俺の妹がこんなに優等生なはずがない   作:電猫

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第23話

「兄さん、大丈夫ですか?」

「ああ、悪いな。2ケツ出来れば良かったんだけどな……」

 

 私は今、サイゼリヤに兄さんと一緒に歩いて向かっています。兄さんが自転車を押しながら歩いているので、その歩みはゆっくりです。

 最初はちょっといけない事ですが、二人乗りで行くつもりだったのですが、兄さんの足がふらふらだったので断念しました。

 あの事故も足の疲れが限界近くまできていたので、起こってしまいました。そんなになるまで一生懸命になって探してくれた兄を思うと、怒る事は出来ません。

 まあすでに怒ってしまったんですけど……だって仕方ないじゃ無いですか!? 私の胸にか、かおを埋めたんですよ!? そんな事されたら、誰だって怒りますよね! そうですよね!

 ……ダメです。今はそれよりも、桐乃の事を考えませんと。許してくれるでしょうか……

 

「安心しろよ! あいつならきっと許してくれるって!」

「兄さん?」

 

 まるで私の心を覗いたようなタイミングで、兄が話し掛けてきました。

 

「んっ? どうした不思議そうな顔して?」

「いえ……その、どうして私が桐乃の事を考えたのが、分かったんですか?」

「兄貴だからかな! それに、ここにシワが寄っているぞ」

 

 兄さんはそう言うと、私の眉と眉の間を指でつつきました。

 

「ははっ、眉間にシワ寄せてたら、せっかくの可愛い顔が台無しだぞ!」

 

 笑いながら、兄が私の眉間をぐにぐにと、ほぐす様に押します。

 

「う〜〜〜〜〜〜もうっ、やめて下さい」

 

 私は恥ずかしくなり、兄の手をパシッ、と払いのけます。

 まったく私に気を使ってくれてるんでしょうが、乙女の顔で遊ばないで欲しいです。

 それにまた可愛いって、流石に今回は取り乱しませんよ。……ちょこっとは嬉しいですが……それにしても兄さん、ほんとに軟派になってしまいましたね……

 こんなこと誰にでも言っていないでしょうね。私はじろっと兄を睨みます。

 

「そ、そんなに怒るなよ!? 眉間の皺をほぐしてやろうと思っただけだって」

 

 私が睨んだ事に、慌てて兄が弁明します。

 むぅ〜、私が睨んだ理由は、そちらでは無いのですが……まあ兄さんですから、仕方ないですね。あまり察しが良過ぎるのも、兄さんらしくありませんし。

 私ははぁー、とため息を吐き、兄に忠告します。

 

「別に怒っていませんよ。……ただ、女の子に気軽に触れるのは良くないですよ、兄さん。……私は、妹だから、いいですけど……」

「んっ、そうか? そうだよな……俺、大丈夫かな? あいつらに気軽過ぎてなかったか? う〜ん……」

 

 兄が悩み始めます。兄さんは、最近無意識に軟派になっていますから、ちゃんと釘刺さないとダメですよね!

 兄と雑談をしながら歩いていると、ついにサイゼリヤが見えてきてしまいました。

 あそこに桐乃が……私はゴクリと唾を飲み込みます。手足が震え、思わず立ち止まってしまいました。

 

「大丈夫だ、あやせ。桐乃は親友なんだろ。親友を信じろ」

 

 兄が私の背中をポンと叩きます。

 

「………………ええ、そうですね」

 

 兄の後押しを受けて、私は歩みを再開させます。

 兄さんのこういうところが、ズルいです。

 私はぼそっと『ありがとう……兄さん』と呟きました。

 

 

 ファミレスの店内の明かりが、ここに来る途中で太陽が沈んでしまった道を歩いて来た私達には眩しく感じられます。

 

「いらっしゃいませ。2名様ですか?」

「いえ、友人が先に来ていて……」

「あ、はい。それでしたら、どうぞ」

 

 店員さんに兄が断りを入れ、店内に進みます。夕食時の店内は、ほどほどの混み合いを見せています。人が多いので、感情的にならない様に注意しないといけませんね。

 兄を先頭に桐乃達を探します。一番奥のテーブル席で、手を挙げている槇島さんがいました。

 

