俺の妹がこんなに優等生なはずがない   作:電猫

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第10話

 最近妹の様子が少しおかしい気がする。まあ俺の気にしすぎな可能性も高いのだが。

 ようやくいろいろな事件も片付き俺の平穏無事な生活が戻ってきたので、近頃はリビングのソファーに寝っころがりながらバラエティー番組なんかを見ている。そんなとき一緒にいるあやせの視線を感じるのだ。

 目があうと『どうしたんですか兄さん?』と首を傾げながら問いかけられる。

『いや、お前いま俺のこと見てなかった?』と聞こうかとも考えたが、なにかそれは自意識過剰な台詞のような気がして、ついつい『いや、別に何でもない。それよか……』と他愛ない雑談に移行してしまう。

 まあ妹との談笑は、最近いろいろあった俺の気疲れ回復におおいに役立ったから、気にはなるがまあこれは問題ない。

 問題はあやせが俺の部屋に来る頻度が増えたことだ。

 あいつらから借りた物を消化していると、時々『兄さん、いま大丈夫ですか?』と訪ねて来るようになり、これには焦る。いままでも俺の部屋に来ることはあったが回数が増えた気がする。

 ちなみにいまあいつらから借りているのはメルル、マスケラの続きと、沙織も参戦してきてガソダムのおすすめを借りている。

 最悪これなら妹に見つかってもなんとかなりそうな気がするが、まあオタク趣味が嫌いなあやせに見つからないならそれが一番である。……メルルはダメだろうか? 最近どれが大丈夫でどれがダメなのか、判断に自信が持てなくなってきている。

 そういうわけで妹が訪ねてきたときは、必死で物を隠している。部屋に入ってきた妹がなにかを探している気がするが、これこそ俺の被害妄想だろう。隠しているものがあるから、あやせがキョロキョロしているのをそう感じてしまっているのだろう。

 

「兄さん、いま大丈夫ですか?」

 

 噂をすれば影、あれ? なんか違うな? 瓢箪から駒だっけ? 考えていたことが実際に起こるのってなんだっけな?

 部屋であやせのことを考えていたら、その本人が訪ねて来た。

 今はアニメを見ていたわけじゃないので、すぐに応える。

 

「あぁ、大丈夫! そのまま入っていいぞ!」

「お邪魔しますね。兄さん」

 

 ドアを開けてあやせが入ってくる。風呂上がりなのか? 青色のパジャマ姿である。

 淡い青色のパジャマはこいつによく似合っている。思わずぼーっと見惚れちまう。

 風呂上がりのパジャマ姿で、自分の理想の容姿の少女が自分の部屋にいるんだぜ! ……まあ理想の容姿の事は認めるわけにはいかないんだけどな! とにかくなんでこのシュチュエーションが実の妹なんだ? もしあやせが妹じゃなければ、この場面俺こいつに結婚申し込んでたんじゃないか?シュチュエーション→シチュエーション

 部屋に入ってからずっと無言で見つめられてることを不思議に思ったのかあやせが問いかける。

 

「兄さん?」

「あっ、すまん、見惚れてた。けっこ……」

 

 思ったことが言葉としてこぼれ落ちた。

 危ねぇ!? ギリギリセーフ?

 うーん、近頃自分はこういうことが良くある。直さないといつかとんでもない目にあってしまいそうだ。

 

「な、あ、み、見惚れてって、兄さんからかわないで下さい。冗談ばかりですと怒りますよ!」

 

 顔を赤く染めて、頬を膨らませて抗議するあやせ。

 幸いなことに、前の言葉の衝撃で『けっこ……』の方に気がつかなかったようだ。

 怒らせると心底おっかないが、拗ねるくらいだととても可愛い、この姿が見たくて俺はいつも軽口を叩いてしまうのかもな? まあ大概失敗して怒らせてしまうんだが……

 俺が言った言葉は冗談じゃなかったが、そう思わせていた方が都合良さそうなので、笑ってごまかす。

 

「ははっ、悪い悪い!」

「まったくもう!」

「それで、どうしたんだ?」

「えっと、勉強を教えて貰いたくて」

「へ? 珍しいなお前が」

 

 珍しいというより初めてでは無いだろうか?

 これは決して俺が馬鹿だから相談されないという事ではない。俺の成績はそんなに悪くないのである、学年で中の上くらいはキープしている。まあそれは優秀な幼馴染の家庭教師の力が大きいが……

 ただし俺の成績云々というよりは、妹の成績が素晴らしいだけの話なのだ。あやせは学年で20位以内の常連の優等生であり、それに加えて基本自分の事は自分でやるスタイルなので、小さい頃から俺があやせに勉強を教えた記憶はほとんどない。

 そんなあやせが自分で解けない問題だと!? 中二の問題とはいえ、俺に解けるだろうか? 兄の威厳が試される時か!?

 プレッシャーに押されてる俺に気が付くこともなく、数学の問題集の1ページを指差しながらあやせが尋ねる。

 

「ちょっと、この問題が解けなくて。兄さん、教えてくれますか?」

「あぁ、俺に任せろ!」

 

 内心の不安を押し隠し、精一杯虚勢を張りながら、あやせから問題集を受け取り机に向かう。

 しかしこれで問題解けなかったら、かっこ悪いだろうな。問題を読みながら、余計なことを考えてしまった。

 いかん集中集中えっとxがこれで、yがこうなって? 難しっ!? 最近の中学生これ解いてるの? マジでこれ解けるかな?

