『爪痕』のカレル
「獣」のカレル文字が人のうちにあるおぞましい本質ならば、
「爪痕」はその気付きの、逃れ得ぬ誘惑の痕跡、だそうな。
おっ?教会から花火上がってる。なにこれ。えーっとルールブックルールブック・・・・・・
えー、一時停戦とジャッジによるお知らせの合図?ふーん・・・・・・集まって来いってことか。
どうするよウェイバー。
「行こう。もしかしたら他の陣営も来るかもしれない。
こっちはすでに手札を見せてるんだからこれはチャンスだ。
それに教会も遠坂と組んでいるんだろ?なら敵情視察ができるチャンスは生かした方がいい」
「うむ、ウェイバーも大分成長してきたのう。しかしいまいちリアクションが普通になってしまったかもしれんわな」
「それは残念がる所ですか王よ!?」
うん、根っこは面白いまんまでちょっと安心したわ。
あんまり急に成長すると発狂フラグ立つからね。
「じゃ、行こうか。なんだろうなー。一応戦闘用意はしとこうな」
「もちろんだ」
仕込み武器を隠してのこのこ教会に向かう俺ら。いやー狩り装束だと目立つな!
私服なのがいつでも正装になれるイスカンダルだけってどうなのよ。
「ようこそ、教会へ。まさかマスター本人が来られるとは・・・・・・
そちらの間桐のご子息はリタイアを選ぶわけではないのかね?」
「令呪が残ってる限り参加権はあるんだろ?だからやるよ。
まあ気にしないでくれ。で、話って?」
「うむ、実は・・・・・・」
ほー、殺人鬼がマスターになっちゃって?サーヴァントもイカレポンチで?
女子供を浚っては殺してる?へー・・・・・・
あんまりにもあれだから殺したらお礼に令呪くれるって?ほうほう。
サーヴァント召還ガチャのほうがいいんだけどなー。
「オッケーいいよ。俺そもそもそういうのをぶん殴りたくって参加したんだし。
ウェイバー達はどうする?」
ふりかえって見てみると決意に満ちた目が二つ。
「やるに決まってるだろ。こんなの放置しておけない」
「うむ!その手の外道を退治せずして何が王か!何が英雄か!
遠慮無くぶん殴れる悪党がいてよかったわい」
うんいい返事だ。いいね、そういうノリは大事だよ。
「ってわけで俺たちは停戦と討伐に参加するから。
ところでさっきからこっちをねっちょりした目線で見てる神父さん誰?息子さん?
なんか言いたそうにしてるし話していい?話すね。
あっ、ウェイバーちょっと行ってくるわ。イスカンダルも待っててくれ」
俺はさっと目線を送る。近づいて内緒話しようぜ!という奴だ。
イスカンダルが横にきてささやく。
「おう、どうしたのだ?」
「いやあれ教会のマスターじゃない?探りを入れてこようと思ってさ」
「しかしいささか唐突ではないか?」
「いやー・・・・・・なんかああいう鬱屈した目の奴ってだいたい近々やらかすタイプなんだよね。
ほらよく見てみろよ。ヤバいよ?いるじゃんああいう奴」
「ふむ・・・・・・あー、あれはいかんな。わけのわからん悩みにとりつかれて反乱起こす兵の目だ。
相当追い詰められてるようだな。ああいうのは何をするかわからん。なるほど探りを入れておくに越したことはない」
「だろ?ああいうのって複数で行くとだいたい猫かぶるしさ。
まあ、何かあったらカチこんで来てくれ」
「ああ、気をつけろよ」
俺たちはさっと密談を済ませると神父のおっさんを適当にあしらって教会のマスター、えっとキレイくん?だったか。
まあそいつの所に行く。おお、この教会内装けっこういいね・・・・・・
■
「おっすキレイくん。さっきから何かちらちら俺見てたけど何?なんか悩みでもあんの?
話聞くよ?ああ、大丈夫大丈夫。ちゃんと内緒にするからさ」
キレイくんはちょっと驚いた様子でしばらく黙っていた。それから悩んだ様子をしてた。
こいつリアクションがオーバーだな!
「・・・・・・間桐雁夜か?ならば聞かねばらない。貴様はなぜそんな目ができる?
貴様の経歴を見た。過酷としか言い様がない。
心に何らかの歪みなり空虚なりがなければおかしい。
だがなぜ貴様はそこまで楽しそうにしている?