「すまん、待たせた」

「いえいえ、ぜんぜんでござるよ。……それで、どういたす? 一旦店を出るでござるか?」

 

 槇島さんが、私をチラッと見た後に周囲を見渡して聞いてきました。

 席の奥では、ジッと私を見詰める五更さん、それに俯いてこちらを見ない桐乃…………

 

「どうする、あやせ?」

 

 兄さんが心配そうな声で問い掛けました。

 

「いえ……ここで、大丈夫です」

 

 私は声が震えない様に抑えます。先程も思った通り、もう感情的にならないと誓います。

 

「ふむ、では、どうぞでござる」

 

 槇島さんに促されて、桐乃達の向かいの席に座ります。向かいは桐乃を挟んだ形で、槇島さんと五更さんが両脇に座っています。たぶん桐乃を慰めてくれていたんだと思います。桐乃を助けてくれてありがとうという思いと、そこは本来なら私のポディションなのにという悔しさを、同時に感じました。

 桐乃がずっと俯いたまま顔を上げてくれません。こんなに弱々しい桐乃は初めて見ます。これが私のした事によるものなんだと考えると、心臓に鋭い痛みが走りました。

 それと同時にやっぱり許してもらえないんじゃないか? という不安感が再度私を襲います。一度不安感に襲われると、この場から逃げてしまいたいと思ってしまいます。

 謝らなきゃ、喋らなきゃ、と思うのですが、唇から漏れるのは吐息だけです。『ごめんなさい』の一言がどうしても口から出てくれません。私は自分が情けなくて、涙が溢れそうでした。

 右手に温かさを感じます。私が泣いてしまうというタイミングで、兄さんが私の手を握ってくれます。おもわず振り向くと、兄さんが『大丈夫だ』とでも言うように微笑みました。

 私は落ち着く為に、大きく息を吐き出し、桐乃へ告げました。

 

「桐乃、ごめんなさい。酷い事言って、ごめんなさい。もう話しかけないで、なんて言って、ごめんなさい。…………………………もう友達じゃないなんて言って、本当にごめんなさい」

 

 私は頭を深々と下げました。気をぬくと瞳から涙が溢れてしまいそうです。でも、泣いたらダメです。桐乃を傷付けた私の方が泣いては、ダメなんです。

 

「あ、あやせ…………?」

 

 数秒でしょうか? それとも数分経ったのでしょうか? 私にとって永遠に感じられる時間が過ぎ、頭上から桐乃の声が聞こえました。桐乃の声が聞こえた瞬間、私は我慢できずに顔を上げて、桐乃と見つめ合います。

 

「あやせ……あたしと、これからも…話してくれる?」

「もちろん…です。桐乃が望むなら…いつまでも……望まなくたって、話します」

 

 桐乃と話ができなくなるなんて、もう考えられません。

 

「あたしと、友達で…いてくれる」

「ずっと…何があったって、永遠に……親友です」

 

 桐乃がいない未来なんて考えられません。

 

「あ、あやせぇ……っ……ふぇっ、ふぇぇぇぇーーーーー」

「き、桐乃、ほんと…に…ごめ……んなさぁぁぁーーーー」

 

 泣かないって決めたはずなのに、桐乃と一緒に大泣きしてしまいました。

 兄さん、槇島さん、五更さんには、凄く恥ずかしい思いをさせてしまいました。やっぱり店を出て、公園とかで話した方が良かったかも知れません。

 私は泣き止んだ後、槇島さんと五更さんにも謝ります。

 

「槇島さん、五更さん、失礼な口を利いて、本当にごめんなさい」

「ふんっ、もういいわよ。あんな物見せられて、毒気が抜けたわ」

「気にしないでいいでござるよ。ううっ、青春でござるなぁ」

 

 五更さんがそっぽを向いて、槇島さんがわざとらしく、ハンカチで目を擦りながら応えました。

 先程も思ったのですが、二人の口調がおかしいです。けれど兄さんも桐乃も、何の疑問も抱いていない様子です。

 おそらくこちらが二人の素なのでしょう。……ダメです、オタクというだけで、その人を嫌いになってはいけません。二人は桐乃を慰めてくれていた事からわかる通り、きっと良い人なんですから。

 

