荀シン(何故か変換できない)が恋姫的世界で奮闘するようです   作:なんやかんや

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荀シン友若 下

「……そう、分かったわ。公台にはよくやったと伝えておいてちょうだい。貴方もよく伝えてくれたわ。明日朝返書を渡すからそれまで休んでおきなさい」

 

陳宮からの報告書を読み終えた賈駆は配送を請け負った兵士に労いの言葉をかけた。

兵士が退出するのを待って、賈駆は深いため息を付く。

董卓が心配した様子を見せる。

 

「え、詠ちゃん、大丈夫?」

「ええ、ボクは大丈夫。恋達もまあ上手くやったようね。最後の最後で活躍の場があったみたいだし……皆、怪我もなく無事みたいよ。死者はなし、怪我人は少々ってところね」

「良かったぁ」

 

賈駆の言葉に董卓は心から安堵した。

純粋に友人の無事を喜ぶ董卓。

賈駆は董卓のそんな在り方を喜ぶと同時に微かな痛みを覚えた。

軍師として、無意識のうちに味方の損害を損得勘定で判断してしまう賈駆。

例えば、仮に呂布達が死んだとしても、賈駆はそれを嘆くよりも先にその損失を見積り、抜けた穴を補填する方法を考えるだろう。

もちろん、賈駆は軍師としてそれが当然だと思っていたし、その事に後ろめたさを感じたことはない。

仲間の死を利用できなくて何が軍師か、と思う。

だが、そんな賈駆にしてみれば董卓の純粋な在り方は余りに眩しい。

親友である董卓がそうした事を気にするわけなど無い。

しかし、賈駆はこうした時、心優しい親友に自分が相応しくないと思ってしまうのだ。

 

「……詠ちゃん、大丈夫。詠ちゃんは私の大切な、大切な親友だから」

「っ! ゆ、月!」

 

賈駆の内心の葛藤を見透かしたように董卓が笑いかけた。

敵わないな、と賈駆は思った。

こんなに優しい董卓こそ、もっと上の立場に立つべきだと賈駆は思う。

少なくとも、異民族対して無謀な挑発を行って辺境を地獄へと変えた前の皇帝や現皇帝などよりは遥かにましだろう。

 

そもそも、洛陽の人間で辺境への理解がある人間は少ない。

官吏として出世する人間は一旦洛陽を離れた地に赴任するものだが、その際に人気があるのは賄賂が期待できる冀州を始めとした豊かな土地だ。

対異民族目的で莫大な戦費が辺境に割り当てられていた時期は辺境への赴任を志望する者もいたが、そうした人間の目的は横領と賄賂によって財を成すことであり、辺境の問題を解決するためではない。

流石に朝廷は辺境の重要さを理解していたが、実情を把握していない彼らの行動が辺境の民を救うことはなかった。

 

并州がこの世の地獄だった頃、董卓は辺境の民を救おうと奔走していた数少ない人間だった。

そして、それ故に董卓は他の官吏から疎まれることになった。

官吏の収賄や着服は大きな利権構造を構成していた。

民を救うために奔走する董卓の行いはその利権を切り崩すものだったのだ。

 

友人として、軍師として賈駆は董卓を支えようと奔走した。

だが、当時の賈駆にできたことは殆ど無かった。

賈駆の説得能力は決して高くはない。

生まれつき問題の本質を容易く見通してしまう賈駆にとって交渉とは、物分かりの悪い相手に論理を説くというものになりやすい。

相手が賈駆に従う部下であればそれで問題はない。

だが、汚職にまみれた官吏を相手に賈駆の正論は効果を示さなかった。

結局、并州が平和を取り戻せたのは董卓や賈駆の功績と言うよりは、冀州の経済圏拡大によって并州に莫大な資金が流入するようになった事が大きい。

 

もちろん、賈駆はその好機を最大限に活かすべく動いた。

官吏達に経済拡大による利を示し、彼らの既得権益である収賄の密告を示唆して脅し、飴と鞭を使い分けて行政の腐敗改善を実現してみせた。

長年の苦節に耐えた賈駆の粘り強い交渉。それを全面的に支えた董卓の献身。

その成果である。

しかし、それは袁紹の成功という幸運があったからこそ獲得することができた。

董卓や賈駆の力のみで并州の平和が達成できたなどとは口が裂けても言えない。

董卓は純粋に并州の平和を喜んでいたが、賈駆は表面上笑顔を取り繕いながらも悔しさを感じずにはいられなかった。

 

冀州州牧袁紹本初。

その袁紹に株式制度など冀州経済の起爆剤となった様々な政策を献策した荀シン友若。

賈駆はどうしても自分達と袁紹達とを比べてしまう。

もちろん、双方は前提となる権勢や財力、家柄に大きな差がある。

だから、董卓と袁紹で成し遂げた功績に差があるとしても、それは決して両者の素の能力の差には直結しない。

 

