俺の妹がこんなに優等生なはずがない   作:電猫

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第11話

「おっ、あんちゃん! 久しぶりじゃん!」

「おう、ロックこれからじゃまするぞ!」

 

 田村家の近くに来たとき、五厘刈りの頭の少年が話しかけてきた。

 麻奈実の弟のいわお、通称ロックである。

 お調子者な奴で、近所の床屋でスキンヘッドにしてくれと頼むも、床屋の機転に騙され五厘刈りにされてしまい、しかも騙されたことに気がつかず『このカッチョいい髪型にいままでの名前は相応しくないぜ! これからはロックって呼んでくれ!」と宣言してしまった。そのため坊主頭とロックというあだ名、それに黒歴史を同時にゲットした愛すべきおバカである。

 こいつがあやせ、桐乃と同じ中学二年というのだから信じられない。あやせ、桐乃が大人っぽいのか? ロックが子供っぽいのか? いくら女の子の方が成長が早いといってもその差は極端だろ! と思ってしまう。

 

「あんちゃんは家に来るのか?」

「ああ、期末近いから麻奈実と勉強会をやりにな! お前はこれから出かけるのか?」

「うげっ、勉強かよ! せっかくの休みに勉強なんかして、あんちゃん青春の無駄遣いだぜ! 俺はこれから遊びまくるぜ!」

「……ロック、中間悪くて母ちゃんに凄ぇ怒られたって言ってなかったかお前?」

「い、嫌だなあんちゃん。男は過去を振り返らない生き物だぜ!」

 

 ダメだこいつ!? かっこいい台詞も目を泳がしながらじゃあ、ひたすらかっこ悪い。

 これじゃあ期末も田村母のカミナリが落ちるのは、ほぼ確定的だろう。

 俺らのバカ話に一区切りついたタイミングを見計らって、俺の背後にいたあやせが挨拶をした。

 

「こんにちは、田村君お久しぶりです」

「あ、新垣さん!? こ、こ、こ、こ、こんにちは!?」

 

 テンパり過ぎだろ!! お前はニワトリか!?

 こいつあやせがいることに全然気付いてなかったな? 相変わらず注意力が足りない奴だ。

 カチコチに固まっているロック、余所行きの笑顔を貼り付けている妹。

 あれ? こいつらって友人じゃなかったっけ? 一応幼馴染になるんだよな? 年一緒だし。

 昔を思い出してみる。俺、麻奈実、あやせでままごとなんかやったな。俺、麻奈実、ロックでぷよぷよとか対戦ゲームやっていたな。四人で何か? ……トランプとか? あやせとロックが同時にいる姿がほとんど浮かばない。

 なるほど知り合いではあるが、ほとんど話したことなかったんだなこいつら。

 

「あ、新垣さんも一緒に勉強させるんですか?」

「え、ええ、麻奈実お姉さんに教わりに来ました」

「……あんちゃん!!」

 

 ロックが敬語使うのは違和感が……というか普通に間違ってんじゃねぇーか!

 ロックが何かキラキラした目で俺を見つめてきた。

 ふむ? こいつも思春期ということか。美少女と一緒にいる機会を逃したくないと。

 ロックの言いたいことを察した俺は応えてやる。

 

「おう、もう行っていいぞお前!」

「いや、ちがっ、あんちゃん……」

「お前が勉強なんて小さなことにこだわらない。刹那に生きる男ってことは、さっきの台詞で十分伝わった」

「い、いや、お、俺も……」

「男に二言はないもんな。ロックの生き様を俺は尊敬するぜ!」

「…………あ、あんちゃんの馬鹿野郎ぉぉぉぉーーーー!!」

 

 泣きながらロックが走り去っていく。叫び声あげながら走ると近所迷惑だぞロック。

 たとえお前といえど、妹に近づく男の影は許さん! ……これは兄として当然の行動だよな? シスコンとかそういうあれとは違うよね?