「それで、あやせ殿。……オタクにはもう蟠りは、無いでござるか?」

「いえ、ごめんなさい。まだ私は……オタク趣味を認める事は出来ません」

「そんな、あやせ……」

 

 桐乃が顔色を変えます。私は桐乃が誤解しないよう、続きを話し始めました。

 

「ごめんなさい、桐乃。桐乃がオタク趣味が大好きな様に、私はそれが、大嫌いなの。どうしても、穢らわしい、おぞましいと思ってしまうの……」

「あやせ……」

「わたし達を前に、よくも穢らわしいやおぞましいだなんて……言ってくれるわね。それで、オタク趣味が認められない貴女は、結局の所、桐乃と京介をどうするの?」

 

 五更さんが、私を挑戦的に睨み付けてきます。私は目を逸らさず、しっかりと睨み返します。

 

「私は、オタク趣味が大嫌いです。それは変わりません。でも、兄さんに言われて気が付きました。オタクというだけで、その人を嫌いになってはいけないと。たとえオタクだったとしても、兄さんと桐乃は、私が大好きな、大切な人には、変わりありません!」

「あやせ!!」

 

 桐乃がキラキラと感極まった瞳で私を見つめてきます。私はそんな桐乃に対して、微笑みました。

 

「ふんっ、なら良いのよ」

 

 五更さんが、わたし達を見て優しく微笑みを浮かべます。私が見ている事に気がつくと、慌てて、そっぽを向いてしまいましたが。

 兄さんと桐乃の為にわざと聞きにくいことを言ってくれたんだと感じました……やっぱり、この人も良い人ですね。

 

「なら、これで大団円ですな。めでたし、めでたしでござるよ!」

 

 槇島さんが話をまとめようとします。私はそれに待ったをかけました。まだ伝えたい事が有るんです。

 

「すみません、槇島さん。まだ言って無い事が有るんです」

「ふむ。なんでござるか? どうぞ言って下され」

「ありがとうございます。私はたとえオタクでも嫌いにならないと決めましたが、あの……小さな子供を、その、エッチな目的にした物は、さすがに、兄さんにして欲しく無いんです」

「「「………………」」」

 

 何故でしょうか? 皆さんの視線が桐乃に向かっている様に思えます。普通なら兄さんじゃ無いんでしょうか? まあ気にしないで続きを喋ります。

 

「えっと、だから、兄さんにそういう物は貸さないで欲しいんです。……って、皆さんは女性なので、そういう物は持っていないですよね。ごめんなさい。失礼でしたね、私」

「いや…………分かった。あやせ、誓うよ。俺は児童ポルノみたいな物はやらない。これでいいか?」

 

 まず兄さんが誓ってくれました。私は兄を見つめて言葉を返します。

 

「できれば、兄さんには、他のエッチな物もやらないって誓って欲しいんですけど……」

「うっ、えっ、あ!?い、いや、そ、それはな……」

 

 兄さんがパニックを起こします。その姿に満足した私は笑顔を浮かべます。

 

「ふふっ、冗談ですよ。ただエッチなのはいけないと思いますけど」

「…………いや、マジで勘弁して下さい」

「…………尻に敷かれているでござるな」

「恐ろしいわね、この女。……なにが合うかしら、迫力ある眼光からメデューサかしら?」

 

 テーブルに突っ伏す兄、戦慄した様子の二人。ちょっといじわるしただけじゃ無いですか。そんなに引かないで下さいよ。

 槇島さんが空気を変えるように、コホンと小さく咳をいれました。

 

「それで、話を戻しますぞ。拙者も誓うでござるよ。京介氏にそのような物は貸さないと!」

「ええ、分かったわ。私も誓うわ。別にアニメDVDとかゲームなら構わないんでしょ?」

「ええ。本当は嫌ですけど。兄さんが、オタク趣味は貴女方と一緒にいるのに必要な物って言いますので……認めざるを得ません」

 

 私の言葉を聞くと、槇島さんと五更さんがテーブルに突っ伏している兄の顔を覗き込みます。

 

「んっ、だよ〜。なんかあるのか?」

「いえいえ、なんでも無いでござるよ〜♪」

「ええ、アニメ一つ見るのに、妹の許可を求めるシスコンを眺めているだけよ!」

「うっせ!!」

 

 兄さんが顔の向きを変えて、二人の視線から逃れようとします。むぅ〜こういう兄の姿を見ると心が騒めきます。

 ……あれ? そういえば桐乃はどうしたんでしょうか?

