荀シン(何故か変換できない)が恋姫的世界で奮闘するようです   作:なんやかんや

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この話は番外的な何かです。
本編の続きではありません。
この話を読まなくても本編の理解にそれほど差は生まれないはずです。
本編の背景紹介の一節として銃火器と恋姫世界の技術力について考察していたら予定より少々長くなったので一話として分割しました。
たったの16kなので本編と一緒にしても良かったかも……
今回は何時も以上に独自設定と妄想成分を多分に含むので注意して下さい。


幕間
番外―言い訳一膳


銃火器。

正史においてそれの登場が確認されているのは十二世紀の後半である。

後漢の時代から千年の差がある。

更に、曹操軍に配備された小銃は後装式である。

李典は安全性や、製造コスト、経済コストを理由に前装式をプッシュしていた。

だが、荀彧と彼女に賛同した曹操に押し切られる形で後装式が採用されたのである。

このタイプの登場は十五世紀である。

後漢から三国時代にかけて火薬のかの字も存在していなかった。

いわんや銃火器。

 

当然ながら、創作物である三国志にもまずもって銃火器は登場しない。

火炎放射器の様な何かは何故か登場するが。あと、地雷も……

孔明先生の演義補正である。

ワープ魔法や天候操作と比べれば大したことがないのかもしれないが。

なんで、それで蜀が負けたの、と演義を読んだ人は思ったことがあるだろう。

失敗ばかりの北伐でも何故か司馬懿は公明にボコボコにされている。

 

ともかく、銃火器というのは三国志においてオーパーツに過ぎる。

いくらトンデモ設定が跋扈する三国志演義と言えども、銃火器を全面に押し出した作品はなかなか無い。

出していたとしても、個人の武器くらいの扱いで、制式化する話はかなり珍しいだろう。

というか、千年先の科学・技術を利用してはもはや三国志とは言えない。

名前が同じ人物たちが登場する別の何かである。

そんなものを三国志と言い張られては、温和なファンもキレざるを得ない。

 

少し視点を替えてみるとそのことは明白だ。

例えば、戦国時代において信長軍が千年先の科学・技術を利用したらどうなるか。

この場合、信長の利用できるテクノロジーは現代よりもはるかに進んだものになる。なにそれ怖い。

恐らく、無人兵器が空を飛びまわっては敵対勢力を爆撃し、敵対勢力の本拠地には衛星ミサイルが撃ちこまれる、とか訳の分からない状況になるだろう。

武将の活躍? なにそれ美味しいの? そもそも、戦場に兵士はいないですよ。核兵器で一発です。

そんなことになりかねない。

こうなっては、温厚な戦国時代ファンと言えども怒りが有頂天に達することは間違いないだろう。

そんなものは断じて戦国時代ではないのである。

 

かつて、荀彧に同じ土俵で勝てないことを思い知った友若は内政系転生チートオリ主の基礎項目であるKAYAKUで俺TUEEしてやるぜ、と銃火器の開発を試みたことがある。

友若は火薬の作り方など知らなかったが、幸いなことにこの世界には火薬が普通に存在していた。

火薬の存在を知った友若は喜び勇んだ。

後は銃本体だけだな、等と楽観的に考えながら、望遠鏡用に作ったレンズを放り捨てて友若は銃の開発に取り組んだ。

この時、もう少し望遠鏡の開発を続けていれば、まともなものになったのだが……

数々の失敗を忘却し、KAYAKUチートでこのクソ生意気なガキンチョをぐうの音も出ない様にしてやる、という暗い目的に燃えた友若。

そして、KAYAKUチートは失敗に終わった。

例によって実家の資金をドブに捨てる事になった友若はまだまだ時代が俺に追いついていないのか、等とニヒルに呟いた。

遊んでばかりいないでまじめに勉強しろと友若を非難する荀彧を無視しながら。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

だが、友若の生まれ落ちた恋姫的世界は三国志演義をベースにしているにもかかわらず、銃火器を製造出来るだけの技術的な下地があった。

銃火器の開発に必要な技術を二つだけ上げるとすれば、火薬の生成技術と鉄を丸めて筒を作る加工技術となるだろう。

どちらも正史のこの時代には存在しなかったものだ。

しかし、友若の生まれ落ちた恋姫的世界には普通にその双方が存在している。

 

まず、火薬。

中国三大発明の一つであるそれは古代中国、普の時代に発明されたと正史では伝えられている。

しかし、友若の生まれた世界には普通に花火があり、少量ながら火薬の生産も行われている。

友若の生まれた恋姫世界に何故花火があるのか。

その答えは女性達の服飾への絶えることなき情熱にある。

自分だけの服というものに拘りがあるのか、それぞれが全く別文化の出身と思える様々な服を身にまとっているこの世界の女性たち。

 

当然ながらその要望を達成するべく、服職人達は様々なデザインの服を世に生み出している。

同時に、斬新なデザインを実現するための技術についても相当に研究が進んでいるのである。

その一つが染色であった。

無数の要求に答えるべく、服職人達はは広範囲の色を実現するために無数の染料や顔料を見出している。

その一つに硝石を利用した染料がある。

植物素材等による色合いとは違ったそれは主に高所得者に好まれ、彼女たちの需要を満たすために硝石の生産は体系だって行われていた。

その硝石を使った新たな染料を研究している際、偶然にも発見されたのが火薬であった。

……色々と無茶があるが、とにかく友若の生まれたこの世界ではそうなっている。

正史での火薬の発見は不老不死の薬を求めた結果の副産物だったと言われているし、染料研究の副産物として火薬が生まれた所で何のおかしいところも……おかしいところしかないがそういうものだと納得してもらうしかない。