だが、仮に董卓が今の袁紹の立場にいたとして。

仮に賈駆が友若と同じ立場であったとして。

賈駆は荀シンに劣らない働きができるのだろうか。

商人の話によれば株式と名付けられた制度は、商売を行うにあたっての資金集めを始めとして様々な利点のある画期的なものらしい。

異民族との果てしない殺し合いが続いていた并州で幼い頃から過ごしていた賈駆は商売に関しては余り詳しくない。

董卓のためにも学問を疎かにしたことのない賈駆だが、商売を取り扱った書物は少なかった。

賈駆が本格的に商売や経済に触れるようになったのは、并州が冀州の経済圏に入ってからだ。

そのため、賈駆にしてみれば株式制度や銀行制度は当たり前のもので、それがない商売というものが実感を伴って想像できない。

しかし、今となっては当たり前のこうした制度は10年前には影も形もなかった。

全くの無から株式制度や銀行制度を考案した友若。

自分は同じことができたのか、という自問に是と答えられない賈駆であった。

 

「はあ……」

 

賈駆は溜息とともに幾度と繰り返してきた思考を振り払った。

劣等感に苛まれている暇はない。

賈駆は心配そうな顔の董卓へと視線を向けた。

 

「月、袁紹のところから朝廷との和睦交渉のための使者が来るわ。袁紹はボク達に洛陽まで使者を護衛するように求めているわ」

「そ、それじゃあ、これ以上の戦いは無いんだよね」

「……ええ、陳宮の話だとそうみたいね」

 

戦いが続かなそうな状況にホッとした様子を見せる董卓。

官軍との戦いで

賈駆は董卓の心の平安に喜びながらも、袁紹の行動に不可解なものを感じていた。

官軍相手に圧倒的な勝利を得た袁紹軍。

その勢いを持ってすれば洛陽まで攻め上ることも容易だったはずである。

そして、洛陽さえ抑えれば、漢帝国は袁紹のものとなる。

皇帝側が袁紹に対して行った不義理、理不尽を考えれば。諸侯も納得せざるを得ないだろう。

仮に董卓が袁紹の立場だったとすれば、賈駆は洛陽までの進軍を進言しただろう。

だが、袁紹は勝利の果実を掴もうとせず、自らの破滅を企んだ皇帝側を生かそうという行動をとっている。

 

賈駆にしてみれば優柔不断な悪手としか思えない。

生かされた皇帝側が袁紹に感謝することは無いはずだ。

むしろ、機会を見て今度こそ袁紹を倒そうと動くだろう。

朝廷に巣食い、権力を牛耳る宦官や官吏と、勢力を拡大する一方の袁紹。

この両者が並び立てない以上、共存不可能だ。

そして、将来も敵としかなり得ない相手を生かすことは百害あって一利なしだと賈駆は思う。

賈駆ならばここで断固とした武力行使により後顧の憂いを断つべきだと主張するだろう。

 

とは言え、袁紹の統治、軍事面での圧倒的な成功を見ている賈駆。

英雄袁紹の選択をただ愚劣と切り捨てることはできない。

そもそも、朝廷が辺境の実態をまるで理解していなかったように、董卓達もまた朝廷の動向に詳しいわけではない。

ある程度の情報――誰がどの地位にあるか等は伝わってくるが、書面上に出ることのない対立や繋がりに関しては朝廷と距離をおいた董卓達には伝わってこない。

もちろん、賈駆は董卓が朝廷の都合で潰されないように動いていたが、逆に言えばそれだけしかしていなかった。

 

この戦いに先立って行われた交渉で賈駆は天才とまで言われる友若と直接言葉をかわしたが、その時、彼女がその天才に対して最初に抱いた印象は愚鈍な人間というものだった。

もちろん、伝え聞く逸話や、冀州の発展を考えれば、その印象が間違っている事は明白だ。

どうして友若に間違った印象を抱いたかといえば、両者の持っている情報の違いがあったからだ、と賈駆は判断している。

前提となる知識がそもそも異なっているために、賈駆は最初袁紹側が不利だと判断していた。

だが、実際は、弩を始めとした大量の武器を揃え、兵を鍛え上げ、長年にわたって戦いに備えていた袁紹軍の圧倒的な勝利に終わったのだ。

賈駆の持っていた情報には不足があったのである。

恐らく、袁紹側は董卓が袁紹は武装を整えているという情報を知っているものとして交渉に臨んだのだろう。

だが、董卓や賈駆は辺境の復興に追われており、朝廷を除けば殆ど外に目を向ける余裕がなかった。

そもそも、株式制度では投資のために莫大な情報が公開される。

人材不足の董卓陣営では、賈駆が殆ど一人で膨大な公開情報を処理して、并州の安定的な経済発展の実現していた。

とても、密偵を組織して外部の秘密情報を探る余裕は無かったのだ。

 