 

「う〜〜〜〜、妹恋やシスカリの18禁は、児ポなの? いや、違うわ。だって法律で禁止されていないもの。合法よ、合法! ……でも、世間的には同じ扱いなのよね。はぁーー」

 

 なんでしょう? ぶつぶつと呟いています。声が小さいので聞き取れませんが……とりあえず桐乃に声をかけます。

 

「桐乃?」

「う〜〜〜〜あ〜〜、えっと……んっ、あやせ!?」

「どうしたんですか桐乃? そんなに悩んで。悩みなら聞きますよ?」

「あ、いや、な、なんでもない。ほんと、なんでもないから……あはは」

「そうですか? ならいいですけど。桐乃も兄さんに貸さないって誓ってくれますか? まあ桐乃が兄さんにそういうのを貸すとは思っていないんですけど……一応お願いします」

「あはは……あ、あたりまえじゃない、そ、そんな、エッチな物とか、か、貸す訳ないし……」

 

 なんでしょうか? 桐乃の態度が凄く不審なんですけど……

 

「そ、そうだぞ、あやせ。そもそも女子中学生がそんなエッチな物を買うことはできないだろ?」

「言われてみれば……そうですね」

「そうでござろう。そうでござろう。安心するでござるよ」

「貴女も、早くこのメデューサに誓っときなさいよ。京介に、貸さなければいいんだから、テンパってんじゃないわよ!!」

 

 兄さん達三人が慌ててます。もうそんなに慌てなくても、桐乃と喧嘩なんてしませんよ。五更さん……メデューサって私の事ですか……

 確かに中学生がそういう物を手に入れるのは難しいですよね。私の考え過ぎでしたか。

 

「あ、あやせ、わ、私も京介には……そういう物は貸さないって、ち、誓うわ!」

「ありがとう、桐乃。皆さんもありがとうございます。私の我儘に付き合って貰って」

 

 私は深々と頭を下げました。

 

「頭を上げてくだされ」

「そうよ、別にこの位ならたいしたことじゃないわ」

「うん、し、親友として……当たり前よ」

「気にすんなよ。だから頭を上げろよ」

 

 みんなの言葉に笑顔を浮かべて、私は頭を上げました。そういえば、もう一つ伝えたい事が……

 

「あ、あと、もう一つ……」

「「「「まだ、あるの!?」」」」

 

 は、ハモらなくてもいいじゃないですか!?

 

「ほんとに、あと一つだけですよ! 兄さん、桐乃オタク趣味を許しましたけど、あんまり変な行動はしないで下さいね。絶交したりはしませんけど、その時は怒りますよ!」

「お、おう、了解だ」

「わ、分かったわ。あやせ」

「特に兄さんは変な物を見つけたら、没収しますからね!」

「わ、分かりました。き、気をつけます!?」

「桐乃? いまのは兄さんに言ったんですが……」

「ご、ご、ごめん。な、な、なんか勘違いした」

「ふふっおかしな桐乃」

 

 兄さんと桐乃がカチンコチンに固まっている。……そんなに怖いでしょうか、私。笑顔を引っ込め、ちょっと傷付いた私ははぁー、とため息を吐きました。

 

「すみません、いまので本当に全てです」

「そうか。……なら帰るか。もう結構時間経っちまったし、お店にも居づらいしな」

 

 ……そういえばわたし達何も注文してませんね。それなのにあんなに騒いで……暫くはこの店に来れませんね。

 

「そうね。もう八時を回ってるし。あまり遅いと妹達が心配するわ」

「な、なに、あんた妹いるの! あ、会わせてくれない?」

「……貴女にだけは、絶対会わせないわ」

「そんな事言わずにさあ〜、大丈夫何もしないし〜」

「貴女の大丈夫は、男子学生が女性に言う、何もしない位、信用できないわ」

「はいはい、じゃれるのはそこ迄にするでござるよ。早く帰る準備をするでござる」

 

 兄が伝票を手に取りました。

 

