起こしていた。

 

「あっ!」

 

その少年は雪兎を見た途端、嬉しそうな笑みを浮かべる。どうやら助け出された時の事を覚えていたらしい。

 

「その様子を見るに俺の事を覚えていてくれたみたいだな」

 

「は、はい」

 

それでもまだ話す事には慣れていない様子だ。

 

「無理はしなくていい。まだ目が覚めたばかりで本調子じゃないだろうしな」

 

「うん、ゆっくりとでいいよ・・・・ええっと」

 

そこでシャルロットは少年の名前を知らない事に気付いた。

 

「あっ、すみません、僕には名前と呼べるものが無いので君でもお前でもお好きに呼んで下さい」

 

そして、少年は何という事もなく、当たり前のようにそう告げる。

 

「なるほど、”真っ白”ってのはこういう事か」

 

確かに受け答えは出来る知識はあるのだろう。だが、自分の名前が無い事を嘆く様子が無い。きっと「そういうものだ」と思っているからなのだろう。

 

「名前が無いのは不自由だろう・・・・よし、なら俺が付けてやる」

 

「えっ?」

 

雪兎の突然の言葉に少年は驚く。

 

「い、いいですよ!そんなの!助けてもらっただけでも感謝しきれないのに、いてっ」

 

「黙っとけ・・・・そんでもって人の好意は黙って受け取れ、”紫音(しおん)”」

 

慌てる少年をデコピンで黙らせ、雪兎は彼に”紫音”という名を贈る。

 

「し、おん?」

 

「ああ、その髪の色から連想しただけの安直な名前だけど、無いよりはマシだろ?」

 

「しおん・・・・しおん、僕の名前・・・・」

 

少年、いや紫音はその名前を噛み締めるように何度も口にする。

 

「良かったね、雪兎。気に入ってくれたみたいで」

 

「ならあだ名はしーくんだね!」

 

すると、そこに束が乱入してくる。それにつられ千冬と雪菜も病室へと入って来た。

 

「名前を決める手間が省けたな」

 

「しおんってどんな字を書くの?」

 

「紫の音って書いて紫音」

 

「音?何で音?」

 

「・・・・こいつを助け出した時にさ、心臓の鼓動を感じたんだ。それがやたら印象に残ってたと言いますか、何と言いますか」

 

雪菜に訊ねられ、少し恥ずかしそうにそう答える雪兎。

 

「心臓の鼓動、生きている”音”を感じたから”音”って事?」

 

「文句あんのか?」

 

「いいや、良いんじゃないか?本人も気に入っているようだしな」

 

普段から色々と心労を味わわされてきた仕返しなのか、千冬もニヤニヤとしている。

 

「よし!紫音君、いや!しーくんはウチで預かる!そもそもゆーくんが拾ってきた子なんだからウチで面倒見るのは当然だよね!」

 

「おいこら馬鹿姉!犬猫みたいに簡単に決めんな!」

 

「だってまーちゃん(マドカの事)だってゆーくんが拾ってきたんじゃない!」

 

「拾った言うな!確かに引き取るの決めたのは俺だけど、あれはマドカが決めた事であって」

 

「ならしーくんがウチが良いって言えばいいんだね?しーくん、しーくん、ウチの子になる気はあるかい?」

 

「えっ?あ、あの、どうしたらそんな話に?」

 

雪菜に訊ねられ、ようやく正気に戻った紫音が再び困惑する。

 

「そこの馬鹿(雪菜)がお前の名を決めたのは天野なんだからウチで引き取ると言い出してな」

 

「そういう事。で、どうかな?」

 

「えっと・・・・」

 

そう訊かれ、紫音は一度雪兎を見てから再び雪菜の方を見て告げる。

 

「・・・・よろしくお願いします」

 

「やった~!!いたっ!?」

 

「はいはい病室で騒ぐな、馬鹿姉」

 

喜びを露にするいい大人(雪菜)に紫音の時と違い容赦の無いデコピンを食らわせ黙らせる雪兎。

 

「・・・・迷惑でした?」

 

そんな雪兎に紫音が恐る恐るそう訊ねる。

 

「ちげぇよ、あの馬鹿姉が勝手に話を進めるから怒っただけだ・・・・お前がそれでいいなら好きにしろ」

 

「はい!」

 

「あ~、あと、家族になるんだ。今後は敬語とか要らん気遣いは不要だからな?」

 

「じゃあ、雪兎兄と呼んでも?」

 

「・・・・既に好きに呼んでる義妹もいるから好きに呼べ」

 

「うん!雪兎兄」

 

こうして、雪兎に新たな家族が増えた。

 

「問題はマドカにどう説明すっかなぁ」

 

「それなら問題ナッシング!」

 

「弟が出来たと聞いて!」

 

丁度そこにマドカがやってくる。どうやら雪菜がメールで連絡していたらしい・・・・この到着の速さから最初から雪菜は紫音を家族にするのを狙っていたようだ。

 

「マドカも随分ウチに染まってきたな・・・・どうしてこうなるのやら」

 

「そういう割りには楽しそうだよ?雪兎」

 

「シャルも随分と馴染んできたようで何よりだよ」

 

こうして、紫音は天野家の一員となり、話し合いの結果、春休みに基礎教育をした後にマドカと共に新一年生としてIS学園に入る事が決まるのであった。




という訳で今回は前に募集した新型の話と新キャラにして第二部のメインキャラ紫音のお話でした。

黒雷のベースとなった案を投稿してくれたムリエル・オルタさんには改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。

他の募集ISは春休み編か遅くても第二部の序盤には出す予定です。

春休み編では次回予告は無しにさせていただきます。
まあ、ほとんど短編集みたいなものと思って下さい。

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