無個性より苦労してます。   作:ソウルゲイン

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第24話

『一時間程、昼休憩を挟んでから午後の部だぜ! じゃあな!!!・・・オイ、イレイザーヘッド、飯行こうぜ!』

「寝る」

『ヒュー!!』

 

 第二種目が終わりお昼休憩になった。

 騎馬戦の結果は錬が居た心操チームが圧倒的大差をつけて1位となり、2位には爆豪チーム。

 轟チームは1000万のハチマキを奪われてしまった為、ポイントを大幅に減らし3位となり、4位には緑谷チームが入った。

 緑谷チームは70ポイントしか獲得できていなかったが、心操チームが他のチームのポイントを全て奪っていた為、緑谷チームはギリギリ滑り込んだ形になっていた。

 

「飯田くんあんな超必持ってたのズルイや!」

「ズルとは何だ麗日くん!! あれはただの"誤った使用法"だ!・・・どうにも緑谷くんとは張り合いたくてな」

「ですが、最後の最後に造理さんしてやられてしまいましたわ」

「ウェ~~~イ(悔しかったアレ)」

 

 競技を終えた後、A組のメンバーが会話を楽しんでいた。

 

「そういえばデクくんは・・・?」

「造理さんの姿もありませんわ?」

 

 会話の話題に成っていた錬と緑谷の姿がそこには無かった。

 

 ――――

 

 

 ◇◇

 

「お前・・・オールマイトの隠し子か何かか?」

「!?・・・違うよそれは・・・って言っても、もし本当にそれ・・・」

 

 現在、俺と緑谷は轟に呼ばれ人通りの少ない通路で話し込んでいた。

 第二種目の騎馬戦において轟は緑谷に対してオールマイトに近い何かを感じ取ったようで緑谷に疑問をぶつけてたが、的外れな疑問に緑谷は不定する。

 俺が呼ばれた理由はよく分からなかったが、恐らく第二種目で俺に出し抜かれたことが気に入らなかったんだろう・・・。

 

 

「個性婚・・・知ってるよな」

 

 轟は突然、話しを切り出した。

 個性婚と言えば"超常"が起きてから第二~第三世代間で社会問題に成っていた出来事であり、自身の個性をより強化する為だけに配偶者を選び結婚を強いる前時代的な婚姻である。

 話しを聞くと、轟の父親であるナンバー2ヒーロー"エンデヴァー"はオールマイトに対して強いコンプレックスを抱いており、自分ではオールマイトを超えることが出来ないと判断し、息子である轟をオールマイト以上のヒーローに育て上げるために強い個性を持った自身の妻の家族を丸め込み妻の個性を手に入れたと言う。

 

「俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで自身の欲求を満たそうってこった・・・うっとうしい!」

 

 轟は父親を心底毛嫌いしているようだ。

 父親の傲慢な行いによって母親は苦しみ、その苦しみに耐えかねた母親は暴走し我が子である轟に煮え湯を浴びせ一生消えない傷を残したと言う・・・。

 轟は顔の火傷後を手で押さえつける。

 

「俺は親父の個性を使わずに"一番になる"ことで奴を完全否定する」

 

 睨みつけるかのような顔で俺と緑谷に語る轟。

 轟の言葉で緑谷はすっかり黙り込んでしまった。

 自分のいる世界とはあまりに違うことでどう答えればいいのか分からないでいる見たいだが、一般人からすれば当然の反応だろう・・・。

 

「おまえがオールマイトの何であろうと俺は右だけでお前の上に行く。そして造理・・・お前にも負けない」

「「・・・・」」

「時間を取らせたな・・・」

 

 言いたいことを言いきった轟はこの場を後にし歩いて行った。

 ――だが、

 

「僕はずっと誰かに助けられてきた」

 

 突然、緑谷が口を開いた。

 自分がヒーローになる動機・・・オールマイトのようなヒーローになることを目指していることを語る。

 

「僕だって負けられない・・・僕を助け・・救ってくれた人達に応える為にも・・・僕も君に勝つ!」

「・・・・」

 

 真剣な面持ちで轟を見ながらそう告げる緑谷。

 その言葉を聞いた轟はしばらく緑谷を見続けた後、何も語らずにその場を去っていった。

 しばらくたった後、俺もその場を去ろうと歩き始める。

 ――その時

 

「造理くん」

「?」

 

 緑谷に声を掛けられる・・・一体何の用だ?

