俺の妹がこんなに優等生なはずがない   作:電猫

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第29話

「う〜〜、酷え目にあった」

 

 引っ掻かれた上に引っ叩かれた俺の顔は大丈夫だろうか? その前も往復ビンタされたし…アンパンマンみたいになってねえよな?

 

「自業自得です」

「けっ、それくらいで許してやったんだから感謝しやがれ」

 

 流石に死を覚悟したのだが、加奈子には飯を奢る。あやせには一回なんでもいう事を聞くという約束をしたおかげで、なんとか五体満足で切り抜ける事が出来た。十分な成果だろう。まあ顔は痛いけどな。

 とりあえずせっかく許して貰ったんだから、話が蒸し返されないように話題を変えておこう。

 

「しっかし加奈子、まさかお前がコスプレ大会に出てくれるなんて思わなかったぜ。いったいあやせにどんな脅しをされ……いやすまん、なんでもねえ」

 

 ジロッとあやせに睨まれ、俺は慌てて言葉を途中で遮った。そんな俺の態度に加奈子が小馬鹿にした様に笑う。

 

「相変わらずあやせには頭あがんねーのな。ひひっダセェ」

「うっせえよ」

 

 あの眼光に睨まれたなら、誰だってビビるっつうの。

 

「あれ? そういゃ、なんで京介がここにいんだ?」

 

 笑っていた加奈子が何かに気がついたかのように不思議そうな顔をして、首を傾げ疑問を投げかけてくる。

 

「なんでって、お前の応援に来たんだけど? そんなに意外か?」

 

 まあ妹の友人の応援に駆けつけるっていうのは珍しいかもしんねえけど、知らない仲じゃねえし、あやせと一緒ならそこまでおかしく無いと思うけどな?

 

「いやよ、それは感謝すっけどよ……プレゼント受け取る筈のてめえがなんでって言いてぇっつうか…………あーーあやせって、サプライズとかしない派?」

 

 プレゼントを俺が受け取る? サプライズ? 何の事だ?

 俺の顔を見ながら眉間に皺を寄せていた加奈子が、微妙に納得いかないといった表情であやせに問いかけた。

 

「い、いえ、そ、それはですね、加奈子」

 

 加奈子の言葉に挙動不審気になるあやせ。

 あん? なんかあるのか?

 あやせと加奈子の話が分からず俺がきょとんとしていると、難しい顔していた加奈子がはっとした表情で俺とあやせの顔を交互に見比べる。

 

「うげぇっ!? もしかして京介があやせに大会出てくれって頼んだとか? それだとマジでドン引きなんだけど! ちょーきめぇしっ!!」

 

 そう言いながら俺に対して虫ケラを見るような目付きをして、後ずさる加奈子。

 俺があやせに頼んだ? いったいなんの事だ? いや、マジで引かれる理由が分からねえ。

 

「あぁーっ? いきなり訳わからないこと言ってドン引きってなんだよ!」

「違います、違いますよ、加奈子!? 私、サプライズしない派なんですよ!! 兄さん、後で説明しますから」

 

 話も分からないまま貶されるのは納得がいかねえから加奈子を問い詰めようとしたところ、あやせが大慌てで俺たちに割って入ってきた。

 

「えーーマジかよ。こうゆうのってサプライズ重要じゃね?」

「う、家ではサプライズとかしないんですよ」

「げえー、それってマジつまんなくね」

「いいんです。家には家のルールがあるんですよ」

 

 やはりあやせと加奈子の会話が分からない。

 

「なあなあ、あやせ、さっきからサプライズって何の事なんだ?」

「兄さんは黙っていて下さい!!」

「はいっ!?」

 

 あやせの剣幕に思わず背筋をピンと伸ばしてしまう。その姿にまたせせら笑うクソガキ。

 

「くけけっ、ダセェ。しっかし京介も察し悪いよな。だからあやせがこの大会の商品を……」

「加奈子も黙って下さい!!」

「ヒイッ」

 

 やっぱりあの声には逆らえねえよなあ。ほら、お前も一緒じゃねーか。

 

「おぃ、京介、今日のあやせなんか理不尽じゃね? 不当な暴力には加奈子様は決して負けねえからな」

「ああ、お前にしては凄え良い覚悟だ。…後はその台詞を俺の背中に隠れず言ってれば完璧だったな」

 

 あやせの態度にびびった加奈子が俺の背後に逃げ込んできた。

 

「いいから加奈子様の盾になってろよ。あやせを化物みたいに恐ろしく育てた責任とれよ」

「おいっ、俺の妹を化物なんて言うんじゃねえよ。…まあおっかねえのは認めるけどよ」

 

