幼馴染の負けフラグは女の子だけだと思ってました   作:夜光ゆう

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ごめんなさい。雫の口調が、やや香織に似ていたので変えました。


友人との会話

 クラスメイトの一人である遠峯ミカイル(俺たちはミカと呼んでいる)の指摘を得て、なんとか他の奴らが来る前に密着していた体を離す。

 幸い、俺たちのやりとりを見ていたのが、クラスでも特に仲のいいミカ一人だったので事なきを得たが、万が一これがミカではなく、噂話をこよなく愛する佐伯さんだったらと思うとゾッとする。

 もし、本当にそうなっていたら、俺たちは骨の髄までしゃぶりつくされていただろう……精神的な意味で。

 

「助かったよミカ」

 

 サラサラと流れる銀の髪を揺らし、隣の席に着いたミカに感謝を伝える。

 彼はその名前からもわかる通り、日本人の父親とロシア人の母親を持つダブルだ。そしてその容姿は母方に似たのか、雪の妖精と見間違うほどに透き通った雰囲気を醸し出している。

 

「気にしないでいいよ。ただ、あんまり教室ではイチャイチャしない方がいいと思うな」

 

「あーだよな。俺と雫にそんなつもりは無くても、あれを見たら付き合ってるんじゃないかって勘違いされそうだし」

 

 ミカの親切心からきたであろう忠告を噛み締めるように頷く。

 さすがに、普段の雫ならあそこまで大胆な行動をとったりはしない。せいぜい俺の手を握ったり、背にもたれかかったりする程度だ。

 だからこそ、いつもと違う距離感に勘違いする奴もでてくるだろう。

 

「いや、そういうことじゃなくて……」

 

「ん?ㅤ何か言ったか?」

 

 ギリギリ、俺の耳に届かないくらいの声で、ボソッと何かを言ったミカに首を傾げる。

 

「はぁ……別に何でもないよ」

 

「そうか?ㅤまあいいや。とりあえずありがとな。お前がいなかったら、あのままチャイムの音を聞いてたかもわからん」

 

「ん……そうだね。一応、私からも言っておくよ。ありがと」

 

「一応、ねぇ……」

 

 俺たちの感謝の言葉に、ミカは雫にだけニヨニヨとした視線を送る。

 

「……なに?」

 

「いやぁ、別にぃ?」

 

「へぇー……いいね。そのケンカ買おうか?」

 

「今の短いやりとりのどこにそんな要素が!?」

 

 いつの間にか感謝の言葉が喧嘩の火蓋になっていた。……いや、マジで何が引き金だったのかわからない。

 とりあえず俺は、眠そうな目で器用にガンをつけている雫を宥めるためにも、彼女の背を二、三度ポンポンと叩く。

 

「……ごめん」

 

「いや、落ち着いたならいいんだけどさ。何で喧嘩腰になってたんだ?」

 

「ははっ、鈍い涼太には一生分からないかもしれないね」

 

「いや、確かに俺にはわからなかったけど、原因を作ったお前が言うな!」

 

 図々しくも我関せずの態度で、かぶりを振るミカに言い放つ。

 核心の部分はわからなくても、コイツが原因なことだけはわかる。だって、今も人のこと煽ってるしな。

 

「はぁ……せっかく送った感謝の言葉が台無しだな」

 

Извини(イズヴィニー)。悪かったね、少しからかいたくなったんだ」

 

「お前は俺か……」

 

 ロシア語で謝るミカの行動原理を聞いて、ため息を吐く。

 俺が香織をからかう時もこんな感じなんだろうなぁ。少し反省。

 

「まぁまぁ……それよりも、なぜ、あんな態勢をとっていたんだい?ㅤそれによく見ると、涼太の目が赤くなってるね?ㅤもしかして泣いていた?」

 

 うっ、コイツ答え難いことを……。

 

「あー……えーと、それは……」

 

「……別に。私が抱きつくのはいつものことじゃん。それに、涼太の目が赤いのは……うん、いつものこと」

 

「えぇ……」

 

 ミカの問いに口籠る俺を見兼ねて、雫はそう言ってくれたのかもしれないが、流石にいつものことっていうのは無理があるだろ……。

 

「それもそうだね」

 

「えぇ!?」

 

 そんな適当な言い訳で納得するのか!?