 

「さっきの轟君の話しだけど・・・造理くんはどう思ったの?」

 

 轟の話しに対しての俺の考えを聞いてきた。。

 緑谷は自分以外の人間がどう考えているのか気に成っているようだ。

 ・・・そんなに気になるものか?・・・まあ、答えてやってもいいか。

 

「・・・別に?」

「えっ!?」

「轟に対して俺が思うことは無い」

「!?」

 

 俺が轟に対して何か思いを感じることは無かった。

 たしかに轟の生い立ちは確かに悲惨なものではあるが、今の世の中・・・"個性社会"では決して珍しい話しではなく個性を抜きにして考えてもよくある話しだ。

 それにハッキリ分かったことがある。

 

「轟が言ってることがおかしいことに気づかないのか?」

「?」

「あいつの話しには矛盾があるぞ?」

「矛盾?」

 

 俺の言葉に緑谷は首をかしげる。

 轟は火の個性を使わずにナンバー1ヒーローになって父親を見返すことが目的のようだったが、轟の父"エンデヴァー"は轟をオールマイトを超えるナンバー1ヒーローにすることが目的とのこと。

 轟がナンバー1ヒーローに成ってしまったら結局は父親の思惑通りに成ってしまう。

 ・・・・おかしな話しだ。

 

「おそらく轟は、他に目指したい何かがあるんだろう・・・」

「・・・」

 

 轟は父親に対する怒りが強すぎて目標を見失っているようだ。

 残念なことに本人はそれに気づいていないようだが、俺がそれに対して口を挟むつもりは無い。

 何より家族がいない俺には轟の気持ちは理解できない。

 ・・・逃げた親に対しては愛情も憎しみも無いからな。

 

「それじゃまた後でな・・・」

 

 そう言い残し、俺はその場を後にした。

 

 ――――

 

 

 ◇◇◇

 

『最終種目発表の前に予選落ちの皆へ朗報だ!』

 

 昼休憩が終了した後、生徒全員が会場に集まった。

 何でも最終種目の前にレクリエーションを行うらしく敗者にアピールチャンスを与えるための救済処置なんだろう。

 それで何故かA組女子がチアガール衣装に成っていたが、どうやら峰田と上鳴の仕業みたいだ・・・二人とも満面の笑みで親指を立てている。

 

『それが終われば最終種目! 一対一のトーナメント!! ガチバトルだ!!』

 

 最終種目は第二種目を勝ち抜いた上位4チーム総勢16名によるトーナメント形式。

 

「それじゃ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります」

 

 くじの箱を取り出すミッドナイド。

 尚、レクリエーションに関しては進出者16名は自由参加と言う事らしく参加のするしないは個人の判断で任せるとのことだ。

 まあ、最終種目前に無駄に体力を使うのは愚かとも言えるし、進出者のほとんどは参加しないだろう。

 

「んじゃ1位のチームから順にくじを引きなさい」

 

 1位のチームは俺と心操、尾白とB組の庄田と言う奴、まず俺が最初にくじを引き次に心操がくじを引いた。

 次に尾白が前にでた・・・。

 ――だが、その時

 

「・・・すいません、俺・・・辞退します」

「「「「 !!! 」」」」

 

 突然、尾白が辞退を宣言した。

 

「尾白くん! 何で・・・!?」

「せっかくプロに見てもらえる場なのに!!」

 

 尾白に辞退宣言にその場にいる連中が異議を唱える。

 ・・・まあ当然の反応だな、せっかく手に入れたチャンスをフイにしているのだから尾白の行動は愚かとしか言いようがない。

 本人が言うには騎馬戦において何も出来なかった自分が上に上がることは出来ないとの事・・・要するにプライドが許さないと言うことだ。

 ――さらに

 

「僕も同様の理由から棄権したい」

 

 B組の庄田も辞退宣言をした。

 こいつらは見た目の割りにプライドが高いようだな? 果たして主審のミッドナイトはどう采配を下すか・・・。

 

「そういう青臭い話はさァ・・・好み!!! 尾白と庄田の棄権を認めます!」

 

 OKとのこと・・・。

 好みで決めるのは些か疑問だが、そこは考えないようにしよう。

 繰り上がりになるのは5位の拳籐チーム、B組の女子メンバーだが拳籐も辞退し、後半まで奮闘していた鉄哲チームに席を譲り、鉄哲と塩崎と呼ばれる頭髪が茨になっている女子が繰り上がりになった。

 たたトラブルが起こったが、その後は無事に全員くじを引き終わり・・・

 

「組はこうなりました」

 

 トーナメント表が巨大スクリーンに映し出され一回戦の組み合わせが決まった。

 

 

 緑谷VS心操

 

  轟VS瀬呂

 

 飯田VS発目

 

 造理VS麗日

 

 塩崎VS芦戸

 

 常闇VS八百万

 

 鉄哲VS切島

 

 上鳴VS爆豪

 

 

 くじ運は・・・あまり良いとは言えないな。

 近所には緑谷・飯田がいるし、轟は・・・・今のあいつなら問題ない。

 それは置いとくとして、俺の最初の相手は・・・麗日か。

 麗日がいる方向に顔を向けると・・・

 

