俺の妹がこんなに優等生なはずがない   作:電猫

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第4話

「おぉーい、きりりん氏! 良かった。まだいてくださって!」

「へっ? あんた……さ、沙織さん?」

 

 桐乃の愚痴をいざ聞こうとした瞬間に彼女に話しかける人物が現れた。

 なんともタイミングが悪いものだ。肩透かしをくらった気分でその相手を見据え……る。

 とんでもないのがいた。まずデカイ! 180くらいあるんじゃねーか? そして格好もハンパない! 頭にバンダナ、グルグル眼鏡、チェックの長袖シャツで裾をズボンインしている。リュックサックを背負っており、そこからは丸めたポスターがはみ出していた。

 全身から『私はオタクです!』と叫んでいるような女性だ。そう、しかもこんな格好をしているのは女なのだ。

 テレビやマンガなんかに出てくる典型的なオタク姿をした、スーパーモデル体型の沙織と呼ばれた女性。【事実は小説より奇なり】そんなことわざが頭の中をよぎった。

 ぽかーんと桐乃と話している沙織を見詰めていたところ、そのグルグル眼鏡が振り向き俺の姿を捉えた。

 

「きりりん氏、ところでこちらの男性は? 先ほど話されていたようですが?」

「え、あぁ。この人は……」

 

 とっさに応えることが出来ず、口ごもる桐乃。

 それを見て沙織は早合点した。

 

「ふむ、ああなるほど彼氏でござるな!」

「「違ーーーう!?」」

 

 桐乃と綺麗に声がハモる。

 なんて勘違いをしやがるこの女!?

 桐乃が彼女なんて話が万が一にもあやせの耳に入ったら『うふふっ、兄さん! どんな死に方がいいですか? 選ばせてあげますよ?』ほれみろ幻聴が聴こえてきた!?

 

「はて、違うのでござるか? しかし不機嫌に去っていかれたきりりん氏が、先ほどこの方と楽しそうに話されている姿を拙者拝見したので、てっきりオフ会に参加した彼女を迎えに来たのであろうと得心しておったのですが」

「勝手に得心するな!」

「ち、違っ、えっとこの人は……」

 

 つっこむ俺。沙織の問いかけに対して、あたふたしている桐乃。

 まあたしかに俺たちの関係は説明しずらいな。

『友人の兄です』と真実を説明したとしても、なんでこんなところで談笑していたんだって話になるしなぁ。

 まあでもそのまま事実を話すしかないよな。

 

「それは俺が説明しよう。信じて貰えないかもしれないが、俺からすると桐乃は妹の友達! 桐乃からは友人の兄貴! それだけの関係だ! たまたまこんな場所で姿を見かけて話していたのを、えー君が見かけたんだ」

「……そうです(たしかにその通りの関係なんだけど。なんかそう断言されると凄いムカつく!)」

 

 桐乃が不機嫌そうに同意する。なにかその後にブツブツと呟いているが聞き取れない。

 

「えー、そうなんでござるか? そうは見えんでござるが」

「それでも、そうなんだよ!」

 

 沙織は納得していない顔で、俺と桐乃交互にキョロキョロと視線を泳がせる。

 

「ふむ、ではそういう事にしておくでござる。拙者は沙織・バジーナと申します。以後お見知り置きを」

「ぶっ!? お、おま、バジーナって」

「なんでござろうか?」

「もういいよ。俺は新垣京介だ」

 

 その姿でバジーナって、どれだけ要素を詰め込んでいるんだこいつは!

 俺ははぁーとため息を吐く、挨拶を交わしただけなのに何かをごっそりと持っていかれた気がする。

 

「京介氏でござるか。よろしく申し上げる。それで京介氏もよろしければ二次会に参加致しませぬか?」

「二次会?」

「あぁ、説明を忘れておりましたな。先ほど拙者ときりりん氏は『オタクっ娘集まれ!』というコミュニティのオフ会に出ておりましてな! その二次会を開くので拙者、きりりん氏を呼びに来たのでござるよ」

「いやいや行けないだろ、それは!?」

 

 コミュニティーに所属していない部外者が参加するって無理だろ普通。慌てて断る。

 

「まあまあそう言わず、実は拙者ときりりん氏をあわせてもまだ3人なので、いささか侘しいのでござるよ! あまり気になさらず、是非とも参加して頂きたい!」

「いや、それでもなぁ〜」

 

 沙織が粘り強く誘ってくる。

 なんとか断ろうと考えていると、いままで黙っていた桐乃が俺の服の袖を掴んだ。

 

「京介も来て!」

「お前もか!? 行けねぇーって! だいたい部外者の俺が参加したら気不味いだろ?」

「管理人のこいつが大丈夫って言ってんだからいいのよ! それに愚痴を聞いてくれるって約束でしょ?」

 

