後悔はしていない。
あと、VRセイバー希望。
「なんなんだよ、いったい」
衛宮士郎は、困惑し、若干放心もしていた。
夜の校庭で、赤い男と青い男による、人間を凌駕した闘いを目撃したと思ったら、青い男に朱い槍で突き殺され、そこから甦り、殺害現場に残された自分自身の血痕を片付け帰宅したら、また、青い男に襲撃され、必死の思いで土蔵に逃げ込んだら、金髪碧眼の美少女が出現し、しかもその少女が自分を殺した青い男と互角の闘いを繰り広げているのである。
いくらお人好しで、ブラウニーと呼ばれていて、高校生になっても正義の味方を目指していると公言しているとはいえ、衛宮士郎も人間である。
この状況に、たぶん魔術が関係していると推測はできても、何が起きてるのかサッパリである。
そもそも、ハートキャッチ(物理)からの蘇生という現代っ子ならトラウマ確定の超絶体験の後に、再び襲撃され、その襲撃者を金髪美少女が(なぜか)引き受けてくれてるのだ。
呆然と目の前の光景を見続けるだけの置物と化しても責める人はいないだろう。
そう、例えば。
「ならば食らうか、我が魔槍を!」
青い男、こと、ケルト神話の大英雄、クー・フーリンが自身の宝具を開帳し、
「刺し穿つ(ゲイ)……」
自分を守ってくれた美少女になんかヤバそうなことをしようとしていたとしても、
「死棘の槍(ボルク)!!!」
マスターとしての自覚もなく、令呪の存在すら知らない魔術使い(もどき)に咄嗟に何かヤれと言われても、無茶ぶりにも程がある。
美少女に突き進むのは、因果を逆転させ、確実に心臓を穿つ魔槍。
回避には俊敏さではなく、呪いを退けるだけの直感と幸運が求められるが……
ところで、美少女の正体は、かの有名なアーサー王本人である。
伝説では男性だが本当は女性であったらしい。
ちなみに、日本でも織田信長が女性だったりするので、世界ではありふれたことらしい。
女性の社会進出は見えないだけで昔から着々と進んでいたようだ。
さて、常勝の王と称えられるアーサー王だが、その生涯を振り返ると、
不義の子として産まれ、夜な夜な怪しい魔術師に夢の中で鍛えられ、ご飯は雑で、日常的に男装を強いられ、14歳で転覆間近の国家の舵取りを任され、ご飯は雑で、音速で機動するピクト人を駆除し、円卓の人間関係に悩み、ご飯は雑で、妻は部下と不倫、知らぬ間に子供ができていて、認知できる状況ではなかったので認知しなかったらグレにグレて、宝物は持ち出すし、反逆を起こして必死で運営してきた国家を転覆させられ、グレた子供にぶっ刺されて、こんな筈ではなかったと嘆きに嘆いて、自分の死後をブラック企業(株式会社 ARAYA 職種 抑止の守護者)に売り渡して国家救済のためのスペシャルアイテムを求め、ようやく望みが叶うかと思ったら、パートナーの相性は最悪で、しかも目的のアイテムは使い物にならず、2回目の挑戦ではパートナーがほぼ最低スペック。
Q こんな生涯を送った(送ってる)アーサー王は幸運ですか?
A 不幸だと思います。
「ぅぐっ!!」
魔槍は伝承を再現し、アーサー王の心臓を刺し穿った。
たとえ直感が優れていたとしても、幸運が低ければ回避は困難である。
「あばよ、セイバー」
槍はアーサー王の霊核を無惨に破壊し、やがて光の粒子となって消えていった。
「残念だったな、坊主。サーヴァントも居なくなったことだし、今回は見逃してやる」
そういうと、ランサーは去っていった。
「なんなんだよ、いったい」
衛宮士郎は呆然と呟いた。
彼が遠坂凛から話を聞き、事態の把握ができるまで、あと20分。
アーサー王。聖杯戦争、初戦敗退。
もしも、アルトリアの幸運が E だったら。
すまない。セイバーの台詞が少なくてすまない。