護衛艦でいず!   作:角煮か?

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第8話

「目標地点に到着、ソノブイの補足は続いています」

「短魚雷投下用意………ってぇー!」

 

 シーホークの機体から細長い物体が切り離され、海面へと落下していく。途中、パラシュートが開いてスピードを殺しつつ着水。あとは自動で走り出し、海の中に紛れる獲物を迷いなく見定めた。

 

「……命中のようです」

 

 派手に上がる水の柱。ソノブイが捉える、海戦に携わる者なら一度は聞くであろう潜水艦の圧潰音。浮かび上がってくる残留物が物語る敵の末路。

 

「菊月さんも仕留めたようですし、あとは一隻ですね」

「最後はゆきづきさんが倒す手筈だ。07式なら確実に潰せるだろう。だが彼女はまだ新米だ、しっかりサポートに回るぞ」

 

 シーホークは大きく旋回し、残る最後の反応の場所へと急行した。

 

 

 

「潜水艦、引き続き補足中……間もなく07式の射程内に入ります」

 

 自然と心臓の音が激しくなってくる。

 喉が渇き、舌が乾燥してベッタリと貼りつく。

 

 呼吸が荒い。

 頬を伝う汗が鬱陶しい。

 

 残りはこの一隻だけ。シーホークと菊月は問題なく潜水艦を倒した。大丈夫、俺にもできる。二人よりももっと簡単なはずだ。位置を調べ、ミサイルを飛ばすだけなんだから…。

 

「諸元入力開始――目標の仔細を」

 

 あともう少し。

 パッシブソナーにもはっきりと反応が出ている。

 こいつが、深海棲艦。人類の敵。その姿は写真や資料で見ただけだ。

 

 いる。

 本物が。実物が。この海の下に。すぐ傍に――!

 

「え、目標が速力を速めました!」

「自棄を起こしたようです! 騒音出しまくりですよ!」

 

 その時、妖精さんたちの声音に混乱が混じった。俺は我に返り、その音に意識を向け直す。

 妖精さんの慌てぶりに間違いはなく、潜水艦は隠密性をかなぐり捨てて航行している。

 

「どこに向かっている!?」

「進路は……SOS発信源! 迷うことなく真っ直ぐ目指しています!」

「――くっそ!」

 

 たまらず毒づき、俺は皐月への連絡を飛ばす。

 

「皐月! そっちに潜水艦が向かった! 迎撃を!!」

『え、ええ!? 分かったけど……ワイヤーで曳航中だよ! 回避行動はとれない!』

「菊月は……!」

『今そっちに向かってる』

 

 ダメだ…菊月の位置は皐月とは真逆だ。どうあっても間に合わない。

 

「速力を上げる! 追いかけるぞ!」

「で、ですがゆきづきさんの練度で第二戦速以上は……」

「そんなこと言ってる場合じゃない!」

 

 妖精さんの制止を振り切り、俺は走り出す。無誘導でも魚雷は魚雷だ。ましてや救難者を曳航している今、絶好の的になる。

 いくら主砲の破壊力が重視された時代の船でも、駆逐艦の装甲は決して分厚くはない。もし何発も喰らえば……。

 

「させるかッ!」

 

 俺は速力を上げた。ガスタービンの唸りが高まる。何度も何度も躓いて転びそうになるのを堪え、ひたすら走り続ける。

 最新鋭の護衛艦とは到底思えない、無様でカッコ悪い姿だ。

 

 けど、それで間に合うのなら……、助けられるなら、情けなくたっていい。泥臭くてもいい。

 ――俺のモットーだ。

 

「アクティブソナー!」

 

 敵の位置をより正確に見分けるため、ソナーを放つ。海の中を広がりゆく音響が隠れ潜むハンターを曝け出した。

 

「射程内に入りました。ASROC攻撃始め、諸元入力開始。距離220、方位2-1-1、深度60」

「諸元入力完了。ASROC発射用意良し!」

「そんなに…僕たちの力が、見たいのか……!」

 

 俺は発射ボタンに指を添え、

 

「ASROC用意……打てー!!」

 

 基盤の目のようなVLSの蓋が開かれ、辺りは赤銅色の爆炎に包まれる。発射口から眩い輝きと共に細長い飛翔体が姿を見せるも、ほんの一瞬の出来事だ。それは音速をいともたやすく突き破り、轟音と噴煙だけを残して天高く飛び去っていく。

 

「ASROC、正常に飛行中……目標到達まで――」

 

 

 

 海中に潜む深海棲艦は機械的に行動していた。

 ブルーアイランドから落ち延びた艦娘を追撃し、その捜索中に仲間を二隻失った。

 

 どうやら敵は未知のソナーを開発したらしい。とんでもない精度で場所を炙り出されている。先程、船体を叩いた音もかつて聞いたことがない鋭い音波だった。

 もう場所はとっくに見抜かれている。間もなく自分も沈むだろう。

 

 だがそれがどうした?

 我らに死の概念はない。

 

 敵を倒し、沈め、破壊するだけの船。役目を終えたら海の底へ消えるだけだ。

 

「沈メ――」

 

 魚雷発射管に水を送り、発射体勢を整える。目標は間近。外しようも、躱しようもない距離。

 課せられた使命を全うすべく、魚雷を放とうとした時だった。

 

「……?」

 

 至近で聞こえる着水音。

 続けて来る探針音。

 

 音源へと振り向き、その濁った眼孔に映ったのは一本の魚雷だった。

 

「ナン、ダト?」

 

 向かってくる。

 魚雷が自らソナーを飛ばしながら。

 ありえない。

 

 そんなもの、もう存在しない。

 先の戦いで滅ぼした兵器だ。

 何故、それが蘇った?

 

 ではさっきのソナー音も、まさか――。

 

「オ前ハ、一体――」

 

 返事など期待しない問いかけが、口から洩れた。

 次の瞬間、魚雷はカ級の船体に命中。直後に意識は途絶えた。

 

 

 

 ドドオ、とくぐもった爆音が海水を押し上げた。破裂するように吹き飛んだ海水は多少なりとも皐月にも降りかかり、制服や髪の毛を濡らす。

 しかしそんなことは些事に思えてしまうほど、目の前の光景に茫然としていた。

 

 ゆきづきが前言っていた〝みさいる〟なるモノ。菊月は噴進砲の最終形態と評していたが、イマイチイメージが掴めなかった。

 だが、今こそ確信する。アレこそ〝みさいる〟なのだと。

 

 突如として水平線の彼方から飛来した光の筋は、彼女の真上を通過するかと思いきや、自ら落下傘を開いて減速した。

 まるで風船爆弾のようにゆったりと降下していき、海に落ちる。そして数秒後に海中で爆発…水面には重油と残骸が浮かび上がっている。

 

「妖精さん、潜水艦は……」

「あの様子からして撃沈したでしょうね。もし生きていたとしても、大損害を受けてるでしょう。浮上するか、そのまま圧潰深度まで沈むか」

 

 命中精度、攻撃速度。どれをとっても自分たちの扱う対潜兵器を遥かに凌駕している。爆雷や対潜迫撃砲、研究中の噴進爆雷砲など比ではない。自分たちが船として生きていた時代の、何十年も先の未来の兵器だ。

 

「イージス艦……」

 

 艦娘が現れる以前、深海棲艦と戦った戦闘艦。現在ではもう数えるほどにしか生き残っていないと聞く。

 

「……すごいかも」

 

 気付けば身体が震え、知らずに握り締めていた拳は手汗で湿っている。

 皐月は驚きとほんの少し…、同じ艦娘としての対抗心を抱いていた。

 

 

 

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