階段を駆け下りた私と麻衣はセンチュリオンに飛び乗った。
「全力で入り口に向かって。一度も止まらずにね」
「了解しました。」
朱里はアクセルを踏み込んで前進させる。私はまだ車体の上に居たので振り落とされそうになったが、何とかハッチまでたどり着いた。
「麻衣、他の車両にも急行するように伝えて。散開して、一斉に進撃するのよ」
こちらの方が数で勝っている。散開して一斉に攻撃すれば数の差でこちらが勝てる。
「肉を切らして、骨を絶つね」
左右に距離を置いてコメットが布陣する。こちらは5台。一気に進撃する。
『敵が分散して向かってきます』
「分かってるわよ」
最後にきて、楓は冷静だった。
「照明をパージして。後は、砲手の腕次第よ」
「が、頑張ります」
爆薬を使って照明器具を吹き飛ばす。元のパンター戦車の装甲板を露出させた、スーパーパーシングの姿に戻った。
「一台でも多くしとめるのよ」
「撃ち方、用意」
私は無線機を握りながら指示を出す。相手は照明器具を切り離した。本気で挑むのだろう。
『撃ち方、用意良し』
『こちらも完了です』
「撃ち方はじめ!!」
センチュリオンとコメットが砲撃をしながら前進する。向こうも撃ち返して来る。
『こちら2号車。やられました』
「了解」
こちらも一台仕留めた。あと、一台。
「装填急いで」
「急ぐ」
麻衣はそう答え、徹甲弾を装填した。
「発射」
しかし、砲弾は正面装甲に弾かれる。
「流石に、正面は硬いか。そうよね、元もとの装甲厚に加えてパンター戦車の装甲板を溶接しているから」
71口径90mm砲はこちらの戦車を一撃で仕留められる。だが、こちらの20ポンド砲はもう少し近づかないと仕留められない。
「単純に、装甲厚で負けるなんて」
スーパーパーシングはその猛威を振るい、既にこちらの3台を仕留めた。逆に、こちらはまだ片方しか仕留めていない。
「楓、やっぱり貴方は戦車道に向いている。純粋に自分でやりたいと思う、そんな戦車道に」
こちらは本車と5号車のコメットのみ。
「クロスします。5号車はその一瞬で仕留めて下さい」
『りょ、了解しました』
「朱里、全力で走って敵とクロスして。そうすれば、相手はこちらに嫌でも注目する。その一瞬が仕留めるチャンスです」
「了解、隊長を信じます」
「私じゃなく、5号車の砲手を信じて」
朱里がアクセルを踏み込んだ。不整地をもろともせずにスーパーパーシングに向かっていく。その隙に5号車は逆側の側面に走る。
「右からはセンチュリオン、左にはコメットか。終わったわね。けど、諦めない」
砲手の襟を掴み、席から引き離す。
「交代よ。せめて、最後の決戦は私が仕留めるわ」
センチュリオンを狙う。
「タイミングがずれた」
5号車が予想よりも大回りし、私の考えていた時間では攻撃できない。でも、今更変更したところで間に合わない。
「朱里、代わって」
「え?」
車長席から操縦席まで直ぐに移動し、操縦レバーを握る。
「全員、衝撃に備えて」
その瞬間、スーパーパーシングからの砲撃を受ける。履帯は切れ、車体正面装甲板が拉げた。撃破されたため、エンジンは停止する。
「仕留めた」
楓はそう言い、砲塔を旋回させようとする。しかし、正面を見て驚愕する
「え?」
「まだ、惰性で行ける」
撃破された時に出して速度の分、惰性にて走行できる。
「勝ったわ」
センチュリオンをスーパーパーシングに激突させる。そして、長い砲はセンチュリオンの砲塔に阻まれて最短での旋回が出来ない。
「主砲が長いと、取り回しに向かないわね」
そう言った時、側面を5号車が撃ち抜いて撃破した。
「派手に壊したわね」
戦車から降りて、振り返ってみる。破壊された家屋群が煙を上げながら、破壊した者達に抗議するかのように建っている。
「家屋の6割は燃えているんじゃないでしょうか」
明美が横に並んで言ってくる。
「まあでも、スカッとしたわね。私達貧乏人には、お金持ちの家を見ると壊したくなっちゃう気があるから」
「隊長の家が、貧乏ねえ」
「なによ?」
「いえ、別に何でもないです」
「さて、大丈夫?」
私はスーパーパーシングの砲塔に登り、砲塔内で呆然としている楓を見つける。
「貴女、こんな素晴らしい戦車道を持っているのに、それを自分の叔父の為だけに使うなんて勿体無いわね」
「はあ、まあ確かに私は叔父の為に戦車道をしているわ。けど、今回のこの一連の出来事、貴女は何も知らないのね?」
「え?」
楓はそこで初めて笑った顔を見せる。
「だって、この一連の出来事は大河原さんが仕組んだ事なんだもん。貴女が普段と違う状況でどう対応できるのかを見極めるためにね」
「やってくれたわね。まあ、あの人には逆らえないから、何も言えないけど」
「え~、これにて本日のオープンセレモニーは終了と致します。今後とも、我がブラック・フォース社を御贔屓して下さいます様、よろしくお願いいたします」
斉藤さんは終了の挨拶をし、ステージを降りる。
「さて、君たちは我が社が責任を持って日本まで送るよ。既にビーチに揚陸艇が待機している。沖合いの揚陸艦まで送るためのね」
「ありがとうございます」
揚陸艇には既に修理と整備を終えた両者の戦車が搭載されていた。沖合いには2隻の揚陸艦が停泊している。
「それじゃあ、ここでお別れだね」
「なかなか楽しかったわよ、楓」
「こっちも楽しめたわ。負けたけど、いいものね。戦車道は」
「これからどうするの?」
「そうね、貴女の言う『私の戦車道』を楽しんでみるわ」
そう言って揚陸艇に乗り込む。
「今度私の学校で学園祭があるの!!。よかったら来て!!」
私は大声で叫んだ。聞こえているかどうかは分からないが、これで良いのだろう。
-戦車道ショップ おおかはら-
「それで、どうだった?」
「勉強になりました。いつもと勝手が違ったので、指揮が難しかったですけど」
「その割には、相変わらず勝ったな」
「武道は勝利が絶対ではないですけど、それでも勝ちを教えるのが武道ですので」
武道とは、勝ち負けよりも重要なものがある。結果だけを追い求める人間には理解できない難しいスポーツ。それが武道である。
「そういえば、楓からメールがあったぞ。舞阪女子の学園祭の日付を聞いてきた」
「じゃあ、来るのね」
「その日に予定が無ければ来るそうだ」
「それじゃあ学園祭は楽しみだな」
「戦車道部の催しは例年通りか?」
「まあ、そうなるわね。あれで結構人が来るからありがたいのよ」
「もうじき準備期間が始まるんだろう?学園祭、頑張んな」
「ありがとうございます」
そう言って私は店の外に出る。ハンバースナイプに乗り込み、エンジンをかける。
「それじゃあ、また来ます」
「おう、元気でな」
アクセルを踏み込み、往還通りを港に向かって走らせた。