俺はいまとんでもない物を持っている。鞄にしまってあるが、万が一にもこれが見つかってしまったらと考えると背中に冷たい汗が流れる。
何を持っているかというと美少女恋愛シュミレーション、いわゆるギャルゲーだ。
その程度のことに大袈裟だ。たとえ家族に見つかったとしても凄く気不味いだけのことだろ、と思うだろう? 俺もそう思う。このソフトでさえ無ければ……
結論を言おうソフト名が【妹と恋しよっ♪】なのだ。
実際に妹がいる人間になら、この恐ろしさは理解して貰えると思う。
これが見つかったと仮定してみよう。まずは家族会議になるだろう。これはこれで当然恐ろしい。
しかし本当に怖いのは妹の反応だ。あやせがいつもの様に怒ってくれるなら構わない。だけど俺の想像の中では、あやせは俺を怖がって避ける様になるんだ! この想像が頭をよぎったときは想像なのに本気でへこんでしまった。
しかし桐乃の野郎、今回ばかりは本気で恨むぞ! なにが『これは全年齢版だから大丈夫!』だってだ!
お前は18禁バージョンも持っていやがるのかってんだ! いや……あいつなら持っていそうだな。
考えると怖いので思考をストップした。
桐乃、黒猫、沙織、あの三人とは連絡先を交換したが、てっきりあの場限りの付き合いだろうと俺は思っていた。
しかしそれはあいつらを甘く見ていたのだろう。
後日しっかりと桐乃がメルル、黒猫がマスケラのDVDを持ってきた。
これを家族に見つからないように観るのは本当に大変だった。あいつら感想を聞いてくるから観ないという選択肢も封じられたし。
あいつらに『俺なんかに貸すのは面倒じゃないか?』と尋ねたら『馬鹿にされたままじゃいられない、それと布教活動は重要』とのことだ。
いつからオタクは宗教になったんだ?
まあそんなわけであいつらと何度か会ったり、物を借りたりと友人関係を築きあげていったわけだ。
それで今回桐乃が持って来たのが例の品だったわけだ。
「これ、凄く面白いんだ! 感動して泣けるし! キャラも超ぉ可愛いくて、しおりちゃんもう最高〜」
「あ、貴女メルルだけじゃなく、そんなものにまで……なんて業の深い女なの!?」
「ほぅ、きりりん氏は幅広く手を伸ばしておられるのですな? 拙者も見習わなければ!」
「お前ら止めろよ!? 桐乃お前俺に妹がいるの知ってて、それを貸すつもりか!? 俺を社会的に殺す気なのか?」
「はっ、あんた何言ってんの? 二次元と三次元ごっちゃにしてない?」
お前が言うな!! 心の中で俺は絶叫したね! いや本当、怒鳴りつけなかった俺を褒めてやりたいよ。
「とにかくしっかりとクリアして感想を報告すること!」
「京介氏、諦めるでござるよ。こうなるときりりん氏は止まらないでござる」
「今回はさすがに貴方に同情するわ。家族に見つかって地獄の煉獄に焼かれないよう特別に祈ってあげる」
「黒猫……一応感謝しとく、はぁー」
結局俺は【妹と恋しよっ♪】を受け取り鞄の奥底に沈め、その鞄をしっかり胸に抱いて帰宅することになった。
神様まだあやせが帰っていませんように! 心の中で祈りながら、玄関をいつもよりも慎重にそっと開ける。
普段から祈っていない俺に神が力を貸すはずもなかった。むしろ天罰じゃ! とでもいうかのように、玄関を開けてすぐの廊下に妹がいた。
そんなに普段の行いが悪いのだろうか俺は?
「た、ただいま」
「あっ、おかえり。兄さん」
いつもなら嬉しい妹のお出迎えだが、今日は本当に勘弁して貰いたい。
緊張の為か? 俺は聞かなくてもいい質問をしてしまう。
「廊下なんかでどうしたんだ?」
「えっ? ただリビングに行く途中だったんですけど? 兄さんは今日遅かったんですね」
「あぁ、ちょっと友人とな」
幸いなことに、あやせには不審がられずにすんだ。
友人……お前の親友のお陰でいま凄ぇ苦労しているんだがな! 心の中で呟く。
あやせには桐乃とのことは伝えていない。
桐乃も『学校の友人にオタク趣味は絶対にバレたくない!』との事だ。
俺もあやせのオタク嫌いを知っているので、その方が良いと思う。たとえ親友でも全てを知る必要は無いと俺は考えている。
だから兄のことも全て知る必要は無いのだ。借りているオタクグッズがバレるわけにはいかない。特に今回のは一級危険指定物なので絶対にだ!