 そんな俺らの姿を見て、おずおずとあやせが問いかけた。

 

「よ、良かったんですか兄さん?」

「いい、いい、ロックだし! 明日には忘れてけろっとしてるよ!」

「はぁー、田村君がかわいそうですよ。でも兄さんと田村君の関係が羨ましいです。なんでも言い合える仲というか?」

「あいつとの関係? 気持ち悪いこと言うなよ! 身震いしちまう!」

「うふふ、本当にそう思ってます?」

 

 両腕を抑えて震えてみせる俺に対して、あやせは口元に手を添え微笑んだ。

 ……やれやれ、妹には敵いそうもない。

 さっさと麻奈実の家に逃げ込むことにする。

 麻奈実の家は和菓子屋なので、裏口に回りこみ玄関横のインターホンを押した。

 

「は〜い! どちら様ですか〜?」

「おーい、俺だ! 約束通り来たぞ!」

「あっ、京ちゃん! いま開けるね。うんしょっと!」

 

 気の抜ける掛け声と共にがらがらと扉が横にスライドして、麻奈実が顔を覗かせた。

 にっこりと幸せそうに微笑み俺たちを出迎える。こいつが犬だったら、きっといま千切れんばかりに尻尾振っているんだろうなと思わせる幸せな様子だ。

 

「いらっしゃ〜い京ちゃん! あっ、あやせちゃん、凄〜い久しぶり〜」

「お久しぶりです、お姉さん。今日はよろしくお願いします」

「お邪魔しますと、いつもサンキューな! 今回はあやせも一緒だし!」

「ううん、全然いいよ〜! 京ちゃんと勉強は楽しいし、あやせちゃんに久しぶりに会えて嬉しいよ! さっ上がって」

 

 にこにこと笑顔でこちらを見つめる麻奈実。

 あやせは久々に会う為か? ちょっと緊張した様子だ。

 お茶の間を素通りして、二階に案内する麻奈実。

 

「あれ? 今日はここじゃないのか?」

「うん、あやせちゃん久しぶりだから、わたしの部屋の方がいいかな〜って」

 

 いつもはお茶の間で勉強しているのだ。たしかにお茶の間だと、いつも麻奈実の祖父母が一緒なので、久しぶりのあやせは緊張しちまうかもしれない。よく気がつく奴である。

 

「そういや、爺ちゃんと婆ちゃんは?」

「うん、いま何かの会合に行ってて、居ないんだぁ」

「そっか、久々なんで挨拶したかったんだけどな」

「お爺ちゃんもお婆ちゃんも喜ぶよ〜! 帰り際に挨拶してって!」

「うん、そうだな! そうさせてもらう」

「それじゃあどうぞ」

 

 喋りながら麻奈実の部屋に向かい、麻奈実が部屋のドアを開いた。

 麻奈実の部屋に入るのは久しぶりだ。和室ながら女の子らしくオシャレに整えられている。

 

「それじゃあちょっと待っててね。机持ってくる」

「あっ、俺が持ってくるよ」

「大丈夫! 軽いやつだから! 京ちゃんはあやせちゃんと待っていて」

「そっかぁ? わかった」

 

 麻奈実を待つ間、部屋をキョロキョロ見渡す。

 あれ? ベッドだったけ? 昔は布団だったような気がしたけど? ベッドは花柄の布団と枕元に耳に赤いリボンをつけた二頭身の猫のぬいぐるみが座っている。

 テレビやパソコンは置かれていない。それがなんだか麻奈実らしい。

 窓辺ではピンクのカーテンが風でユラユラ揺れている。

 あれ? こんなに女の子らしい部屋だったけ? 久しぶりに入る幼馴染の部屋にちょっとドキドキしてしまう。

 辺りを見渡していた俺に対して、妹が注意をした。

 

「兄さん、女の子の部屋をジロジロ見るのは失礼ですよ!」

「うっ、すまん。そうだよな。つい久しぶりに入ったから色々見ちまった」

「えっ? 久しぶりなんですか? お姉さんのところに結構遊びに行ってますよね?」

「ああ、だいたいいつも一階のお茶の間にいるからな。あいつの部屋に入ったのっていつ振りだったけな? 中学は入ったっけ? 小学校の頃はよく入ってたんだけどな」

「……そうなんですか。久しぶり……」

 

 なにやらあやせがホッとしている。

 どうしたんだこいつ?

