幼馴染の負けフラグは女の子だけだと思ってました   作:夜光ゆう

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何かおかしな表現や言葉遣いがあれば教えてください。また、良さそうな言い回しや語彙があっても教えてください。



失恋相談

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 ピピピピピピ……

 

「う……んん、うるせぇ……」

 

 音が鳴る方へと手を伸ばし、叩くように時計を止める。

 

「もう朝か……」

 

 大きな欠伸とともに上半身を起こす。止めた時計に目を向ければ、朝の七時であることが確認できた。

 

「はぁ……」

 

 目覚めた頭で思い出すのは、昨日の記憶。もしかしたら夢であった可能性も……なんて、調子のいいことを考えたくなるが、もちろんそんな都合のいい現実は存在しない。

 

「学校、休もうかな」

 

 思わずこぼしてしまう弱音。

 が、それも仕方ないだろう。それぐらい昨日の出来事は、俺の心を強く痛めつけた。

 

「はぁ……と言っても、親の金で通わせてもらってる学校だ。私情――ましては、恋破れたから休みます。なんて、最低過ぎるよな」

 

 寝起きの頭を掻き毟り、ふざけた考えを追い出す。こういうネガティヴ思考は、考えれば考えるほどドツボに嵌っていくものだ。

 

「……だぁぁぁぁっ!ㅤもう行こう!ㅤうん!ㅤ大切なのは勢いだ!ㅤそれに、学校に行けば雫に会えるしな!」

 

 無理やり納得させた脳裏に映るのは、一人の親友の姿。あいつに相談すれば何か変わるかもしれない。

 

「よし。そうと決まれば」

 

 思い立ったが吉日、勢いのままベッドを飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、学校へ行くための諸々の準備を済ませ、家から自転車で二十分の距離にある静学高校へと着く。

 

「……いつ見ても綺麗な学校だなぁ」

 

 校門の前。並び立つ校舎を視界に入れ、独りごちる。

 俺の通っている学校。私立静学高校。

この高校はいわゆる進学校というやつで、県内にある他の高校と比べても、勉強、スポーツ共に優秀な成績を誇っている。

 が、もちろんその分の弊害もあって、目の前に建つ校舎や学生をサポートするための様々な設備。その一部が俺たち生徒の親を酷く圧迫する。

 まぁ、簡単にいえば、学費が高いのだ。そりゃあもう、目ん玉が飛び出るくらいに。それゆえに周りからは一目置かれる反面、金持ち学校だのボンボンの巣窟だの、嫉妬心からか言いたい放題言われている。

 

「まぁ、特待生の俺には関係ない話だけどな」

 

 そう。他人からしてみれば自慢にしか聞こえない言葉で締めくくり、乗っていた自転車を駐輪場に止め、三階にある二年一組の教室へと向かう。

 現在の時刻は七時五十分。教室に八時四十分までに入室していればいいことを考えると、クラスメイトが集まるには少し早い時間ではあるが、親友である雨音(あまね)(しずく)は、いつもこの時間には登校して一人黙々と勉強している。

 それを考慮に入れると、周りにクラスメイトが居らず、雫だけが教室にいるという状況は、相談するにはもってこいのタイミングだ。

 

「ついたか」

 

 教室の前に立ち、深呼吸を一つ。

 なぜだろうか。普段なら雫に会うぐらいで緊張なんてしないのに……なんて、その理由ぐらいちゃんとわかってる。

 たぶん俺は親友に、自分が間接的にでも振られたことを報告するのが嫌なんだろう。それはきっと俺のちっぽけなプライド。仲がいいからこそ何故だか言いたくない、でも聞いてもらいたいという気持ちの悪い矛盾。

 

「はっ、ここまで来て何言ってんだか……」

 

 パシッ。と自分の頰を両手で叩き、気合いを入れる。

 今さら恥ずかしがったってしょうがない。それに、あいつなら真摯に向き合ってくれるはずだ。

 

「よしっ!」

 

 覚悟は出来た!ㅤ開けるぞ!

