「そういやさぁ、初恋の定義ってなんなんだろうな」
二学期が始まってから二週間が経った今、こうしていつもの倉庫前に自転車を止め康多と喋っている。
「僕が思うに、だよ?心の中で想うだけは恋じゃないんだよね。行動してこそ初めて恋になる、っていうかさ。小学校中学年くらいからは好きな人、ってのはいたけど、告白しよう、とかまでは思わないくらい薄い気持ちだったんだよね」
残暑が意外と戻らなかった今年の秋の涼しい風が僕の伸びてきた前髪を揺らす。
「俺さ、小学校6年間、ずっと好きだった人がいてさ。でも告白はしなかったんだよ。で今年春歌に告白したけど叶わなかったじゃん?あれを初恋と捉えるか、ただ単に叶わなかった恋なのか分かんなかったんだよな」
「え?小学校6年間好きだったのって誰?」
康多はため息をつく。
「Rさんだ」
「南?北?」
北のRさんというのは香里の事だ。
南のRさんというのは紗理奈の事だ。
家の方角なだけなんだが……。
「それを言うと面白くないだろ?だから暗号を考えておいたんだ」
暗号?康多が暗号を作った?
「どんな暗号?」
「『ぎ』だな」
は?
「あ『だ』とか『ば』『ぶ』でもいいぞ?」
ますます分からない。
「ヒントくれ」
「頭のいい広樹らしくないな」
頭はよくないし……。
「ヒントはなあ……濁点だと二画分増える、ってとこかな」
ってことは……。
「画数か」
康多が出したひらがなは全て6画だった。
イニシャルか?
「香里か?」
「理由は?」
「『杵益香里』のイニシャルはK・K。Kの画数は3画でそれが二つで6画だから」
康多がニヤニヤしながら僕を見る。
ドラマだったら僕の顔と康多の顔が交互に映されるんだろうな、と妙に冷めた頭で思う。
「正解──」
……僕の初恋、本当に終わりだ。
だってまた康多が香里の事を好きになったら……。
前に6年間も思いつづけていたのならありうる。
「あ〜もう、なんかすっきりしちゃった」
そう言って笑おうとするけど引きつった笑みなのだろう。
でも実際すっきりしたのは事実だった。
康多にとられるのなら別にいいや、と思ってしまう。
でも……。
「ほれ」
そう言って康多からティッシュを投げつけられる。
「ん?」
「目の周りを拭け」
また気づかないうちに涙が出ていたようだ。
「ありがと」
そして康多がフフフ、と笑う。
「──って言ったらどうする?」
……。
「康多のばかぁ!!もうまじで心の奥ではこれまでの思い出が回想されてたんだからね!?」
「悪いな。でもこんぐらいしないと面白くない。人間一番楽しく過ごせるのは、悲しいと思ったらそれが嘘だったときだぜ」
……そういうものなのか?
「ってことはつまり──」
「紗理奈だったよ。誰にも教えるなよ?」
「了解。口すべらしちゃったらあのげんこつ5回でいいから」
「5回は痛いだろ」
あ、康多にも気遣う気持ちはあったんだ、そう思ったけど言わないでおいた。
いやぁ、初恋の定義はあくまでも広樹が考えたものなので気にしないでください。
さて、本日もハエトリグモ観察日記、書いていきますか。
とりあえず名前をつけてあげたいですね。
大人二匹はじっくりみたので名前つけられるんですが、子供二匹は最近、存在を確認しただけなので特徴まで見てません。
とりあえず8月の初め頃からいるやつはシマシマの黒い体が特徴なので〔シマクロスケ〕と名づけましょうか。
二匹目のやつは夏の20日前後に現れた茶色い体なので〔リッシュウチャ〕とでも名づけましょう。
ネーミングセンスは気にしないでください。
子供二匹は今度じっくり見れたら名前付けます。