幼馴染の負けフラグは女の子だけだと思ってました 作:夜光ゆう
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雫にお金持ちでモテモテ(対象は一人)大作戦を却下され、俺は途方にくれる。
実を言うとこの作戦、半分ぐらいは本気のつもりで提案した。というか、俺にはそれしか思いつかなかった。そもそも、男の価値なんて、運動、学力、容姿、金、これだけ揃っていれば充分過ぎると思うんだが……むしろひとつでもあれば、割といい線いってる気がする。
「あのさ、容姿もダメ、文武もダメ、富豪もダメ、なら一体他に何があるんだ?ㅤ男の価値を上げる方法がそれ以外思いつかないんだが……」
なんだろう……もっと今できることを突き詰めればいいのか?ㅤ学力ならハーバード。運動なら世界大会金メダル。容姿なら……整形?
「まぁ……確かに、容姿端麗、文武両道、錦衣玉食となればモテるだろうね……まさに、引く手数多」
「だろ?」
「ん……そこは否定しない」
「……だけど」と、雫は俺に人差し指を突きつけ、どこか仰々しい態度で言い放つ。
「男の価値は……いや、人間の価値はそこだけで決まるものじゃない」
「な、なんだってぇぇぇ!?」
雫の態度に合わせ、俺もズガガッーンと、漫画みたいな驚き方をしてみた。
「……真面目に聞いて」
「……はい」
普通に怒られた。まぁ、冗談はさておき、素直に疑問に思ったのは確かだ。
男の価値、俺的四天王がどれも違うとなれば、一体どこぞの魔王だというのか。
「それで、教えてくれるのか?ㅤその魔王様とやらを……」
「……私には、涼太が何を言ってるのか理解できないけど……まぁ、いいや……話をもとに戻すよ」
そう言って雫は、先ほど俺に投げつけたノートを回収し、机に置く。そしてその流れで、セーラー服の胸ポケットからシャープペンシルを取り出した。
「まず……涼太のスペックを書き記そうか」
「俺のスペック?ㅤ何のために?」
「現時点での自分自身を見つめる……言わば『敵を知り己を知れば――』の己の部分」
雫は置いてあるノートを広げ、シャーペンを走らせていく。
「まず、学力面について……これは、私達のクラスで二位という好成績を残しているあたり、間違いなく優秀」
「あぁ、ありがとう。と言っても、クラス一位に優秀と言われるのも皮肉な話だが……」
残念なことに俺は、雫に学力面で勝ったことが一度もない。
中学校に通っていた時。中学二年生の途中までは、俺の独壇場だった。けれど、二年の秋に突然転校してきたこいつは、俺の努力を嘲笑うかのようにあっさりと全教科満点などという頭のおかしいことを成して、一位に輝いた。そこから、大きなテストでは一度も雫に勝てていない。けど……、
「……でもいつか、私を追い抜いてくれるんでしょ?」
「もちろん。約束だからな」
だから、このままで終わるつもりはない。
「ん……楽しみにしてる。……それじゃあ次、運動面について……これも体育祭や球技大会を見ればわかるけど、充分過ぎるほどに優秀。なんで帰宅部なのかわからないレベル」
「うーん……まぁ、特にやりたい部活もないしな。今は家に帰って、適度に運動できればそれでいいよ。勉強も大変だし」
俺が静学高校に特待生として入学したのは、学力面での評価が殆どだ。だからこそ、学費を免除してもらってる分は、いい結果を残すべきだと思う。それに、雫にも勝たないといけないしな。
「うん。私も涼太に、部活動に専念されるのは困るから……それでいいよ」
「なんで困るんだ?」
「……一緒に帰る人が居なくなるから」
思ったよりも可愛い理由だった。
「……それじゃあ最後、容姿について……これは私の主観だから、香織ちゃんから見たらどう映るのかわからないけど……私はカッコいいと思うよ。世界一」
「……なぜか最後の一言で、随分信憑性が薄れた気がするんですけど……」
世界一と言えばあれだ。レオナルドとかディカプリオとか、そこらへんクラスのイケメンってことだ。
「んー……じゃあ、世界一っていうのは冗談にしておく……だけど、やっぱりカッコいい方だと思うよ。これは、わたしの主観とかじゃなくて、周りの反応的に」
「そうか?ㅤまぁ、確かに悪い顔だとは思わないけどな……見た目にも気を使ってるし」
でも、告白とかはあまりされた覚えがない。それこそ、小学生の時に何度かあったくらいで、中学に入ってからは皆無だ。
「知らぬは己のみ……涼太は、良くも悪くも香織ちゃん一筋のせいで、周りの噂や評価を一切耳に入れてない。……だから友達もあまり多くないんだよ?」
「グハッ!?」
親友に言葉のナイフで突き刺された。
「雫……知ってるか?ㅤ人には言っていいことと悪いことがあるんだぞ?」
「でも事実。……まぁ、私は沢山の友達なんていらないと思うけどね。百人の友より一人の親友って言うでしょ?ㅤ……つまり、この世の全てを切り捨てて、親友を愛しなさいって意味だと思う」
「極大解釈過ぎるわ!」
何その重い愛。嫌すぎるし、怖すぎる。
けれど雫は、首を傾げ不思議そうに言う。
「おかしいなぁ……巷ではヤンデレが流行ってるって聞いたのに……」
「どこの巷だよ!ㅤそれ現実世界じゃねえだろ!」
きっと、ネットの海とかで手に入れた情報に違いない。
「…………忘れて」
「図星か……」
便利だとは思うけどね?ㅤあまり鵜呑みにし過ぎるのもどうかと思うぞ。
「……話、纏めるよ?」
