護衛艦でいず! 作:角煮か?
ゆきづきの練度はアニメ序盤の吹雪くらいと仮定してます。
それからは訓練の内容を一部変更し、通常教練に加えてトマホークの発射練習も行うことにした。
「シーホークから情報を受信……攻撃目標、セット」
衛星リンクは目下、妖精さんたちが調整中。作戦決行日までには間に合うはずだ。それまでは先行させた哨戒ヘリのデータが指標になる。
俺は指示された座標を打ち、バイザーに文字と数字が流れていく。
「発射準備完了です」
トマホークにはデジタルマップが搭載され、自分で地形を見極めながら飛翔できる。万が一地形が変わっても随時、修正する機能も盛り込まれていた。
しかし飛行コースの基準となる目印などが壊されていると、使えなくなる欠点がある。今回は遮蔽物のない海の上を飛ぶことになるけど、最終的には陸の飛行場を狙い撃つ。深海棲艦の揚陸で地形は激変してるし、どうあっても衛星のサポートは欲しい。
「トマホーク用意――打て!!」
VLSの蓋が開き、爆炎と熱風が俺の髪を煽る。円筒状の物体がキャニスターから押し出され、ブースターに点火――噴煙を吐きながら急上昇していく。胴体に折り畳まれた翼が展開、蒼天に白煙を引きながら亜音速で駆け抜けていった。
「トマホーク、正常に飛んでいます」
バイザーに表示されるミサイルの反応。シーホークが示した目標へと一直線に飛行中だ。
間もなく標的に到達する。
行け……! そのまま当たれ!
『こちらシーホーク、弾着を確認……ハズレです、ターゲット・サーヴァイブ(Target survive:攻撃失敗)。誤差、目測で40メートル程』
「くそ!」
妖精さんの残念そうな声音の報告に俺は唇を噛み締める。これで通算、七回連続で外した。
ここまで立て続けにしくじるのは俺の練度が問題なんだろう。未だイージスシステムを使うと酩酊に似た感覚に襲われるし、走れば転んでばかりだ。
『本日の訓練はここまでとする』
「いや、あともう一回だけ!」
『ダメだ。自分の疲労のことを考えろ。無理をしても余計なミスを生むだけだぞ』
「ちぇ……分かったよ」
俺は渋々、シーホークを呼び戻した。
「はぁー……」
夕食後、大浴場に訪れた俺の溜息が反響する。
頭に手ぬぐいを乗せ、口元まで湯船に浸かる。
「なんでダメなんだろう……」
空気を吐き出し、ブクブクとお湯に気泡を作る。浮き上がっては弾けて消える泡を眺めながら、思考はやはり今日の訓練の結果に傾いていった。
「そう気を落とすな。最初の頃よりはマシになってるぞ」
「あの時は大変だったよね」
洗面台の前でタオルを泡立てる菊月と皐月が俺を見る。
「あれか……」
俺は顔を顰める。
トマホーク発射訓練の初日、予期せぬ事態が起こってしまったのだ。発射後、数秒でトマホークが暴発――その余波をモロに喰らい、俺は一撃で大破状態に陥る。すぐに入渠ドックへ運ばれたが……マジで死ぬかと思った。
……とある戦艦は砲塔の爆発で沈んだらしいから気をつけないと。
「誤差の範囲も狭くなってる。前は諸元入力とじーぴーえすの誤作動を起こして、500メートルくらいズレていただろう。あともう少しだ」
そう、かな。
だといいけど。
「でもさ! イージスの中には大和の主砲弾を迎撃したり、あらゆる電子機器が封じられた状況下で津波ブイを応用して攻撃したりする艦がいたよね? 今にゆきづきもそれくらいできそうじゃない」
「できません。…いや、砲弾は有り得なくも無いが……」
あれは変態的な技術です。特に砲弾をブチ落とすなんて、俺には多分一生できない。……多分。
「まあ…でも、それに比べれば対地攻撃なんて基本だよな」
アーレイバーク級なら誰でも可能な攻撃手段だ。その流れを汲んだむつき型にできない理由はない。
「明日も頑張ろう」
「うむ…」
「うん! ボクも頑張るよ!」
それから三人でのぼせない程度に入浴を楽しんだ後、風呂から上がる。
「ゆきづきー、拭いてあげるよ」
「お、おお? わぶっ」
皐月にバサッとバスタオルを頭から被せられた。そのままワシャワシャと髪の毛を拭かれていく。あ、なんか気持ちいい。
「うーん、ゆきづきの髪の毛…ボクより手触り良くない?」
「そうか?」
「比べてみてよ」
皐月の金髪と俺の赤毛を両手で触る。どっちも絹のように滑らかで柔らかく、指先で梳いても突っかかることはない。枝毛すらないぜ。世界が羨む髪質って奴だな。
「…同じくらいだろう」
菊月も俺たちの髪房に指を通し、感想を漏らす。
「菊月もね!」
そしてお返しとばかりに菊月の毛先を弄る皐月。なんだ、この…髪の毛を三人で触る光景は。こういうのほほえましい……っていうのか?
「ほら、牛乳」
ついでに恒例の牛乳を渡される。
やっぱり美味い。
「丁度いいからこのまま髪結んじゃうよ」
「ああ、頼む」
今日も暖かい太陽の匂いに包まれた衣服に袖を通し、皐月に髪の毛を結んでもらう。
幸せだ……。
「ん?」
扇風機に当たりながら、ボーっとしていると菊月が何かに気づく。
俺は訝しむが、疑問はすぐに氷解した。
「足音……司令官かな?」
ドタドタと喧しく近づく靴音。それは脱衣所の前で止まり、ドアがノックなしで開かれて司令官が無遠慮に踏み込んできた。
「失礼! ここに長月が来て……な……――い、か」
あーあ…菊月と皐月はタオルを身体に巻き付けただけの状況だ。
無かったことにしたいのか、黙ってドアを閉めようとする司令官だが……。
「男子――」
「禁制ッッッ!!」
12センチ砲を具現させた二人は容赦なく砲弾を叩き込んだ。
大丈夫、訓練用だから。