荀シン(何故か変換できない)が恋姫的世界で奮闘するようです   作:なんやかんや

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前編
WAFUKUチート


どこかの中国三国志っぽい世界、具体的には恋姫的な外史的な世界に一人の赤子が生まれた。

名は荀シン(何故か変換できない)。字は友若。

ただの赤子ではない。

転生者であった。

テンプレ的にトラックに轢かれ、テンプレ的な神との出会いなどがあったが、ここでは省略する。

そして、友若はやはり幼い頃からテンプレ的にその才能を示し、そして挫折した。

この世界の英雄は10代から20代程度で国家を樹立するほどの才能を持っている。

長年、宮廷や各地で勢力拡大に明け暮れてきた老練な実力者達をたやすく蹴散らす彼女達を前に、前世のチート知識(笑)など欠片も役に立たない。

当然ながら、非凡な彼女達は10代においても圧倒的な才覚を示す。転生者たる友若すら圧倒するほどに。

友若の妹、荀彧。彼女もまた凄まじい才能を示した。

プライドの高い友若は自らの優位を示そうとあがき続けた。

だが、12歳の時、7歳の妹相手に議論で叩きのめされた際に、友若はとうとう己の才能を見限った。

自分が選ばれた存在だとか、そういう類の中二病を卒業したのだ。

 

友若が三国志関係の未来知識を殆ど持っていないことも彼が賢者モードになることを後押しした。

歴史なんてものにさしたる興味もなかった友若の前世の人。彼の知る三国志関係の人物といえば、劉備と関羽ともう一人の義兄弟(名前は忘れた)、公明先生、曹操、あと孫なんとかくらいであった。

これはひどいと言わざるを得ない。

三国志のメインである三国の一国の国王名すら覚えていないのだから。

三国志演義では後半やたら影が薄い国家ではあるが、赤壁とか関羽の殺害とか、色々と見せ場もあったはずである。少しでも三国志を知っている人間なら孫堅と、孫策、孫権くらいの名前は知っているはずであろう。

だが、友若はまるでそんな事を覚えていなかった。呂布や董卓といった名前も知らないくらいだ。

唯一覚えている逸話は、曹操が29歳の時に黄巾党を打ち破ったというものだった。30引く1の年齢である。

啓蒙書で読んだどうでも良い知識に限って友若は覚えていた。

何の役にも立ちそうにない、と友若は嘆いた。

 

ともかく、己の才を見限った友若は今後どう生きるかを決めなければならなかった。

とりあえず、年齢を経る事に罵倒の激しさを増していく異常なレベルで優秀な妹がいる家からはさっさと離れたかった友若。

自尊心に傷を付けた妹と同じ屋根の下で暮らすということは、プライドの高い友若にとってストレス以外の何物でもなかったのである。

という訳で、友若は母に願い、洛陽へ留学することにした。

 

幸いにして友若の生まれたゆとり三国志たるこの世界において、食べるだけならそこまで困りはしない。

正史におけるこの時代、黄巾の乱は詰まるところ食い詰めた民の反乱であった。

ところが、この世界では違う。

アイドルの追っかけとかワンダーな集団こそが後漢を滅亡へと追いやる原因となった黄巾党なのである。

基本的に、芸役者などの娯楽は衣食住にある程度の余裕がなければ存在できない。

特に、衣については明らかにオーパーツとしか思えない衣服が辺境まで広まっているこの世界、ある程度の階級に属している女性ならば相当なものを身に纏うことが出来る。

ともかく、大人しくさえしていれば、生き延びること事態は十分に可能なのだ。

 

