俺の妹がこんなに優等生なはずがない   作:電猫

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第13話

「痛っっ、いま何時だ?」

 

 あやせのハイキックから目が覚めた俺は左こめかみを押さえながら立ち上がった。

 今回は何時間気を失っていたのだろうか? 相変わらずの破壊力だ! あいつ本気で世界狙えるんじゃないだろうか?

 そういえばまだ顔を洗っていないことに気がつく。さすがにもういないと思うが、念の為に閉まっている洗面所のドアをノックする。返事は返ってこない、やはり中にはいないようだ。それでも扉を開けるときには恐る恐るになってしまう。顔を洗いスッキリとした気分になると次の問題に対処しなければという気持ちが湧いてきた。

 あやせとどんな顔で向き合えばいいんだろうか? 小学生時代ならともかく中学生になってからは、妹の下着姿は見ていない。やっぱり兄妹でもショックだよな? 他の家はどうなんだろ? 例えば赤城の家とか……なんだろう? 何故だかあいつの家は参考にならない気がする。

 やっぱり謝るしかないよな、わざとじゃないにしても、そしてたとえ妹でも女の子の下着姿を見ちまったんだから。しかし次にあやせに会ったとき、いきなり攻撃されたりしないよな? ……まあ気絶中に追い討ちされた形跡はなかったから大丈夫だろう……たぶん。

 色々と考えながらリビングに向かう。時間は11時を少し回っている。壁時計を見ながら今回はおよそ一時間の気絶かと思う。前の洗濯物のときはたしか三時間だったから、今回はまあいい方か? いや気絶に慣れてしまうのはどうだろう? 慣れたい訳ではないが、ついついあやせを怒らせてしまう。

 そうだそのあやせは居るだろうか? リビングに恐る恐る入った。リビングはシステムキッチンがあり、その正面に食事用の四人がけテーブルが置かれている。キッチンが目の前にあるので、洗い場にすぐ食器を出せたり、作ったものをすぐ手渡せるようになっている。ちょっとした労力にさえ楽を追求していく人間の姿勢は素直に凄いと思う。

 こちらにはあやせはいないようだ。反対側にいるだろうか? それとも別の部屋か? キッチンの反対側はリラックスできる空間になっており、中心に小さなテーブルその奥に50インチの大型テレビが置かれて、それをゆったり見れるようテーブルをはさんだ正面に茶色の革のソファが置かれている。そのソファにあやせが居た。テレビを見るでも無くただ座っている。いやただというのは間違いだろう部屋に入ってきた俺を無言でジッと見つめている。

 どうしよう? 視線を外したら負けなのだろうか? 凄く気まずいが、覚悟を決めて話しかける。

 

「あやせ、あのな、えっと、なんといいますか……」

「………………」

「ごめんなさい。ノックしないで入った俺が悪かったです。マジですみません」

 

 あやせの無言のプレッシャーに負けて土下座を敢行した。後頭部に視線を感じる、1分くらい経っただろうか? はぁぁーと妹の嘆息が聞こえた。

 

「……もういいですよ兄さん。鍵をかけ忘れてしまった私も悪いですから……」

 

 俺は床に伏せていた頭をあげる。あやせが許してくれるようである。しかし妹の言葉には続きがあった。

 

「でも本当に恥ずかしかったんですよ! だから兄さん責任を取って下さい」

「あぁ、もちろんだ……」

 

 妹を恥ずかしい目に合わせたんだ、なんでもあやせの言うことを聞いてやろ……

 ……ちょっとまて!? いま妹は何を言った!?

 

「あやせ……リピートアフターミー」

「なんで英語なんですか? しかもたぶん使い方ちょっと違いますよ?」

「すまん、混乱した。たぶん俺の聞き間違いだったと思うから、もう一度言ってくれ」

「だから本当に恥ずかしかったんですよ」

「そのあと」

「責任を取って下さい?」

 

 ふむ、聞き間違いではなかったと言うわけだ。良かった良かった、って全然良くねぇーよ!?

 どうすんだよ俺!? いや、どうしたんだあやせ!? 頭打っておかしくなったのか? いや、頭を打ったのは俺だよな?

 責任ってやっぱり結婚ってことなのか? いつの間にか世界は下着姿見たら結婚しなくちゃいけなくなったのか?