だが、上京するのであれば、そうした情報は極めて重要だ。

袁紹も董卓の知らない情報から朝廷との和睦交渉を行うと決めたと考えるのが妥当だろう。

朝廷の動向に関して何か重大な情報を持っているならば、袁紹が武力行使ではなく和睦交渉を選んだことも納得できる。

袁紹は董卓側にその情報を開示するつもりのないのか、賈駆はどうして袁紹が交渉を選んだかを具体的に知ることは無かったのだが。

 

――ボク達も今後は外の情報を集めなくちゃならないわね。

 

異民族の問題がなくなり余裕の出た并州。

袁紹と朝廷との交渉仲介に成功すれば、董卓陣営は名声を増すだろう。

そうなった時、諸侯の動向を知らなければカモにされるだけだ。

生き残るためにも、朝廷や袁紹を始めとした諸侯の動向を知っておくことは必須であると賈駆は考えた。

 

「ともかく、袁紹側の使者は陳宮の早馬と同時に出立したらしいわ。使者の名前は審配正南と許攸子遠。彼女たちが并州に着いたらすぐに朝廷との交渉に動けるよう根回ししておく必要があるわ。朝廷を交渉の席につけるためにもある程度の兵は動かさなくちゃいけないし」

「うん」

 

董卓は微笑んだ。

賈駆も小さくそれに笑い返す。

 

「くっだらない戦争のせいで、商人の動きが止まっているしね。并州のためにも平和を取り戻さなくちゃいけないわね」

「頑張ろうね、詠ちゃん」

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「友若、話があるんやけど」

「……まあ、いいけど」

 

朝廷への使者は清流として洛陽との人脈のある審配と許攸になった。

2人は護衛の兵100名を率いて并州へと向かい、董卓に仲介を委託することで皇帝側と交渉の席に着く予定である。

審配が友若に話があると声をかけたのは出立前夜の事だった。

 

相変わらず微妙な趣味の服装だ、と友若は思う。

貴金属の装飾品をジャラジャラと身に付けた審配は何というか成金趣味である。

夏だというのに複数の種類の動物の毛皮で作られた上掛けを身に纏っていることには感心するが。

確かこの上掛けは数銭万銭したと審配が言っていたはずである。

審配にしては珍しく品の良いデザインで、友若も珍しく褒めた記憶がある。

本当に金に目がないやつだなあ、と友若は自分を差し置いて感心した。

身に纏った装飾品に対して体の貧相さは如何ともしがたいが、と考えた友若は慌ててその思考を振り払った。

こういうところだけ、勘の良い審配が友若を睨みつけている。

 

なまじ顔立ちが整っているだけあって、つり目気味の審配の睨みは怖い。

友若の様子に審配はため息を付いて目を逸らす。

澄ましていれば美人なんだけどなあ、と友若はこっそりと思った。

癖のない黒髪を短く切った審配は落ち着いてさえいれば麗人に見えるだろう。

本人は黒髪が地味だと気にしているようだが、友若は審配の髪が好きだった。

理由は分からないが、漢帝国には金やブラウン、銀だけに留まらず、蒼とか緑の髪を持った女性がいる。

前世から見れば信じられない光景だ。中国って基本的に黒髪の人間しかいなかったような、と思う友若。自分の髪もブラウンなのだ。

そんな環境で、審配の黒い髪は何というか見ていて落ち着くのだ。

蒼とか緑の髪が不自然で似合わないという訳では全くないのだが、かつての世界の常識に当てはまる審配(ただし女性だが)の髪を友若は好んでいた。

それを口に出したことは一度もなかったが。

そんな事を考えている友若に審配は気を取り直すように口を開く。

 

「うちの家でええか?」

「……流石にそれは。一応、女が付き合ってもいない男を夜中に家に上げるのはどうかと思うけど」

 

審配の無防備な発言に友若は半眼で答えた。

職場の同僚とそういう関係にあると噂されるのは面倒極まりない。

遊ぶなら遊郭のような施設を利用する方が後腐れがなくて良い、と友若は思っている。

火遊びはやっているうちは楽しいのかもしれないが後始末がひたすらに面倒なのだ。

何れにせよ、悪友というべき関係にある審配とは今の距離感を維持していたいものだ、と友若は考えた。

 

「一応って、どういうことや? ……まあええ。なら、こないだ出来た幕土亭の個室で話そうやないか。あそこなら問題あらへんやろ」

「うーん。まあ、いいか」

 

やる気のない友若。

そんな友若の様子にニヤリと口元を歪めた審配は声を潜めて友若に耳打ちした。

 

「実は麗羽様から高級葡萄酒を頂いてやな。しばらくここを離れなあかんから、この機会に空けてしまおうと思っとるんや」

「ま、マジでか!!? あ、赤だよな!!? もちろん白でもいいけど!!」

 

