俺の妹がこんなに優等生なはずがない   作:電猫

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第3話

「はぁー、噂では聞いていたけど凄えな」

 

 駅構内には、アニメやゲームの告知ポスター。ビルには巨大美少女の垂れ幕が掛かり、道を歩けばメイドさんがチラシを配っている。

 俺はいま秋葉原、通称アキバに来ている。この街に来たのは初めてだ。

 テレビや友人の話では聞いていたが、百聞は一見にしかずという言葉がよく分かった。アキバまさにオタクの街である。

 俺はオタクではない。親や妹がオタク文化を嫌っているので接点が少ないのだ。ただ親や妹がオタク嫌いであっても、俺はオタクに偏見はない。方向性はどうあれ情熱を持っている熱い人間が俺は好きだ。ゲームやアニメに熱中している真剣な人を否定しようとは思わない。まあ自分がオタクになろうとは思わないが。

 そんなわけでオタクに偏見が無いだけの一般人の俺がこの街に来たのは理由がある。もちろん観光に来たわけでもない。この街に用事を求めて来たのだ。

 その理由は数日前にさかのぼる。

 

「あやせ、ちょっと頼みたいことがあるんだけど、いま大丈夫か?」

「何ですか、兄さん?」

 

 洗濯物事件から悪かった妹の機嫌も回復したので、前に思いついたことを実行しようと思ったのだ。

 

「ちょっとこれかけてもらえるか?」

「これって、メガネですか?」

「そうそう伊達メガネ」

「伊達って、何でそんなもの持っているんです? まあいいですけど」

 

 特に気にした風もなく、言われた通りに眼鏡をかけてくれる妹。

 女神が降臨した! 素晴らしい! ハラショー! コングラッチレーション! 頭の中でラッパの音が高らかに響きわたった気がした。

 たしかに似合うと想像していたけれど、実際に目の前でしてもらうと、それは想像を遥かに超えた美の化身が現れた。

 こんなものを見せられたなら、もう辛抱たまらない。

 

「に、兄さん!? どうしたんですか!? 鼻息を荒らげて近づかないで下さい」

「あやせ、た、頼む!」

「ひっ!?」

「お前の」

「嫌ぁーーーーーーーーーーーー!!」

 

 涙目で後ずさる妹の右脚がブレた。

 次の瞬間、左側頭部に衝撃が走った。

 

「ぶっぐはぁっ」

「ひどい兄さん、実の妹に何をしようとしたんですか!? いえ、言わなくていいです。きっとイヤラシイ事に違いないですから。セクハラ魔人! 変態!」

 

 罵倒を浴びせ、あやせは立ち去ってしまう。

 ただ俺はその姿を写真に撮らせて貰いたかっただけなのに……

 その出来事の後から妹は口をきいてくれない。というか避けられ続けている。こうなってしまうと、今迄の経験からしばらく放置して嵐が過ぎ去るのを待つしかない。

 それでも一度あやせのメガネ姿を見てしまうと、何としてでも写真に収めたいと思う願望が抑えきれない。しかしいまの状況では勿論、たとえ機嫌が良くなっても二度とメガネをかけて貰えると思えなかった。

 そんな落胆していた俺に救いの神が舞い降りた。

 メガネ姿に写真加工出来るパソコンソフトがあるというのだ。しかも眼鏡の種類も豊富に選べるらしい。

 そのことを知った俺の脳裏にフチなしフレームや銀ブチ、丸メガネなど多彩な眼鏡をかけるあやせの姿がうかんだ。

 その素晴らしい発明をした開発者には個人的にはノーベル賞を授与して上げたい。

 ただしそれは近くの電気屋なんかには売っておらず、秋葉原にしかなかった。そのことを知った俺が取る選択肢はただ一つだった。

 

 そんなわけで俺は一部の人間達の聖地までおもむき、無事目的の商品をゲットしたわけだ。

 商品を手に入れたらこの街に用はもうないのだが、せっかく来たのだから少しぶらついてみようと思う。もう来ないかもしれないし。

 キョロキョロと辺りを見渡しながら歩いているとちょっと浮いている美少女がいた。

 肩を露出させ、ミニスカートの垢抜けたファッション姿をしている。ここが渋谷や原宿なら違和感なかったのだろうが、アキバでその姿は俺の注目を集めるのには十分だった。

 普通ならそれでも『この街にもオシャレな格好で来る奴もいるんだな』くらいの感想を持つ程度だったのだが、その相手が知り合いだった。

 いや正確に言うと知り合いと呼べるレベルではないだろうけど。なにせこの間家で少しだけ挨拶した妹の友人なのだから。

 挨拶交わしただけの妹の友人を街で見かけました貴方ならどうしますか? 俺の答えは見つからないよう、そっとその場を離れるだ。だってそれが正解だろ兄妹の友人なんかに急に話しかけられてみ、困惑するに決まってる。だからこのまま立ち去れば良い訳だ。

 実際に俺はそうしようとした、少女の表情を見るまでは……

 少女は暗い顔でうつむいて歩いていた。俺の目には泣くのを我慢して強がっているように見えてしまった。

 

「あー、もう、仕方ねえな」

 

 俺は頭をがりがりと掻きながら少女に声をかけた。

 

「えーと、すみません。覚えてますか?」

「は? 何ですか? ナンパなら消えてくれますか。いま凄く気分悪いから」

 

 うぉ、凄え冷たい視線が返ってくる。ゴミを見るような眼だ。

 思わず『すいません』って立ち去りそうになっちまった。

 まあ覚えてるわけないよな。しかもこんな街で急に話しかけられたらナンパって勘違いされるよな。はぁー心が折れそうだ。

 

「いや、君、妹のあやせの友人だろ? 俺はあいつの兄貴なんだけど。この間家で会ったの覚えてないかな?」

「……あ、お兄さん!?」

 

 少女の訝しげな顔がキョトンとした表情に変わった。

 良かった。どうやら覚えてもらっていたようだ。

 一段階目はクリア、これからが大変なんだけどな!