 俺たちがボソボソと言い合っていると……

 

「兄さん、加奈子、な・に・か・い・い・ま・し・た・か?」

 

 あやせ様がにっこりと微笑んでいらっしゃりました。

 

「「イイエ、ナニモイッテマセン」」

 

 ピンと背すじを伸ばしてあやせに向き直ったおれ達は完璧なシンクロをみせた。

 

「はぁぁー、まったく……。時間も無い事ですし、加奈子はこれに着替えて下さい」

 

 そんなおれ達の姿にあやせがため息を吐いた後、鞄から本日のメインであるメルルのコスプレ衣装を取り出し、加奈子に突きつけた。

 

「へいへい、了解、了解っと…………おえっ、つぅーか、マジでこれ着んの!?」

 

 仕方ないといった態度で衣装を受け取った加奈子が驚きの声を上げる。

 あやせがいま手に持っている衣装はピンクと白を基調とした可愛らしい衣装である。幼稚園や小学校の低学年の子が着ていたら、さぞかし微笑ましいのだろ…………いや、なんだ、よく見るとスカートも超ミニだし、アウターも凄く短いからアレだと少なくともヘソは丸出しである。なんだ、その、さっき考えた小さい娘が着ていたらっていうのは撤回しよう。なんだか犯罪っぽい気がしちまう。う〜〜ん、今更ながらだけどメルルって本当に女児向けアニメなのか?

 

「あはははははは、あやせー、いまから無しっつうのは……」

 

 俺がメルルについて改めて思考している中、加奈子が思っていた予想を上回る物が飛び出してきた為だろう、引きつった笑いを浮かべながらあやせから後ずさって行く。

 もちろん我が家の妹様が逃亡など許すはずもなく。ガシッと衣装を持つ反対の手で加奈子の肩を掴み上げる。

 

「うふふふっ、ダメですよ、加奈子」

「ちょっ、待て、その服はヤベェだろ!?」

「さあ〜加奈子~脱ぎ脱ぎしましょうね〜♪」

「話きけよっ! うひゃっ、ど、どこ触ってんだよ!?」

「ごめんなさい。手が滑っちゃいました〜♪。あっ、また」

「うみゃっー、キャンセル、キャンセルすっから」

「ダメですよ加奈子。約束したでしょ」

「や、約束、そうだ。奢らなくていい、奢んなくていいからっ!」

「いえいえ、大丈夫ですよ。しっかりと奢りますから、ええ、なんだったら、10回ケーキ奢りますよ。だからね……」

「10回! マジでっ!? って待った。それでも割に合わなくね? やっぱ止め……ウギャー、服に手を突っ込むんじゃねーー!? つうか京介、助けろ! お前の妹がおかしいぞ!!」

 

 あやせが妙に楽しげだ。最初は加奈子を逃がさない為に、いつもの迫力のある笑顔だったのに、加奈子に迫っているうちに浮かれた表情に変わっていく。あやせがこんなに浮かれた表情を浮かべるのは滅多にねえぞ。

 妹のあまりの変化に唖然と加奈子が剥かれていくのを眺めていたが、加奈子の叫びに我に返ったのかあやせがピタッと手を止め俺を睨みつける。

 

「に・い・さ・ん・いつまでここにいるんですか?」

「おっ、おお。わ、わりい…」

 

 妹の軽蔑の眼差しから逃れるべく、俺は慌てて更衣室を飛び出した。

 本当は軽蔑というよりも殺気を感じて逃げたが正解だが。

 

「待て、京介逃げんなっ! マジで待って。助けろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーー!!」

「アハッ、加奈子、さあ、着替えましょうね♪」

 

 ドアを挟んだ向こうから加奈子の魂の叫びと妙に嬉しそうなあやせの声が聞こえた気がする。

 …きっと気のせいだよな。家の妹がそんないかがわしい真似するはずないしな……ははっ。

 部屋の中から聞こえる喧騒に俺はそっと耳を塞いだ。

 ……加奈子に今度奢ってやる飯は豪勢にしてやろう。

 

「兄さん、もう入っても大丈夫ですよ。なんで耳を塞いでいるんですか?」

 

 何分経ったのだろうか? 俺の感覚だと凄え長く感じたんだが……

 ドアを開いたあやせが俺の姿を見て不思議そうな表情を浮かべている。…なんか肌ツヤ良くなってねえか、こいつ?