葡萄酒に目がない友若は我を忘れて叫んだ。

金に糸目をつけないだけあって、袁紹の所有している葡萄酒はどれも一級品だ。

いい加減な搬送で品質が悪化した劣等品や冀州少量ながら生産が開始された微妙なそれらとは一線を画している。

友若と似通った袁紹の好みを考えれば、件の葡萄酒は自分好みの辛口赤に違いない、と友若は内心で小躍りした。

 

「声が大きいで、友若。他の奴らに聞かれたら、連中挙ってこれ幸いとただ酒を飲みに集まってくるやろ。折角二人だけで空けようって言うたのに」

「確かに……」

 

神妙な顔で友若は頷いた。

因みに、袁紹配下の人間でタダ酒やタダ飯の会合へ参加率が最も高いのは審配で次点が友若である。

 

「とゆう訳でや、友若は先に幕土亭に行って席取っといてえや。うちは葡萄酒を取りに一旦家に戻るさかい。あ、友若には残念かもしれへんけど、白やで」

「ち、畜生! でも飲む!」

 

友若はそう言って審配と別れた。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「おう、正南! こっちだ、こっち!」

 

幕土亭を訪れた審配に友若は声をかけた。

小麦粉を醗酵させて作った生地を焼いたもので焼き固めた挽き肉などを挟むという独特の料理を出す店である。

この料理は友若発案のアイデアを昇華させたものであり、アイデアを提供した友若や審配はこの店舗の大株主となっている。

そのため、予約なしで一室を占拠するといった無茶も可能なのである。

 

審配が通された部屋は店舗の奥であった。

裏通りに面しているためか窓はない。

それでも景観を良くしようと壁には掛け軸や花が飾られていた。

 

「お、あの掛け軸、もしかして……?」

 

掛け軸にうっすらと見覚えがあった審配は眉間にしわを寄せて少考した。

 

「……元々俺のものだよ。ここの店主が部屋の装飾をするだけの資金がないなんて嘆いていたからな。まあ、安物だし、こうして提供したわけだ。安物だからな」

 

友若が嫌そうな顔で審配の疑問に答える。

 

「ああっ! そうや! 確か、だいぶ昔に天才画家の名作とか言うとったやつやないか! そんで、鑑定したら偽物っちゅうことが分かったやつ。まだ持っとんたんか!?」

「もういいだろう、その事はっ!」

 

友若の言葉に詳しい事情を思い出した審配がニヤニヤと友若を見る。

かつて友若がまだ袁紹の呉服職人だった頃の話である。

当時の友若は骨董集めにハマっており、中でも名のある人物によって作られたという芸術品に目がなかった。

当時、審配は微妙な出来としか思えない掛け軸や陶器を自慢してくる友若に辟易とさせられたものである。

もっとも、審配も金や銀をふんだんに使った装飾品を友若に見せびらかしていたのだが。

結局、鑑定士によって友若の所有する芸術品はどれも価値がないと判明した。

審配は内心で勝ったつもりでいる。

まだ、十年も経っていないが、審配には遥か昔の話のように懐かしく思えた。

 

因みに、『鑑定事故』以来、友若は骨董集めに懲りたのか名物を買い漁ることをパタリとやめた。

その代わりに、友若は現存の職人や画家から形のいびつな陶器や手抜きの掛け軸を安値で買い集めている。

本人曰く前衛芸術というものらしいが、審配にはその価値が全く分からない。

職人や画家はこれ幸いと失敗作を友若に引き取ってもらっているようである。

そんなガラクタがどうして後に高値がつくのかは審配にはさっぱりである。

まあ、友若の妙な物収集癖は昔から変わらずということなのだろう、と審配は思う。

 

だが、十年前と変わった事は多い。

審配にしても、洛陽の官吏を辞めて冀州で袁紹に仕えている。

その間、友若の献策を発端として冀州は爆発的な発展を遂げた。

冀州の紙面上の税収は100倍程度まで膨れ上がった。もっとも、支出もそれに比して増えているのだが。

濁流との争いに破れ、洛陽を去らざるを得なかった時は途方に暮れた審配。

それが、今では袁紹の臣下としての名声を得て、莫大な財をなしている。

さらに、袁紹の権勢拡大は勢い衰えることを知らず、天下にその手が届く所まで来たのだ。

人間万事塞翁が馬とはよく言ったものだと思う審配。

 

本当に冀州は様変わりした。

その割に友若と審配の関係は出会った時から変わっていない。

悪友とでもいう感じの関係の両者は互いに迷惑を掛け合いながら、相変わらずこうして酒を酌み交わしている。

いい年をした男女であるはずなのに、同性同士の付き合いの様な感じを続けているのは如何なものかと審配は心の奥底で思っていた。

何しろ、両者は10年も親交がありながら真名の交換もしていないのだ。

異性間の真名の交換は結婚を前提とした間柄か、深い臣従関係にある間柄くらいでしか行われないことを考えれば妥当であるのだが、審配としては中々納得がいかない。

同性同士なら親友という感じの間柄でも真名交換をするのだ。

友若と審配は異性を全く匂わせない、同性との友人と変わらない付き合いをしている。

それなのに、真名に関しては異性という壁に阻まれる事は二重規範ではないかと審配は思うのだ。

 