どっちにしろ、恋姫世界に花火、火薬が存在している事実は揺るがない。

 

そして、鉄の加工技術。

これもまた、女性、特に武将達の装飾に対する情熱が原因である。

飽くなき美の探求が砲筒を加工するだめの技術力を達成させたのである。

曹操や袁紹の身にまとっている鎧を見ると明白にわかるが、この世界の名のある女性たちが身にまとう鎧は漢帝国で一般に用いられているものと大きく異なっている。

漢帝国で一般に用いられている鎧は無数の鉄片を組み合わせたものである。

対して、精々数枚程度の金属を体型に合わせて加工する事によって有力な女性達が身にまとうそれは構成されている。

 

鉄片の組み合わせによる鎧は寸胴の服のようなものでボディーラインが隠れてしまう。

その結果、外から見ると寸胴体型となってしまう。

鍛えあげられて引き締まった肉体美もこれでは台なしである。

ただでさえ、出会いの少なめな武官にしてみればたまったものではない。

様々な意匠の服を自由に選べる文官と比べて、鎧をまとう必要のある武官はどうしても不利な立場に追いやられてしまう。

お洒落と恋愛の面で。

だが、鎧を身に纏わないのは危険が過ぎる。一部のチート武将ならいざ知らず、一般的な武将や兵士達にしてみれば鎧を装着しないというのは自殺行為だ。

しかし、金属を体型に合わせて加工すれば、鎧を身にまとっても体の凹凸のボディーラインを周囲にアピールすることができるのである。それどころか、かさ上げも……

もちろん、鎧の最大の目的は身を守ることだ。

当然、鉄片の鎧に対して同等かそれ以上の防御性能を達成しなければならない。

そのためには素材として加工が容易な青銅ではなく、鉄板を用いる必要がある。

つまり、曹操や袁紹などが身に纏っている鎧は鉄板を打ち叩き、変形させて作られているのだ。

鉄板から打ち出しで作る鎧は、開発されると瞬く間に女性の武官達の憧れとなった。

そして、この鎧加工を実現したのが肉厚な鉄板を自在に加工する技術である。

これを流用して、鉄板を丸めれば普通に鉄筒が作れる。

曹操の肩当てとかの複雑さに比べれば大したことはない。

そして、これに少し手を加えれば、鉄砲の開発は十分可能なのである。QED。

そんな無茶な話があるか!

 

……理論的に恋姫世界の服飾から見る技術レベルを考察すると銃火器が作れてしまう結論に至ってしまった。

銃火器の開発はご都合主義に投げて誤魔化すつもりだったのに、筆者としても予想外の結果である。

世の中にはお約束として突っ込んではいけないものがあると言う事の実証である。

賢明なる紳士淑女の読者方の中に二次小説を書こうと思っている/書いている方がいれば、この惨状を教訓としていただければ幸いである。

下手にメタ設定に突っ込んではいけないと。

お約束とはお約束として流すべきであると。

 

筆者も今回の事を教訓にして、まおうえもんの持っているスパナのようなものとか謎発明は無視する方向で話を進める。

あそこら辺を考えだすと、むしろ機関銃が存在しないのはどうしてなのか、とかそんな話になってしまうし。

豪天砲?

無視無視。

まおうえもんが作ったらしいあれを考えると、鉄の切削加工の存在を疑わざるをえない。

恐らく、基本的なパーツは鋳造で作れるだろう。

正史でも漢帝国はかなりの鋳造技術を持っていた。農耕器具等を始めとして様々な造形が可能であった。

欧州比べて一千年くらい進んでいたかもしれないレベルである。

火薬の存在があれば大砲位発明できていたかもしれない。

ただ、鋳造だけではどうしても加工精度が出せない。

簡単な筒ならともかく、複雑な機構を持つ豪天砲には精密な追加工が必要となるはずだ。特に、回転シリンダー部分とか切削でもなければどうやって作ったんだ。あとシリンダーの固定軸の位置合わせとかも。シリンダー自身の回転軸と装填穴の距離は一定にしなければならないはずなのだ。

鋳造でそれだけの制度を出せるわけがない。切削や研削による追加工が有ったはずである。

しかし、研削であれだけのものの芯出しをしようと思うとどのくらい時間がかかるか考えたくもない。

年単位で制作に取り組むならともかく、次から次へとポンポン発明品を世に出しているまおうえもんはもっと短時間で加工をしたはずである。

つまり、まおうえもんは鉄の切削をしたのだ。

だが、まともに切削をするためには鉄よりも固い素材が必要となる。

そんな素材は恋姫世界と言えどもそうそう存在しない。鋳鉄は硬いのだ。硬さ最強として有名なダイヤモンドは鉄には使えない。少なくとも高速に切削すると熱で鉄に溶ける。

とは言え、まおうえもんには最強の工具、ドリルがある。そのドリルをどうやって作ったのかは謎極まりないが。鍛造? 成型した後に表面処理をして硬化すればいけるのだろうか。

……。

……まおうえもんは凄いなあ。ボクにはとてもできない。

 

結論すると、恐るべきは恋姫世界の女性達の持つ服飾への情熱なのである。

より美しい服、より斬新な服のためには多少の科学・技術的飛躍(ほんの千年ちょっと)を容易く成し遂げてしまうのだから!