 必死で頭を働かせていると、背後からあやせが覗きこんで来た。

 

「兄さん、どうですか?」

「すまん、もうちょい待って」

「私ももう一度考えてみますね」

 

 そう言うと、あやせが俺の両肩を押さえ肩口から問題を覗き込む。

 〜〜〜〜〜〜!?

 顔が近いですよあやせさん!? しかも風呂上がりゆえのシャンプーの良い香りがぁーー!? 極め付けに、何やら背中に柔らかい感触が……ダメだダメだ!? これ以上は考えたらイカーーン!!

 

「わぁっ!兄さん、凄いです!」

 

 何分たったのだろうか? 耳元からあやせの歓声が聞こえる。

 視線を下に降ろしてみると、計算式を書き込まれ答えの記入された問題があった。

 どうやら俺はやり遂げたようだ。途中問題とは別の恐ろしい? いや素晴らしい? なにかと闘っていた為、正直どのように問題を解いたのか記憶に残っていない。

 幸いなことにあやせは俺が解いた問題を見て、解き方の道筋を理解したようで、俺に解き方を聞いてくることはなかった。

 優秀な妹で助かった! 問題を解いたにも関わらず、解き方を説明出来ないのではあまりに情けない。

 

「へぇー、こうなって解けるのか! 兄さん、ありがとう!」

「あぁ、しかしその問題集難しいな。中学の授業はそんなに大変なのか?」

「ええと、授業はそうでも無いですよ。これは桐乃からオススメされたんですよ」

「桐乃からオススメ?」

「えぇ!私も彼女も塾に行っていないので、成績上げるのにって」

「あいつも成績良いのか?」

「凄いんですよ桐乃! 私よりも成績良くて、部活動でもエースなんです! 本当に尊敬します!」

 

 そいつは凄え! あやせと同じモデルの仕事しながら、妹以上の成績を取り、部活動のエース、しかもあんだけオタク趣味に時間を使いながらである。

 桐乃あの野郎、どんなチート使ってやがる? まったく天は二物を与えずっていうのが世界のことわりじゃないのかよ神様!

 世の中の不条理に文句を言っていると、突然あやせがお礼を言ってきた。

 何かしたっけ俺?

 

「あ、そうでした。ありがとうございました兄さん」

「へっ? 何がだ? いまの問題ならさっき感謝してもらったぞ」

「いえ違いますよ。この間相談に乗って貰った桐乃の件です。兄さんの言った通り無事問題が解決したみたいで、なんか前よりずっと元気なんです最近の桐乃」

「なんだそのことか? 別に問題解決したのはそいつの力だから俺に感謝しなくてもいいぞ」

「もう、素直に感謝させて下さいよ。あの時は本当に不安だったんですから! 兄さんの言葉は凄く力になったんですよ!」

「あらたまってお礼言われると照れるっつうか? 気恥ずかしいっていうか……とにかく無事解決して良かったな」

「ふふっ、えぇ」

 

 あやせの顔を見ないようにぽりぽりと頬を掻く。そんな俺の姿を見てあやせが微笑んだ。

 やっぱり気恥ずかしいので、無理矢理でもいいから話題転換に乗り出す。

 

「あーーと、勉強っていえば期末近いよな」

「ふふっ、そうですね兄さん。今度は桐乃に負けないように頑張りますよ」

 

 なにやら見透かされているような気がしたが、妹は話題転換に乗ってくれた。

 

「あぁ、負けんなよ! 俺はどうすっかな? また麻奈実に頼っかな?」

「お姉さんにですか?」

 

 困った時の幼馴染頼りだ! だいたいテスト前は毎回麻奈実に勉強を教えて貰っている。あいつは教えるのが上手いのだ。

 あいつはほんわかした性格もあるし、将来教師なんか向いてるのかもな?

 そうだ! 桐乃に勝とうと頑張るっていうなら、あやせも誘ってみるか? こいつら昔仲良かったし、あいつも久々にあやせに会ってみたいだろ! 

 

「あやせ、お前も来るか?」

「来るって? 何処にです?」

「麻奈実の家で勉強会やろうかと思って、あいつは教えるのが上手いし、あやせも久々にあいつに会って見たいかなって?」

「……麻奈実お姉さんですか」

「無理なら別にいいぞ? そもそも麻奈実に確認すらしてない段階だし! まああいつは断らないと思うけどな」

「そうですね。是非参加させて下さい。麻奈実お姉さんに久々に会いたいですから」

「おう、了解! じゃあ麻奈実に予定聞いてみる」

 

 善は急げ、早速携帯を取り出し麻奈実に掛ける。時間も9時前だし問題無し、あいつはあまり遅いとすぐ寝ちまうからな!

 着信音がコール中、何かあやせが呟いている。

 

「もしかしたらついに麻奈実お姉さんと付き合ってしまったんでしょうか? ちょうどいい機会です。確かめるの怖いですけど……」

「どした? なんか麻奈実に言いたいことでもあるか?」

「い、いえ、な、なんでも無いですよ!?」

「そうか? お、繋がった! お、麻奈実突然すまん!起きてたか? 実は……」

 

 どうやらあやせのは独り言だったようだ。

 近頃あやせの不審な行動は、たぶん俺の帰りが遅かったりとかで不真面目に見えたせいだろう?

 そんな妹に対して面目を保つためにも点数取らないとな!

 さて幼馴染の力を借りて、勉強頑張りますか!

 




あやせの浮気?調査回です。
京介は気づいているようで、気が付きません。
麻奈美との勉強会であやせの疑いは晴れるのか?
早めに更新できるよう頑張ります!

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