 ……あれ?ㅤちょっと待てよ。ということは、いつも俺たちがそういうことをしてるって思われてる?ㅤえ、もしかして全部手遅れ?ㅤ……って、そんな訳あるか!ㅤそもそも、目がいつも赤いってのがおかしいだろ!ㅤ俺はウサギか!

 

「どうしたんだい?ㅤそんな百面相を作って?ㅤまるで、今の発言に対して、ツッコミたいのを我慢してるかのような表情だよ?」

 

 よくわかってるじゃねぇーか!

 

「い、いや、なんでもない……」

 

 俺は引き攣りそうになる口元を抑え、抗議の意味を含め、チラッと雫の方を見る。

 目があった雫は、俺の意図を理解したのかしてないのか、艶やかな笑みを浮かべた。

 ……いや、どういう笑みだよそれ。

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 そんなやりとりをしているうちにチャイムの音が鳴り響く。

 雫から視線を外し、周りを見渡してみると、いつの間にか教室は人で満たされ、黒板の上にある時計は八時四十分を指していた。

 

「……もう時間か。まぁ、なんだかんだ言っても、お前らと話してるとあっという間に過ぎてくよ」

 

「ハハッ、僕もそう思うよ」

 

「……そうだね」

 

 先ほどまでのやりとりを思い出し、俺たちは顔を見合わせ、ニンマリと笑う。

 

「よし!ㅤそれじゃあ少しめんどくさいが、今日も授業がんばろうぜ!」

 

 一日を乗り切ろうという鼓舞の声。

 そのかけ声に、二人は応じるための拳を俺へと向け――、

 

「僕はめんどくさいとは思わないけどね」

 

「……私は頑張りたくない」

 

 否定の言葉を投げかえしてきた。

 

「……って、乗れよ!?ㅤ今のは『そうだね!ㅤ頑張ろう!』って言うところだろ!ㅤ同意もしねぇのに拳上げんな!」

 

 んでもって、何で二人がそれぞれ逆方向に否定すんだよ。せめて統一しろ。

 俺は昨日と今日合わせたら、何回吐いたかもわからない溜息を吐く。

 

「はぁ……ったく、さっき顔を見合わせた時の、心通わせた笑顔はなんだったんだ……」

 

「僕は愛想笑い」

 

「私はそもそも笑ってない……」

 

「性格悪っ!」

 

 そうやって、俺たちは先生が来るまでの間、じゃれあいを続けていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一日の授業が終わり、放課後。俺は精根尽き果てた様子で、うつ伏せに倒れる雫に声をかける。

 

「おーい、大丈夫かー」

 

「……疲れた。……どうして月曜は、体育と恐い先生の授業が集まってるんだろ……おかげで寝れなかった……」

 

「いや、寝るなよ」

 

 堂々と不真面目発言をかます雫。

 正直俺からしてみれば、授業中に寝るという神経がよくわからない。

 ただでさえ、俺たちの教室。この二年一組は、特別進学科国際クラスという、校内でも特に頭のいい奴らが集うクラスだ。

 つまり、それだけ授業のレベルも高く、呑気に寝ているようでは周りから取り残され、落ちぶれてしまう。

 

「……だって、つまんない……」

 

「つまんないってお前……そんなのみんな同じだろ。授業が楽しいと思う奴の方が一部だ」

 

 例えばミカとかな。

 俺は心の中でそう呟いて、未だ机に伏せている雫の頭を、軽く撫でるように叩く。

 

「けど、雫が言いたいこともわかるよ。お前にとっての授業は、既に理解してるからこその退屈だもんな」

 

 俺のような凡人とは違い、彼女は俗にいう天才と呼ばれる人種だ。偏差値の高いこのクラスで、余裕でトップになれるほどの天才。どんな問題でもスラスラと簡単に解いてしまうほどの天才。言葉を尽くせば、いくらでも褒め称えられるほどの天才。