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

例によってメタな文章が続いたが、話を戻そう。

 

友若の生まれた漢帝国は普通に鉄砲が作成可能なだけの技術を有している。

もし、友若が荀彧にボロクソに言われて挫折しなければ、鉄砲発明者として友若の名は知れ渡ったかもしれない。

 

もっとも、鉄砲を作ったからといってそれが採用されるかといえば、無理だっただろう。

鉄砲を運用するためには多数の優秀な技術者と莫大な費用が必要になる。

当然ながら、そんなことができる財力を持った人物はそうそういない。

 

そして、この時代の技術力で量産できる銃ならば弩の方が普通に威力が高いのだ。

弩、西洋でクロスボウとして知られるその兵器の威力は凄まじい。

正史でも清代まで普通に弩兵の兵科が存在していたし、第一次世界大戦でも使われていたほどである。

さらに、特殊任務などでは銃火器の消音がまともなレベルに達するまで普通に使われていた。

ある意味、弩は最も寿命の長い実用的な兵器の一つと言えるかも知れない。

戦国時代、日本であれほど鉄砲が広まったのは弩という兵器が存在していなかった事が大きいだろう。戦国時代までの日本の飛び道具はお察し下さいレベルのものしかなかったのだ。

 

友若が武官に鉄砲を売り込もうとしても当然ながら、何故弩よりも低威力なのに金のかかる鉄砲を何で採用しなければいけないのか、と切って捨てられただろう。

曹操ですら、この時点で銃火器を持ち込まれてもそれを使おうとは思わなかっただろう。

そもそも、連射性能という点でも前装式の銃は弩に比べて優れてなどいない。

後装式は構造が複雑になることや、銃の破損を防ぐために威力が低下する等の問題がある。

事実、曹操軍で使用されている後装式の銃の威力は鉄の板バネを利用した袁紹軍の『真弩』に比べてはるかに劣っている。

実は友若がおざなりに開発した『真弩』は友若の転生チート知識の極みである。友若は苦労の果てに作り上げた連弩を潰すことになった『真弩』を嫌っており、その事に気がついてもいなかったが。

それどころか、官軍で利用されている木材の弓を持った弩と比べても威力の点で優れているとは言い難い。

流石に友若が連弩と言い張る玩具よりは威力が上だが。

いずれにしても、財政難に苦しんでいたこの時の漢帝国において高価な玩具を大量購入するような物好きはいなかったであろう。

 

更に、銃火器は戦闘の度に高価で希少な火薬を使用する。

特に、火薬の材料となる硝石はその生産の殆どが染料用に利用されており確保は難しい。

ただでさえ、硝石は生産量が少なく買い手市場だった。

硝石を生産できる技能者がその方法を秘匿しているため、どうしても生産量が増えなかったのだ。

火薬の大量消費を促すような物を作れば、硝石を使った染料の独特の色合いを好む富裕層の女性達を敵に回すだろう。

富裕層である彼女達は当然ながら権力ともつながりがある。

そして、研究開発というのは権力者の後ろ盾が無ければ不可能なものなのだ。

事実、友若以外にも火薬を武器に転用しようという試みをした者はいたが、硝石の確保が難しく結局失敗に終わっている。

しかし、そこは冀州のどろどろした権力闘争の存在にすら気が付かないお花畑の友若。

火薬を兵器として利用することに失敗してきた経緯を知りもしない友若は銃火器の開発が危険を含んでいることなど知りもしなかった。

当然ながら荀彧はその危険を認識していた。

だからこそ、友若に銃火器開発を止めるよう荀彧は口やかましく言ったのである。

KAYAKUチートに絶大な信頼を寄せていた友若はそれを嫉妬か何かと勘違いして聞き流していた。

いくらバケモノが跋扈する世界だとはいっても、科学技術等は恐らく時代相応だと思っている友若。

ならば、オーバーテクノロジーを転生チート知識より生み出せば目の前のバケモノを上回れるはずだ、と友若は信じていた。

そして、現代戦では完全に主役となったKAYAKUこそ友若の俺TUEE伝説を始めるに相応しい、と友若は考えていた。

今まで散々だったにもかかわらず靴底のガムのように諦めの悪い友若だった。

 

「ふん、鉄砲という天才的な発想を否定するだなんて」

 

鉄砲の存在を絶対視している友若は荀彧を小馬鹿にする様に言い放った。

銃火器が他の兵器を駆逐していった歴史を知っている友若。

無駄に上から目線であった。

青筋を浮かべる荀彧。

それでも、荀彧は論理的に友若を説得しようという努力を止めなかった。

 

「だから、火薬を利用した兵器開発は危ないって言ってでしょうが! そもそも、弩と比べてあんたの言う銃の威力は全然ダメじゃない!」

「あ、あれはまだ試作だったからで……」

「しかも、3発目を撃とうとしたら割れて爆発するし! もう少しで大怪我するところだったのよ! それも私まで! 何考えてんのよ!」

「う、うっせー! こいつさえ完成すれば戦争自体が変わるんだよ! 火薬の量を増やせば弓とか弩とかとは比べ物にならないくらいの威力が出るし、並べて撃てば最強だ! 三段打ちの無双ぶりを知らないのかよ! 数さえ揃えばひたすら弾幕をはることもできるし! 十字砲火とかもあるんだぞ!」

