「すげぇ広い...」
私、風嵐楓華は、超絶震えている。
理由はただ一つ、周りに人間がいない。
獣類多くない?この会場...
あああ、いい感じに解れてたのに一気に固まる。
まるで初心者かのように準備運動を始めたら誰かに肩を叩かれた。
「ほぇあ!?」
「うわあ!!?」
お互いに変なポーズをとったまま動かない。
どうやら叩いたのは赤髪の男の子のようだ。
すると男の子は固まる私を見て軽く笑い出した。
「?」
「はは!!いや悪ぃ!あまりにも驚かれるもんだから!」
「そりゃ、いきなり見ず知らずの人に叩かれたら...!!」
「まぁそうだよな。ここ、でかい奴しかいねぇから人いるかなって思って探してたらおまえがいたんだ!内心ほっとしたぜ!!」
なんて明るい人なんだ。
私には合わないかも、
でも、確かにこの中で人間がいるっていうのは大分安心出来る。
「正直、私も安心した。だけど協力するつもりはないわ。」
「これは、受験なんだから。」
私のオーラを感じたのか相手は頬に汗を浮かばせながら楽しそうに笑った。
「おう、学校で会えること、祈って」
『ハイスタート!』
声の主を悟った瞬間、私は男の子など気にせず一目散に走った。
「おい!まだッ」
『どうしたあ!?実戦はカウントなんざねえんだよ!!走れ走れぇ!!』
「そういう事かよ!」
『賽は投げられてんぞ!!?』
「あの受験生!判ってて!!」
「チクショー!出遅れた!!」
この試験、何としてでも合格しなければいけない!
這い上がらなければいけない!
さぁ!己の実力を他者に叩きつけよ!!
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
「うあぁああ!!ぜんっぜん!追いつかねえ!!」
あの女子、只者じゃないな!!
それにしても敵がいねえ......
この道から外れるか?
「おい見ろよ!」
誰かが、前方に指を指した。
俺も、その指につられ、前を見てみると。
「い、1Pがあんなに!!」
慌てて数を数えると、ぜんぶで7体。
一体誰がこんなに、まさか、あの女子が?
だとしたら、相当ポイントを取られる。
きっと引き付けてきた敵を一気に片付けるんだろう。
だがどうやって?纏めて掃除出来る"個性"でもあるのか?
どうしても気になってしまい女子の行動を目で追っていたら、どういう事だろうか、ビルの壁を走って敵の後ろへ回ったのだ。
一つ一つの行動が流れるようで、使い方が合ってるかよく判らねえが、世に言う芸術、と言っても可笑しくはない。
女子は地面に手を向け力み始めた。
!?、塵が集まってくる..そうか!アイツの個性は!!
敵が竜巻に巻き込まれ、上に上にと上がって行く。
風!!
女が手を下ろしたと同時に敵も地面に落下し大破した。
見ていた俺達は唖然としたまま、
時間が迫ってるっつうのに、凄すぎて体が動かねえ。
そんな俺達に気づいたのか女は此方を向き、悪役のように笑った。
「あら、動かなくていいの?」
「私に全部取られるわよ?」
勝手に体が動いていた。
あの女はヤバいと、ほっとけば全部取られる。そう思った。
受験がこんな熱いものだったなんて知らなかった。
「燃えてきたあ!!」
これが、競い合うってことか!!!
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
私が大事を吐いた瞬間、皆一斉に走り出した。
必死にPを狙いに行く受験生の背中を見て若干嘘をついた事に罪悪感を感じたが、
止まることは許されないので私は徐々にポイントを集めていく。
しかし、その順調さも束の間。
奴が、現れたのだ。
「これで39.........」
身体に伝わる妙な振動。
「?」
瓦礫が崩れる音。
「嘘、でしょ…」
そう、お邪魔虫が。
考えるより先に体が反対方向を向いていた。
全力で逃げろと体中が叫んでいたのだ。
「おーこれがお邪魔虫か!!」
「...!?」
その考えは皮肉にも邪魔されて。
「ちょっ!!」
私は追い風を発生させ一気に近づき、赤髪の男の子を横抱きで回収した。
「お、お前!!何してんだ!」
「それはこっちの台詞よバカ!!死ぬ気!?」
「俺はアイツの攻撃力を試してみたかったんだよ!てかこれお姫様抱っこ!下ろせ!!」
余裕を見せる男の子に苛つきながら、私は自分の体力に限界が来ている事を徐々に感じていた。
このままじゃ二人共死ぬ。
頭をフル回転させ出した答えは、
「いい、おバカさんよく聞いて!今から私の個性で貴方を遠くに投げるから全力で逃げるの!!」
「お前は!!」
「私よりアンタ!!」
私は両足を限界まで広げ、男の子を投げようとする。
だが、男の子が私の手首を思いっきり掴んで、飛ばされまいと足を踏ん張った。
「待った!!」
後ろまでお邪魔虫が近づいてるというのに、どこまで余裕を見せようとするのだろうかこの男は。
「女に恰好いい所を見せるのが男ってもんだろ!!」
男は強引に私から離れ、私に手を差し伸べる。
真逆、と思った。
「俺の下に来い!!!」
真剣な目が、私の瞳に映った。
本当なら男とは逆方向に行くはずなのに私は男の方へと向かっていた。
男はまた余裕な笑みを見せると、私の手首を引き、覆うような体勢になる。
何故、初対面の人を信じたのか。
信じた私は相当馬鹿なんだと思う。
「頭抱えてろよ!!」
男の声と同時にお邪魔虫の手が私達を暗闇へと連れていった────
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
『終』
『了〜!!!!』
「おい!!二人が下敷きになったぞ!」
「死んでないよね!?」
実技が終わった受験生達は二人の生存を確認しようと起動不能になったお邪魔虫に近づく。
どうする事も出来ずただ見ていると、お邪魔虫の手の甲が膨らんでいった。
そして沢山の破片を飛ばして出てきたのは、
「誰が死ぬかぁあ〜!!!」
「「!?!?」」
身体を硬化させた男だった。
その後、顔色を悪くした楓華がのっそりと出てくる。
「ほら!言ったろ?」
「言ったろ、じゃないわよ…。"個性"が硬化ならほっとけば良かった...」
ほとんどの体力を使い果たした楓華は酷く疲れ溜め息をついた。
そんな事はお構い無しに男は眩しい笑顔で喋り始める。
「俺は切島鋭児郎!お前は?」
「言う必要ない」
「せっかく助け合ったんだ!そのくらいいいじゃんか!!」
友情だのなんだの語り始めた男の話を聞き流し、
楓華は瞼を閉じて終わったと心の中で静かに思った。