荀シン(何故か変換できない)が恋姫的世界で奮闘するようです 作:なんやかんや
その日、友若は悪友である審配と共に歩いていた。
時は夕刻。
仕事を終えた2人は居酒屋へと向かっていたのだ。
「疲れたー」
「毎回思うんやが、裏方は大変やなあ」
「まあ、その分稼ぎは大きいからいいんだけど」
友若は最近銀行業務から袁紹傘下の株式会社の相談役みたいなことをやっている。
今で言うコンサルタントに近い。
友若の仕事は転生チート知識を活用して株式会社の売上向上に貢献することである。
袁紹の重鎮が商売をするということは色々問題があるのだが、直接商売をせず意見だけを出すという名目で友若はこの仕事をしていた。
何だかんだで地味な銀行業務と比べて友若は仕事に張り切っていた。
自分の知識が大きな成果を上げるというのは結構な快感だったのだ。
それに、この仕事は色々と副収入が期待できる。
「役満シスターズ四十九の株買っといて良かったわ」
「だろう? ここだけの話だけど、本初様のあれ、前は4だったのに昨日やったら6だったしな。と言う事は半年後には投資額を回収できるってわけだ」
「え!? ほんまかいな。麗羽のサイコロで6が出るなんて最近殆ど無かったやん」
「ちょっ!? 声が大きい、如何にアイドル商売が儲かるかってことだな」
一つは、どこに投資すれば良いのかが分かるということである。
当初は袁紹の振るサイコロの出目を元に投資先を決めていた友若であるが、それがおおっぴらにはできなくなった。
袁紹のサイコロの出目は株式投資で思うように利益を上げられずに苦しんでいた豪族たちにとって喉から手が出るほど欲しい情報である。
まあ、豪族たちはまさか袁紹がサイコロで投資先を決めているなどとは思っていもいなかったが、彼女がどこが成長すると思っているかという情報は大金を払ってでも知りたい情報だったのである。
そこで、田豊や沮授、そして嫌々ながら友若が協力して『華麗なる投資信託』という株式会社を創設した。
命名は袁紹である。
豪族たちにはこの投資信託に資金を預けさせてその金を元に袁紹がサイコロを元に投資するというシステムを構築したのである。
長期の定期預金の利率を高額にしたことで、豪族たちの多くは多くの資金を投資信託に預けることになる。
これでまた袁紹の豪族に対する支配が強まった、等と田豊たちは喜んでいたが、友若は非常に残念に思っていた。
袁紹のサイコロの出目が明確に重要な情報となり、袁紹配下の者達にはその情報を元に投資したり漏洩したりすることが禁止されたのである。
代わりに投資信託の株式が袁紹の配下達に配られたりしたが、かつてのような収入は見込めなかった。
これでは今までの様にローリスク・ハイリターンで稼げない、と友若は危機感を抱いた。
かなりの額を稼いでいた友若であるが、冀州におけるここ最近物価上昇を見るに、稼げるだけ稼いでいたほうが良い、と思っていた。
そのためには市場の情報に精通していなければならない、と友若は考えた。
銀行の業務に日々追われる毎日である。どこの会社が調子がいいかは分かっても、これからどこが伸びるかは分からない。
何も考えずに袁紹のサイコロの通りに投資してばいいという考えから、友若の現行市場の情報は皆無に近かった。
という訳で、友若は袁紹にコンサルタント業務をやらせてくれと直談判した。
幸いなことに、この時市場の情報を熟知している者が必要だという友若の主張は高い説得力を持っていた。
この直前、大規模な株式会社が幾つも潰れてかなりの株式が紙くずになるという事件が起きていた。
袁紹にとっては幸いな事に、潰れた会社は全てが袁紹傘下の企業ではなく、そのライバルであったため、その被害を直接被ることはなかった。
