そしたら後は少し1話完結の話を少しして兎協奏曲の一年目を終了したいと思います。
その後は年始に書き始めた短編や新規の作品を少しやってから別タイトルで兎協奏曲二年目を始めようと思っています。
それはさておき、今回は時期的に夜間瀬にいるだろう残りのヒロイン達が登場する予定です。
他にもサブキャラが数名、タイトルで大体予想出来るとは思いますが・・・・
「・・・・この、薄情者共、め・・・・」
翌朝、上機嫌なシャルロットとは正反対にげっそりとし、一夏達を怨めしい顔で現れた雪兎に一行は昨夜に何があったのかを察する。しかし、一夏達も観光ついでに雪兎の位置情報をシャルロットに伝えていたので雪兎からすれば売られたようなものと思っても無理は無い。
「いや、すまん・・・・こっちもこっちで大変で」
「けっ!優柔不断のハーレム野郎が」
「うぐっ」
「お、落ち着きたまえよ、雪兎」
「お前は黙ってろ、塚ヤロウ」
「はい・・・・」
「雪兎がやさぐれた!?」
思った以上に雪兎の精神的ダメージは大きかったようで、一夏達に発する言葉には強烈な棘が含まれていた。そこで数馬が無理矢理話題を変えようとする。
「き、今日はこはるびよりに寄るんだったよな!?」
「・・・・らしいな、俺とシャルがいないうちに決めやがって」
「頼むから機嫌直してくれよ、雪兎!」
「ふん」
「やべぇ・・・・ガチで怒ってやがる」
「まあ、私達もデリケートな問題に面白半分で首突っ込んだものね」
「だから止めようって言ったのに」
まさか雪兎がここまで怒るとは思っていなかった一夏達はどうしたものかと途方に暮れる。そこで手を挙げたのはシュテルだった。
「では、もう一つの菓子店・芙蓉亭に向かう組とこはるびよりに寄る組に分かれてみてはどうでしょう?」
全員一度ではこはるびよりは手狭では?という事から今回の騒ぎに関与した面々とそれ以外で分かれてはどうかという提案だ。
「・・・・なら俺は芙蓉亭に行く」
その提案に雪兎が折れ、一行は二手に分かれて午前と午後で入れ替わる形で行動する事となった。
芙蓉亭。夜間瀬でこはるびよりと人気を二分する洋菓子の老舗で、夜間瀬でケーキといえば芙蓉亭というぐらい有名なんだとか。こちらにやってきたのは雪兎、シャルロット、簪、本音、エリカ、アレシア、カロリナ、カテリナ、マドカ、蘭、マテリアルズ、紫音のメンバーである。
「・・・・で、何とかならんのか、アレは」
ディアーチェの言うアレとは、不機嫌オーラ全開の雪兎と、その雪兎と腕を(無理矢理)組んで幸せオーラ全開のシャルロットの事だ。
「まるで氷河期と春が同時に来たような居心地の悪さね」
「あまあま、あそこまで不機嫌なの初めてだよね?」
大抵雪兎が不機嫌になっても一過性というかすぐにやり返して発散していたのだが、今回に至ってはそれが出来ずにやさぐれてしまった訳だ。
「ふへへ~♪」
そして、シャルロットは不安だった点が解消されたせいか幸せそうに雪兎に甘えており、雪兎もシャルロットに当たるつもりは無いようで、させたいままにしている。
「とりあえずお土産のケーキを確保しましょう」
という事で仕方なく雪兎達の問題は先送りにしてケーキを物色していると・・・・
「・・・・ん?あれは確か」
店内で雪兎がとある人物を発見する。その人物とは先日遭遇した高社紗雪の妹である高社雪静だった。
「・・・・あっ、昨日の」
あちらも雪兎達に気付いたようだ。するとシュテルが雪静に話し掛ける。
「ユズカでしたか、どうしてここに?」
どうやら雪兎とシャルロットがいなくなった後に読書が趣味という者同士意気投合したらしい。
「お姉ちゃん達と食べようと思ってケーキを買いに来たの」
「そうでしたか」
「それで、そっちの二人が?」
「ええ、私のマスターである雪兎とその婚約者のシャルロットです」
本来ならば雪静は人見知りが激しい性格なのだが、シュテルは普通に話している。余程本の趣味が合ったのだろう。そうこうしていると、店の奥から同年代と思われる男性が現れ、ショーケースにケーキを並べ始めた。
「そっか、もうすぐ帰っちゃうんだね」
「ええ、でも必ずまたここに来ますから」
「この後はどうするの?」
「この後は昼食を取ってこはるびよりに寄る予定です」
「こはる、びより、だと?」
すると、ケーキを並べていた男性の手が止まる。
(あっ、こいつもしかして幕岩か)
幕岩とは二作目に登場した主人公のクラスメイトの一人で、この芙蓉亭の息子なのだ。そのせいか、こはるびよりに対抗心を持っているキャラだったと雪兎は記憶している。
「店員さん、ちょっといいか?」
なので雪兎は幕岩が暴走する前に彼に声を掛けた。
