俺の妹がこんなに優等生なはずがない   作:電猫

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第31話

「行っちまったな…」

 

 俺はあやせに連れていかれる桐乃の姿を茫然と見送った。歓声に包まれている会場内だと会話なんかは聞こえる筈はもちろんないが、遠目にも凄くパニクっていた桐乃の姿を見ればあやせとやりとりの内容は想像が出来てしまった。先程まで…たしか前回の優勝者ブリジットちゃんだっけか? 彼女の演技を見て幸せの絶頂にいた桐乃とのギャップが大きすぎて、あやせにドナドナされて行く彼女のうしろ姿に哀愁を感じてしまった。

 人混みに消えていく彼女達の姿を見つめ、俺は桐乃に合掌をした。

 

「すまん、桐乃。俺には止められなかった」

 

 桐乃がいる方向に謝りながら、だけど心の中では言い訳をしてしまう。

 だって仕方ねえだろ、あれ!? あんな風になったあやせを止めるなんて不可能だよなっ! 笑ってるんだけど目が笑ってない…っていうか、瞳から光彩が消えて虚ろな眼差しで……笑顔ってあんな怖いものなのか? どうしてうちの妹はあんなにおっかないんだよ!? あやせの恐ろしさと桐乃がどうなるかが気になって、ステージ上の内容なんて頭に入ってこなかったからな…

 

「…さて、どうするか?」

 

 俺は大きく深呼吸をして頭を落ち着かせる。会場の熱気にあふれている空気は微妙に汗臭い気がして、深呼吸には不向きだったが…まあとりあえず落ち着いた。

 俺はこの後どうするべきだろうか? やっぱりあやせ達に合流する方がいいんだろうか?

 

 ➾合流する

  合流しない

 

 あれだよな。きっと桐乃は俺に助けを求めてくるよな…

 

「京介…あたしが悪かったから…お願い助けて」

「な、なあ、あやせ。桐乃も、そのなんだ。反省してる事だしよ、許してやれねえか?」

「助けてってなんですか! 助けてってっ!! 私はただ桐乃に…それに兄さんはやっぱり桐乃の味方なんですかっ!?」

 

 余計揉め事を増やしちまいそうな気が…俺の脳裏に夏の日の悪夢が蘇る。

 

 万一そうなっちまったら、桐乃へのプレゼントどころじゃねーよな。それに加奈子に無理言って参加してもらったのにあいつを放置する訳にもいかねえしな。それにもしかしたら演技終えた加奈子が俺達探しに来たりするかもしれねーし、その場合桐乃のあの格好じゃあ…加奈子に100%オタクバレしちまうよな。

 

 なら選択肢は…

 

  合流する

 ➾合流しない

 

 こっちが正しいルートに間違いないな。バッドエンドやデッドエンドは回避しねえとな。

 

「京介氏…立派に成長されてるでござるな」

「はぁー、見事なまでにスイーツに洗脳されてるわね。そうね…どうせ堕ちるなら、こちらの世界に堕天して来なさい。歓迎するわよ。漆黒の堕天使(京介)!」

 

 脳裏に腕を組んでウンウンと首を上下させている沙織、そして溜め息をついたあと斜に構えた笑顔を浮かべ、俺に右手を差し伸べてくる黒猫の姿が脳裏に浮かんできた。

 

「……兄さん」

 

 ち、違うから、俺はオタクじゃないからなっ!? ただ桐乃が寄越すギャルゲー…いや、アドベンチャーゲームの影響を少しだけ受けちゃっただけだから、だからそういうのじゃないから…俺はジト目をする脳内の我が妹に弁明をする。

 

 …いや、俺は何をやっているのだろう。我に返った俺は頭を左右に軽く振る。

 想像で百面相をしていた俺はさぞかし奇異な存在だったのだと思う。頭抱えたり、ブツブツと呟いていたり…いや、たぶん声には出してない筈だ。うん、たぶん。

 心なしか俺の周りのスペースに余裕が出来た気が…きっと気のせいに違いない。横目でチラッと確認すると、サッと目を逸らされた気がするが、それも気のせいだろ。だってこんな騒がしい場所で俺のような凡人に注目するやつなんていないだろ、なあ? …みんなもっとステージに注目しようぜ。いや、して下さい、お願いだから。