 

「それでどうしたんですか?」

「いや、たまたま見かけてね」

「そうですか……」

 

 彼女は相手をするのが嫌そうな気配を発する。

 やっぱりそうなるよな。一度会っただけの男それも年上に街中で急に話しかけられたら警戒するよな。しかしここで後に引いても仕方ない、怖気付くな俺!

 

「愚痴っていうのは、結構口にするだけでストレスの発散になるらしい」

「はぃ?」

 

 彼女は意味がわからないといった表情を浮かべる。突然こんなこと言われたら誰だってそうなる。だが、気にせずに俺は言葉を続ける。

 

「でも、愚痴を言う相手は誰でもいいってわけじゃあない。近い人だと、下手をすれば自分の評価を下げてしまうかも知れない。とはいえまったくの他人に急に愚痴を言えるわけもない」

「……それで?」

「たとえば、友人の一度だけ会っただけの兄貴なんかは手頃だとは思わないか?」

 

 俺が言いたいことを理解したのだろう。彼女は顎に手を当てて考え込んだ。

 

「お兄さんからあやせに伝わる可能性があるのでは?」

「いやいや、妹の友人に愚痴を聞かされたなんて信じないだろう。仮に信じたとしても『ちょっと会っただけのお前の友人に愚痴を聴けるくらい仲良くなったぜ』なんてあやせに言ってみろ。俺は殺されるぞ」

「お兄さんにあたしの弱みが握られてしまうのでは?」

「たとえお前の弱みを握って脅したとしても、あやせに脅した事がバレたら、やっぱり俺は殺される」

「ふふっ、あやせ怒ると怖いですもんね」

「おう、そうだ。そんな命知らずのことは怖くて俺には出来ん」

 

 話しているうちに緊張がほぐれたのだろう、少女が微笑する。

 彼女の笑顔を見て、俺もホッと一息ついた。

 

「でも、お兄さんなんであたしに愚痴を言わせようなんて思ったんですか? それこそ妹の友人なんて他人みたいなものですよね?」

「あー、えっと、それ言わないとダメか?」

「ダメです! あたしの愚痴を聞かせろって言うなら隠し事は無しです」

 

 はぁーこれは将来俺の黒歴史になること間違い無いと思う。だけどこいつは黙秘を許してくれそうにない。

 仕方ねえ! 目線を逸らしつつ頬を掻きながら彼女に応えた。

 

「あー、何つうか。お前の顔が強がっていても今にも泣きそうな様に見えたっていうか。ほっとけなかったっていうか……」

 

 は、恥ずっ!? なにこれ言葉にするとこんなにも恥ずかしいの。いま絶対に俺の顔赤面でとんでもないことになっているだろこれ!

 

「……お兄さん、あたしのこと口説いてますか?」

「口説いてねぇー!! だから言いたく無かったんだよ! 俺も言ってて口説いている様にしか思えなかったよ! こんちくしょう!」

「プッ、アッハッハッ、お兄さん人良すぎでしょ」

 

 そこには腹を抱えて大笑いをしている少女がいる。笑いすぎのせいか耳まで真っ赤になっている。

 しかしこれは俺が弱みを握られてしまったのではないだろうか……

 

「うっせー、これが性分だ。で、どうすんだ? 笑い続けるならこのまま帰るぞ」

「ヒィヒィ、ごめん。はぁー笑った。正直スッキリしたけど、せっかくだから愚痴らせてもらうわ」

「へいへい、了解ですよ」

 

 言葉通りにスッキリしたのだろう。彼女から俺に対しての敬語が無くなり、立場すらもいつの間にか逆転している気がする。

 きっとこちらが彼女の素なのだろう。まあ下手に気を使われるよりも、こっちのほうが付き合いやすい。それに立場が下なのは妹で慣れてるしな。

 

「お兄さん、そういえば名前聞いてなかったよね。名前は?」

「気が付いたなら自分が先に名乗らないか普通? まあいいけど、新垣京介だよ」

「京介ね。おぼえた! あたしは高坂、高坂桐乃。よろしく!」

「いきなり呼び捨てかよ! 高坂ね。よろしく」

「桐乃でいいわよ。あたしも京介って呼ぶし! ニッヒッヒ、それじゃあしっかり愚痴らせてもらうから」

「……お手柔らかに頼む」

 

 高坂、いや桐乃は無邪気な笑みを浮かべる。

 やれやれ、どんだけの愚痴を聞かされる羽目になるのやら。まあ仕方ない先にこんな笑顔っていう報酬貰っちまった以上は、その分しっかりと働かないとな。

 桐野の微笑を見つめながら俺は肩をすくめた。




原作にどう近づけようか考えたらこうなりました。
ちなみにメガネの写真加工はアプリが実際にあるようです。
京介なら絶対に入手しているに違いない(笑)
次も投稿頑張ります。
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