 

「んっ、いや、なんでもねえ。気にしないでくれ」

 

 まあ深く突っ込むのは止そう。俺はあやせに軽く手を振りながら、許可が出た控え室に足を踏み入れた。

 やっべえな!? マジでやべえ!!

 俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。そこにメルルがいた為だ。似てるとは思っていたけどよ、これはもうコスプレの域を超えてんじゃねえか? そう思ってしまうくらい加奈子にメルルコスは似合っていた。

 加奈子自体の素材はもちろんだが、コスプレ衣装のクオリティも高い。あやせが手に持っている時は少し如何わしさを感じてしまったのだが、こいつが着るとピッタリと調和するのだ。まさに加奈子の為だけに誂えた完璧な代物。黒猫の弟子としての実力を見せつけられた気分だ。

 黒猫……そうだよな、あいつの弟子って事になるんだよな。あやせ……厨二病にならねえよな? ま、まあ、今回だけだろうし、大丈夫だよな、うん。コスプレ衣装の出来栄えの良さに不安感を覚えてしまったが、よくよく考えてみればオタクを嫌っているあやせが黒猫みたいになる事はねえだろう。

 あやせの黒猫化の事はとりあえず棚上げして、加奈子に戻るが、さっきは絶賛したけど完璧なメルルというには今の加奈子には残念ながら一点の曇りがあった。それは彼女がぐったりとしており、虚ろな目で椅子にもたれ掛かっている事である。表情に力は無く、その姿はどう見ても愛と希望に満ちた魔法少女としては失格であった。

 あやせ…いや、ほんとに、何をやっていたんだよ。

 

「ううぅ、京介……」

 

 俺の存在にようやく気がついた加奈子が力無く右手を伸ばした。その悲壮な姿に俺は思わず駆け寄り、その手を掴む。

 

「ど、どうした、加奈子?」

 

 弱弱しい声で加奈子が呟く。

 

「…この…裏切り者…」

「……すまん」

 

 裏切ったつもりは全然ないが、俺は素直に謝った。だってよ、あの加奈子が怒鳴りもせず涙目で睨んでくるんだぜ!? 罪悪感も湧いてくるってもんだ。というかあやせナニをしたんだ? マジで恐ろしい。俺はこの事態の元凶である妹へ振り返った。

 

「どうですか、兄さん? 凄い似合ってますよね? かわいいですよね?」

 

 目をキラキラさせて問いかけてくるあやせ。

 あー、この目はあれだ。桐乃、黒猫、沙織…あいつはぐるぐるメガネでわからねえか、とにかくあいつらが好きな物を語る時と同じ状態だ。つまり止めようが無いって事である。

 

「…ああ、似合ってる」

「ですよね、ですよね♪」

 

 嬉しそうに微笑んでいるあやせと目のハイライトが消えている加奈子。凄えギャップである。

 …あやせのブレーキが壊れてしまった以上、加奈子が気持ち良く大会に臨めるようにフォローしてやらねーとな。

 

「あーー、加奈子、その、大丈夫か?」

「これが大丈夫に見えんのかよっ!? てめぇの目は節穴か! くそっ、なんで加奈子様がこんな目に…そもそもこんな衣装似合うわけねーだろ!」

 

 なんとか精神的に復帰を果たしたのであろう加奈子が悪態をつく。

 

「あー、すまん。大丈夫には見えねぇ。だけど衣装に関しては凄え似合ってるぞ、加奈子」

「テキトー言ってんじゃねーよ。こんなコスプレ似合うわけねーだろ!」

「いやいや、マジでチョー似合ってるって。なあ、あやせ」

「そうですよ加奈子。凄い似合ってます。本当に可愛いですよ」

「はぁーー、マジかよ!? まあ二人がそこまで言うなら信頼してやってもいいけどよ。…でもよ、これどう考えても短くね?」

 

 俺たちの褒め言葉に気力を取り戻したのか? 加奈子が服の裾を掴みながら疑問を投げかける。

 

「だからそういう衣装なんですよ。さっきからとても似合っているって言ったじゃないですか?」

「だってよ、さっきのあやせ息荒げて『かわいいーー』つって抱きついてきたり、信用できねーっつうか、恐かったしよ」

「えぇー恐いって、加奈子酷くないですか?」

「酷えのは、さっきまでのテメェだっ!!」

 

 どうやら無事いつもの加奈子に戻ったようだ。これで一安心である。とりあえずあやせの援護に回るか。俺は携帯を取り出しメルルの画像を検索して加奈子に見せた。

 