「寝言は安全を確保してから言いなさいよ! そもそもこれで何回目の失敗よ! いい加減問題があることを認めなさいよ! 火薬に割れやすい鉄を使うなんて頭が悪すぎよ! どうしても鉄が使いたいなら鎧に使われてる鍛えあげられた鋼を使うとか、もっと工夫をしなさいって私は何度も言っているでしょうが!」

 

憤る荀彧。

その怒りは当たり前のものだった。

何しろ、友若の作った『鉄砲』とやらは酷い。

相当な資金を費やしたにしては微妙過ぎる出来であった。

特に何時暴発するかわからないという問題は致命的だった。

恐ろしいことに、友若は銃身を鋳造で作った。

鋳造した鉄は炭素を多く含み、非常に脆い。

当然、爆発の衝撃で簡単に割れる。

鉄の鋳物による大砲は正史に存在したが、割れないよう肉厚を厚くするなどの工夫をしている。

それでも青銅の大砲より割れ易かった。

個人携帯用の銃火器開発を目指している友若の作った鋳物は肉厚が薄い。

割れないわけがなかった。

使いにくいどころか使用者の安全に関わる『鉄砲』に固執する友若の有り様は他の人間から見れば狂気の沙汰としか思えない。

正史において初期の個人携帯銃火器の銃身は鉄板を折り曲げで作られている。

明晰と言う言葉が陳腐にすら聞こえる荀彧の頭脳は容易く正解を言い当てていた。

しかし、荀彧の忠告に従う気などない友若。

 

「嫌ならほっとけよ!」

 

ぶっきらぼうに友若は言い放つ。

 

「私はお母様にあんたがめちゃくちゃしないよう見張りなさいって言われているのよ!」

 

荀彧が言い返した。

事実である。

妹である荀彧にあらゆる分野で追い越された頃から始まった友若の奇行は荀家の悩みの種となっていた。

曰く、農業収穫が十倍になる農法を考えた、十里先の物が手に取れるかのように見える装置を思いついた、等など冗談か何かとしか思えないアイデアを次々と言い出すのだ。

それだけならまだしも、それらのアイデアを実用化するために資金提供を求める友若に家族は頭を悩ませていた。

荀彧を除けば抜きん出てはいないものの最も優秀な友若。

そこそこ口が回り、何より詭弁に優れている友若を論破するのは難しかった。

姉や両親が言葉で説得しようとしても、友若の突飛な発言に翻弄された結果、いつの間にか友若が正しいことになってしまうことが多かった。

例えば、友若の発言の中には儒教思想の否定が含まれている事がある。これを迂闊に外で発言しようものなら大変なことになりかねない。

アイデアを実用化しようと没頭している間は余計なことを口走らず、大人しいのだ。

渋々、荀家は友若の道楽を認めた。

荀彧に負けて以来、勉学に意欲を見せなくなった友若がこれで自身を取り戻すのならば、資金提供に値すると両親は考えたのだ。

それに、友若は愚かではないのだから、何かしら成果を出すかもしれないという期待もあった。

ところが、それなりの資金を使い込みながら全くもって成果を出さない友若。

転生チート知識を持っている友若の方向性はそう間違っていない。

最後まで物事をやりぬく意志の欠如が原因だった。

だが、突飛な友若のアイデアは結果を出さないことには認められるわけがない。

そして、一向に勉学には見向きもしない友若であった。

 

両親が遂に業を煮やした結果、出番が回ってきたのが荀彧であった。

あらゆる点で友若を圧倒する荀彧であれば、妙な発言に翻弄されずに容易く友若を論破することが出来る。

友若が心折れた原因を考えれば、荀彧に見張らせる事は悪手である。

だが、他に適当な人材がいなかったのだ。

 

兄の監視を任された荀彧は奮起した。かつてない熱意に燃えた。

そして、その能力の限りを尽くして友若に付きまとい駄目出しを続けた。

転生チート知識をそのまま実現しようとしている友若の試みは荀彧から見れば無数の問題を抱えている。

技術・経済・宗教・政治、あらゆる分野に精通した荀彧の言葉は疑いようもなく正しかった。

結果として、友若は多大なストレスを抱え込むことになった。

もし友若に煽り耐性があるならば、荀彧の指摘により問題点を的確に把握することも可能だった。そうすれば、友若の転生チート知識はもっと早い段階で日の目を見ていたかもしれない。

しかし、荀彧をギャフンと言わせるという暗い目的を持つ友若にしてみれば、妹の意見に従うことは敗北を意味していた。例え、荀彧の意見が的を得ていると内心で思っていたとしても。

友若の無駄且つ姑息なプライドであった。

それが原因で成功を手にすることが出来ないのだからただのアホである。

 