 沙織を指差しながら桐乃が言い募る。

 たしかに愚痴を聞くって言っちまったし。何より桐乃の表情を見ると絶対に引きそうになさそうだ。

 はぁー仕方ねぇ諦めるか。

 

「わかった。案内してくれ」

「ニンニン、了解! こちらでござるよ!」

 

 両手を広げ降参の仕草をする俺の姿を見て、嬉しそうに沙織が先導し始める。

 どうやら向かう先はマックのようだ。あそこに残りの一人が待っているらしい。

 しかしなんでこんな事になったんだ? 予想もしなかった出来事に巻き込まれた俺は思わず嘆息をついた。

 

 想像通り? なのだろうか。マックに居た人物もまた個性的な人物だった。

 こちらもまた美少女。最近会うやつ美人が多いよな? まあ男としては嬉しいんだが。

 ただこいつにもやっぱり癖がある。格好が気合いの入ったコスプレ姿。なんのコスプレかは分からないけど、たしかゴシックロリータって言うんだったけこういう格好は? 黒いヒラヒラのドレス姿をしている。黒髪ロングのこいつが着ていると人形みたいな非人間的な美しさがある。

 呆然と少女を見詰めていると、沙織が俺たちを紹介してくれた。

 

「お待たせ致した! こちら、きりりん氏と特別ゲストの京介氏でござる」

「き、きりりんです。よ、よろしく」

「新垣京介だ。飛び入りですまない」

 

 桐乃はずいぶんと緊張しているな? ちょっと意外だ。

 俺は急な参加になったので、軽く詫びを入れる。

 そんな俺らをチラリと一瞥し、コスプレ少女は無表情にボソッと自己紹介をした。

 

「ハンドルネーム黒猫よ」

「さて、全員挨拶が済んだところで乾杯致すでござるよ! 本日は無礼講で楽しみましょうぞ!」

 

 先ほど買ったコーラの紙コップを片手に持ち上げ沙織が宣言する。

 遅れまじと俺も紙コップを持ち上げたが、黒猫から乾杯にストップがかかった。

 

「ちょっと待って! 先に聞いておきたいのだけれど。女子専用コミュニティの特別ゲストがなんで男なの?」

 

 警戒したような黒猫の眼差しが俺に突き刺さる。

 ちょっとまて? コミュニティの二次会とは聞いていたが、女子専用コミュニティっていうのは聞いていないぞ!? 聞いていたら絶対に来ていない!

 唖然として桐乃と沙織に視線を送る。

 視線の先では、『任せるでござる』とでもいうように胸をはった沙織の姿があった。

 こいつに任せて本当に大丈夫だろうか? 不安があったがここは沙織に任せる選択肢しかなかった。

 沙織は落ち着き払った口調で黒猫に応えた。

 

「京介氏はきりりん氏を追いかけていたときに一緒にいるところを見つけまして、きりりん氏が楽しそうにお話しされている姿を拝見し、悪いお人ではなさそうだったので無理を言って誘わせてもらったのでござるよ」

「べ、別に楽しそうになんてしてないし!」

「そう、理解したわ! オフ会に参加した後に彼氏に迎えに来てもらったという訳ね。リア充なんか爆発すればいいのに!」

 

 おぉ、まともな説明だった! 疑ってすまん沙織!

 しかし沙織の説明を自分なりに解釈したのか、黒猫が桐乃に向かい過激な発言をする。

 それに対して、また彼氏と勘違いされて桐乃が怒ったのか顔を赤く染め、テーブルに両手を突き身を乗り出して反論した。

 

「か、彼氏じゃないし! 親友のお兄さんにたまたま会って話していたところ沙織に捕まっただけだし!」

「へぇーたまたま? こんなところで親友のお兄さんに会って? へー」

 

 いかにも私は信じていませんといった冷笑を浮かべる黒猫。

 カチンときたのだろう桐乃が声を震わせた。

 俺にはカーンと何処かでゴングが鳴り響いたような気がした。

 

「あ、あんた何が言いたい訳!?」

「別に、アキバのオフ会で、渋谷の合コンに参加しますみたいなファッションをしてきたあなたが、嘘をついているなんてちっとも思っていないわ!『実際は男連れのリア充め!』なんて全然考えてもいないわよ」

「おもいっきり疑っているじゃない! ファッションについては、これがあたしらしい格好なのよ! そもそも服装ならあんたも気合い入りすぎたコスプレしてきて、さっきのオフ会で周りから浮いていたじゃない! なにそのコスプレ? 水銀燈? ちょっと違うみたいだけれど?」

 

 目の前にダイナマイトがあり、導火線がだんだん短くなっていく心境に俺は襲われた。

 そんな心境の俺に構うことなく二人の会話はどんどんヒートアップしていく。

 