「白……まあ、最近赤ばっかりだったし、偶にはこういうのもいいか……」

「なんや、不満なら飲まんでもいいんやで?」

「め、滅相もないよ! 俺、うれしー。正南さん、愛してる!」

「あっ、愛!?」

 

友若の戯れ言に思わず反応してしまう審配。

そんな審配の様子を見た友若が顔をしかめた。

 

「い、いや、言葉の綾というか、ちょっとした冗談みたいなものだけど」

「……そうかそうか、葡萄酒はいらんのか、友若」

 

審配はかなり据わった目で友若を睨む。

 

「ちょっ!? いやだって、昔から俺よく冗談で愛してるって言ってたじゃん!?」

「……はあ。まあええわ。ほな、さっさと開けようか。しっかし、友若もまるで進歩してないやんか」

 

審配はため息を付きながら栓抜きを手に葡萄酒の入ったクリスタル瓶の蓋を開けた。

内心では友若に対する罵倒の言葉が渦巻いていたが。

待っていましたと言わんばかりの勢いで、友若が2つのクリスタルの杯を取り出す。

西方から流れてきたというその杯は青みがかった透明で、外側の表面には細かい文様が描かれている。

友若の収集物の中で審配も欲しいなと思う数少ない逸品であった。

 

「友若もいい大人なんやから、乙女の純情を傷つける様な真似したらあかんやないか」

「……乙女? い、いや! 何でも無いです! 何でもないですから!」

 

審配の顔を見た友若。

何を恐れたのか慌ててポロリと漏れた疑問を誤魔化す。

 

「……まあ、ええわ。その代わり、この杯は貰っとくで」

 

審配は友若を睨みながら杯を掲げてそう言った。

物の価値も乙女心も理解しないこんな男の手にこの逸品は勿体無いと思う審配。

 

「ちょ、ちょっ!? 何故に!? それは高かったんだからあげられないよ!?」

「やかましい! 乙女に散々な口の聞き方をしといてこれで済ませてやるっちゅうてんだから感謝せんかい!」

「り、理不尽だ! 断固拒否する! ほら、この前、横領の刑罰が重くなったばかりじゃないか! 正義はこっちにあるぞ!」

 

審配に対して友若が叫んだ。

 

「しゃあないな。じゃあ、友若がこの前さんざん欲しがってたあの掛け軸と交換でどうや?」

「ま、マジで!? もちろんいいよ!」

 

審配の提案にあっさりと友若は頷いた。

清々しい笑顔である。

少し前、審配は気まぐれに日ごろ友若が収集しているような下手くそな掛け軸を一枚、購入していた。

千銭等とふざけた価格を提示する商人を脅し、1銭で買い取ったのだ。

何が書いてあるかも分からない残念な出来のもので、正直、審配には子供の落書き程度にしか見えなかった。

一時期、家の客間に飾って眺めてみたが、どうして友若がこうした掛け軸に執着するのかは終ぞ分からなかった。

だが、審配の家を訪れた友若がその掛け軸を見た途端、譲ってくれと熱心に頼み込んできたのだ。

その時は断った審配。

しかし、友若はしつこく、度々審配の家を訪れては、掛け軸を譲ってくれと頼むようになった。

審配としては友若が頻繁に家を訪問するようになったことを喜ぶ反面、下手くそな掛け軸に自分が負けているようで微妙な気分であった。

友若の言う前衛芸術というものは審配には何が良いのか全く理解できない。

友若は後二、三十年すればとてつもない価値がつくと言っていた。

だが、いくら冀州を大発展させた友若と言え、こればっかりは外れるだろうと審配は考えている。

下手をすれば1万銭を超えるクリスタルの杯とあの掛け軸ならぼろいな、と思う審配。

友若の訪問回数が減るだろうと心の何処かが傷んだが、審配はそれを無視した。

 

「……まあ、あんな小細工よりも直球勝負や」

「? どうしたんだ? さっさと飲もうぜ」

「……はあ」

 

審配は溜息をつくと杯を掲げた。

 

「乾杯」

「乾杯や」

 

友若の考えだした儀礼に従って軽く杯をぶつける2人。

審配としては杯を傷つけかねないこの儀礼をクリスタルの杯で行うことは遠慮したかったが、一方で、杯が奏でる高い音が耳を楽しませることは確かだった。

 

「あ、甘っ!」

 

葡萄酒を飲んだ審配が叫ぶ。

 

「失礼します」

 

一杯目の葡萄酒を2人が飲み干した直後、給仕が料理を運んできた。

まずは、前菜である。

友若がぼやく。

 