 それほどの才を誇れば、学校の授業なんて、既に知っている子守唄でしかないんだろう。そういう意味で、彼女が寝てしまうのも理解できる。

 

「うん。さすが涼太……よくわかってる」

 

 雫は、叩いていた俺の手を自身の手で掴み取り、頭に擦り付けるように動かす。

 こういう姿を見ると、とてもこいつにそんな才があるようには思えない。

 

「まぁ、だからこそ親しみやすいのかもしれないな」

 

「ん?ㅤ……どうしたの?ㅤ急に……」

 

「別に、俺にとってのお前を考えてただけだよ」

 

「……なにそれ、すごい気になる」

 

「残念、それは秘密だ」

 

 そう言って、雫の肩まで伸びた黒髪を荒らすように撫で、彼女の手の拘束から逃れる。

 

「……髪、ボサボサ……これぞ、弱みに付け込む風邪の神ってやつかな」

 

「…………あぁ、そういうこと……。なんでわざわざ、分かりにくい言い方したんだ?ㅤそこは、踏んだり蹴ったりとか泣きっ面に蜂とかでいいだろ。おかげで少し考えるはめになったぞ」

 

「仕返し」

 

「しょぼっ!」

 

 相談に乗ってくれた時の、大きな器はどこへ行ったのか。こいつは真面目な時とそうでない時の落差が激しすぎる。

 

「はぁ……それで?ㅤ満足できたか?」

 

「んー……まあまあ」

 

「そうか、それはよかったな。それじゃあ、そろそろ帰ろうぜ」

 

「ん、そうだね」

 

 俺の提案に答えを返し立ち上がると、雫は水色に染まったシンプルなリュックを背負った。

 その姿は、白いセーラー服や短いスカートと相まり、清楚ながらもどこか色めいたものを感じさせる。

 

「……改めて見ると、お前も美少女なんだよなぁ。……いや、改めなくても美少女か」

 

「……涼太のバーカ」

 

「あっ、おい!」

 

 俺の嘆美にぷいっとそっぽを向け、歩き出した雫。

 そんな雫に、俺は慌てて机にかけてあったスクールバッグを肩にやり、彼女の背を追いかけた。

 

「おい待てよ。先行くなって」

 

「……やだ」

 

「やだってお前……」

 

 まるで駄々っ子のような物言いに、呆れた思いで雫の顔を盗み見る。

 

「……んん?」

 

 そして気づく。

 彼女の頬がほんのり染まっていることに。

 

「……もしかして、もしかしてだけど……照れてた?」

 

 俺の問いに雫は、ピクっと体を震わせこちらを一瞥すると、

 

「……こっち見ないで……恥ずかしいから」

 

「っ!」

 

 上気した肌にうるうると濡れた瞳で、そう仰られた。

 ……ヤバイ。これは反則だ。思わず敬語になってしまうくらい。

 

「わ、悪い。そんなつもりはなくて、その……思ったことが口に出たと言いますか……えーと……はい。そうですね。思ったことが口に出ました」

 

 一言ずつ尻すぼみになる声。

 自分のことながら、なにを言ってるのかよくわからない。というよりも、必死に誤魔化そうとして失敗していた。

 

「……ふふっ、別に、そんなに慌てなくてもいいのに……」

 

 そんな俺が可笑しく映ったのか、雫は恥ずかしそうにしていた顔に、柔らかい微笑みを浮かべた。

 

「そ、そうか?ㅤその、悪かったな。ちょっと無神経だったかも」

 

「んーん、怒ってないから謝らないで……その、嬉しかった……それだけだから……」

 

「そ、そっか……」

 

 両者の間に気まずいというか、甘酸っぱいというか、何となくずっと浸っていたい。そんな空気が流れる。

 しかし、本当にずっとこのままでいる訳にもいかない。俺は名残惜しい気持ちを我慢して、雫に声をかける。

 

「えっと、とりあえず行かないか?ㅤここ下駄箱だからか、凄い注目浴びてるし……」

 

「あ……うん、そうだね……」

 

 雫は呆けた声で返事をすると、不特定多数の視線があるこの場から、俺と共に逃げだした。

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