 あれか? このあとあやせの両親に報告しに行くのか? あやせの両親……って俺の親じゃねーか!? そうだそもそも兄妹で結婚なんて出来ないんだ! 落ち着け俺!!

 俺は立ち上がりあやせの両肩を掴んだ。

 

「ど、どうしたんですか兄さん!? 突然!?」

「あやせ、よく聞いて欲しい。俺とお前では結婚は早いんだ!」

「はいぃ?」

「乙女の柔肌を見ちまったんだ。責任を取らなくちゃいけないのかもしれない」

「に、兄さんさっきからいったい何を?」

「でも、俺たちは結婚できる年齢じゃないんだよ」

「け、結婚!? って兄さんさっきから何を言っているんですかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 うおっ!? あやせがこんな叫び声あげるところなんて初めてみたぞ。

 

「な、なにって、お前が責任取れって言うから?」

「なんでそれで結婚なんてことが出てくるんですか!?」

「いやだって、下着姿や裸を見た後に責任取れって言われたら、結婚してっていうことじゃあないのか普通?」

「ど・う・し・て・そうなるんですか!? いったい何処の常識なんですか!? そ、そもそもは、早いってなんですか!? 兄さんは私とけ、結婚するつもりなんですか!?」

「あれ? 俺は兄妹だから結婚出来ないって言わなかったっけ?」

「言ってません!!」

 

 あやせが息を荒げながら訴える。

 おかしいぞ思考は確かに兄妹で結婚は出来ないと言うつもりだったのに、何故だか将来妹と結婚する話になっていた!? どうしてこうなった? わからん?

 それに何処の常識? ふむ、何処のと言われればマンガやアニメとか……どうやら俺は本格的にあいつらに毒されているらしい。

 

「お、おう、悪い。またとんでもない勘違いをしちまった」

「まったく兄妹でどうしたらそんな勘違いできるんですか? 兄さんときたらまったく」

「……面目無い。それで責任って何をすればいいんだ?」

 

 俺の勘違いに呆れ、あやせがふぅーとため息を吐く。

 

「なんだか凄く疲れました。責任は……そうですね、この後買い物に付き合って下さい。あと今日もお母さん達帰りが遅くなるらしいので、夕御飯は外食して帰りましょう」

「なんだそれくらいなら、別に何もなくても付き合ってたぞ?」

「もちろん罰は別にありますよ! 責任を取って今日の夕御飯はご馳走して下さい兄さん!」

「うっ、……了解」

 

 最近はあいつらに会って遊んだりするので正直懐事情が寂しいのだが、ここは俺に断る権利はもちろんない。しかしない袖は振れないので、情けなくも妹に頼み込む。

 

「……高い場所は勘弁してくれよ」

「ふふふ、どうしましょう? この間テレビで凄く美味しそうなお店の特集やっていたんですよね〜!」

 

 そんな俺の姿を見て、あやせは小悪魔のような微笑みを浮かべた。

 

「おう、マジか……」

 

 断わる権利のない俺はがっくりと肩を落とした。

 

「ふふっ、冗談ですよ兄さん! 普通のお店で大丈夫ですよ!」

 

 俺の狼狽した姿に満足したのだろう。小悪魔の微笑みから天使のようなスマイルに変貌させあやせが笑った。

 あやせの一喜一憂に振り回されてしまう。俺は妹に絶対に敵わないのだと理解させられる。やれやれだ。

 

「それで何処に行くんだ? あと昼飯どうする? 向こうで食べるか?」

「そうですね。ららぽーとに行きましょうか。お昼はちょっと早いですけど、いま簡単に作っちゃいますね。兄さん大丈夫ですか?」

「ああ、朝飯食べてないから腹空いてるし、むしろ助かる」

「了解です。ちょっと待っていて下さいね」

 

 食事の話をした為か? 俺のお腹の虫が声をあげる。その音が聞こえてしまったのだろう、あやせがクスクス笑いながらキッチンに向かった。エプロンをつけ冷蔵庫の中身を確認する妹の様子を何とは無しに眺める。

 結婚ね、先ほど話に出てきたばかりなので、食事の用意をしているあやせを見ていると、ついつい考えてしまった。あいつもいつか恋人が出来て、結婚して家を出て、旦那さんに同じように食事を用意するんだろうな。なんだろう無性に寂しさと悔しさが浮かび上がってきた。これが娘はやらん! という父親の心境というものなんだろうか? となると俺も妹が欲しければ俺を倒してみろみたいなことをやってしまうんだろうか? ……実際のその場面を想像してみたら、彼氏でなくあやせに叩き伏せられる俺の姿が浮かぶ。はぁー思わずため息が溢れる。