だが、このことは投資マネーの萎縮させたり、大量の失業者を発生させて治安を悪化させたりした。
その影響は少なからず、袁紹傘下の企業の行政にも影響したのだ。
さらに、株式投資で大損を出した者達の多くが銀行まで文句を言いに来たりした。
宋典とか言うどこかの富豪の使いは随分偉そうな態度で損害の補填を求めていたな、と友若は思い出した。その使いは銀行本店の受付で喚いていたが、たまたま近くを通りかかった荀シンに気がつくと、彼に金を返せなどと要求してきたのだ。友若が無理だと拒否すると、守銭奴め覚えておれ、などとよくある捨て台詞を吐いて去っていった。
どこの誰かは知らないけど金持ちに恨まれるとか勘弁してほしいな、などと友若は考えた。
まあ、投資額が多かっただけに、それが全部無くなったと言われれば切れるのも無理は無いのだろう、と友若は思う。
制度上、大損をすることは明記してあったはずだが、袁紹がやたらと稼いだせいで、株式がローリスク・ハイリターンだという誤解が広まっていたのだ。
その対策として、袁紹の持ち株を売りに出して投資気運の向上を目指したり、大量の人員を雇って田畑の灌漑をしたり、私兵として雇って軍事訓練をさせたりと結構な対策を講じる必要に追われていたのである。
袁紹傘下の企業でなくても潰れるということは周囲に悪い与える影響を及ぼす。
その様に袁紹のブレイン達は認識しており、事前に市場調査をして問題が生じない内に解決を目指すという友若の意見に賛成したのである。
許攸を始め優秀な人員が銀行の運営を引き継ぐことができたということも彼らの判断を後押しした。
かくして、友若はコンサルタント的な仕事をすることになった。
「そう言えば、最近は鉄の価格も上がってきたし、多少矢の生産は減らしてもいいかもしれないな。後で本初様に伝えておこう」
「ああ! それははよう言うてくれへんと! 今、生産過剰の矢の置き場所に困ってるんやから! そもそも弩も多すぎや。一応麗羽の配下の兵隊は1万やのに、弩の数が3万とかどういうことや!」
「い、いや。でも鉄の値が下がりすぎるとまた会社が潰れかねないし、潰れた場合の対処法も確立していないから、この前みたいに面倒な事態になるかもしれない。増えた生産量の分だけ消費して値崩れしないようにしておかないと」
「猪々子のやつもぼやいとったで。訓練が多いのは構わへんけど、弩ばっかりになって、突撃とか全然できてないって」
「でも弩だと訓練すれば一定の割合で矢を消耗するからなあ。消費を作るという観点から見るとやっぱり弩がいいんだよ」
「農村に鉄製の農具を配るっちゅうのはダメなんか。ほら、先の別れた桑とかめっちゃ使いやすいんやろ? あと、しゃべる……やったっけ? あれも中々便利だって聞くし」
「うーん。無料配布は価格破壊にもつながりかねないし、北部の豪族なんかは隙あらば本初様から利益を掠め取ろうとしているからなあ。銀行の普及を目指した当初とか、強欲な豪族たちの酷いこと酷いこと。賊と内通して銀行の支店を襲わせるとかどうしようもない連中もいたからなあ。正直、碌な事にならない気がするよ。それに、一応、本初様は荘園にも投資しているわけだから、その競合相手を態々作るのもどうかと思うし。結局、鉄を上手いこと消費するのは軍事で、矢はその中でも消耗が前提となっているから仕方ないさ」
「布とかはうまいこと価格が上がっているみたいやけどなあ」
「それについては役満シスターズ四十九に感謝だな。ファンクラブの会服は最近では一番のヒットだ。多少高くても、連中は買っていくからな。女性服の需要が伸び悩んでいたけど、男性側もこれでかなりの金を衣服につぎ込むようになったことは大きい」
