護衛艦でいず!   作:角煮か?

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第1話

 酷く長い間、眠っていたような気がする。

 意識は濁り、深い微睡の中を漂う。

 

 俺は……何をしている?

 ここはどこだ?

 一体どうなっているんだ?

 

 ダメだ。思い出せない……何も。

 

 ぐちゃぐちゃに乱れる記憶。意味のない言葉の羅列。その中から辛うじて読み取れる部分を拾い出し、口に出す。

 

「艦娘……深海棲艦……護衛艦……戦争……」

 

 どこかで聞いたような、懐かしい響き。でもそれが記憶の復元のトリガーとなることはなかった。

 

 しかし自分が男であるということは、遺伝子レベルで身体が理解していた。だから下半身に在るべきものが無く、また引き締まってるはずの胸板が妙に柔らかく、微かに膨らんで緩やかな曲線を描いていることに強い違和感を覚えた。

 

 ワケが分からない……。

 今の状況が異常なのは明白だ。

 なのに、心はやけに落ち着いている。混乱も恐怖もない。

 例えるなら凪一つない海のように静かだった。

 

 それにしても何なんだここは……暑苦しいな。出られないのか? 

 何とかぶち破って……。

 

 

 

「……司令官」

 

 さほど広くもない室内に設置された机に向かう一人の男。声をかけられ、彼は顔を上げた。

 

「なんだ?」

「頼まれていた大型建造だが……どうもおかしいんだ」

「おかしい?」

「時間の表示がエラーになってる。妖精たちも困惑してた」

「……分かった。今行く」

 

 羽ペンをペン立てに戻し、帽子掛けにかかっていた軍帽を掴んで被る。

 

「資材の投入は適切だったな?」

「ああ。司令官の指示は誤ってないし、私も間違えてない」

「機材の不具合の可能性は?」

「先日の検査では問題なかったそうだ」

「なら……突発的な不具合か?」

 

 男は少女を連れ、足早に廊下を進む。そしてやや慌ただしく問題の設備が設けられた工廠のドアを開け放った。

 

「ああ、提督さん。待ってました」

 

 すると彼の到着を待ちわびていたように、作業着姿の小人が振り返る。その背丈は男の掌に収まるほど小さく、ある種の愛らしさを感じさせた。

 

「時間の表示がおかしいらしいな」

「はい。資材の投入直後から正しく時間が示されませんでした」

 

 小人は目の前の巨大なカプセル型の機械を見やる。SF映画で目にするコールドスリープの機器のようなそれは横倒しの状態で置かれ、あちこちから伸びるコードやパイプに繋げられていた。

 蓋の傍にはデジタルディスプレイが取り付けられ、確かに本来ならば時間が表示されるべき部分には『ERROR』とだけ浮かんでいた。

 

「リセットは試したか?」

「効きません。再起動もダメです。電源を落とせば止められますが……その際は一から再設定するハメになりますね」

「そうか。では判断は君に一任したい」

「分かりました。このまま続行してみようと思います。時間以外の問題はなさ――!?」

 

 その時、突然ドン! と鈍い音が工廠内に反響する。

 ギョッとして三人が見ると、カプセルの蓋の部分が大きく山なりに歪んでいた。

 まるで内側から強引に破ろうとするように……。

 

「信じられません、まだ建造中なのに動けるはずが!」

「菊月、下がれ!」

「ッ!」

 

 再び大きな軋みを上げ、拉げた蓋が吹っ飛ばされていく。内部から真っ白な蒸気が噴出して、辺り一面はあっという間に白一色に塗り潰された。

 

「ッ……早く、換気だ!」

「は、はい!」

 

 小人は慌ててぶら下がった紐の一つを勢いよく引っ張る。天井の大型換気扇が轟音を奏でて回り始め、立ち込めた白煙を追い出していった。

 

「……無事か?」

 

 男は二人の安否を気遣う。

 

「私は平気だ」

「こちらも大丈夫です」

 

 何事もなさそうな返答に少し気を緩める男。それから興味はカプセルの方に移っていく。

 

「何があったんだ……事故にしては……」

 

 果たして、薄らぐ煙の中に人影があった。

 

「……何者だ?」

 

 視界が晴れていくにつれ、その全容が露になってくる。

 

 顔を覆うバイザー型のHMD。頭にはヘッドセットとその周囲を浮遊する見たこともない電探、右手のみに備えられた単装砲。左手には機銃らしき装が鎮座し、左右には腰のあたりから伸びたアームに接続された巨大な匣。その匣を覆うように薄い鈍色の装甲が張られ、外側には俵積みになった四つの筒が右舷と左舷にそれぞれ下がっていた。

 両脚を包むブーツには魚雷発射管らしき装備もある。そして背負うように大型の格納庫と後甲板が設けられ、ヘリコプターとティルトローターの機体が搭載されていた。

 

「分かりません。艦種不明、識別不可能です」

 

 鮮やかな紅の長髪を二つに結い、男を庇うように立つ少女と似たようなデザインのセーラー服。年齢もそう変わらないだろう。まだ十代の前半と言っていい。

 

「………」

 

 三人の声に気づいたのか、彼女は薄らと目を開いた。双眸はルビー(紅玉)のように煌めき、澄んでいる。

 

「……――」

 

 周りをゆっくり見まわし、やがて人の気配に気づいたのか、眠たげな眼差しで見つめた。

 

「……むつき型イージス艦十三番艦ゆきづき。どんなに無様でカッコ悪くても仲間を護り抜く。それが()のモットーだ。どんな敵でも叩き落としてみせよう……」

 

 そう呟き、展開していた武装が音もなく掻き消える。

 

「チッ……!」

 

 糸が切れたように倒れ込む少女を男は何とか受け止め、その軽さにハッとした。

 

「イージス艦……今、この子イージス艦って言いました、よね?」

「ああ……聞き間違えじゃなければな」

 

 そしてむつき型とも。

 

「目を覚ますのを待とう。話はそれからだ」

 

 男の言葉に二人は頷いた。

 

 

 

 

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