俺の妹がこんなに優等生なはずがない   作:電猫

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第12話

「暑ぃ」

 

 寝起きで俺が口にした第一声だ。枕もとに置いてある目覚ましを確認する。午前10時、気温28度、おもわず温度計付きデジタル目覚ましを放り投げたくなる。外では蝉がやかましく騒いでいる。この暑さと音じゃあ寝不足でも目がさめちまうか。

 なんで寝不足かというとあいつらに借りたゲームのせいである。

 期末も無事に終わり、学生最大の長期休暇夏休みに入った。ちなみに期末は俺が全体的に平均よりちょい上くらいの点数で前回とほとんど変わらなかった。それに対してあやせは勉強会の成果が出たのか? 桐乃に勝てたと喜んでいた。

 桐乃の事件以降大きな事件は無く、あいつらがおれにオタク趣味を勧めてくるのは変わらず継続中である。ちなみに桐乃が勧めてくる18禁ソフトはなんとか阻止している。妹ゲーの18禁ソフトを回避する、それが俺に残された最後の防壁である。正直いつ突破されてしまうか、いつもギリギリの攻防である。勧められるのがメガネッ娘キャラだったら危なかったかも知れない。そういう意味で前にあったエロ本、もとい男の尊厳が掛かったレースを逃げ切れたのは僥倖だった!

 おっと脱線した話を戻すと、あいつらに今回勧められたのが【真妹大戦シスカリプス】通称シスカリというものだ。妹キャラを育成して3Dバトルしていくゲームで、対戦ゲームということもあり、あいつらから借りたものの中でいままで一番抵抗なくやれている。まあ相手を倒したり自分のキャラが負けると服が破れて半裸になるのだが……

 ちなみにこれもエロゲー版があり、俺がやっているプレスデ版との一番の違いは半裸のところが全裸になることらしい。

 桐乃がこれを貸すときの台詞がこれだった。

 

「エロ無しのコンシューマの方がいいなんて、京介あんたほんとに男なの?」

 

 あの出来事のあと、桐乃の俺に対しての遠慮は皆無である。

 この野郎、この間エロで男女差別するなって言ったのテメェじゃねぇか!

 カチンときた俺は言い返した。

 

「うっせぇ、エロゲーを貸そうとするお前はほんとに女かよ?」

「はっ? 何処に目つけてんのよ! 超絶な美少女でしょ!」

「はぁ~、自分の事を美少女呼ばわりするなんて、これだからスイーツは」

「きりりん氏自信満々でござるな」

 

 胸を張る桐乃。やれやれと呆れる黒猫。ほぅっと感心する沙織。

 黒猫じゃないが、自分で美少女言うかね? まあ美少女ということを否定できんが。

 悔しいので、反撃してやることにする。胸を張る桐乃の胸元を見つめながら俺は応えた。

 

「微小、女ね。なるほど」

「?」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜死ねぇぇぇぇぇぇぇ」

 

 桐乃は最初意味がわからないというようにキョトンとする。

 しかし俺の視線が何処にあるのかを見て理解したとき、怒りの表情を浮かべ、手に持ったシスカリを俺に向けて投げつけた。

 俺の反撃は諸刃の剣だったようだ。

 ズヴァン!? それが見事俺の額に命中した。

 声にならない叫びをあげ、額を抑えながら俺は涙目で叫ぶ。

 

「〜〜〜〜〜〜〜な、なにしやがる!!」

「うっさい! 死ね! 死ね! 変態! シスコン! ロリコン! 巨乳マニア! 脚フェチ! メガネフェチ! マザコン! ほんと死ね!?」

 

 かつてない罵詈雑言が俺を襲う。

 さらに黒猫が追い討ちをかけてきた。

 南極のブリザードに匹敵するような冷たい眼をして俺を見くだす。

 

「えぇ女性を胸で判断するような愚か者の極みは、この世界から消滅すべきね」

 

 右側に憤怒の炎に包まれる灼熱地獄、桐乃

 左側に絶対零度もかくやの氷結地獄、黒猫

 俺は救いを求めて、唯一干渉してこなかった沙織を見つめた。

 沙織は菩薩のようにニコリと微笑み、口をパクパクさせる。

 なになに?あ・き・ら・め・ろ

 菩薩が俺に向けて合掌した。

 

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁーー!?」

 

 はっ、恐ろしい記憶を掘り起こしてしまった。寝汗でじっとりしていた背中がいまは肌寒い。

 そんなわけで恐怖の記憶と同時に手に入ったシスカリを昨晩プレイしてたのだが、これが難しくネットで攻略サイトを調べながらやっていると、いつの間にか時間が際限無く流れていたのだ。まあ夏休みというのは学生にとってついつい夜更かしをしてしまうものである。