転生チート知識は状況の異なる漢帝国にそのまま適応することはできない。

社会や文化、経済、技術といった様々要素に適応させて初めてチート知識は真価を発揮するのだ。

そして、言うは易く行うは難しという言葉があるように、知識を実利に結びつけるプロセスには相当の困難が伴う。

友若は余りにもこの過程を軽視していた。

これではとても上手く行くわけがない。

しかし、それでも本来なら友若はもっと簡単に名を馳せることができたはずである。

なぜなら、友若には一を聞いて百を構築する荀彧という妹がいるのだ。

思いついた側から転生チート知識を適当に話すだけでも荀彧はそれを昇華させる能力がある。

普通に荀彧の言葉に従っていれば鉄砲の開発に留まらす、それ以外の試み全てで成功をおさめることができただろう。

 

それでも荀彧の言葉を無視し、服にこびり着いたシミのように次から次へと様々な試みに挑戦する友若。

まだ、己の才能と転生チート知識を信じていたのだ。

妹なんかに負けてたまるかというプライドもあった。

 

そんなこんなで盛大に失敗を重ねる友若に荀家は驚いた。

その奇抜なアイデアに、ではない。

何の成果も出せず、荀彧に論破ばかりされている友若に対して荀家は資金提供を止めていた。

友若の試みに必要となる資金は少額ではない。

にも関わらず、友若は研究に必要となる資金を何処からか捻出していた。

不思議なことに、友若が家の資金を使い込んでいる様子はない。

何か危険なことをしていないか。家の不利になる事をしていないのか。

当然ながら友若に疑いを抱いた母親荀コンは荀彧に資金源を調べるように命じた。

 

荀彧は友若と同じようにちょっとした商売のようなものを行なっていた。

友若が何も考えずに呟いた転生チート知識の欠片を荀彧は拾い集め発展させていたのだ。

それを小馬鹿にする友若。友若の持つ転生チート知識から見ても中々の着想を見せる荀彧だが、その稼ぎは決して多いとは言えなかった。

友若は、自分ならもっと稼いでみせるのに、と内心思っていた。

自分がやってもいないことで他人を馬鹿にする当たり、友若は腐りきっていた。ドロの罠で腐ったレベルまで改善する必要があっただろう。

因みに、荀彧は敢えて稼ぎを少なくしていた。商売というものは儒教思想と対立しやすい。公然と儲けすぎれば他者の反発を招くと荀彧は判断していた。

その判断能力がない場合にどうなるか、という答えが袁紹と友若の逆賊指定である。

 

ともかく、荀彧が漢帝国の実情に合わせて昇華させたそれはそこそこ成功を収め、荀家にもリターンをもたらしていた。

さらに、事業を通して荀彧は地方豪族を中心に幅広い人脈を築いていた。この人脈は後に荀彧が洛陽で清流派として台頭する際に大いに役に立つことになる。

この様に商売にも造詣のある荀彧ならば友若の資金源を突き止めることも訳ないだろうと荀コウは考えていた。

そして、調査を命じられた荀彧は使用人に聞き込みを行った。

 

「友若のお坊ちゃんがどこから資金を得ているのか、ですか? さ、さあ……私には全く分かりません」

「わ、私も、わ、分かりません。ほ、本当ですって!」

「え? いや、普通に文若お嬢様が外で稼いできた金を――」

「……そう言えばあんたには賭博の借金を肩代わりしたことがあったわね。今すぐ返してくれないかしら」

「な、何も知りません! 坊ちゃんがどこから金を得ているかなんて知りません!」

「ならいいわ。これだけ調べて分からないなら事件は迷宮入りという事ね。あ、借金はお金がまとまった時でいいわ」

「……」

「……」

「……」

 

だが、不思議なことに荀彧の頭脳を持ってしても友若の資金源を突き止めることはできなかった。

荀彧の調査の結果、荀家やそれに関係する者達に不利になる事を友若がしている様子はない、という事が分かっただけであった。

予想外の結果に驚いた荀コン。

問題はないにしても友若の資金源を突き止める必要があると荀彧に引き続き調査するよう命じた。

因みに、友若は実家からの資金提供凍結に気が付いてもいなかった。

 

「大体、何ですぐ近くで火を付けるのよ!? もう少し遠くから火薬に火を付けられるようにするとか、そのくらいの工夫はして見せなさいよ!」

「う、五月蝿い! これは携帯用を目指しているんだ! 手で持って使えなきゃ意味が無いだろう!」

「携帯用にしたいならまず暴発しない物が作れてからよ! もう少し頭を使ったらどうなの!? このばか兄貴!」

「なっ!? バカって言ったほうがバカなんだぞ! バーカ、バーカ!」

「言った側から自爆してどうするのよ、ばかー!」

 

寝ても覚めても付きまとうことを止めない荀彧。

ノイローゼ気味なった友若が家出同然に洛陽に行くと言い出す1年前の話であった。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

曹操を理想の主として頂いた荀彧はその才能を思う存分に発揮した。

荀彧の文官としての能力は比類なく、時をおかずに曹操配下の文官筆頭として敏腕を振るうことになる。

また、宦官の孫である曹操にとって清流派として名の知れた荀彧が配下にいるということは重要であった。

あの荀彧が仕えているのならば、と優秀な人間が集まってくるのだから。

更に、荀彧は先見の明を示した。

袁紹が奇異な制度を立ち上げるとすぐに動いた荀彧は曹操の貨幣収入を十倍に押し上げた。

曹操は荀彧をして、王佐の才、と称えた。

優秀な部下に恵まれた曹操は漢帝国の臣下として出世を重ねていく。

やがて、曹操は西園八校尉として皇帝が新たに設立した皇帝直属軍の取りまとめを任されることになった。

曹操に期待を寄せる皇帝はこの軍についての大きな裁量権を曹操に与えていた。

その中には部隊編成に関する権限もあった。

如何なる軍を作るか。

曹操は思案した。

 