 視線の圧力を無視して、背中に汗をかきながらも俺は極力何もなかった顔をしてステージ上に視点を移す。ステージ上ではコスプレ姿をしたお姉さんが、両手を振りながら宣伝をしていた。

 

「メイド喫茶プリティーガーデンです! 今月の金曜日はコスプレデーでご主人様、お嬢様のお帰りをお待ちしております♪ 帰ってきてくれないと、めてお☆いんぱくとなの〜♡」

 

 あれ? 何処かで見たことのあるお姉さんが…って、あれ、俺たち行きつけのメイド喫茶の店員じゃねーかっ!?

 プリティーガーデンは沙織のおすすめで前に行ってから、その後も皆で何度か利用しているのだ。最近では俺も『メイドさんのらぶらぶオムライス』や『いもうとの手作りカレー』など恥ずかしい名前のメニューにも慣れ、堂々と注文できるようになったのである。…まあ、それがいいことかどうかはわかんねえけどな。

 余談だが恥ずかしさのなくなった俺はプリティーガーデンのメニューで気になっていたあれを注文してみた。その結果は当然のことだが、あれ、つまり『いもうとの手作りカレー』はあやせの作るカレーには全然及ばなかった事を報告しておく。

 ちなみにそれを頼んだ時のあいつらの反応は「京介氏、流石でござるよ」「やっぱりあんたって…マジきもい」「ふっ、貴方の業の深さを見くびっていたようね。煉獄(ゲヘナ)の炎に焼かれるといいわ」と散々な言われようだった。妹の部分に惹かれての注文とはいえ、俺はカレー頼んだだけだぜ。酷くねえか?

 …しかもだ。カレーを持ってくる時に「お待たせ、おにいちゃん♪ 頑張って作ったんだから、全部食べてくれないと怒っちゃうからね、おにいちゃん♪」なんて、今ステージ上のあの店員がダメ押しでとどめを刺してきやがるし…サービスがよすぎるだろ、あの店!? あの後の騒動は正直思い出したくねえ。

 …嫌な記憶はともかくとして、それにしてもお店でのサービスだけじゃなく、こんなとこまで出張してくるなんて働くのって大変なんだな。俺はお店の宣伝の為にメルルコスをする店員さんを眺めながら思った。

 店員のお姉さんのパフォーマンスが終わり、その後は小学生コスプレヤーの微笑ましい姿やいかにもコスプレ慣れした可愛い娘の演技など、何組かの出場者がステージを後にしていたが、トップは未だにブリジットちゃんのままだった。

 というか点数99点て、ほとんど決まりじゃねーか? たしかに加奈子のメルルは本物そっくりだけど、これはキツいよな? あやせは大丈夫って言ってたけど…

 俺が不安をつのらせていると、そんなものは杞憂だとでも言うように、そいつが颯爽とステージに登場した。

 司会のくららさんの呼びかけに、メルルそっくりの甘ったるい声で返事をしながら姿を現したそいつはステージの中央に立つと

 

「星くず☆うぃっちメルルっ!はっじまるよぉーーっ♪」

 

 いきなり会場の度肝を抜いた。

 

 アニメのOPと同じ動作、同じ声、同じ姿で現れたそいつの登場に会場に静寂に包まれる。

 もちろん二次元の存在と全く同じ訳がない。しかしこの会場の多くのお客さんが思った筈だ。『リアルメルルが降臨した』と。なにせその正体を知っている俺でも思ってしまった位なのだから。それほど加奈子のパフォーマンスは凄かった。

 その凄さを説明するのは難しいんだが、要約するとまずこいつ普通に歌が超上手ぇ!? しかも声もメルルそっくりって、普段の声を知ってるだけに信じられねえ。あいつ、どんな魔法を使いやがったんだっ!?