「うーん。まるでファーストフードって感じがしないな」

「何言うてんのや?」

「ああ、何でもないよ。それよりも、どんどん食べようか。しかし、この葡萄酒確かに甘いな?」

 

友若が葡萄酒を指し示す。

予想以上に甘い味に葡萄酒の愛好家である友若といえども不満を覚えずにはいられなかったようだ。

 

「そうやなー。料理と一緒じゃキツイな。とりあえず、普通の酒を頼んどくか?」

「……いや、俺は葡萄酒だけがいい」

「ほな、うちは酒を頼むとしようか」

 

審配はそう言って給仕に酒を持ってくるよう命じた。

給仕が去っていき、部屋にはまた2人だけとなる。

審配は席に着くと友若を見た。

無言で前菜を食べ続けていた友若は殻になった器を横にどけながら顔を上げた。

 

「……」

「……」

 

無言で見つめ合う友若と審配。

壁越しに裏通りの喧騒が微かに聞こえた。当初審配が思っていたよりも壁の防音性能は高いらしい。

日が沈んでいても、経済発展著しい冀州は中々眠らない。

一日中働き通した労働者達が疲れを癒やそうと居酒屋を訪れ、売り子が威勢よく客引きをする。

建築物と建築物の間に張られた紐にぶら下げられた提灯によって、月のない夜でも人々は街中を歩けるのだ。

 

「それで」

「……」

 

先に沈黙を破ったのは友若だった。

顔は若干強張っている。

 

「話って何だ?」

「……分かってるんやろ?」

 

審配は静かに言った。

 

「……何で朝廷と交渉することにしたのか、か?」

「そうや」

 

審配の肯定に友若は頭に手を当てて考え込んだ。

 

「曹操軍が使ったあの『銃』。あれをどう思う?」

「またそれか? 確かにあの武器は大したもんかも知れへんが、所詮数が揃わな大したことあらへんやないか。正直に言うで。うちにはあんたが曹操にビビっているようにしか見えへん! まあ、あの小娘は確かに大した人物かもしれへんが、率いている兵の数は少ない。麗羽様直属の私兵が持つ真弩なら簡単に勝てるに決まっとるやないか!」

 

審配の叫びを友若はもどかしそうに見ていた。

審配の声はだんだんと大きくなっていく。

 

「正直、あの戦いの後、すぐにでも官軍を追いかけて二度と立ち上がれなくなるまで叩いておくべきやったとうちは思う。今からでも遅くはない。麗羽様を説得して曹操の小娘をぶっ潰して洛陽の土を踏むべきや!」

 

審配はそう叫んで友若を見た。

 

「――ってない……」

 

友若は聞き取れないほどの小さな声で呟いた。

 

「何や? 言いたことがあるなら言うてくれへんと分からないやんか」

 

審配が尋ねる。

友若は思いつめたような顔で審配を見つめた。

審配の鼓動が高まる。

だが、次の瞬間、友若の口から漏れた言葉は苛烈の一言だった。

 

「正南は何も分かってない! あの『銃』はそんな生易しいものじゃない! あれがどれだけ異常なものか! あれは全ての戦いを塗り替える武器だ! 将来、剣とか槍、弩なんてものは全部消えるだろう! 真弩!? あんなものが何の役に立つんだ! 銃が出てきた以上、弩なんて過去の遺物だ! あれは文字通りの革命だ! それを実用化した曹操と戦うことがどれだけ危険か誰も分かってない!」

 

友若の剣幕に押される形で審配は思わず黙りこんでしまった。

しかし、時間とともに審配の心には反発が生まれる。

 

「なら……なら、何時戦うっちゅうんや……!」

 

絞りだすように吐いた言葉には憤りがあった。

 

「友若、あんたの言う通り曹操は大したやつかも知れへん。だが、相手がなんぼ大したやつやろうと何時かは戦わなあかんのや。ほんなら、今、この有利な状況で戦わんで、どないすんのや!」

「それは……」

 

友若は何かを言おうとして、口を閉ざした。

その様子に審配の怒りは深くなる。

なにか言ってやろうと思って口を開きかけ、思い直して黙りこむ審配。

視線を部屋の扉に向け、耳を澄まして近くに誰も居ないことを確認する。

 

「……うちは麗羽様に天下を取らしてやりたい。それが今のうちの夢や」

 

暫しの逡巡の後、審配はそう言った。

友若が驚愕の表情で審配を見る。

審配の言葉は漢帝国の否定を意味していた。

 

「せ、正南っ! それはっ!」

「漢の高祖はただのゴロツキやった。そもそも、儒教では誰でも君子になる資格がある。漢はそもそも永遠やあない。皇帝が道を誤れば最後には国が滅ぶっちゅうのは当たり前の話や。そして、今の皇帝は散々道を誤って、自らの首を絞め、忠臣を殺して、佞臣の跋扈を許し、漢の土台を腐らせた。なら、冀州を大いに発展させた名君、名門袁家の継承者である麗羽様が天に立って何の不都合があるんや。うちはそのためならなんでもするつもりや。麗羽様の為なら命も惜しくないと思う」