「春蘭、貴方はどう思うかしら?」

「はっ! 私が華琳様の敵を全て蹴散らしてやります!」

「……ばっかじゃないの」

「なんだと!? 荀文若、貴様!」

「止めなさい、春蘭。桂花、貴方もよ」

「「申し訳ありません!」」

 

曹操の言葉に同時に謝罪する夏候惇と荀彧。

荀彧の手に包帯が巻かれている包帯に曹操は一瞬視線を送った。

 

「桂花、貴方ならどうするかしら」

「腹案を申し上げる前に華琳様に見せたいものがあります。お手数ですが、ご足労願います」

「分かったわ、桂花。態々足を運ばせるのだから当然期待して良いのよね?」

「はい」

 

荀彧は曹操、夏候惇、夏侯淵を引き連れて兵士達の訓練場となる予定の平原へと向かった。

 

「あちらです」

 

荀彧の指し示した先には複数の兵士達と李典がいた。

 

「あら、また新しい発明かしら」

 

曹操が尋ねる。

荀彧は李典と共に画期的な道具を次々と生み出していた。

曹操が絶賛した双眼鏡もこれに含まれている。

 

「……兄が昔作ろうとしていたものです」

 

荀彧が答えた。

包帯が巻かれた手は強く握られていた。

こういう時、曹操は荀彧が実の兄に強い感情を抱いている事を否応でも認識させられる。

もちろん、曹操と荀彧との絆は決して浅いものではない。

荀彧は心の底から曹操を敬愛し、仕えている。もし、荀彧が兄と曹操のどちらかを選ぶことになったら、彼女は曹操を取るだろう。それだけの自信が曹操にはあった。

しかし、曹操は心を微かにざわめかせた。

 

「……ふふふ。荀シン……あれだけのものを考案するなんて。是非とも会ってみたいわね」

「華琳様の御心を知れば、兄も光栄に思うでしょう」

 

荀彧は懐かしむように言った。

曹操ほどの大器の持ち主に見初められたと知ったら歓喜するに違いないと荀彧は思う。

荀彧の脳内で微妙に美化されている友若。過去の記憶とは美しいものなのだ。

頭脳の天才たる荀彧と言えど、その性向からは逃れられなかった。

もし、現実の友若が曹操に注目されていることを知ったら普通に逃げ出すだろうが。

 

「華琳様! ようこそ! 夏侯両将軍も歓迎します」

 

曹操の元に駆け寄ってきた李典が言う。

 

「お出迎えご苦労。それで、今度は何を見せてくれるのかしら?」

「もうすぐ始まります。華琳様、一応馬から離れておいて下さい。暴れだす危険があります」

「ふん、何を言うか。華琳様の馬はもちろん、私たちの馬もよく鍛えられた軍馬だ。そこらの臆病ですぐ暴れる馬とは違う」

 

荀彧の言葉に夏侯惇が噛み付く。

 

「それなら結構ね。その馬を信頼しているならあんたは側に突っ立ていればいいんじゃない。でも、華琳様からは引き離しておきなさいよ。万が一が無いように」

 

夏侯惇に一瞬顔を向けた荀彧は小馬鹿にするように言う。

 

「ふむ。春蘭、馬から離れておきましょう」

「は、はい」

 

曹操の言葉に夏侯惇と夏侯淵は従った。

2人が馬から距離を取ったのを見た荀彧が包帯の巻かれた手を振る。

準備が出来ていたらしい兵士達がその合図に動き始めた。

筒状の物を構え、その先を4半里程離れた的らしき物へと向けている。

 

「華琳様、大きな音がします。ご注意下さい」

 

荀彧が曹操に注意を促した。

兵士達の持つ筒から煙が上がると同時に、破裂音が鳴り響いた。

夏侯惇と夏侯淵の乗ってきた馬が驚き、前足を高く上げて大きく嘶いた。

曹操の愛馬ですら首を振って不安を示す。

 

「おい! こら、こんな程度で暴れるな! 私の馬だろうが!」

 

夏侯惇が慌てて暴れる馬を取り押さえに向かう。

その様子に視線を向けることすらなく、曹操は兵士達の持つ筒を凝視した。

 

「桂花! あれは何?」

「はい、華琳様! あれは『銃』です」

「今のは……火薬を使っているということかしら」

「そうです。火薬の爆発によって弾丸、金属の玉を打ち出す武器です」

「火薬を使った矢の試みについては話を聞いたことがあったけれど……どのくらいの威力が出るのかしら」

 

曹操が間をおかずに尋ねる。

 

「こちらを」

 

李典が的として使われていたらしき鎧の端布を差し出した。

 

「4半里の距離から弾丸を当てた場合のものです」

 

鎧を構成する鉄片の一部が破壊されて穴が開いている。

 

「なるほど。この距離で鎧を貫けるのね。どのくらいの命中精度があるのかしら?」

「あまり良くはありません。どうしても弾道が安定しません。慣れた兵士でも確実に標的に当てるにはこの距離の半分位でないと厳しいです。逆に言えば、それだけの距離なら結構中ります」