 しかしこの暑さだと二度寝する気も起きない、それにもういい時間だし起きることにする。腕をぐっと伸ばした後、ベッドから立ち上がり顔を洗うため一階にある洗面所に向かう。

 階段をトントンと降りながら欠伸をひとつ、……眠いな。なんで12時に寝て6時に起きるのと、4時に寝て10時に起きるのとでは、こんなにダルさが違うんだろうな? 同じ6時間なのに……

 気怠さでぼーとしながら洗面所のドアを開いた。

 あやせがいた。

 うん、それはもちろん構わない、自分の家で妹に会う普通のことだ。場所も構わない洗面所は家族皆で使う場所だから、かち合う事もあるだろう。時間帯も問題ない深夜でもなければ洗面所はどの時間帯でも使う可能性がある。

 勘のよい人だったら何故こんなに回りくどい言い方になっているのかは、すでにさっしがついているのではないだろうか。

 では、答え合わせをしよう。

 目の前にあやせがいた。下着姿のあやせがいた。ジャージを腕からちょうど抜こうとしている姿でフリーズしている。おそらくランニングか何か運動をして来てシャワーを浴びる前だったのだろう。ズボンは既に洗濯カゴに入っており、すらっと伸びた脚に白いパンツが目の毒だ。

 あまりの出来事にあやせも凍り付き、ぴくりともしない。

 さてここまでは無駄に冷静を装ったがそろそろ俺も限界だ。溢れてくる思いを解放しよう。

 きっとこれ夢なんだろ!?

 桐乃からやらされた妹ゲーの所為でこんな夢を見ちまっただけだよな!?

 夢であって下さい!!

 だってあり得ないぜ! なんで現実世界で実の妹相手にラッキースケベなんて現象が起こるんだよ!?

 おい、いい加減早く選択肢を寄越せ!!

 死亡フラグ回避出来る奴を急げ!!

 しかし俺の希望は叶えられなかった。

 間に合わなかったのだ。

 あやせの脳が再起動を開始した。

 

「兄さん遺言はありますか?」

 

 どうやら俺の人生はここまでのようだ。

 あやせの言葉に感情が一切こもっていないのが、逆に恐ろしい。

 あやせの表情は完全な無表情だ。

 これが目からハイライトが消えるということか。

 前に赤城が言っていたな『妹は天使だって』いまは俺も納得だ。こんな美しい姿で俺を天に連れていくのだから!

 さて遺言を残すとしよう。

 

「あやせ、兄さんの忠告を聞いてくれたんだな。その純白の下着似合っているぞ」

 

 あやせの右脚が顔に迫ってくる。

 最後に思ったことは、その格好でハイキックはマズイいぞ妹よ! である。

 

 

         ☆

 

 

 ドガァ!? 私のキックを受けて、兄が廊下に吹き飛びました。どうやら白目を剥いているようです。私は兄を一瞥して洗面所のドアを閉めました。

 そして息を大きく吸って吐き出し、その場に座りこみます。それまであまりの衝撃で吹き飛んでいた羞恥心が、私に戻ってきました。私は顔を手で覆って悶えます。

 う〜〜〜恥ずかしい!? 兄さんに見られちゃいました!? どうします? どうしましょう?

 さっきのキックで記憶失くしてないでしょうか? ダメです。いままで同じようなことがあってもピンピンしてましたから!

 お返しに兄さんを剥いて、私も兄の下着姿を見ましょうか? わ、私は何を考えているのですか!? それじゃあ痴女じゃないですか!?

 カギを閉め忘れるなんていままでしたことなかったのに、なんでこのタイミングで入ってきてしまうんですか? うぅ、信じられません!

 兄さんも兄さんです。何が『下着似合っている』ですか!! セクハラです! 変態です!

 どうせ褒めてくれるなら下着姿でなく、普段着を褒めて欲し……違います。べ、別に兄さんに褒められたいなんて思っていません。……いません!

 しかし本当にどうしましょう? 次にどんな顔して兄さんに会えばいいんでしょうか? 顔をあわせたら恥ずかしさのあまり、また蹴飛ばしてしまいそうです。いくら兄が頑丈でも毎回会うたびに蹴飛ばすわけにもいかないですし。

 それに今回は事故であるのは間違いないので、それなのに兄さんを責め続けるわけにもいかないですよね。ただ事故であっても下着姿を見られてしまったのをただ許すのも悔しいですし。

 本当にどうしましょうか?

 う〜ん……そうです! これはあれです! 兄さんに責任をとってもらいましょう!!

 

 




ギャグパートです。
すみません微少女をどうしても使いたくなり、桐乃の胸を小さい扱いにしてしまいました。
黒猫はまあ公式どお……グハァ

あやせさんヤンデレモードか? と思いきや恥ずかしさの為表情が固まったものでした。
そしてまさかの責任発言!? このまま兄妹結婚エンドに進むのか?

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