「で、それを提案した友若、あんたはそんなものには手を出さずに強欲に金をためてるっちゅうことやな。友若はアイドルには興味ないんか。天和ちゃんみたいな可愛い子と恋人になりたいとかそういうのはないんか?」
「まあ、それほどは。と言うか、俺はマネージャーとして舞台裏の彼女たちの姿を知っているんだ。輝かしい表舞台の裏でどんな事が起きているかを知れば百年の恋も冷めるさ。と言うか、アイドルっていうのは遠くから眺めるものだと思うぞ」
「……じゃあ、友若はどんな女性が好みなんか? ……身近な女性とかで例えると」
「うーん……やっぱり子遠さんかな。やっぱり、何よりも包容力のある人がいいよなあ」
「そ、そうなんか。一応、うちも面倒見が良い事で有名やで」
「あと、フワフワした髪とか好みだし」
「う、うちも髪の毛伸ばそうかなあー」
「まあ、でも当分結婚するつもりはないけど」
袁紹がいずれ敗れて消えていくと思っている友若としては袁紹支配下の冀州で身を落ち着けるつもりは更々なかった。
下手に袁紹の勢力が大きい以上、今後現れるはずの三国志の覇者と彼女が共存できるわけがない、と友若は考えていた。
「あら、友若さんと怜香さんじゃあありませんか」
「本初様!? それと文将軍に顔将軍じゃないですか!」
目当ての居酒屋で友若と審配は思わぬ人物に出会った。
「おう、荀大老師のアニキ! 久しぶりだな!」
「お久しぶりです、友若さん」
「ちょうどいいですわ。隣の席をくっつけて一緒に食事をしましょう」
袁紹の鶴の一声であれよあれよという間に友若達は袁紹達と同席することになった。
「……しかし、本初様がこのような居酒屋まで足を運ぶとは驚きました」
「あら、友若さん、この冀州は隈なく私の家のようなもの。であれば、私がどこにいようと可笑しくはありませんわ。おーっほっほっほ!」
「いや、麗羽様ったらあたいと斗詩のやつがさっきこの居酒屋の飯が美味いって話していたのを聞いてここに来たのさ」
「ちょ、ちょっと猪々子さん! それではまるで私が食いしん坊みたいではありませんか!」
「だ、だめだよ猪々子ちゃん! そんなこと言ったら失礼だよ」
「……あー、それよりも早く注文しちゃいませんか。ここって確か友若が新レシピを提供したんじゃあなかったっけ?」
「え!? 荀大老師のアニキのレシピ!? なるほど、だから美味かったのか」
「そうだったんですか!?」
「えーっと、あー、うん。まあ、そう言えるかな」
顔良の問に対して友若は口切れ悪く答えた。
「何好き勝手なこと言ってるんだ。その大老師様は大量の食料をダメにしただけじゃねえか!」
友若達の話を聞いていた店主が厨房から顔を出して叫んだ。
「え!? 私は上手くいったって聞いていたけど」
審配が驚きの声を上げた。
「そいつのやったことは大豆にカビを加えて大量に腐らせちまっただけだ! 良い感じのカビを使うと美味しくなるとか、適当なことを抜かしやがってな! それで、こいつは上手くいかないと見るとすぐにどっかに行きやがった。大量の大豆をダメにされた俺は呆然とするはめになったよ!」
「でも上手く言ったんやろ? 大豆を使った新料理とか品書きに書いてあるやん」
「ぐっ! ああ、上手く行ったよ! 最終的にはな! だが、それはこいつの成果なんかじゃねえ!」
憤りの声を上げる店主。
そこに袁紹が声をかけた。
「よく分かりませんけど、兎に角ここの料理は変わったものが出てくるということですのね?」
「おっ、へえ! その通りです、袁州牧様! この私めが作り上げた絶品の数々を是非とも堪能していって下せえ」
店主の自信満々な様子に袁紹達は小さく歓声を上げた。
