二次創作 艦これ Mermaid   作:朝馬手紙

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第五話

誰かが言っていた、特別なお風呂だと。吹雪はタップリ肩まで浸かりながら、あぁ確かに「特別」だ、という思いを噛み締めながら今日一日中した草むしりの疲れを取っていた。

「あーもう、泥だらけで嫌になっちゃう」

「泥だらけって…今日が初めてだったじゃん」

「あぁ…気持ちィ…」

吹雪の他に今は「叢雲」「漣」「五月雨」の三人が湯船につかりながら上がるまでの時間を過ごしている。つい最近、知り合ったばかりの彼女たちだけれど同じ使命を背負っている「仲間」としてそれなりに過ごせている。

「そういえばさ」

叢雲が思い出したように言う。

「提督ってどんな人なの?」

「あーそれ私も気になる」

「私も私も~」

三人に責められて少し困惑する吹雪だったが「そ、そうだねぇ…」と彼に会ってまだ数日しか経ってないが語り始めた。この時、提督=変態という噂が艦娘の間で囁かれることとなるのだが、それは別の機会に。

 

 

 

 

十代の時以来の徹夜で身体の節々が悲鳴を上げていた。食事、休憩室、トイレ、全てのことに気を使っていたら時計の針がグルリと首を回して「おはよう」と挨拶してきた。まだ若いと思っていた、自分のことを。

「ふう…司令室の片付け終わりましたー」

「おう、ありがとう」

…古鷹。

そして本日より秘書艦を吹雪から代えさせてもらった。少しでも顔の知っている娘が傍にいるだけで緊張する事態にもある程度落ち着いて話し込めると判断したからだ。それだけじゃない、彼女は見た目も大人びて見えるし雰囲気も柔らかいので今回の相手に良い印象を与えることができるかもしれないと思ったからだ。

ブロロロロロ

何処かで聞いたかもしれないヘリコプターの音がする。何度目か分からない深呼吸をしてテキパキと歩き出す。その後ろから古鷹が同じ速度で同じように歩いてついてきた。静かな嵐がすぐそこまで来ていた。

 

 

「お待ちしておりました」

総理はただ手を小さく上げるだけでキョロキョロと鎮守府を見渡していて目を合わそうとしない。

「君が例の英雄(えいゆう)かい?」

「…いいえ、人違いですよ」

「面白くないな。…ん?後ろの彼女はなんだい」

提督の後ろから顔を出すと古鷹は丁寧にお辞儀をした。

「彼女には今、秘書をやってもらっているんです」

「…まぁいい。では早速で悪いが君がいつも仕事している場所まで案内してくれるか?」

「もちろんです」

こちらへどうぞ、と今来た道を戻る。その間も総理はチラチラと辺りを気にしては小さな子供の様に「あれはなんだ?」と一つずつ質問されていった。そのため、司令室につくまで時間がかかってしまった。

中に入ると何名かの艦娘が敬礼をして待機していた。「A」クラスの方々である。

「意外と普通だな」

「これくらいが丁度いいんです」

そして立ち話を続けていた時、その言葉はこぼれた。

「本当に深海棲艦は迷惑だ。日本経済はようやく回復しつつある時に喧嘩を売ってくるなんて、邪魔にもほどがある」

その時、空気が大きく揺らいだ。瞬間、長門が殺意むき出しで総理に襲い掛かる。しかし事前に予測していたかのように提督が総理の盾になるように移動、その動きは互いに本物であった。提督の顔直前に拳、長門の顔直前に銃口を、それぞれ突き付け合う。

そこをどけ。いいや、どけない。

互いの視線が交わるところで冷戦が勃発する。そんな空気の中にもかかわらず総理は口を開いた。

「使えそうになければ棄ててもらって構わない」

今度は誰一人動こうとしなかった、一人を除いて。そう、彼は拳銃を下ろして総理にこう告げた。

「いいえ、そんなことにはなりません」と。

空気がまた大きく揺らいだ。

「どんな奴だろうと鎮守府(ここ)にいる以上、一人になんかさせません。戦闘に参加できないのなら裏でサポートをしてもらおうと思っています。だから…」

一度深く息を吸って吐く。

「今回の作戦には全員が必要なんです」

それを聞いた「全員」は提督の姿から目を離せず、その場に立ち尽くしていた。今の声を脳に焼き付けるかのように。

「…私は日本に明るい未来が訪れるのなら、どんな手段でも気にしない。が、万が一の時は…わかってるね?」

日本にはもう抵抗する手段も持っていない。即ち、勝つか負けるかの瀬戸際がまさにココで、日本の、そして深海凄艦の未来は提督にかかっているのだ。もう、逃げることはできない。

重々承知している旨を伝えると総理は忙しいスケジュールのため、短い挨拶を残して鎮守府を後にした。

 

 

 

「はあぁぁー」

椅子に座って大きく空気を吐く。もしかしたら今日で全ての予定が牢獄行き後死刑になりかねない、という緊張感の中、常に気を張り詰めていれば艦娘の前であるがだらけてしまうのは仕方ないことだ。

「料理、無駄になっちゃいましたね」

「ん?まあ、そうなるな。総理だって忙しい日程だろうし」

「だったら初めから用意しなくてよかったんじゃ…」

「…大人は面倒なんだよ」

緊張していたのだろう、彼女たちもどこか疲れているような雰囲気が伝わってくる。が、まだ昼前、今日の鎮守府の予定が迫ってきている。

「さてと、放送室へ行きますかぁ」

「?何かあるの?」

「お、興味あるのかな?暁ちゃん」

「あ、暁ちゃん!?」

そんなに子供じゃないわ!と、キレている彼女は放置しても大丈夫だろう。それよりこれから始まる訓練は危険が伴うのだ。最悪の場合、死者がでる。

ピンポンパンポーン

「司令官より重要なお知らせです」

鎮守府始まって以来の館内放送にみんなざわつき始めている。

「本日より実践訓練を午後一時から開始する。今回は特別にチームを組んで行う。チームは全部で三つ。サクラ、バラ、タンポポのいずれかに全員配属される。今から一人ずつ名前を呼んでいく。そして自分のチームごとでこの後食事をとりながらミーティング。時間が来たらグランドに集合、チームで固まって待機。それではチームごとに名前を呼ぶ。タンポポチーム、吹雪、叢雲、………」

放送している傍で「A」クラス改めサクラチームのメンバーが騒がしくなってきている。それを聞きながらつい口元が緩んでしまう、が放送を続ける。

「そして気になる訓練内容だが…肉体トレーニングとだけ言っておこう。なので遊び半分でいると怪我をする。そして最悪の場合、命を落とすこともある。今回、初めての実践訓練だ。それなりの覚悟をしえくるように、それでは午後一時にグランドで会おう」

 

 

 

 


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