「マジでそんな衣装なんだよ。ほれ見てみ」

「うげっ、マジだし。ガキの見るようなのがなんでこんなに露出度たけーんだ?」

「知らねーよ。アニメ作った奴に言えよ。まあとにかく似合ってるのは嘘じゃねーよ」

「そうですよ。加奈子とても似合ってます♪」

「ウゲェー、そうかぁ? あんま似てなくね?」

 

 どうやら加奈子には不満らしく顔をしかめている。まあアニメキャラに似ているってのは正直嬉しいかっつうと微妙だからなー。だがここで臍を曲げられるのは困る。俺はあやせと目を合わせた。

 

「いやいや、ほんとに似合ってるって」

「そうです。そうです。とってもかわいいですよ加奈子」

「そっ、そっかぁ?」

「ああ、加奈子なら間違いなく優勝できるぜ!」

「そうですよ。私だと絶対に優勝出来ないですけど、加奈子なら出来ます! だって、スッゴクかわいいですから」

「うへへへっ、そんなにかわいい? いや、知ってたけどよ」

「ほらっ、加奈子、この杖持って下さい! ほらっ、ものすごくかわいい! あとはこの動画の通りにしたらもう完璧ですよ。優勝間違いなしです!」

「え〜〜〜、仕方ねぇな。これやればいいんだろ? こんなん加奈子様にかかれば楽しょーだぜ!」

 

 やっべぇー、あらためてこいつチョロ過ぎる。このアホ娘、危ない勧誘とか引っかからねえか?『君かわいいね。芸能界興味無い?』とか簡単に引っかかりそうなんだが……。うわぁー不安になってきた。

 俺がこいつの将来を不安視して眺めていると、動画を見終えたのか、加奈子が話しかけてきた。

 

「そういやさ、京介」

「あん、なんだ?」

「おめえは加奈子様に言うことねーのか?」

「言うこと?」

 

 なんかあるか? 感想はさっき言ったしな?

 俺が首をかしげると加奈子が眉をひそめる。

 

「察しの悪いヤローだな。加奈子様がスペシャルな姿見せてやってんだから、もっと褒めたたえろってことだよ!」

 

 おいおい、凄えこと言われたぞ!? 普通自分の事を褒めろなんて言うか? それにさっきからかなり褒めてたぞ俺。

 加奈子のあんまりな発言に俺が固まっていると、困った表情をするあやせと目があった。…仕方ねえな。任せておけよ、あやせ。こいつのリクエストに見事に応えてやるからよ!

 しかし俺の決意が遅かった為、答えようとする前に加奈子が不機嫌さをあらわに吐き捨てた。

 

「ちっ、使えねー。褒め言葉すら出ねえのかよ。ふん、まあけど京介の意見なんか関係なく、加奈子様は超かわいいしな」

 

 固まってしまった俺が悪いかもしれねえけど、少しは待てよ、お前は。

 

「おいおい、ちょい遅れた位で拗ねんなよ。お前のお望み通り感想言うから」

「別に拗ねてなんかねーし、感想なんかいらねーよ。……まあ京介がどうしても言いてえなら聞いてやってもいいけどよ」

 頬を掻きながらチラッとこちらを見る加奈子。本当に素直じゃねー奴だよ。

 

「へえへえ、聞いて下さい加奈子様。はぁー、よし…まずはさっき言ったけど凄え似合っている。素直に言ってかわいいな、間違いなく美少女だ! お前ならマジに優勝できんじゃねーかと思うぜ」

 

 なんだ? あやせも加奈子も目を丸くして驚いた顔している。俺の答えがそんなに意外か? 加奈子は顔立ちも整ってるし、間違いなくかわいいと思うぞ。こいつの外見は道で会ったら振り返る位には美少女だ。ああ間違いねえ、美少女…小学生だな。これは言えねえけどな。

 

「だ、だよなぁー、知ってっし! 加奈子様がかわいいのは当たり前だしな! にっひひ、オメェー意外といい奴だな♪」

 

 ポカンとした顔から上機嫌に笑う加奈子。そして何故か未だに固まったままの我が妹。

 

「おう、おう、京介、もっと褒め称えていーんだぞ」

 

 調子に乗ってくる加奈子。まだ褒めたりねーのかよこいつは、仕方ねえな。

 

「そうだな、アニメの中から飛び出してきたとしか思えねーくらいにかわいい。コスプレエー、っう、ゴホッん、あ、あれだ女優なんかよりよっぽどかわいいぜ!」

「だべ、だべ、うっへへ、京介わかってんじゃん!」

「………………」

 