 聞いてみようとしたとき、麻奈実が丸型の机を持って戻ってきた。

 

「お待たせ! それじゃあ始めよっか」

「ありがとな! 今回もよろしくお願いします」

「お姉さん、ありがとうございます! 今日はよろしくお願いします」

「うんうん。お任せあれ〜、なんちゃって」

「ははっ頼むよ!」

「クスッ、お願いします」

 

 俺たちは笑いながら勉強を開始した。

 一、二時間たったろうか? わからないところを麻奈実に聞きながら勉強を進めていった。

 しかしあやせも麻奈実も集中力が凄まじい。勉強会とはいえ休憩がてら他愛無い話をしたりする。ただこいつらはそれ以外の時間は問題に対して凄く集中して取り組んでいる。俺が見ていることにも気がついていないようだ。なんというか、オンとオフの使い方がうまい? そんな感じがする。成績が良い奴は何処かしら似てくるもんなんだなと二人を見て思った。

 一つの問題を解き終わったのか、俺が手を止めて見ていることに麻奈実が気がついた。

 

「どうしたの京ちゃん? またわからないところあった?」

「いや、違う。すまん、邪魔しちまったか? 二人の集中力が凄いんで、感心して見つめちまった」

「えっ、あ、どうしたんですか? 何かありました」

 

俺たちが話し始めたことであやせが気付き顔を上げた。

 

「クスッ、たしかにあやせちゃん凄いね」

「いや、お前も十分凄いよ」

「そんなに褒めないでよ〜、照れちゃうよ」

「むっ、さっきから何の話をしているんですか?」

「いや、お前ら二人が凄いってはなし」

「むぅぅー、褒められてる内容がわからないと、褒められても嬉しくありません」

「あはは、ちょうどいいから休憩にしようか! わたしお菓子と飲み物取ってくるから待っててね〜」

 

 麻奈実が立ち上がり部屋を出て行く。

 うーーー、俺は手を組み腕を天に向けて伸ばす、固まっていた関節が伸びてパキパキと音が鳴った。

 それを見たあやせがつっこんできた。

 

「兄さん、父さんみたいですよ」

「仕方ないだろ気持ちいいんだから。お前もやってみろよ。楽になるぞ」

「そうですか? じゃあ」

 

 ん〜〜ん、あやせは俺と違い前に手を突き出し伸びをする。

 

「うーん、たしかにいいですね」

「だろ?」

「でも、兄さんのは声がおじさんくさかったですよ」

「げっ、マジか? 注意しねーとな」

「えぇ、注意して下さい。ふふっ」

 

 あやせがクスクス笑っている。

 気をつけなければ、高二でおっさん扱いは避けたい事態である。

 

「それにしても麻奈実お姉さん、本当に教えるの上手ですね」

「ああ、そうなんだよ! 学校の授業よりわかりやすいかもな」

「先生がいいんですから、兄さんは頑張らないとダメですよ」

「うっ、わかっているよ」

「お待たせ〜」

 

 麻奈実がお盆にお茶と和菓子を持って戻ってきた。和菓子はうさぎを形取った可愛らしいデザインで、外見は餅を使っているのだろう白うさぎがよく表現されている。おそらく中身はこしあんだと思う。

 

「お前これ? お店の商品じゃないのか?」

「えっへん、せっかくあやせちゃんが来てくれたんで、今日は特別に可愛い物を選んで見ました」

「ありがとうございます! いいんですか? これ本当に可愛い!」

「えへへ〜うちの人気商品なんだよ〜」

 

 あやせの目が輝いている。なんだかんだこいつ可愛い物すきだよな。

 

「じゃあ、いただきます」

「どうぞ、召し上がれ」

「あっ」

 

 早速一個取って口に含む。餅の柔らかな弾力とこしあんの甘さがマッチして口の中に広がる。見かけだけじゃなくて美味いなこれ、さすが人気商品!

 ふと、視線を感じて横を見るとあやせが悲しそうな顔をしている。

 どうしたんだこいつ? あやせの視線を追って見ると、俺に食べられて体が半分になったウサギが……

 こいつらは食べられる為に生まれてきたんだぞ妹よ! 妹の視線を無視することにして、半分ウサギを口に放り込む、ああ美味い!

 

「あぁぁ」

 

 妹の嘆きなど聞こえない、聞こえないったら聞こえない!