「……」

 

審配の言葉に友若は黙って思案するように頭に手を当てた。

 

「少し意外だな……」

 

友若がポツリと呟いた。

 

「どういう意味や?」

「いや、正南は大義とかよりも、もう少し自分を大事にすると思っていた。俺みたいに。……いや、とんだ勘違いだったわけだな」

 

誤魔化すように手を振る友若を審配は見つめた。

 

「……あのジジイの所為でうちは酷い誤解を受けたけどな。うち、一途なんやで」

「ああ、そうなんだな」

 

友若は眩しそうに審配を見て、寂しそうに笑った。

その笑い顔が気に食わなくて、審配は苛立った声を出した。

 

「この前だって友若は麗羽様の為に命懸けで動いたやないか。その御蔭で麗羽様は無事助かった。なのに何をそんなに腐っとるんや」

「そんなんじゃないさ。あの時、俺は……俺は……」

 

友若は言葉に詰まって視線を下に向けた。

審配は静寂を破って近づいてくる足音を聞いたのはその時である。

考えがまとまったのか、口を開こうとする友若に審配はジェスチャーで静かにするように指し示す。

足音を聞いた友若は若干青ざめた様子で審配を見た。

 

「大丈夫やろ。声は抑えとったし、聞こえてないはずや……」

「失礼します。大変お待たせしました」

「おう、とうとう来よったか! 散々待たせおって! うちを誰だと思っとんのや。この店の大株主や! 舐めとんのか!?」

 

料理を運んできた給仕を審配は怒鳴りつけた。

給仕は哀れなほどに怯えた。

 

「も、申し訳ありません! お役人様! 本日は行列ができるほどの客が入っておりまして――」

「有象無象の連中よりもうちらを優先せんかい! それとも何か? うちらのこと舐めとるんか?」

「申し訳ありません! 申し訳ありません!」

 

チンピラの三下と言わんばかりの様子で給仕を問い詰める審配。

友若がため息を付きながら声をかけた。

 

「まあまあ、正南。無理を言って予約もなしにいきなり押しかけたのはこっちだし、勘弁してやりなよ。ごめんね、君。正南は今機嫌が悪いから、暫く近寄らないといいよ。一応これで料理は全部なんだよね?」

「ちっ! はよ消えんかい」

「あ、は、はい。食後に甘いモノがありますので頃合いを見計らってお運びします。し、失礼します!」

 

友若のとりなしに給仕は怯えながらもそそくさと部屋を去っていった。

去り際に友若に頭を下げる給仕。

それに軽く手を振る友若を審配は不機嫌そうな顔で眺めた。

 

「もっと早く止めんかい。あれじゃあ、うちが嫌なやつみたいやないか」

「みたいじゃなくて、権力を嵩にかかる嫌なやつだったよ。まあ、これで給仕か近づくこともないだろう。助かったよ」

 

審配の文句に友若が言葉を返した。

 

「全く、うちの名声に傷がついたことはどないしてくれるんや! これでも親しみやすい人柄で有名だったんやで? 責任とってもらわなあかんで」

「それただの自意識過剰じゃ……じょ、冗談だって!」

「あぁん?」

 

嫌なことを全部人に押し付けて、と憤る審配には、お前が言うな、と応じる友若。

両者は一通り言葉を交わすと、手に持った杯にそれぞれ酒を注いだ。

酒を飲み干した審配は真面目な顔つきをして友若を見た。

友若も顔を引き締める。

近くに人の気配はなかった。

 

「そんで……」

「……」

 

手に持ったクリスタルの杯を弄びながら、審配の言葉の続きを友若は無言で待った。

審配は唇を舐めると言葉を続けた。

 

「友若、あんたはどう思っとるんや。これからの事、麗羽様の事を」

「……本初様には本当に感謝している。本初様のお陰で今の俺があることは間違いない訳だし、恩返しのためにも精一杯本初様の為に働きたい……と、思う。それに、元皓殿に命懸けで後を託されたんだ……あの時、死の一歩手前にいた本初様と俺の代わりにあの方は亡くなった。なら……」

「……」

 

審配は杯に酒を注ぐと一飲みにした。

葡萄酒と比べると弱い酒だ。

杯の容量は普通の酒を飲むには小さい。

友若も葡萄酒を煽った。

酔いが回ったのか、友若の顔は赤く火照っていた。

 

「本初様と元皓殿が俺の出した案を採用してくれて、そこから今の俺、大老師が出来上がった。その上、命まで救われた。その恩には報いなければいけないだろう……いや……違うな……それはただの言い訳だ」

 