「!?」

 

 チアガール姿で驚愕の表情を見せる麗日の姿があった。

 出来れば戦いたくなかった相手だが、くじで公平に決まった以上致し方ない。

 

『よーしそれじゃあトーナメントはひとまず置いといて、イッツ束の間! 楽しくレクリエーション!』

 

 トーナメント発表が終わりレクリエーションタイムとなった。

 ・・・と言ってもやはりトーナメント出場者はほとんど参加はしなかった。

 何名かはアピール目的で参加していたが、このレクリエーションはほとんどスポーツであり、俺自身は特に興味が無かったので参加はせず、出場者の情報収集をする事にした。

 俺同様に情報を集めるも者。

 神経を研ぎ澄ます者。

 緊張を解きほぐそうとする者。

 各々が思いを胸に、あっという間に時が過ぎていく・・・。

 

 ――――

 

 ◇◇

 

「オッケーもうほぼ完成」

『サンキューセメントス!』

 

 セメントスの個性でステージが造られていく・・・。

 

『色々やってきましたが、結局これだぜ・・・ガチンコ勝負!!』

 

 ステージが完成した。

 大きさは約40ヤードの二段上になっていて両サイドの角には炎が灯され、中央下部分に雄英のシンボルマークが刻まれている。

 

『頼れるのは己のみ! 心・技・体に知恵知識!! 全力で駆け上がれ!! トーナメント開始だあァ!!』

 

 最終種目の合図が切って落とされた。

 

『最初に戦うのはこいつらだ!!」

 

 最初の試合、対戦するのは緑谷と心操。

 俺はそれを会場入り口付近で見ている。

 本来生徒には会場にクラスごとに観戦席が用意されているが、A組の連中とは体育祭開始前に失礼な宣誓布告をした為、あえて距離を置いている。

 まあそれはいいとして試合は始まった。

 ――結果は

 

「心操くん場外!! 緑谷君二回戦進出!!」

 

 緑谷が勝利した。

 試合の内容は開始直後に緑谷は心操の個性"洗脳"を受けてしまい敗北寸前まで追い込まれたが、緑谷は個性を暴発させて洗脳を解き、心操を場外に叩き落した。

 初戦にしては地味だが、緑谷の性格と心操の個性では仕方がないとも言える。

 ・・・何より心操は個性以外は完全にザルだ。

 心操の身体能力はヒーロー科の誰よりも劣っている上に、これといった格闘術を嗜んでいる訳でもない。

 正直に言うと"本当にヒーローを目指しているのか?"と疑ってしまうレベルだ。

 あのヒーロー科の実技試験も本質を見抜いていれば個性に頼らずとも十分合格できるレベル。

 同じクラスの"葉隠"がいい例だ。

 彼女は透明であることを除けば無個性と指して変わらず、錬の助言があったにせよしっかり合格している。

 心操自身、大した努力をしていない証拠である・・・。

 

『お待たせしました!! 続きましては・・・こいつらだ!!』

 

 第二試合の出場者が紹介される。

 対戦カードは轟と瀬呂。

 個性の強さだけで言えば轟の方が優勢。

 

『START!』

「負ける気はね――!!!」

 

 先手必勝。

 瀬呂はスタート後直ぐに肘からテープを繰り出し、轟の体に巻き付けそのまま場外に引きずり出す。

 ――だが

 

「悪ィな」

「「「「!!!?」」」」

 

 突然現れる氷の柱。

 それはとてつもなく大きく、会場の外まで到達するほどであった。

 ――大したものだ。

 

「瀬呂くん・・・動ける?」

「動けるハズないでしょ・・・痛えぇ・・・」

 

 勝負は決まった。

 会場に居る観客からはドンマイコールが鳴り響くが、致し方ないだろう。

 

「轟くん二回戦進出!!」

 

 轟の勝利に終わり、次の試合に移る。

 次の対戦カードは飯田とサポート科の発目と言う女子だが、俺も次に試合を控えている為その場を離れ設けられている選手の控室に向かう。

 会場内部を歩き続け控室の近くまでたどり着く。

 ――だが

 

「・・・でもいい」

「え・・・」

 

 ?・・・控室の中から声が聞こえる。

 声は二つ、緑谷と・・・麗日か?。

 選手の控室は二つ用意されている見たいだが、こっちは麗日が使用していたのか・・・。

 中には緑谷もいる見たいで、どうやら俺に対する策を考えそれを麗日に伝えに来たようだが、麗日はそれを拒否した見たいだ。

 麗日は緑谷に感化されたみたいだな。

 心が成長するのは人が強くなる事において大きな意味を持つ・・・。

 ――油断ならないな。

 俺はその場を離れ、もう一つの控室に向かった。

 

 ――――

 


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