 

「兄さん出来ましたよ! テーブルの上片して下さい」

「ああ、わかった」

 

 いつの間にか結構な時間考え込んでいたようだ。慌ててテーブルの上を片付ける。あやせがフライパンと皿を持ってきた。フライパンの中には湯気が立ち上る炒飯、それをあやせが手早く皿に移しかえる。

 

「兄さん、どれくらい食べますか?」

「腹減ってるから多めで頼む! あやせ麦茶でいいか?」

「それで大丈夫ですよ。ありがとうございます」

 

 テーブルに残っていたコップなどを洗い場に持っていき、ついでに新しいコップを用意して冷蔵庫から麦茶を取り出した。その場で注ぎ一口呷る、やっぱり夏場は麦茶だよな!

 

「兄さんはしたないですよ。どうせ飲むなら、こっちに持ってきて飲んで下さい」

「ははっ、悪い悪い」

「もう……」

 

 あやせが膨れている。機嫌を損ねないうちにさっさとテーブルに向かった。二つのコップに麦茶を注ぎ込み炒飯の皿にスプーンを用意して準備完了、腹の虫が早く食わせろとさっきからうるさい。

 

「それじゃあ、いただきます!」

「はい、めしあがれ」

 

 うん、相変わらず美味いな! お店ほどパラパラではないが、充分パラっとしている。俺が作るとどうしてもジトッとしてしまうので、今度作るときにコツを聞いてみようか?

 

「そういえば兄さんさっき何を考えていたんですか?」

「さっきって、お前が料理しているときか?」

「そうです。ため息を吐いていて、あんまりため息を吐いていると幸せが逃げてしまいますよ」

 

 ……さすがに『お前が嫁にいくような想像してへこんだんだよ』とは言えるはずがない。なんとか誤魔化さなければ。

 

「えっとあれだ。夕飯のこと考えて金足りるかなって?」

 

 とたんあやせは心配そうな顔をする。

 

「そうですか、やっぱり兄さんにご馳走して貰うのはやめましょうか」

 

 馬鹿か俺は! 妹に気を使わせてどうする! 誤魔化すにしてももっと上手く誤魔化せよ!

 

「すまん全然大丈夫だ!」

「本当ですか? 無理しなくていいんですよ」

「一食分くらいなら全然問題ない。それに金ならせっかくの夏休みだし、俺もバイトして稼いでみようかな?」

「兄さんバイトするんですか?」

「してみようかなって、そうだお前のところ男性モデルもやってないか?」

「えっ、兄さんそれはちょっと……」

「速攻で断るなよ! さすがに傷つくぞ!」

「ぷっ、ふふふ、あははは、ご、ごめんな、さい、に、兄さん」

 

 冗談だったが、この断る速さは予想外だ。まったく失礼な奴だ。あやせの反応にいじけたくなってくる。

 ツボに入ったのか、妹の笑いがなかなか止まらない。しかしあやせの笑っている姿を見てるとへこんでいたのが、まあいいやと思えるから不思議である。

 

「ごめんなさい兄さん、失礼でしたね」

「まったくだ。俺のガラスのハートは粉々だぞ!」

「ふふっ、兄さんモデルやってみたいんですか?」

「ああ、超やってみたいね。こうポーズ決めてカメラでパシャパシャ写されて」

 

 もう気にしていなかったが、なにかこのまま流すのも癪だったので強がってみせる。

 

「じゃあ社長に頼んでみますね」

「へっ?」

「そうですね、どんなのがいいでしょうか? 思いきってハード系なんかしちゃいますか?」

 

 俺の脳内でロックな格好をした俺がカメラの前でポーズを決めている。……うん、これはない。

 

「……すみません嘘ついた。モデルやってみたいなんて思ってない」

「えー私兄さんのモデル姿見てみたいです」

「いや、ほんとに勘弁してくれ」

 

 あやせがクスクス笑っている。やっぱり妹には勝てそうにない。俺はハァーとため息を一つ吐いた。

 




責任はこうなりました。
というわけで次回はデート?編です。
早めに更新できるよう頑張ります!

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