彼女たちはかなり楽しみにしているらしい。
そんな様子を茫洋と友若は見ていた。
「おい、あいつはあんな事言っとるで。ほっといてええんか?」
「別にいいよ。まあ、間違ってはいないし」
審配の言葉に友若は答えた。
料理を待っていると見せに新たな客が入ってきた。
許攸と沮鵠であった。
「あら、麗羽様ではありませんか。それに友若まで」
「ああ! このぼんくら! 麗羽様に何をしている!」
「い、いや何も……ってお前らもいるのか」
友若は許攸の後ろに他の客達に声をかける。
銀行本店における職員たちが店内に入ってくるところだった。
「おっ! お久しぶりでーす。友若さん」
「って、袁本初様もいらっしゃるじゃありませんか!」
「おいおい、どうすんだ。流石に州牧の前で嬢ちゃんをからかう勇気は俺にはねえぞ」
「ふっ、まだまだだな。権力なんぞに屈するとはっ! いいか、人には決して引けない状況というものがある。そうなった時にどうするか……戦うしかないではないか! そして、そう、今がその時! 結果として死にゆくことになったとしても、俺は闘い抜いてみせるぞっぶべらっ!」
顔を真赤にした沮鵠に殴り飛ばされる職員に友若は思わず敬礼をした。
何者にも屈しないという強い意志に友若は敬意を表さずに入られなかったのだ。
「こう……ですの?」
友若の様子を見ていた袁紹が何となく真似をした。
そのまま流れで許攸と沮鵠を除くその場の全員が殴り飛ばされた職員に向かって敬礼した。
「……何をやっているのですか?」
許攸が尋ねる。
袁紹が友若の方を見た。
友若に説明しろという合図である。
友若自信、どうしてこういう状況になっているのかよく分からなかったが、取り敢えず説明をすることにした。
「これは敬礼と言って敬意を評しているのです。一人の漢に対して。彼の行いは褒められたものではありません。多くの者は下らないと彼を笑うでしょう。しかし、確かに彼には覚悟が有った。そして、私はこの状況下で無数の危険をものともせずに信念に殉ずるその姿には敬意を表さずにはいられません。それは確かに美しいのです。彼が死んでしまったとしてもその勇姿は永遠に私たちの心に残り続けるでしょう」
「いい話ですわ!」
「……そうですか?」
袁紹は涙ぐんだ。
何だかんだで情に厚い女性である。頭の出来は残ね……微妙だったが。
友若の芝居がかった解釈に感動した様子を見せる袁紹に許攸は困ったような顔を見せた。
ちょうどそこへ店主が料理と酒を運んでくる。
気を利かせて店を訪れた全員分に盃が渡される。
友若には盃と一緒に請求額が書かれた木管が渡された。
「ちょっ!? 何で俺に請求すんの? っていうか、まだ注文もしていないのにこの額は何!?」
「なんや、友若。女に奢らせるつもりか? さんざん稼いでるんだから、うちらみたいな見目麗しい女性に貢ぐのは当然やんか」
「なるほど、今日は友若さんの奢りですのね」
「ホントか!? アニキ、ありがとう!」
「あ、えーっと、すいません、麗羽様と猪々子ちゃんが」
「「「荀さん、ゴチになります! あざーす!」」」
「ふんっ! 貴様の投げ出した銀行業務をやっている黄蘭様や私達に感謝を示すのは当然だ!」
「友若、困っているようなら私も出しましょうか?」
「きっ、貴様っ! 黄蘭様に金を出させるというのか!!」
「いや、まだ何も言ってないから。もういいよ。今回は俺が出すよ。あと、子遠さん、結婚して下さい」
友若は冗談を言いながらも自分が金を出すことにした。
毎日の稼ぎを考えればこのくらい大したものではない。
居酒屋の平均価格はここ最近で5倍くらいになってるが、それ以上に収入を増やした友若にしてみれば十分に払える額だった。