 さらに振り付けが曲に完璧にマッチしてやがる。アニメのOPなんてバトルシーンが流れたりするから振り付けはアイドルソングみたいに決まってない筈だよな? 控え室からこのステージまでの短時間で作ったってのかっ!? あやせや桐乃もハイスペックだと思ってたけど、こいつも規格外すぎだろっ!!

 パフォーマンスだけでも一流なのに姿がメルルうり二つ、正直反則級の凄さである。

 

 加奈子が静寂の中、ステージでサビを歌い終え、決めポーズを決めた時、いままで『これは現実だろうか?』と惚けていた観客が正気に戻り、爆発した。

 

「うぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉおぉーーーっ!?!」

「やべぇーーーーーーっ!? マジでやべぇーーーっ!?」

「メルル? メルルですぞぉぉーーっ!? 三次元にメルル? メルル様が降臨されましたっ!! うひゃっはぁーーーっ!!」

「かなかなちゃーーーんっ!! 最高ぅーーーーっ! メルルっ! メルルっ!」

 

 そこからは加奈子の独壇場であった。手拍子、掛け声、オタ芸、会場はこの日一番の盛り上がりを見せた。いつのまにか俺も拳を天に突き上げてたからな。

 

 その後、結果は見事に加奈子が100点満点を叩き出して『第2回星くず☆うぃっちメルル公式コスプレ大会』の王者に輝いたのだ。

 優勝商品である『EXメルル・スペシャルフィギュア』を受け取り、二位になったブリジットちゃんと握手を交わす加奈子の姿はとてもいい表情を浮かべている。歌い終わったときも気持ち良さげな顔してたし、あいつアイドルとか向いてるのかもな。終了した大会のステージをぼんやりと眺めながら思った。

 

 あれ? そういえばあやせと桐乃は…まだ熱気の冷めやらない会場を見渡すも二人の姿は見つけられない。

 …まだ説教中なのか? …たぶん桐乃は加奈子の見逃したよな。うわぁー絶対に後で文句言ってくんだろな、あいつ。

 たぶんあやせから『EXメルル・スペシャルフィギュア』を受け取って凄え喜ぶだろうけど…それとは別に俺には「なんであやせを止めてくんなかったのよっ!! おかげで…かなかなちゃんのライブ見損なっちゃたじゃないの! あーーーーーリアルにメルルが降臨したのにそれを、それを見逃すなんてぇぇぇぇっぇぇえっーーーー!! あんた責任取んなさいよっ!!!」こんな苦情を言ってくる未来しか浮かばねえー。どうすっかな?

 うーん、いっそのこと桐乃の趣味が加奈子にバレりゃあ、加奈子のことだ、食べ物で釣ればソロライブとか、やってくれそうな気もするんだけどなあ。

 …まあ、それはできねえし、無理だよな。さて、マジで、どうすっかな? あーーー…まあなるようにしかならねえか。

 俺は考えるのを諦めた。

 嘆息を一つ吐いて俺はいまだに戻ってこないあやせの代わりに加奈子をねぎらう為、あいつがいるであろう優勝控え室に足を向けた。

 

 扉を開けるとそこには、だらしなく足を机の上に投げ出し、椅子の背もたれに体重を傾けながら顔を天井に向け、口を半開きにしながらだらけている優勝者の姿が…

 

「あ~~~、くそだりー。マジであのくそオタクどもなんなの? マジきめぇー」

「か、かなかなちゃん。そんなこと言ったら、だ、だめだよ~」

 

 そしてその隣で涙目になりながら加奈子を諫める準優勝者の姿が…

 そこにはさっきまでステージ上にあった優勝者・準優勝者の爽やかな姿などは欠片も見当たらない酷い光景があった。

 さっきの舞台は本当に感動もんだったのに、その後に見せられる姿がこれかよっ!? 俺の感動を返せ!




長くなってしまったので、2話に分けました。
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