 

「一、二の「……何してるの?」ギャァァァァァァ!?」

 

 吹っ飛んだ。

 覚悟とか決意とか、情けない叫びと共に全て飛んでった。

 

「わぁ……びっくりした」

 

 それはこっちのセリフだ。

 そう口にしたい気持ちを抑え、後ろを振り返る。

 そこに立っていたのは、パチパチと眠そうな目を瞬かせ、処女雪を思わせる真っ白な手を自身の胸にあてがう一人の少女。

 

「なんだ雫かよ。驚かせんな」

 

「うわぁ……今度は違う意味でびっくりした。……涼太、声をかけただけの相手に対して、そんな理不尽は失礼だと思うよ」

 

「うっ、まあたしかに」

 

 文句言いたげな……いやもう言ってるけど、そんな視線でこちらを睨む少女の、紛ごうことなき正論から逃げるように顔を背ける。

 

「……こら。逸らさない」

 

 しかし雫は、それを許さないとばかりに、細くしなやか指で俺の鼻を引っ張り、正面へと向かせる。

 

「うっ……」

 

 向いた先に映るのは、端正な顔立ちの綺麗な少女。

 いくら俺が香織のことを好きで、こいつが中学からの親友だとしても、照れるものは照れる。ていうか、まつ毛ながいし肌白いしヤバイなコイツ、俺じゃなかったら死んでるぞ。

 

「……顔近い」

 

「……ん?ㅤ……あっ、もしかして照れてる?ㅤふふっ、そういうところは可愛いなぁ……」

 

 そう言って、誘うような艶やかな手つきで俺の頬を撫でる。その姿は遊女のように淫靡で――。

 

「だぁぁ!ㅤうぜぇ!ㅤやめなんし!」

 

「……ふぅーん、なるほど……。今のはエッチな触り方を、花魁言葉とかけたんだ……。まぁ、なかなかの返しだと思うよ?」

 

 何を言ってるのだろうかコイツは。本当に、偶然、なんの意味もなく口にした言い回しに、よくわからない納得の仕方をしている。

 ……いや、ほんとは分かってるんだけどね?ㅤ今更恥ずかしくなってきたというかなんというか……。

 まぁいいや。とりあえず、今の隙に後ろに逃げよう。ゴンッ

 

「いってぇ……」

 

「はぁ……。後ろに扉があるんだから、そうなるのは当たり前……」

 

 忘れてたぁ……。

 

「……涼太ってバカだよね。勉強出来るけどバカ」

 

「……褒めてる?」

 

「と、思ってる?」

 

「……ないです」

 

「うんうん。素直なのはいいことだと思うよ」

 

 そう言って、女の子にしては高い背をめいっぱい伸ばし、俺がぶつけた箇所を優しく撫でる。

 ほんと、こいつのこういう所はズルい。

 

「……もう、痛くなくなった?」

 

「あ、うん。ありがとう」

 

「ん、どういたしまして」

 

「…………」

 

 ふぅ。落ち着け。こいつの笑顔は見慣れてるはず……なのになんでだろう。今日に限って、やけに眩しく映る。

 

「……どうかした?」

 

「え、いや、何でもない」

 

「んー、ならいいけど……っと、それにしても、今日はどうしたの?」

 

「うん?ㅤなにが?」

 

「ほら……いつもより早いよ。来るの」

 

「あっ」

 

 そうだ。突然の登場と会話のせいで忘れていたが、わざわざこの時間に来たのはこいつに会うためだった。

 

「ふぅ……」

 

 ここからは、気持ちを切り替えよう。

 

「……実はさ、それに関してなんだけど」

 

「うん」

 

「早く来たのにはちゃんと理由があって、その……相談に乗ってもらいたいことがあるんだ」

 

「……わかった。それじゃあ教室に入ろっか」

 

「あぁ」

 

 俺の想いを汲み取ったのか、先ほどまでの笑顔とは一変、真面目な表情を作る雫。

 そんな親友の姿に胸打たれつつも、平静を装い応えを返し、教室内の普段座っている席へと着く。

 ちなみに席の配置は、窓際の一番後ろに俺、その前に雫という並びなので、会話するぶんには何の問題もない。

 

「……それで?ㅤ相談っていうのは?」

 

「実は――」

 

 机を挟み、改めて話を切り出した雫に、俺は昨日あったことの全てを話した。

 と言っても、流石に香織の惚気部分までノーカットで隈無く話した訳じゃない。もちろん削れるところは削り、簡潔かつ明確に結果を余すことなく伝えただけ。何しろこの相談は、クラスメイトが来るまでの間、という制限時間付きだ。あまりだらだらと話しているわけにもいかない。

 それでも、運がいいことに……いや、この場合はそれを承知で選んだので、備えのいいことに、雫は唯一俺の恋心を知っている人間だ。

 だからこそ、相談相手にも彼女を選んだし、話自体もスムーズに進む。

 

「……そっか」

 

