俺の妹がこんなに優等生なはずがない   作:電猫

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第8話

 ここ連日、また兄さんの帰宅が遅いです。

 やはり彼女が出来てしまったのでしょうか?

 ここ最近の兄さんは酷く疲れているようですが、目に活力があり昔のように生き生きしているように見えます。

 本当は兄さんの異変を確かめる為に行動しようと考えていたのですが、いまはさらに別の気になることが出来てしまい断念しました。

 私の親友の桐乃の様子がおかしいのです。

 まずモデルのバイトをお休みしました。いままで桐乃が理由なくバイトを休むことはありませんでした。

 次によくため息をつき、授業中も何か別の事を考えているのか、空を眺めているんです。

 モデルに部活もしている桐乃が成績優秀なのは授業中の集中力が凄いからだと思います。その桐乃が授業中に気を抜いている姿は初めて見ます。

 友人の話では部活中もタイムが伸びず、心ここに在らずの様子らしいです。

 なので思い切って桐乃に直接尋ねました。

 

「桐乃、最近何か悩んでないですか? 私でよければ相談にのりますよ?」

「あやせ……ううん、全然悩みなんてないよ! どうして急に?」

「いえ、モデルもお休みして、授業中も気が抜けている様子だったので」

「アハハ、最近ちょっと疲れてて。モデルの方は家庭の事情でちょっとお休みもらったんだ! それだけだから大丈夫だよ」

 

 笑いながら桐乃が応えてくれました。

 でも桐乃の笑いにはぎこちなさを感じます。

 でも桐乃が大丈夫と言う以上は、私にこの先を問いただすことは出来ませんでした。

 家庭の事情という事であれば、桐乃が理由を話してくれない以上、私に出来ることはありません。

 あきらかに桐乃が何かに悩んでいるのがわかるのに親友の私は力になれないのです。

 自分の無力さが嫌になります。

 

「そうですか、もし私の力になれる事があったら言って下さいね」

「うん、ありがと。あやせ」

 

 せめてもと桐乃に伝えると、キョトンとしたあと嬉しそうに微笑んでくれました。

 

 その夜、話しても仕方ないとわかっていながら、兄さんに頼ってしまいました。

 桐乃のことを兄さんに相談したのです。

 

「兄さん、いま大丈夫ですか?」

「あやせか? ちょっと待って」

 

 部屋の中からガサゴソと何かを整理する音が聞こえた後、ガチャっとドアが開きました。

 兄さんの部屋に入るのは、久しぶりです。

 ちゃんと整理整頓されていて、とても良いことだと思います。

 前に片付けが酷かったときに、お願いをしてからはきちんと整えてくれてます。

 そういえば、あのときは普通に微笑んでお願いしただけでしたけど、何故かガタガタと震え出して、凄い速さで片付け始めましたっけ?

 それからは兄の部屋に訪れたときはいつも綺麗です。

 でも、それならさっきは何を片付けていたんでしょうか?

 もしかしてエッチな……ふっ、ふふふ

 はっ、いえ、違います。いまは兄さんを問い詰めにきたのでなく、兄さんに相談に来たのだから。

 部屋に入り無言の私に対して、兄が不審に思い問いかけました。

 何故か後ずさりしながらでしたが?

 

「あ、あやせ?」

「あ、すみません兄さん」

「い、いや、構わないけど。どうした?」

「兄さん、ちょっと聞いて頂けますか?」

 

 私は親友の最近の様子を伝え、私が彼女の力になれないことを訴えました。

 不思議なことに、兄さんは家に遊びに来たとき一度だけ会った桐乃のことを覚えていました。

 

「よく覚えていましたね。兄さん凄いです!」

「い、いや印象的な娘だったから。あれだろ? モデル仲間なんだろ?」

 

 その事を褒めると、何か焦った様子です。

 きっと桐乃が可愛いから覚えていたんだと思います。

 桐乃はたしかに美少女なんでわかりますが、ちょっとムッとします。

 

「兄さん、桐乃に手を出さないで下さいよ」

「出さねぇーよ!? あんな奴!」

「あんな奴? 桐乃とは一回会っただけですよね?」

 

 先程からなにやら兄の様子がおかしい?

 疑念の目を兄さんに向けます。

 

「いや、違っ、あ、あんなモデルをやっているような華やかな娘は、地味な俺とはレベルが違うから釣り合わねぇってことだ」

「……そうですか」

 

 私は一応納得したものの、兄の自己評価の低さに顔を歪めました。

 桐乃はたしかに美少女で文武両道、私の憧れる存在です。

 それに比べ兄さんの容姿はどちらかというと普通です。しかし勉強、運動そつなくこなし、なにより兄の優しさを私は良く知っています。

 はたから見れば釣り合わないかもしれませんが、兄をよく知っている人なら決して桐乃に釣り合わないとは思わないのですが。

 それに真剣に何かに打ち込んでいるときの兄さんはカッコイ……

 違います違います、兄に話に来たのは桐乃と釣り合うとか、兄さんの容姿についてではないんです。

 私はブンブンと頭を振り、それまで考えたことを否定します。

 恥ずかしい、なんでそんなことを考えてしまったのでしょうか?

 そんな不審な行動を見た兄が、心配そうに問いかけました。

 

「お、おい、あやせ大丈夫か?」

「えぇ、ごめんなさい兄さん。ちょっと取り乱しました」

「ちょっと?」

「ちょっとです。ちょっと! それで話を戻しますが、私はどうしたらいいでしょうか?」

 

 まくし立てた私に兄がビクッとします。

 しかしその後兄は優しい表情をして、私の頭を昔のように撫でながら言いました。

 

「大丈夫だ。あやせはちゃんとそいつの力になっている! たぶんそいつはいま親友のお前にも話せないような状況なのかもしれない、けどそれは絶対に無事解決する! だからお前はいままで通りに、そいつのそばにいてやれば大丈夫だ」

 

 兄の言葉にはなんの根拠もありません、はたから聞いたらその場凌ぎの慰めのように思えます。

 でも何故だか私にとってその言葉はとても力強く胸に響き、安心感を与えてくれるものでした。

 私の胸を覆っていた不安が嘘のように消えていきました。

 そんな不安感を解消してくれた兄さんに返す言葉は一つです。

 とっておきの笑顔で私は兄に応えました!

 

「はい、ありがとう兄さん!!」

 




今回は短くなってしまいました。
対決前にあやせ成分の補給回です!
次回対決回です。早めに更新できるよう頑張ります。

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