「はいはい。もう触れないからお願いします」
「……少し、不満はあるけど……まあ、いいや。……それで、ここまで上げてきた涼太のスペックを見ると、気づくことがあるんだけど……わかる?」
「気づくこと?」
何だろうか?ㅤ容姿端麗(雫視点)、学力優秀(クラス二位)、運動神経抜群(帰宅部)。
「……中途半端?」
「……思った以上に、自己評価低いね……」
まぁ、どれをとってみても最上位ってわけじゃないしな。そもそも、香織に意識されてない時点で、なぜ高い自己評価を付けられようか。
「はぁ……そんなじゃ当たりそうにない……だからもう、正解言っちゃうよ?」
「……すいません。お願いします」
正座の体勢からの土下座へと移行し、誠心誠意込めてお願いする。俺にとってはこれが、光明になるかならないかの分岐点だ。
雫は俺の行動に「苦しゅうない」と一声かけると、ここまで書いてきたノートを指し示し、
「正解はね。これを見ればわかる通り、涼太は努力し過ぎてるってこと」
「……努力し過ぎてる?ㅤそれが答えか?」
「うん……これが答え。そしてそれが、涼太が香織ちゃんから意識されない最大の要因でもある」
「……マジか」
開いた口が塞がらないとは、まさにこのことだろう。
まさか、必死で努力していたことに問題があったなんて……。
「でも、何でだ?ㅤ努力することの何がいけなかったんだ?」
「そこが最大の難点でもあるんだけど……率直に言えば、努力すること自体は悪いことじゃない。むしろ自分を磨くという行為は、凄く素敵で尊いものだと思うよ」
「……だったら」
と顔を上げ、口を挟もうとする俺に、雫は自身の手でそれを遮ると、
「でもね……思い出してみて?ㅤ私達の集中し過ぎると周りが見えなくなる癖。……つまりね?ㅤ涼太は努力し過ぎて、香織ちゃんと過ごす時間を犠牲にしちゃってたんだよ」
「っ!?」
例えるならそれは、体中に電流が走ったかのような衝撃だった。だってそうだろう?ㅤまさか、そんなところに落とし穴があるなんて……。だが、言われてみれば――なるほど。確かに俺は、いい男になろうと努力するあまり、香織と過ごす時間をふいにしていたかもしれない。
「それに加えて、涼太が何でも出来るようになったからこそ、香織ちゃんは頼るようになったんじゃないかな?ㅤ……まるで、お兄ちゃんみたいに……」
「あぁ……そうか、そういうことだったのか……まさか、努力がそんな方向に捻じ曲がるなんて……」
完全に想定外のことだった。
だって、こんなことあるか?ㅤ必死に自分を高めていた行為が、裏目になっていた……こんなことが……
「……容姿端麗で文武両道……確かに凄いことだね。もちろん、そういうところに惚れる娘だって沢山いると思う。……でもね、恋っていうのはそれが全てじゃないんだ。……だから難しくて、みんな思い悩むんだよ」
雫は後悔に項垂れる俺の頭を、優しく撫でる。
「でも……今は俯く時じゃないでしょ?ㅤさっきも言ってたよね?ㅤ諦めないって……だから、頑張ろ?ㅤまだ勝負はついてないよ」
勝負はついてない……か……。
「……そうだよな。勝負はまだついてない。というか!ㅤ俺は何回同じくだりを繰り返せば気がすむんだ!ㅤもうやめやめ!ㅤ後悔すんの終わり!」
俺はソファーから勢いよく立ち上がり、自分の顔面を両の手の平で思いっきり叩く。
バチンッ!
「痛ってぇぇぇ!」
家中に、皮膚同士のぶつかり合う音が鳴り響き、俺の顔に真っ赤な紅葉を二つ作る。
「い、痛い……けど、目が覚めた!ㅤよし!ㅤもう大丈夫だ!」
これ以上はへこたれない。
「はぁ……荒っぽいなぁ……でも、そういうところ、嫌いじゃないよ?」
「ははっ、だろ?ㅤ俺もこの気合いの入れ方、嫌いじゃないぜ!」
俺は雫に感謝の意味も込め、最高に剛毅な笑顔を見せる。
「……いい笑顔だね。立ち直りも早かったし、これならもう大丈夫そうかな?」
「あぁ、マジでありがとな!ㅤおかげでやるべきこともはっきりしたよ!」
あとはハッピーエンドに向かって、全力で進むだけだ。
「そっか……それなら良かった……それじゃあ私は、少し寝てもいいかな?」
「……いいんだけどさ。ずいぶん唐突だな」
あまりに脈絡がなさ過ぎて、一瞬理解するのが遅れたくらいだ。
「ん……ごめん……でも、今日はちょっと喋りすぎて、疲れちゃった……」
「……そっか」
言われてみればそうだった。普段、口数の少ないこいつが、こんなにハキハキと喋る姿は珍しい。……そして、その理由は、
「俺のため、だよな……。よしわかった!ㅤそれじゃあどこで寝る?ㅤこのままソファーを使うか?」
「んー……出来れば涼太の膝枕がいい……」
「俺の?ㅤ男の膝枕なんて硬いだけだぞ?ㅤそれでもいいのか?」
「ん……それがいい。それじゃなきゃやだ……」
「変なところで頑固だな……」
そう言いながらも俺は、ソファーに深く腰掛け、雫をいつでも受け入れられる態勢をとる。
「……ありがと」
雫は感謝の言葉を告げ、俺の太ももにゆっくりと頭を乗せた。
「それはこっちのセリフだよ。……ほら、ある程度遅い時間になったら起こしてやるから、今はゆっくり休め」
「ん……おや、すみぃ……」
「あぁ、おやすみ…………ありがとな」
俺は眠りについた少女を起こさぬよう、静かな声でそう呟いた。
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