「それでは、弓や弩とそう変わらないのね」

 

曹操はそう言いながら横目で夏侯惇の方に視線をやった。

暴れていた2頭の馬は夏侯惇に宥められて落ち着いたのか大人しくなっている。

 

「こちらが、今回作った銃になります」

 

李典が曹操に銃を差し出した。

それを受け取った曹操はしげしげと眺め回す。

 

「ここは何かしら?」

「そこは点火部分になります。予め火を付けたこの縄がこちらの火皿に押し付けられることで点火します」

 

疑問に感じた箇所について質問していく曹操に李典が応対する。

構造について一頻り質問を終えた曹操は銃から視線を李典に向けた。

 

「これの連射性能はどのくらいかしら? 弩と同じか、それ以上だと思うのだけれど」

「それは――」

「華琳様、これを!」

 

李典の返答を遮って荀彧が曹操に声をかけた。

手には銃を持っている。

李典が曹操に渡したものと所々で構造が異なっていた。

 

「あら? それは別の銃かしら」

 

荀彧の言葉に李典が不満そうな顔を一瞬見せた。その目は荀彧よりもその手に持つ銃に向けられていた。

それを敢えて無視した曹操。荀彧に続きを促した。

 

「こちらは華琳様が手に持っている銃を改善したものです。こちらは弾丸を手元で装填できます。連射性能は段違いです。更に――」

「それは問題が多すぎるっちゅうねん。軍の武器として使うには機構が複雑過ぎや! 威力も出えへんし、品質も安定せえへん! 一品物ならともかくそれは武器として不完全に過ぎるやろが!」

 

荀彧の言葉を遮って李典が叫んだ。

よほど感情的になったのか、曹操を前にしているにも関わらず口調が素に戻っていた。

なるほど、と曹操は思った。

李典の反対で荀彧の持つ銃の問題点は大まかに把握できた。

武器に造詣の深い李典が反対するのもよく分かる。

コストや安定性は軍の武器を運用する際に重要だ。

 

「桂花、貴方の持つその銃の問題点は何かしら」

「機構が複雑でそちらと比べて価格が3倍程度になること、品質が安定しないこと、有効射程がそちらと比べて7、8割程度となること、暴発の危険がより高いこと、です」

「なるほど、問題だらけね。利点は連射性能だけ、ということかしら?」

 

荀彧は何も言わずに頷いた。

曹操は微笑んだ。

荀彧の持つ銃は問題だらけだ。

だが、曹操が軍を構成するに当たり、求めていた武器の条件を完全に満たしている。

 

「我が子房、桂花。よくやったわ」

 

皇帝直属軍の構成をどうするか。

曹操の腹案は決まった。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

皇帝直属の常備軍。

皇帝の肝いりで設立されたその軍にとって最大の仮想的は騎馬異民族であった。

と言うより、漢帝国の軍団の殆どが異民族対策に設立されている。

これは建国当初から変わらない。

漢帝国に限らず歴代王朝は国内で軍を必要とすることなど殆どなかった。

完成された統治機構がある為、軍が必要になる反乱等そう簡単には起こらないのだ。

反乱が起こるというのは統治システムが余程の異常を来したか、あるいは滅亡直前かのどちらかである。

 

異民族は違う。

草原や荒地に住まう彼らは農耕により糧を得ることが出来る漢帝国の民と違い、食料を手に入れられずに飢えることが多い。

そうなった時、異民族は生き延びるために漢帝国へと襲いかかる。

貧しいがため、飢えているがために略奪をする異民族との戦いは勝った所で得るものがない。

更に、幼い頃から馬に乗る騎馬民族の戦力は漢帝国の一般的な兵士を遥かに凌駕している。

異民族とまともに戦うためには相手を超える兵力を用意する必要がある。

漢帝国にしてみれば異民族との戦線維持は財政上の大きな負担となっていた。

しかし、戦わなければ異民族は辺境から漢帝国内部へとその魔手を伸ばすだろう。

漢帝国は戦線を維持するために国家を傾けるほどの財を辺境に注ぎこんでいた。

注ぎ込まざるを得なかった。

 

差異はあれど、決して途絶えることのない異民族への対処は漢帝国にかぎらず歴代王朝の悩みの種である。

ある意味で、歴代王朝の役割は安定的に異民族の侵攻を防ぐ事にあったとすら言えるだろう。

それができないほど衰退した王朝は遠からず終焉を迎えることになる。

秦は防衛線を築くことで異民族に対処しようとした。

漢の高祖、劉邦は異民族討伐の失敗後、賠償金を支払って秦に習った。

戦いの天才たる光武帝は異民族との終わりなき戦いを避け、緩衝地帯を作り出すことによりその脅威を遠ざけた。

 

曹操が生まれた時代はどうであったか。

この時代の漢帝国の辺境防衛線は崩壊していた。

人口減少と税収減少により、漢帝国は十分な防衛兵力の確保が不可能となった。

辺境は犠牲になった。

漢帝国の兵士はまともに戦った所で異民族には勝てない。そうである以上、異民族撃退は不可能だ。

辺境は異民族が好き勝手に荒らされることになった。

 