友若はため息をつきながら財布を出す。
その向かいで許攸がテンパっていた。
「えっ!? そ、その、そんないきなり言われても……こ、困ります!」
「ちょっ、ちょっと待ちいや! 友若、何いきなりふざけたこと言うてんねん!」
「そうだぞ、ぼんくら! 貴様、図々しくよくもそんな妄言を!」
「え? 何のこと」
「何って、け、結婚してくれってあんた言うたやないか!!」
「いや、それ、ただの冗談だけど」
「……え?」
「……え?」
「ふ、巫山戯るなあ! ぼんくら! 貴様はどうしてそうなのだ!?」
「ぼんくらはどうしてぼんくらなのか、か。随分と哲学的な問だな」
怒りの声を上げる沮鵠に友若は渋い表情で答えた。
「おまっ! 冗談ってどういうことや!?」
「え? 俺結婚とか考えたことないし。お付き合いしたことすらないんだぞ。どう考えても冗談じゃないか」
「そ、そんなの知らんわ! 付き合ったことがないっちゅうのはええが、いきなり結婚してくれだとか言われても冗談とは思えんやんか!」
「俺には冗談にしか思えないんだがなあ」
憤りを見せる審配に友若はぼやいた。
「一応、元皓様は友若さんは是非とも麗羽様に、とか考えていらっしゃる様ですけど」
顔良がポツリと発言する。
友若にとっては聞き捨てならない事だった。
「え? そんな話聞いたことがなかったけど」
友若は思わず袁紹の方を見た。
他の人間達もほとんどが袁紹の方を見ている。
「私もそんな話聞いたことがありませんわ!」
「……なるほど、元皓殿が考え過ぎているだけですか……」
取り敢えず、友若は今までの不吉な話を無視することにして、袁紹に声をかけた。
「さて、では気を取り直して……散っていった勇士の死を悲しみつつも、その気高き精神を讃えて乾杯しましょう。本初様、お願いします。」
「分かりましたわ。では、この袁本初、乾杯の音頭を取らせて頂きます!」
どんな無茶ぶりにも対応可能な袁紹であった。
対応するだけで、それが最善とは限らないのだが。
「「「おおおおおお!」」」
銀行の職員たちが叫び声を上げた。
ちなみに、先程沮鵠に殴られた職員も雄叫びに参加している。
「あれ……?」
沮鵠は呆然とした様子で呟いた。
真面目一辺倒故の苦悩である。
だからこそ、職員たちに散々からかわれることになっているのだが、沮鵠はその事に気づいていなかった。
「一つの信念に殉じ、散っていった勇士の栄光に、そして、未来へと羽ばたき続けるこの冀州に乾杯!」
「「「乾杯!」」」
そんな感じで酒盛りが始まった。
「ちょっと、猪々子さん、それは私の肉ですわよ! 猪々子さんはこの野菜を食べていなさい! 肉ばかりだと太りますわよ」
「えー? あたいは今日も軍事訓練で腹が減っているんですっ! 麗羽様こそ肉ばっかりは太りますよ」
「キーッ! よくも私にそんな口のきき方を! 悪い猪々子さんの口はこうしてやりますわー!」
「ちょっ、ちょっと麗羽様! それに猪々子ちゃんもやめてー!」
「子遠さんの婿としてふさわしいのが誰かを考えるとやっぱり俺しかいないと思うんだ」
「てめー、何ふざけたこと抜かしてやがる! 子遠さんは俺の嫁に決まっているだろう!?」
「黄蘭様、黄蘭様に無礼な口のこいつらは今すぐ黙らせますので」
「白凰ちゃん、そんなに殺気立たないでください。今日は無礼講という話でしたわよ」
「ちょっと、友若聞いとるんか! うちは一途なんやで。麗羽様以外の主に仕えるつもりは毛頭ないし、その、け、け、結婚についても同じや」
友若は冀州でできた仲間たちの騒がしい様子を眺めていた。
近いうちに別れるつもりの仲間である。
そう遠くないうちに三国志の覇者に敗れ消えていくのだろう、と友若は思った。