 相談内容を聞き終えた雫は、拳を顎に当て、考え込むように瞼を閉じる。

 一体今、彼女の心の中にはどんな思いが渦巻いているのだろうか。呆れ?ㅤ憐れみ?ㅤ嘲笑?ㅤ一つ、また一つと想像する感情に少し胸が苦しくなる。

 けれど、彼女が紡いだ言葉はそのどれでもなく――、

 

「……よく、頑張ったね」

 

 優しい微笑みを携えた、称賛の言葉だった。

 

「は?」

 

 俺は最初、彼女が何を言っているのか理解できなかった。だってそれは、俺に対する評価としてはあまりに似つかわしくない言葉。勇気がでなくてズルズルとここまできた俺が、想いを告げるわけでもなく話を聞くことしかできなかった俺が、一体、何を頑張ったって言うんだ?

 

「……何も、何も頑張ってなんかない。それどころか、自分の好きな奴に恋愛相談されたあげく、頼りにしてくれなんて心にもないことを言って……とんだ間抜け野郎だ……」

 

 そう。自分が如何に愚かなのかを再認識した。ただそれだけの出来事。頑張った要素なんて微塵もない。

 それなのに彼女は、そんな俺を否定するかのように首を振り、

 

「そんなことない、涼太は頑張ってた。私にはわかる」

 

「……違う。お前は何もわかってない。今の話のどこにそんな要素があった?ㅤ……あるわけないだろう」

 

「そんなことない」

 

「っ!ㅤだから言ってるだろ!ㅤこんな情けない俺に!ㅤ頑張ったところなんて……」

 

 弱い自分に腹が立つ。何も出来なかった自分に腹が立つ。そして、関係ない雫にまで苛立ちをぶつける……そんな自分に腹が立つ。

 

「違う。情けなくなんかない」

 

 それでも彼女は続ける。

 

「っ!ㅤだから「だって!」」

 

「……だって、涼太は逃げなかった。その場で泣くことも逃げ出すこともなく、相談に乗り続けた。……それって、香織ちゃんのためでしょ?」

 

「…………」

 

「香織ちゃんを傷つけないように、心配させないように気を使って……。本当は、自分が一番辛かったはずなのに……」

 

「…………」

 

「……だから、誰がなんて言おうと、涼太は頑張った。それは、涼太が相手でも否定させない」

 

「…………」

 

「だって私は……そんな涼太の優しいところが、大好きだから」

 

 ……きっと、その言葉を拒むことも出来ただろう。俺はそんな強い人間なんかじゃない。それは雫の勘違いだ。そう言って……。

 でも、気づけば……気づけば俺は、泣いていた。何かを言うわけでも、反論するわけでもない。

 ただ黙って涙を流していた。

 

「……泣いてもいいよ。私が全部受け止めてあげる」

 

 そんな俺に雫は、カタンと席を立ち背後に回ると、そっと慈しむようにこの体を抱きしめる。

 

「辛かったね。悲しかったね」

 

「っ……んっ……」

 

「十年以上も想い続けてたんだよ……それが全部崩れちゃって、すごく苦しかったよね」

 

「……苦しっ……かったっ!ㅤ胸が、はりさけそうでっ!ㅤでもっ、香織の前で、そんな姿みせられなくてっ!」

 

「うん……」

 

「俺なりに努力してたっ!ㅤ勉強も!ㅤスポーツも!ㅤ見た目にも気を使って!ㅤ香織の隣に立つためにふさわしくなろうって!」

 

「……知ってるよ。君の努力は、側にいた私が一番わかってる」

 

「くっ……ぅ……」

 

「……えらかったね。大変だったね。……でも、よく頑張ったね」

 

「っ……うんっ……」

 

 耳元で囁く優しい声を聞きながら、留まることを知らない涙は、今もなおその顔に新しい跡を残し続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ごめん。みっともなく泣いて」

 

 それから少しして、ようやく止まった感情の波を拭い、ずっと俺を抱きしめたままの雫に謝罪する。

 

「んーん。気にしないで。……それより、どうする?ㅤ……いや、どうしたい?」

 

 どうしたい……か。この場面で問いかけるとしたら、一つの意味しかない。

 

「香織とのこと、だよな?」

 

「……うん。……正直に言うと、幼馴染(きょうだい)としかみられてなかったっていうのは、物凄く大きな壁として立ちはだかると思う。……だって、その壁の大きさは――」

 

「俺と香織が過ごした十数年間の思い出、だろ?」

 

「……ん、そういうこと」

 