危険物を意識してしまった為、無意識に鞄を後ろ手に隠してしまう。しかし逆にそれがあやせに不信感を抱かせてしまった。
「兄さん? なにか隠していませんか?」
「な、なにも、か、隠してなんていないぞ」
「……ばればれですよ兄さん。またいやらしい本を買ってきたんでしょ。この変態!」
「ち、違うぞ! いやらしい本じゃない。本当だ!(お前の想像を遥かに超えた、もっとずっと恐ろしい物だ!)」
あやせが俺の目をジッと見つめてくる。
何秒たったのだろうか? 俺には永遠に感じるくらい長く覗きこんだあと、妹が謝罪した。
「……嘘じゃないようですね。疑ってごめんなさい兄さん」
「あぁ、いやこちらこそ挙動不審だったな」
「そうですよ兄さんがよく変な物買ってくるから疑っちゃうんですよ」
「変な物って、別にそんなもの買ってないだろ?」
「この間メガネ写真加工ソフトでしたっけ? いやらしい物じゃなかったですけど、あれなんだったんですか?」
「ごめんなさい。私は変な物を買っておりました」
「に、兄さん!? 土下座なんかしないで下さい! 別に私は怒っていないですよ?」
顔を上げると、呆れ顔の妹。
アキバ帰りで力尽きたときに、俺の野望を叶える例のソフトが見つかってしまったのだ。
正直あのときは、終わったと顔を青ざめさせたものだが『変なもの買って、無駄遣いをしないで下さい』と言われるだけですんだのだ。
まさか自分の写真を加工するためだとは思わなかったのだろう、九死に一生を得た出来事だ。
そのことはバレないように、そして極力触れられないよう注意しないとな、その為なら土下座なんて何回でもしてやるさ!
後ろ向きに決意を決めたところで、ボロが出ないうちにさっさと部屋に退散しようと思う。
「じゃあ、あやせ。俺は部屋にいるから飯が出来たら呼んでくれ!」
「あ、ちょっ、兄さん」
左手に鞄をしっかり抱え、右手を軽く上げながら階段をタッタッと駆け上がる。
後ろからの妹の呼びかけから逃げるように部屋に向かう。
木工のドアの取っ手を捻り押し開けた。シングルベッドがまず目に入る、そして中学のときに買い換えてもらったシンプルな木製デスクがあり、その上に高校の合格祝いノートパソコンが鎮座している。他に目につくのは、19インチのテレビにDVDレコーダー、漫画で占拠されているプラスチック製の本棚。洋服なんかはクローゼットにしまってある。
男子高校生にしてはシンプルにきちんと整理されていると自負する俺の城だ!
無事部屋に帰還を果たすことが出来た俺は、気疲れでベッドに突っ伏した。
10分位たっただろうか? いつ迄もこうしていたいという誘惑を振り切ることにして、鞄から例のブツを取り出す。
とても気が進まないが、諦めてパソコンで起動を始めた。
『おかえりなさい、おにーちゃんっ。妹とぉ……恋しよっ♪』甘ったるいボイスと共にスク水姿のロリっぽい二人の少女がパソコン画面を占拠した。
ぐふぉっ!?
ゲームスタート画面にて早くも俺はキーボードの上に突っ伏した。
おいおい、本当に俺はこれをクリアしなければいけないのか? まじで勘弁して欲しい。
最近ため息を吐く回数が激増している。近ごろ運が悪いのはこのせいだろうか?
しかしゲームを起動してみて、俺は悟ったね!
これがバレたら妹に避けられるという心配はもうしなくても構わない!
何故なら、これがあやせにバレたら、クビくくっちゃうだろうな〜俺!
【妹と恋しよっ♪】このゲームは、俺に本気でこんなことを考えさせてしまうほど深刻なダメージを与えた。
……シャットダウン
パタンと無言で俺はノートパソコンを閉じた。
☆
最近、兄の様子がおかしい!
いまも私から逃げるように部屋に行ってしまいました。
ここ最近の様子ですが、自分の部屋にこもることが多くなってきたと思います。いままでは帰宅後や夕食後はリビングでソファーに座り、テレビを見たり私と話をしていたのですが、最近はすぐに自分の部屋に行ってしまいます。
べ、別に兄さんとの会話が少なくなって寂しいなんて思っていませんよ! えぇいませんとも!
あとは帰宅が遅くなる日が増えたと思います。私はモデルの仕事をしているので帰宅が遅くなる日があり、だいたい家に帰ると兄が出迎えてくれるのが日常でした。けれど近頃は私の方が兄を出迎える回数が増えた気がするのです。
兄が先に帰っていても部屋に居て、私の帰宅に気が付かないことが多いです。兄からの『おかえり』をずっと聞いていません。
これはちょっと寂しいです。あくまでちょっとですよ、ちょっと!
こういうことが始まったのは、この間兄がゲッソリと疲れて帰ってきた日の後からだった気がします。
あのメガネ写真加工ソフトという怪しげな物が原因なのでしょうか? でもあんな物で帰りが遅くなる筈はないですし……
原因解明の為でも、さすがに兄の部屋に忍び込むのは、はしたないですし。
どうしましょう? 桐乃や加奈子に相談してみるべきでしょうか?
それとも麻奈実お姉さんに相談しましょうか?
……も、もしかして兄さんにか、彼女が出来てしまったんでしょうか!?
も、もしそうなら兄さんをぶっ殺さ……いえ、いえ、違います。焦ってはいけません。まだそうと決まった訳ではないのですから!
落ち着きましょう。深呼吸をして『すぅーはぁぁぁ』
そうです、まずは確認することが一番大事です。
でもどうしよう? もし本当に兄さんが彼女を作っていたら……
私の胸がチクンと痛みました。
うちの桐乃さんは、人の兄貴に妹ゲーさせる鬼畜です!
18禁じゃないのがせめてもの良心か?
ルーキー日刊にランクインしたり、お気に入り・感想・評価が増えたりして、感激中の作者です。
皆に飽きられないよう、これからも頑張ります。