「おう、今回は迷惑掛けちまったし、俺が払っておく!」

「それは悪いでござるよ」

「そもそも貴方達は何も食べて無いじゃない」

「マジでいいの!! ……いや、悪いわよね。うん」

「兄さん、迷惑掛けたというなら、私が払うべきですよね」

 

 兄がぷらぷら伝票を振りながら断る。

 

「いやいや、ここは兄貴、年上として見栄をはらしてくれよ! ……沙織は、俺より年下だよな?」

「拙者、ピッチピッチの中学三年生でござるよ!」

「嘘つけぇぇぇぇ!? お前のような中三がいるかぁ!?」

「ひ、酷いでござるよ。京介氏……」

「にひひっ、あたしと一つ違いは無理でしょ!」

「きりりん氏まで……」

「はいはい、何時迄もそこで漫才しないの。お店の迷惑でしょう。ここは京介の顔を立てるから、早く支払って来なさいよ」

「……おう、了解だ」

 

 兄さんがカウンターに向かっていきます。やっぱり兄さんと彼女達の関係は羨ましいですね。私は三人をもう一度よく観察します。

 槇島さんは、肩を落として凹んでいますね。……本当に中学三年生だったのでしょうか? 槇島さんには悪いのですが、私は兄の肩を持ちます。高校生もしくは、大学生に見えます。身長はもちろんですが……なんでしょうか? あの胸は、うちの社長が見たら絶対スカウトする様なスタイルの良さです。まあグルグル眼鏡に今の格好ではあり得ないでしょうが……もし、ちゃんと着飾ったら、兄さんの好みにぴったりになるんじゃないでしょうか?

 次に五更さんは、やれやれ仕方ないわねという様に肩をすくめて、兄を見送ってます。この人は、ほんとに美少女ですね。コスプレに負けてない、というよりコスプレ姿が本当にしっくりきます。なんのコスプレなのかは、私には分かりませんが、読モをやっている私の目から見ても、この人のコスプレは似合っていると思います。そんな美少女の兄さんを見つめる目は、とても優しげです。

 最後に桐乃は、兄さんと槇島さんのやり取りを見て笑ってます。桐乃は兄さんを、兄さんは桐乃を、それぞれとても信頼している様に思えます。桐乃はもしかしたら、オタク趣味を隠す以外に……私に兄さんと会っていた事を隠したかったのかも知れません……もし、そうなら……

 

「皆さん……」

「なんでござる?」

「さっきのが、ラストじゃなかったの?」

「んっ、なに、あやせ?」

 

 私は声を潜めて、彼女達に伝えます。

 

「兄さんをとっちゃ、ダメですよ♪」

「なあっ!?」

「はぁっ!?」

「えぇー!?」

 

 私は彼女達の驚く声を尻目に、レジにいる兄に向かって歩き出します。

 きっと彼女達が兄さんに感じているのは、友愛だと思います。でも、これからもそうだとは限りません。みんな何処と無く兄さんに惹かれている様にも見えます。……特に桐乃が怪しいです。

 これ位の牽制は許されるんじゃ無いでしょうか。

 だって将来はともかく、今はまだ、私が兄さんの一番でいたいのですから!

 兄さんは、普段はだらしなくて、ちょっとエッチで、いつも手の掛かるダメダメなんですが……私が困った時や泣いている時は、本当に一生懸命、それこそ自分の事を顧みずに、私の為に動いてくれます。

 境内に息を切らして現れる兄さん、私と桐乃の為に精一杯説得をする兄さん、私の事を誰よりも大事だと叫ぶ兄さん。

 そんな兄さんだから……

 いまレジで店員さんに謝っている後ろ姿を見ながら、私は思います。

 

 

 私の兄さんがこんなに格好いいわけがないですよね!!

 

 




これにて、この作品は一旦完結にさせて頂きます。
あやせに桐乃がオタクバレした時に、京介があやせサイドだったらどうなるんだろうと思い書いたものだったので。

この作品を評価してくれた皆さん
誤字報告をしてくれた皆さん
感想をくれた皆さん
お気に入り登録をしてくれた皆さん
みんなの応援があり、ここまで書いてこれたと思います。
本当にありがとうございました。


……何か思いついたら、また書いてしまうかもしれませんが
おっと蛇足蛇足
それでは、皆さま、またどこかで

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