ではどうするか、と友若は考えた。

神的な何かから、この時代が三国志ベースであると知っている彼にとって、今後起こるであろう黄巾の乱と、その後の戦乱は重大な情報だ。

戦乱とはつまり弱い人間は簡単に死ぬということだ。

命が何より大事とはっきり叫ぶほど生に固執しているつもりはない友若であるが、戦火の中で死にたくはない。

その時点で、学問を修め、官僚として就職して、栄達を目指すといった選択肢は友若にとって微妙なものであった。

三国志的な世界だということは、漢という国家は近いうちに消失するのである。

再就職の道が殆ど無い就職氷河期で散々苦労した記憶を持つ友若にとって、先のない会社や組織への加入は避けるべきことであった。

寄らば大樹、将来安泰の所に身を寄せたい。

さらに、現在の帝によって千を超える官僚の首が飛んだことも友若に官僚としてのライフ設計を躊躇させた。

ドロドロの政争とかを勝ち抜くだけの実力があるという自信はトラウマたる妹にいびられ続けた友若には殆ど存在しなかった。

賄賂を貰えば相当に稼げると入っても、それは道義上の弱みとなってしまう。

漢に代わって立つ三国が人気取りのために民草から富を搾取したという名目で漢帝国の官僚を人気取りの生贄に使う可能性もあるのだ。

上手く立ち回ればいいのかもしれないが、妹のような天才相手にそれが出来るとは友若には思えなかった。

 

ならば、今後勝ち組となる曹操や劉備、もしくは孫なんとか辺りの所の部下になるのはどうか、と友若は考えた。

残念なことに劉備と孫なんとかに関しては、一介の書生にすぎない友若の力ではどこにいるかさえ突き止めることができなかった。

だが、曹操に関しては洛陽で有名だったこともあり、その姿を目にすることができた。

 

「うん、あれはないな」

 

妹と同じように10代にも及ばない年齢で孫氏を暗記して、注釈本まで書いたとか、友若からすれば妹同様に意味不明な逸話を無数に持つ曹操の姿を見て彼はそう呟いた。

トラウマである妹を強く連想させる人間の下に付くなど、何のために洛陽に来たのか分からなくなってしまう。

 

「とりあえず、黄巾の乱まで20年はあることが分かったのは収穫だけどなあ」

 

曹操の年齢から黄巾の乱が大分先の話だと判断した友若はそうぼやいた。、

戦乱の時代がだいぶ先だと分かった友若はかなり心の安定を取り戻した。

30代で死んでいいなどと思うほどに友若は生き急いではいない。

だが、危機が当分先であり、今は黄巾党の問題を考えずに済むということは、友若にとって心の重荷の一つが取り除かれた気分であった。

 

とりあえず、この20年で金を貯めて、黄巾の乱が起きたら安全そうな所に逃げよう、と友若は最終的に決めた。

後ろ向きこの上ない決断であるが、凡人の自分が何をやった所で天才、というかバケモノに勝てるわけないし、命あっての物種だよね、と友若はヘたれにへたれていた。

 

さて、金を貯めるにあたって何をするべきか、と友若は考える。

ちなみに、金稼ぎの元手は母から渡された学費である。

官僚生活に興味のない友若は学費を使い込む気満々であった。最低である。

なるべく楽に稼ぎたい友若にとって肉体的な労力を必要とする農業というのは選択肢に入るものではなかった。

 

「なるべく楽に大金が稼げるような仕事……やはり、あれだな」

 

洛陽を見て回り市場調査を済ませた彼は決断する。

 

「服屋……いや、和服屋をやろう」

 

こうして恋姫的な世界で友若のWAFUKUチートが幕を開ける。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

さて、恋姫的な世界で何故友若が和服屋をやろうと考えるに至ったのか。

その背景を一言で説明すると、衣服市場の巨大さである。

恋姫的な世界の有力な女性たちは特徴的かつ高価そうな衣服を身にまとっている。

それらの構造や配色は勢力ごとにある程度類似はしているものの、細部を見れば全員が異なったデザインの物を着こなしている。

つまり、彼女たちの服は全てオーダーメイドで作られているということになる。

その上、紋様や絵が描かれた生地や、縁取りが別配色になっている構成など、相当に手間暇がかかっている。

男性の服は何故か適当な事が多い気がするが。多分、女尊男卑の恋姫世界において女性の化粧や衣装というの正史を遥かに超えて重要視されているとかそんなところだろう。華陀などは毛皮と思われる高級な服を着ているし、男性も衣服に全く投資しないというわけではないだろうが。