異民族に優秀な指導者が生まれると事態は更に悲惨になる。

少し前に異民族の優秀な王が死んだから良いものの、そうでなければ洛陽まで異民族に陥落させられていたかもしれない。

現在の皇帝はかつて異民族の脅威を抜本的に解決しようと試みた。

国中から資金をかき集め、大規模な遠征軍を編成して異民族の討伐を目指し、そして、大敗した。その傷跡は大きく、漢帝国は優秀な将兵を多数失い、莫大な和解金によって国庫は傾いた。

売官をしてまで結成された皇帝の常備軍には当然ながら異民族対策が求められていた。

当然、常備軍は異民族と互角以上に戦えることが求められている。

しかし、その実現は難しい。

馬、という人間よりも遥かに強い生物を乗りこなす騎馬民族は凄まじく強大なのだ。

更に馬の移動速度は人間のそれをはるかに凌駕している。

異民族を超える兵力を用意したとしても、敵が逃げ出した際に追いかける手段がない。

そして、その圧倒的質量の突撃は脅威そのものだ。

並の兵士に止められるものではない。

 

辺境と発展著しい冀州の間に経済的な結びつきができたことで大きな収入源を手に入れた異民族は大人しくなったことで異民族対策の優先度は低下したが、それでも常備軍の最大の仮想敵が異民族であることに変わりはない。

むしろ、交易によって異民族が力をつけることを危惧する声さえ洛陽にはあった。

曹操自身もその危険性は無視できないと考えていた。

確かに、豊かさを手に入れた異民族は漢帝国を襲う動機を失った。

その点では大幅に脅威が低下したし、辺境では軍縮すら可能になった。

これにより、漢帝国の財政は一息つくことに成功している。それでもまだ赤字で首が回らなかったが。

 

だが、異民族は決して漢帝国に服従したわけではない。

漢帝国の武器が異民族に流れているという話もあった。

横流しを取り締まる動きもあるが、辺境を犠牲にした漢帝国を憎んですらいる辺境の民の不正を全て取り締まる能力は漢帝国にはない。

もし、また異民族に優秀な指導者が現れれば漢帝国にとってかつてない脅威となるだろう。

 

だが、逆に言えば指導者さえいなければ異民族はもはや脅威ではないのだ。

餓えたがために漢帝国を襲う異民族は頭を潰した所で止まらなかった。

しかし、今は違う。

 

敵の将を取るという首狩り作戦を曹操は基本戦術と定めた。

だから、曹操は常備軍を全て騎兵で構成することを決めていた。

戦場で異民族の王を殺すためには馬に乗らなければ接近すら難しい。

しかし、馬の扱いではどうしても異民族に漢帝国の兵士は勝つことができない。

常備軍の兵力は1万に定まっているために、数的優位に頼ることも不可能だ。

曹操は騎馬異民族に対して質的優位を確保する手段を求めていた。

 

だからこそ、曹操は銃火器、それも構造が複雑で問題を多く含む後装式のそれの採用を決めた。

訓練が必要で威力も出にくい乗馬しての弓や連射が不可能な弩では異民族に対抗するには不十分だからだ。

銃火器であれば用意に扱え、後装式であれば騎乗しながらの装填も可能なのだ。

加えて銃火器は銃声という素晴らしい副次効果を持っている。

慣れていない馬を恐慌状態にするそれは、遊牧騎馬民族を相手にするのであればむしろ主効果と言っても差し支えないだろう。

曹操は銃火器のこの特性を活かし、対異民族の首狩り戦術を構築した。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

曹操が皇帝直属の常備軍に銃火器を採用を決めたのはその戦術的価値故であったが、その採用を可能としたのは冀州の発展であった。

経済の活性化により、著しい増大を見せたのが高級服の購入者層である。

かつては上流層にほとんど独占されていた個別デザインの服は冀州で財を成した女性達にとって成功の証となった。

その中には硝石を利用して染色された布の需要もあり、以前の少量生産では全く需要に追いつかなくなった。

硝石の生産方法を知る人間が冀州で立ち上げた株式会社を買収した友若は、自らの保有している衣服会社に安価な硝石の染料を供給するために生産方法の公開を迫った。

結果として、少々血を見る展開になりつつも、漢帝国の硝石生産量は大幅な増大と価格の下落を見せた。

ここで、まとうな転生オリ主なら火薬の生産にも踏み切るのだろうが、そこは友若。

火薬のことなどすっかり頭から抜け落ちていた。

友若は過去を顧みない漢。

……嫌な過去を全て忘れる、とも言う。

 

また、銃火器の生産に欠かせない鉄の生産量も冀州の発展により増大していた。

冀州で行われている価格調整により価格は低下していないものの、金さえあれば調達は容易となっていた。

 

銃火器の生産に十分な費用を冀州での資金運用で確保していた曹操。

帝国の資金ではなく曹操自身のポケットマネーであったが、銃火器の生産も十分に可能であった。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

曹操と荀彧により考案された銃火器を利用した首狩り戦術。

漢帝国の民を守るため、遊牧騎馬民族相手に質的優位を確保しようと名刀のごとく研ぎ澄まされたそれ。

皮肉なことにその戦術が初めて振るわれたのは異民族ではなく同じ漢帝国の袁紹軍相手であった。

 




次話で前編が終わりになるはずです。
ようやく折り返し。
書きなぐりにしては長くなり過ぎな気がしてなりません。

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