友若は審配をまっすぐと見つめた。

顔は赤くなっていたが、その目は真剣そのものだった。

友若は口を開こうとして躊躇し、また口を開こうとして思い悩んだように口を閉ざした。

暫くの沈黙を挟んで思いつめたように口を開いた。

 

「俺は……俺は、本初様が好きなんだ……愛しているんだと、思う」

 

それだけを言うと友若は口を閉ざして顔を俯かせた。

審配は冷静な自分に内心で驚いていた。

心の奥底では薄々気が付いていたからだ、と審配は考えた。

 

「田豊のジジイの目論見通りやな。あのクソジジ、あの世で喜んでいるんとちゃうか? まあ、うちも麗羽様と釣り合うのは友若しか居らへんと思っとったから、素直に応援させてもらうわ」

「ごめん」

「何誤っとるんや? 友若は何にも悪いことはしてないやろが」

 

友若向かって茶化すようにそう言うと、審配は立ち上がった。

 

「友若、あんたはこれからも麗羽様の為に尽くすつもりなんやな?」

「……ああ、そうしないといけないし、俺もそうしたいと思っている」

「そうか。うちは友若を信じる」

 

審配はそう言って笑う。

鏡はなかったが、自然な顔で笑えたと審配は思った。

 

「さて、そう言えばうちは明日、并州へ行くんやった。準備は許攸に全部押し付けとったが、最後くらいは手伝わんとまた散々小言を言われるからな」

「正南……また、また何時か酒を飲もうな」

「何これが最後みたいな顔しとるんや。うちはとあんたは、友人やんか。今回の葡萄酒を提供したのはうちやし、帰ったら酒奢って貰わなあかんな」

 

審配の言葉に友若がただで手に入れた酒じゃないか、と呟く。

こんな時でもけちな友若が審配には可笑しかった。

 

「ほな、またな~」

 

審配はそう言って手を降った。

そして、身を翻すと歩いて、それでも何時もよりは早足で部屋を後にした。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

友若は静かに葡萄酒の入ったクリスタルの杯を傾けた。ロウソクの明かりに照らされて、杯の文様がキラキラと煌く。

物憂げに友若は天井を見上げた。

 

「覚悟を決めないといけないのかな……」

 

友若は体を震わせた。

あの戦い。

紙一重で袁紹も自分も死んでいた、と友若は思う。

背後から追ってくる曹操軍を思い出すと、未だに体が恐怖に竦む。

 

曹操。

バケモノ。

銃火器と言う友若が開発しようとさんざん努力して、失敗したそれを作るだけではなく、戦術として利用してみせた。

同じくバケモノの荀彧が銃火器についての知識を曹操に渡したのだろう。

だが、荀彧の知っている銃火器の実物は友若の失敗作ばかりだ。

つまり、曹操は荀彧が支えてから十年もしない内に銃火器を開発し、戦術を開発して、生産の目処を整え、軍隊に採用してみせたのである。

そんな存在をバケモノと言わずしてなんと呼ぶのか。

そして、そんなバケモノと戦うと考えるだけで友若の心は恐怖の悲鳴をあげる。

 

田豊や袁紹直属の兵士達はあの時、バケモノを前に戦い死んでいった。

あの時、彼らは死を目の前にしていることを理解していた。

それでも彼らは一歩も引かなかった。

あの場に審配がいたら、彼女もまた同じように命を張って袁紹を守ったのだろう。

友若はそう確信する。

 

翻って自分はどうであるか。

戦いが終わった時、友若の心に最初に生まれた感情は安堵であった。

あの時、友若はただただ自分の命の無事を喜んでいたのだ。

そんな自分が友若はたまらなく嫌だった。

 

田豊や審配、肉の壁となり死んでいった兵士達と自分を比べるために友若はひどく嫌な気分になる。

自分の矮小さが明らかになって。

自分の卑怯さが隠せなくて。

 

曹操と戦えるのか、と友若は自問した。

 

「……くそっ、ちくしょうが……!」

 

勢力を拡大した今の袁紹と曹操や劉備、孫……策(?)は相容れない。

ならば、いずれ袁紹は、友若は曹操と戦うことになる可能性が高い。

そうなった時に、友若は曹操と戦わなければならないはずだ。

ならばいっそ今、とも思う友若だが、どうしても戦うという選択肢を選べない。

 

友若には曹操軍を相手にしてまるで勝ち目が浮かばない。

審配達の様に勝利が簡単に得られるとは到底思えないのだ。

負けるために戦うようなものだ、とすら友若は思う。

 

そして、仮にこの前の戦いと同じ状況になった時、友若は袁紹のために命を捨てることができるのか。

友若には自信がなかった。

だが、もし、そこで引いてしまったら、友若は二度と立ち直れない。

袁紹や審配、田豊と並び立つことができない。

その資格を失ってしまう。

何より友若が自分自身を許せない。

それは死よりも恐ろしいことだ。

友若は震えながらそう思った。

 




見所:バーガー
次話:ツインドリル

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