そして、友若はそれを知り、彼らから離れ一人安穏と生きながらえようと画策している。
そう思うと、心がどこか震えるのは友若は感じた。
――今更何を……
友若は自らの浅ましさをあざ笑う。
荀彧、妹で散々思い知らされたではないかと。
友若がどれだけ努力しても、転生チート知識を駆使しても天才の足元にも及ばないことは十分に思い知ったことである。
――もう、いい。
――どう足掻いてもあれに勝てない。
――だって、あれはバケモノなのだから。
その妹と曹操や劉備、孫堅が同類であるのならば、友若がいても居なくても袁紹の敗北は変わらないだろう。
あれらに勝つことはできない。
袁紹の下で仲間と一緒に生きようとするのは不可能なのだ。
それはただの自殺と変わりがないだろう。
――それじゃあ、何のために生きるんだ。仲間を見捨てて、一人だけで……くそっ! 妙な情が移っちまった。
友若は自問した。
このまま、ただ逃げて構わないのかと。
友若にとって袁紹はさんざん世話になった相手であるし、その配下には長年苦楽を共にした仲間や部下がいる。
――だからって、大河の氾濫を俺一人がいれば止められるって居るのか? どうあっても勝てないと思い知ったはずじゃないか! どうしようもないことだ!
友若は心の中で叫んだ。
「あら、友若さん。一体どうしましたの?」
涙を流していた友若の様子に気がついたのか、袁紹が尋ねた。
余計な所で感の良い女性だ、と友若は思う。そして、空気を読まない女性だとも。
袁紹達を見捨てることを考えていた姿を見咎められて、自分勝手であるにせよ友若は良い気がしなかった。
他の面々も心配そうな様子で友若を見ている。
その裏のない視線が友若には辛かった。
「い、いえ! 何でもありません」
友若は笑顔を作って誤魔化した。
自然な笑顔になっている自信は無かったが。
友若の生まれた家では得ることのできなかった関係があった。
生家では皆が荀彧ばかりを見ていたのだ。
凡人しかいない袁紹陣営。
そこに友若の居場所は確かにあった。
それは友若が本当に欲しかったものなのかもしれない。
――負けるにしても殺されずに生き残る事くらいなら可能かもしれいない。
友若はふとそう考えた。
自分がいたからといって勝てるなどと友若は思わない。
それでも、上手く立ち回れば死ぬことなく生き残ること位は出来るかもしれない。
敵対勢力は皆殺しにしたほうが良いのだから、その望みも薄いだろう。
だが、天才の足元を掻い潜り、何とかその慈悲を得ることが出来ればあるいは。
友若はそう思った。
――くそっ! 本初様を始めとして深く付き合いすぎた!
――こんな分の悪い事に挑戦しようとするなんて、無理に決まっているだろうが!
――と言うか、露骨な死亡フラグみたいじゃねえか!
内心で毒づき、恐怖に震えながらも友若はその日決心した。
幸いにして、黄巾の乱まではまだ10年ほどの時間がある。
その間に、三国志の覇者と顔をつないでおき、慈悲を請えるくらいの関係を築いておいてやる。
それなりに親密なら命くらいは助けてもらえるかもしれない。
ダメだったらその時は逃げればいい。
何もしないで袁紹達の破滅を見ているだけの自分に友若は耐えられなかった。
友若は決心した。
友若なりのやり方で未来を掴み取ることを。戦うことを!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そして、友若が内心で決心を固めてから一ヶ月程後、皇帝の勅が漢帝国全土に激震を引き起こす。
――天下の逆賊袁紹並びにその佞臣荀シン討つべし
黄巾の乱は未だ起こらず。
しかし、この勅をきっかけに三国志の群雄たちが動き出す……!