 それに俺より残酷な奴がいるぞあやせ。

 

「はい、あやせちゃんもどうぞ」

「あっ、はい、ありがとうございます……」

 

 思わず受け取り手の上のウサギをじっと見つめるあやせ。

 ウサギを血祭りに上げた麻奈実が、口をもぐもぐさせてあやせに迫る。

 

「どうしたのあやせちゃん? もしかしてあんこダメだった?」

「いいえ、あんこ大丈夫です。大好きです」

 

 悲しげな表情で、覚悟を決めたあやせがパクッとウサギに食らいつく。

 とたんパーっと表情を明るくさせた。

 

「麻奈実お姉さん、これ凄く美味しいです!」

「そう、良かった〜」

 

 妹は早くも二個目に手を伸ばしている。

 凄まじい変わり身の早さだ。心なしかお菓子のウサギの表情が悲しげに見える。

 お菓子を食べお茶を飲み、ゆったりしていると麻奈実が俺に質問してきた。

 

「そういえば京ちゃん、問題は解決した?」

「問題? なんの?」

「うん、少し前京ちゃん学校が終わったらすぐに帰ってたし、授業中とかも難しい顔してたから何か問題抱えてたのかなって?」

 

 麻奈実にはバレていたようだ。

 そしてなにやらあやせも真剣な眼差しで、こちらを見つめてくる。

 

「ここ一、二ヶ月うちにも遊びに来ないし、……京ちゃんもしかして彼女さん出来た?」

「(お姉さんナイスです!!)」

「はぁ!?」

 

 いきなり何を言いだすんだ? この幼馴染は!?

 そして何故小さくガッツポーズしている妹よ?

 

「うんとねぇ、京ちゃんがここ最近忙しそうにしていたのは彼女さんに会っていたからで、難しい顔していたのは告白とかの問題をいろいろ考えていたのかなぁ〜って思ったんだ」

「どうなんですか兄さん!!」

「違ぇぇぇぇーーーーーーーーー!?」

 

 なんて推理をしやがる麻奈実!?

 そしてあやせ、お前は少し落ち着け! そんな勢いで身を乗り出してくるな!!

 

「じゃあ最近の不自然な行動はなんなんですか兄さん?」

「少し落ち着けお前ら! 説明すっから! 最近忙しくしてたのは、凄っげぇ濃い友人達が出来たんだよ。あいつら人の都合御構い無しにぐいぐいくるからいろいろと時間とられちまったんだ! 最近ようやくそれが落ち着いてきたんだよ」

「難しい顔して悩んでいたのは?」

「ああそれも、そいつら関係で! そいつらの一人が厄介な問題起こしてよ! その問題解決の手伝いをする事になって、たぶん難しい顔してたのはその解決方法考えてたときじゃないか?」

「その人の問題は解決したの京ちゃん?」

「ああ無事……といっていいのか? まあとにかく解決はしたよ!」

 

 桐乃の親父さんの最後の顔を思い出すと無事解決とは言えないよな。

 それにしてもまさか俺に彼女が出来た疑惑があったとは……どうせならその疑惑の方が俺に起こってくれよ!

 現実は三人もオタク友達が出来ました。いろいろな問題付きで! だもんな。

 まああいつらとの付き合いはメチャクチャでマジ疲れるけど、実際のとこ悪くねーんだよな。ただ本当に大変なんだけどな……

 

「あいつらに付き合うのマジ疲れるんだぜ!」

「でも、京ちゃん楽しそうだよ?」

「えぇ、兄さん生き生きしてますね最近!」

「そうかぁ?」

「でもそっかぁ、新しい友達だったんだ! 彼女さんじゃあなかったんだね!」

「そうですね。本当に良かったです!」

 

 こいつら本当に嬉しそうだ。

 ……これはあれか? 俺が恋人を作るなんて抜け駆けは許せんってやつなのか?

 ドラマとかで、OLが結婚報告したときに独身連中が裏切り者って妬むあれなのか?

 それならおっかない話だ。

 まあとにかく彼女が出来る目処が無いから、これ以上考えても仕方ない。

 来る可能性がわからない彼女よりも、確実に来る期末に向けて頭を使うか!

 

「そろそろ勉強再開するか?」

「そうだね〜」

「えぇ、問題も解決しましたし! しっかり頑張らないと」

 

 なんか問題抱えてたのかあやせ?

 ちょっと気になるが、勉強再開するって言ったそばから話始めるのはな? というかこいつらもう集中してやがる。本当に切り替えが早いな!

 ふぅー、俺も頑張りますか!

 




たぶん二人とも新しい友人は男って勘違いしています。
バレたときの修羅場メーターがどんどん上がっている気がします。

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