 あ、あぶねーコスプレAV女優なんて言ったら、あやせに家探しされた後に殺されてたぜ。大丈夫か? 恐る恐るあやせを見るとまだ呆然としている。どうやら気がつかなかったようだ。助かった〜〜。

 胸を撫で下ろしていると、いつのまにか近寄ってきた加奈子が相好を崩し、俺の背中をパシパシ叩く。

 

「いや〜、京介マジわかってんな、流石の加奈子様も芸能人よりも綺麗だなんて、初めて言われたぜ。うへへ〜♪」

 

 言ってねーーー!! まずはかわいいと言ったが綺麗とは言ってねえ。そして芸能人じゃなくて比較対象はコスプレAV女優だ。口に出せないツッコミを心の中に押しとどめる。

 …まあなにはともあれ、加奈子がここまで上機嫌になったんだ。完璧な仕事振りだったろ、あやせ。俺は妹にアイコンタクトを送る。

 

「………………………」

 

 凄いジト目で睨まれた。

 ええっ、これでも褒めたりねーのかよ!? どうするよ、流石にこれ以上褒められねーぞ。…そうだ、桐乃だ! あいつならこの姿の加奈子見たら暴走間違い無しだ。桐乃をイメージして褒めりゃあいいんだ。

 

「もうあれだ、お前のかわいさは次元の壁を突破したぜ。まさに奇跡と呼べる。(きっと桐乃がみたら)かわいさのあまりおかしくなっちまうレベルだ。間違いねー保証するぜ!」

「…………………」

「マジかっ!? そんなにか!? たとえば加奈子様の為になんでもしたくなるとか?」

「ああ、(桐乃なら)きっとなんでもやるぜ」

「!?!?」

「うへー、美しいってのも罪なんだな」

「そうだな、まさにそのかわいさは毒と言っても、痛ッ!?」

 

 足の指先に急激な痛みが走った。

 俺が滑らかに褒め言葉を口にしていると、いつのまにかそばに来ていたあやせが足を踏みつけたのだ。

 

「何すんだよ、あやせ!」

「…………………知りません」

 

 俺の問いかけに頬を膨らませて明後日の方向を向くあやせ。

 どういう事だ? 桐乃をイメージしたから凄く上手く褒められたと思うんだが? 実際に加奈子は超上機嫌だし。あやせの要望に応えたつもりなんだが……そもそもなんでこいつ機嫌悪いんだ? さっきまで加奈子いじって凄え上機嫌だったのに。なんでだ?

 俺が妹の機嫌が急降下した理由を考える暇も無く、あやせは時計を見て加奈子に告げる。

 

「……加奈子、そろそろ時間ですよ」

「おっ、もうそんな時間かよ。おう、京介、しっかりと加奈子様の勇姿を見届けろよ!」

 

 あやせと対比するように上機嫌になった加奈子がニカっと笑いながら俺に指を突きつける。

 

「あ、ああ、頑張れよ」

 

 あやせの事が気になって空返事気味の応援になってしまったが、今の加奈子は気にすることもなく、俺に突き出していた腕を胸に叩きつけ、自信満々に宣言する。

 

「あったりめえだろ。こんな大会楽勝に優勝してやんよ!」

 

 ああ、こいつこんな良い笑顔するんだな。

 自信に満ち溢れた加奈子の優勝宣言に俺は見惚れて動きが止まってしまう。

 そんな俺とは対照的に焦った様子で加奈子の背中に回るあやせ。

 

「さっさっ、早く行きますよ、加奈子」

「わ、わかったって、そんなに急かすなよ、あやせ」

 

 平らな胸を堂々と張る加奈子の背中をせっつく様にあやせが押していく。その時も決して俺に視線を合わせようとしない我が妹。流石に不安に駆られた俺はあやせに呼びかける。

 

「な、なあ、あやせ?」

「………………………兄さんのバカ」

 

 俺の呼びかけに部屋を出ようとしていたあやせはちらっと視線を向けた後、何かをボソッと呟いて、そのまま加奈子を押しながら去ってしまう。

 あやせが何を言ったのかは声が小さくて聞き取れなかったが、機嫌が悪いままなのはあきらかだった。

 今回はなんであやせが怒ってんのか、マジでわからねえ。誰か俺に教えてくれよ……

 俺は肩を落として二人の少女が出て行ったドアに向かい重い足取りで歩き出した。




約半年ぶりの投稿に…すみません…
まだ待っている方がいたのなら感謝です。

今回のあやせの暴走ですが、原作読んだら桐乃だけじゃなくて加奈子相手でも発動していたんですね。
あやせは友人愛が深いなぁ~~(棒)
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