「水銀燈、いえ違うわよ。これはマスケラに出てくる夜魔の女王よ! あなたいったい何処に目を付けているの?」

「マスケラ? なんか聞いたことはあったような……アニメだっけ?」

「知らないの? 今期最高のアニメよ! 毎週木曜日の夕方にやっているから是非見てちょうだい!」

「あ、思い出した。それってメルルの裏番組でやっている奴でしょ? たしかオサレ系邪気眼厨二病アニメって評価されている」

 

 導火線が燃え尽き、遂に本体に辿り着いた幻影が俺には見えた。

 

「な、何を言っているのかしら、あなた! マスケラが裏番組ですって!? メルルってあれよね! バトル系魔法少女アニメで幼女のパンチラ目当て萌え豚御用達の駄作よね。そもそも視聴率からして裏番組はそっちでしょ!」

「はぁぁ、視聴率? なにそれ? あたしが見ているのが表でそれ以外は裏に決まっているじゃない! それに何が萌え豚専用よ! あんたメルル見たことあんの? 可愛い少女達の苦悩あり、友情ありの熱い戦いが神作画でメッチャ動くつーの! 萌えアニメ舐めんな!」

「あなたこそ、何が厨二病アニメよ! 少しでもそういう要素があれば厨二病作品と勝手に決めつけて作品を理解しようともしない愚者達とあなたは同じよ! 重厚なストーリーに個性的キャラクターが織りなす最高の物語。それがマスケラよ! あなたこそ舐めないで!」

「ハンッ、厨二病を厨二病と言って何が悪いの? あんた自分の格好と言動振り返ってから言いなさいよ! どう見ても厨二病でしょうが!」

「なんですって……」

 

 す、凄ぇ戦いが始まっちまった。

 どうすんだこれ? 救いを求めて沙織を見ると、なんとこのグルグルメガネ気にせずにポテトぱくついていやがる信じられねぇ!?

 しかも挙句言った言葉がこれだ。

 

「いやー微笑ましいですなぁ。お二人の相性はバッチリでござるな!」

「お前の目は節穴か!?」

 

 とりあえず沙織に助力を求めるのは不可能だとわかった。

 ……ということは俺がこれ止めるのか? それ無理じゃね?

 二人に視線を戻すも、鎮火の気配は一切見られず、むしろ過熱していっている。

 やるしかねぇ!!

 俺は大きく息を吸い込み、そして吐き出した。そして覚悟を決め立ち上がり、二人の間に割り込んだ。

 

「まあまあ二人とも、たかがアニメでそこまで熱くならなくてもいいじゃないか」

 

 ピタリと二人の争いが止まる。

 そして二人揃ってゆっくりとこちらに振り向く。

 そのとたん恐ろしいプレッシャーが俺を襲う!?

 何これ? ダークモード中のあやせ並みだ!

 お、俺は何を間違えた!?

 膝が俺の意思と関係なくカクカクと震える。

 

「「たかがアニメですって!!」」

 

 二人の声がハモる。

 

「そっかぁ。京介もアニメなんかでムキになって気持ち悪い。このキモオタ共とか思ったんだよね。所詮あんたもそんな人間か」

「いや、俺はそんな……」

「自分のことを一般人と思っているこの男は私達のことを下に見て、せせら笑っているに違いないわ」

「そ、そんなことは……」

 

 それから30分俺は碌に反論すらさせてもらえず責められ続けた。

 なんとかアニメは嫌いでないと納得してもらったが、その後は延々とメルルとマスケラの素晴らしさを聞かされ続ける。

 沙織は沙織で俺のことを助けてくれず、時々合いの手をいれながら終始楽し気に俺らのやり取りを見守っていた。

 そして長々と行われたアニメ談義の結論は視聴することが一番だと二人の意見が一致して、俺はメルルとマスケラを見ることを約束させられた。

 今度それぞれDVDを貸してくれるとのこと、嬉しくて涙がでそうだ。とほほ……

 沙織の言った『二人の相性はバッチリでござるな』この意味をこの上もなく理解出来てしまった。

 もし時間を戻せるなら、きっと俺は俺をぶん殴ってでも二人の仲裁をしないように引き止めるだろう。

 最終的に俺は三件の新しいアドレスをゲットして帰宅した。

 

「に、兄さん、どうしたんですか!? 凄いゲッソリしてますよ!」

「あぁ、あやせ。情熱を持った人間は素晴らしいよな。ただし決してその情熱の元を馬鹿にしたらいけないよ。兄と約束してくれ、そうでないととても恐ろしい目に……」

「ちょっ、何言ってるんですか!? 兄さん大丈夫ですか? 虚ろな目でガタガタ震え出して!? お、お母さん、ちょっと来て兄さんが……」

 

 帰宅した俺を妹が心配してくれる。

 あぁ、あやせと久しぶりに話せたな。

 気を抜いた瞬間どっと疲労が押し寄せ、俺はそこで力尽きた。

 




予想外の高評価をもらい浮かれている作者です。
感想がこんなに嬉しいとは思いませんでした。
ええ、催促など全然していませんとも(笑)
頑張って更新していきます。

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