「あっ、はい。何でしょう?」
「そこのショートケーキとチーズケーキ、レアチーズにガトーショコラにそこのとあれも・・・・各20くれ」
「に、20!?」
雪兎の大量注文に驚く幕岩。まあ、一度に20も注文する客は普通いないだろう。しかも、合計ではなく、各種ケーキを20ずつだ。
「心配しなくてもちゃんと持って帰れるから安心しろ」
「は、はぁ、分かりました」
その後、支払いはカード一括払い、更に大量のケーキを一瞬でstorageに収納して芙蓉亭の面々を驚愕させた。
「あっ、ありがとうございました!」
事件は雪兎達がこはるびよりに向かう前に昼食を取っていた時に起こった。簪の端末に楯無から連絡があり、何やら芙蓉亭で問題が発生したらしい。
「どうしてそんな事に?」
『それが、お店でこはるびよりの話をしたら店員さんが・・・・』
「・・・・やりやがったか」
どうやら一夏達も幕岩の前でこはるびよりの話題を口にしてしまったらしい。地元出身の聖がいても止められなかった事から余程こはるびよりと比較されるのが嫌らしい。そして、幕岩は一夏達に凄い剣幕で洋菓子について語り出し、止まらなくなったとのこと。
「どうするの?」
「聖がいて止まらんとなれば俺が行っても無駄だろ・・・・予定通りこはるびよりに行くぞ」
だが、雪兎はあっさり一夏達を見捨ててこはるびよりに向かう事を決めた・・・・のだが。
「今日という今日ははっきりとさせようではないか!」
「ええ、挑むところです!」
雪兎達がこはるびよりに到着すると、何故か幕岩がおり、こはるとお菓子作り対決に発展していた。
「・・・・なんでさ」
「あはは、なんかごめんね?」
「ごめんなさい、雪兎さん」
また、雪兎と聖、そして偶然こはるびよりで出会した
「というか、何故この面子なんだ?」
「涙香先輩は常連客、私は両親がそれぞれのお店で修行してた関係で、雪兎さんはお料理に厳しい方という事で」
「そういう事か・・・・ならば半端なものが出てこようものなら某毒舌絵本作家の如く扱き下ろしてくれる」
「うわぁ・・・・」
そんなこんなで始まったお菓子作り対決なのだが・・・・二人が作ったのはショートケーキと大福だった。
「なるほど、二人とも季節の果物を選んだのね」
涙香はただ美味しそうと、その2つを眺めるも、雪兎と聖の表情は何故か険しい。
「どうしたの?二人とも」
「ええっとですね、もうこの段階で私達二人の結論が出たといいますか」
「星川こはるの勝ちだな」
「な、何故だ!?食べてもいないのに何故そんな事が判る!?」
雪兎の予想外の宣言に幕岩が声を上げるが・・・・
「このショートケーキに使われた苺・・・・"完熟のやよいひめ"だろ?」
「あ、ああ!そうだ!それがなんだとーー」
「やよいひめは甘味が強く酸味が低い苺、完熟ともなれば当然そのその甘味や酸味の強弱も相応のものになるだろう」
「ですけど、ショートケーキに使う苺としてはダメですね」
「なっ!?」
「ショートケーキの苺はショートケーキ自体の甘さと苺の甘さでくどくならないように酸味の強い早摘みの苺を使うのが正しい。更に言うならば完熟の苺は痛み易いから持ち帰りには向かない・・・・つまり、幕岩。お前のこのショートケーキは苺選びの段階でアウトって訳だ」
「し、しまった!?」
幕岩はこはるへの対抗心から普段ならしないような致命的なミスをしていたのだ。
「い、苺一つでそんな事まで!?」
一方の涙香は苺一つでそこまで見抜いた二人に絶句する。
「はむ・・・・こはちゃんのいちご大福の苺は"紅ほっぺ"かな?」
「だな。いちご大福も苺が中で
対してこはるのいちご大福は十分合格点らしい。
「・・・・ショートケーキの苺が何で酸っぱかったのかよくわかった」
「いちご大福のあのシュワシュワとした感じって発酵だったのね」
ギャラリーとなっていた一行も二人の解説になるほどと頷く。
「まあ、幕岩のショートケーキも不味い訳じゃない。ただ、評価するとなればああ言わざる得ない」
「まだまだ勉強が足りないという訳か・・・・すまない、菓子作りに私情を込めてしまった俺の不徳か」
「料理は総じて"誰かに食べてもらう事"を念頭に置かないといけないって事だ」
「私も偉そうな事言ったけど、負けてられないなぁ」
こうして唐突に始まった菓子作り対決は幕を閉じるのだった。
今回は雪静と涙香と幕岩の三人が登場しました。
ショートケーキといちご大福の苺に関してはあくまで一般論なのでこれが必ずしも正しい訳ではありません。なので好み次第だと思います。
次回予告
今度はスキーをする事にした兎一味。果たして今度こそ普通に過ごせるのか?
次回
「スキー場の兎達 兎、雪ではしゃぐ」