 俺の繋げた台詞に、小さく頷く雫。

 遠いな……素直にそう思う。これまで過ごしたきた時間。それは、前を向いているだけの時は、あっという間に過ぎていくものだった。けれど今、一つの岐路に立たされ、改めてその距離がどれだけ長いものだったかを感じる。

 

「どうしたら、いいんだろうな」

 

 本当にどうしたらいいんだろう。俺には進むべき道がわからない。

 

「……こういう時ってさ、誰にでもあると思うんだ。自分がどこに行けばいいのかわからない。何をしたいのかわからない。そんな時が……」

 

 そう言って雫は、首に巻きつけていた右手を俺の心臓に当てると、

 

「……でもね。そんな時は、自分の心に聞くのが一番なんだ」

 

「心に?」

 

「そう、心にだよ。……涼太、私の手に君の手を重ねて、今から言うことを想像して……」

 

「あぁ」

 

 俺は雫に言われた通り、彼女の小さな手に自分の手を重ね、想像しやすいように景色を閉ざす。

 そして雫は語りかける。

 

「……例えば、香織ちゃんが涼太の知らない人と手を繋いで、笑いあって、キスをして。……そんな光景、指をくわえて見てられる?ㅤ我慢できる?」

 

「っ、そんなの!」

 

 そんなの我慢できるわけがない!ㅤ怒りと嫉妬でどうにかなりそうだ!

 でも、それは……、

 

「『でもそれは、失恋したばかりだから仕方ないだろ』……かな?」

 

 どきりと、心臓の跳ねる音がした。

 

「あたり……だね。はっきりと、私の手に涼太の心の声が聞こえたよ」

 

「なんで……」

 

「『なんでわかったんだ』……ふふっ、言ったでしょ?ㅤ側にいて見てたって。それは涼太の努力だけじゃない、それだけ涼太のことをわかってるってこと。……これに関しては、香織ちゃんにも負けるつもりはないよ」

 

 そう誇らしげに笑って、

 

「だからこそ君が、私の問いにどんな感情を抱いたのかもわかった。それは……涼太もでしょ?ㅤ……だって、私にははっきりと聞こえた。嫌だって、そんな光景見たくないって声が……なら、答えは一つしかないよね」

 

「はぁ……敵わないなぁ」

 

 俺の心を見透かす彼女に「一生勝てない」と、心底そう思わされる。

 きっとそれが、俺にとっての雨音雫という人物なんだろう。いつもやる気がなさそうで、仲のいいやつ以外とは話そうともしない。けれど、困ってる時には側にいて、弱気な背中を強く押してくれる。

 そんな、俺にとっての最高の親友。

 

「……きっと容易じゃない道のりだ。もしかしたら、幼馴染(きょうだい)だって納得して諦めた方が幸せなのかもしれない」

 

 それぐらい、既に決着がついているような勝負に縋りつくのは、酷く無謀でバカバカしいことだ。

 それでも、

 

「それでもやっぱり諦めたくない!ㅤなんたって十年重ねた初恋なんだ!ㅤ簡単に諦めてたまるか!」

 

 そう宣言する俺に、雫は満足そうに頷くと、

 

「……それでこそ涼太だよ。いつも前向きに、目標に向かって一直線に進む。……そんな君だから…………なんてね」

 

 最後の呟きは小さすぎて聞こえなかったが、にししと、雫にしては珍しく白い歯を見せて笑う姿に、俺も自然と頬が緩む。

 

「ほんっと、お前って最高だな」

 

「……今さら魅力に気がついた?」

 

「いや……そうだな。前から知ってたよ。お前の魅力は」

 

「ん、そっか……私も知ってたよ。涼太の魅力」

 

「……だから」と雫は甘えるように、よりいっそう強く抱きつくと、

 

「頑張ってね。応援してる」

 

「あぁ、色々ありがとう。お前が親友で本当に良かったよ」

 

「……うん。私もだよ。私も涼太に会えてよかった」

 

「ははっ、友達以前に会えたからって、それは大袈裟過ぎるだろう」

 

「大袈裟なんかじゃない。……大袈裟なんかじゃないよ」

 

 肩に伝わる篭る声。

 その時の雫がどんな表情をしていたのか。黒いカーテンによって閉ざされたそれに、俺が気づくことはなかった。

 

 そして――、

 

「えーと。ラブラブな二人の世界を邪魔して悪いんだけど、他の人達もそろそろくると思うから、その辺にしといた方がいいんじゃないかな?」

 

「「…………」」

 

 時と場所を忘れていた俺たちは、クラスメイトが来ていることにも気づかなかった。

 

 ……あぁ、穴があったら入りたい。

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