ともかく、彼女たちの服装には相当の金――日本円にして本当に安いもので数万円相当から、高いものでは1000万円相当くらいはかかっているはずである。宝石とか貴金属があしらわれた曹操の服とか1億円相当を超えていたとしても驚きはしない。

もちろん、彼女たちが一張羅とかそんな馬鹿なことはあるわけがないし、よほどずぼらな女性でも年に数回、人によっては毎日新しい服に買い換えるとかだろう。

それがどれほどの市場を生むか。

とりあえず、漢帝国の服を変える経済力を持った女性達一人辺りの平均として年間100万くらいを服に費やすと仮定しよう。

かなり安めに見積もっているつもりだ。

もちろん、こうした服を購入可能なのは中流から上流層のみだろう。ここに中流層を含めたのは裕福とはいえないはずの劉備などが普通にオーダーメイドと思しき服を身にまとっているからである。自らの贅沢よりも貧しい民草を優先する劉備がこうした高価な服を身にまとっているということは、貧民でない女性はそれなりに着飾ることがマナー、常識となっていると考えられる。

まあ、後述するが、これは決して悪いことではない。

ともかく、中流、上流階級の人口をここでは10%と仮定して、女性の分としてその半分、総人口の5%が毎年100万円相当の金銭を衣服に投じるものと考えよう。

黄巾の乱が起きる前の漢の人口は5600万くらい。

 

ちなみに、三国時代にはこれが800万くらいまで落ち込むという、どうしてこうなった的な煉獄が発生する。

そんな事をまるで知らない友若は気楽なものだが、金を持っていたとしても、戦乱の時代を生き抜くことは難しいのだ。

まあ、これは戸籍管理ができなくなったために生じた人口減少であろうが、それでも少なからぬ人間が戦火に死んでいったことは疑いようもない。

 

話を衣服の市場に戻そう。

上記仮定から人口5600万の5%が年間衣服に100万円相当を費やすと仮定した。

その仮定を元に計算すると、漢の衣服市場は日本円にして年間2.8兆円相当の超巨大市場ということになる。

五銖銭の価値を日本円にして100円とすると年間売上高280億銭である。

当時の漢帝国の歳入が11億銭くらいであることを考えると国家予算の25倍。

超がつく巨大市場である。

そして、これはあくまで比較的『安い』衣服で物事を考えた場合である。

超富裕層が衣服に対して年間に費やす金額を計算に入れると、市場は更に大きくなるだろう。

 

そして、この巨大市場のために恋姫的な世界では漢王朝が腐敗した中でも民が餓死するまでは至っていないのである。

正史では、豪族が自らの荘園で自給自足して貨幣を貯めこんだ結果、この時代深刻なデフレが発生していた。

税金額は固定制だったため、デフレはすなわち増税を意味する。

さらに官吏に払う賃金が現物支給になったりと、色々と問題を引き起こしていた。

ところが、恋姫的世界では衣服市場によって豪族達が一定の資金を市場に流している。

そのため、正史と比較してデフレの進行が抑えられ農民達の生活もそこまで追い詰められていないのである。

 

とまあ、色々述べてきたが、よくよく考えると矛盾が出てきてしまう。だが、このssではこうした方向性で進めていくことにする。

主要キャラクター以外、基本的に服が地味だとか、そんな事実はないのである。

 

まあ、そんな事は友若にはどうでも良かった。

彼にとって重要なのは、衣服市場が非常に大きいという事と、個性的な衣服に対して大枚を叩く物好きがいるという事である。

多くの商品の価格が国家によって規定されている漢帝国で唯一といっていいほど活発かつ自由な衣服市場。

商売の伝やノウハウを持たず、アイデアだけの新参者が参入するに適した市場であるはずだった。

 

友若はこの巨大市場にチート知識(笑)を利用し作成したWAFUKUを持って戦いを挑む……!

 


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