その経験で何の答えを得た?それは貴様がそんな風に生きれるものなのか?」
ふーむ、重傷だな。えっとこいつの経歴どんなんだったか。
聖堂教会でバリバリの代行者してて何年か前に奥さんと死別、娘さんと別居。
評判はやたらストイックで自分をいじめ抜くタイプ、すごく信仰心が強いだったか。
うわあ、さらっと見ただけでこじれてるのがわかる経歴だよ・・・・・・
「あんたの経歴もさらっと見たけどあんただって十分こじれそうな経歴だけどな。
そりゃ俺が楽しそうに見えても仕方ないわ。あんた楽しいどころじゃないんだろ」
でもこの手合いはすぱっと悩みを解決してくれるようなすごい答え期待してるもんなんだよなー。
一般論で言っても俺の悩みは違うんだ!って言うし。だいたい普通の悩みなのにさ・・・・・・
「っていうか俺にも分かるように、一から隠さずに話してみろよ。
なんか隠してて答えを教えてくれって言われてもそりゃわからんわ。
あんたみたいなタイプが隠す事って言ったらあれか。恥か。聖職者の恥っていったら・・・・・・
特殊性癖?あとは感性が人と違うとか?」
おっ、すげえリアクション。こいつほぼ無言ですごいオーバーな身振りするな!顔芸がすごいわ。
どうもビンゴみたいだな。
「ほら言ってみろよ。別に引かないから。どーせ今後何度も会う仲でもないんだしさ。
旅の恥はかきすて、みたいなもんで遠慮すんな。職業柄、頭おかしい奴も変態のたぐいも飽きるほど見てるからいちいち気にしないって」
あ、震えてる震えてる。これはキレるな・・・・・・
「私は変態ではない!断じて違う!そんな低俗なものでは・・・・・・!」
頭抱えちゃったよ。めんどくせえー。こいつ絶対ナルシストだ。
自己評価すげえ高いタイプ。しかも自覚して無くって表向きは自分は異常者だの劣った人間だのいうくせに自分の悩みがすべてって奴だ。
「違うって言うならちゃんと説明してくれよ。
悩み事あるんだろ?何かやらかしそうなくらい追い詰められてるんだろ?
なんかそれではっちゃけられても寝覚めが悪いからちゃんと言えって。何に悩んでんの?」
とりあえず椅子に座らせる。
しょうがねえなー。こういういうのは優しく聞かないと絶対本音言わないんだよ。
甘えんな。まあ苦しくってなりふりかまっていられないんだろうけどさ。
「私は・・・・・・昔から感性が人と違った。
人が美しいと思えるものが美しいと思えなかった。
すばらしいということがまるでそう感じなかった。
なにをしても喜びも満足も・・・・・・そう、貴様の言う楽しいという感情を感じられなかった!
妻が死んでさえ、心が動くことがなかった。
私はどうすればいい?どうすれば喜びを得ることが出来る!?」
・・・・・・ただの障害と鬱じゃん。病院行けよ。
なんでこうなるまで誰も病院につっこまなかったんだ。
あ、こいつ家が教会だし、知り合いは魔術師か聖職者しかいねえのか。
しかしまいったな。ここで正直に病院に行け、って言っても絶対行かないんだよこういう奴。
俺の悩みはすごい!これはただの病気じゃない!って思ってるから。あとオカルトにかぶれてるから医者を信用してない。治るはず無いとか思い込んでる感じだ。
「ふーん・・・・・・まあだいたいわかったよ。
あんたがどんな状態にあるのかもね。今どうしたら良くなるか考えてる」
「わかるのか・・・・・・!?貴様は答えを知っているのか!」
「言ったじゃんそういう人たち山ほど見てるって」
どうすっかなーどう言えば納得してくれるかな。
とりあえずこいつの経歴から言い方考えてみるか。
「俺はあんたが答えっていってるものをなんとなく分かってるけどさ。
あんたが納得して理解できるように言うためにはあんたのことを知らなきゃいけない。
だから今からいくつか質問するね。いいかい?」
「ああ・・・・・・早く教えてくれ」
さーてこいつの症状はどんな感じかな・・・・・・
特殊性癖に反応してたから多分そのへんなんだろうけど。
くそっ、なんで俺が中野の古本屋の真似事をしなきゃいけないんだ。
「まずこのこと誰かに話した?家族とかは?」
「いいや、誰にも話していない。父は高潔な人だ。何不自由なく私を育ててくれた。
その私が期待にまったく添えていないなどどうして言えようか」
誰にもってのは嘘っぽいな。だけど家族に話してないのはマジらしい。
うーん・・・・・・誰だろ。風俗嬢とか?あとは話せないっていたったら仕事関係か。
ぶったおしたバケモノとか?いや今の状況だと・・・・・・ああ、時臣のサーヴァントがいるわ。
あいつ鋭いしな。多分なんとなくわかったんだろうな。
「ふーん・・・・・・仕事はどうよ。今までどんな感じでやってきた?」
「一心に求道してきた。体を鍛え、痛めつければ、あるいは修行をして心を清くすれば何かがつかめるかと自分をいじめ抜いてきたが何も得られなかった」
ふーむ、でもなんだかんだで結構やりきってるんだよねこいつ。
出世できてこんなマッチョになるくらいには。
マゾかホモか?いや、マゾなら多分修行中に目覚めてるだろうし・・・・・・ホモか?
「なるほど・・・・・・ところで鍛えた男の体とかどう思う?」
「贅肉のない体は節制の証だろう」
「ふーむ。少年、といって思いつくことは?」
「一般的には夢のあふれる年頃だろう」
ふーむ・・・・・・表情とかの変化を見るにやっぱホモか?でも奥さん取ってるんだよな。
そっちでも攻めてみるか。
「ふーむ、少しづつ分かってきた。
ちょっと話にくいかもだけど奥さんのことについて聞いていい?」
「・・・・・・あまり話したくはないが、答えをくれるというならば話そう」
ふむ、表情にかなり変化があったな。こいつにとって奥さんは大きな存在だったのか。
「なんで結婚した?神父なら一生独身でもアリだろう?」
「家庭をもち、子をなすことは男子のつとめだ。家をないがしろにするわけにはいかない」
嫌なこと言うな・・・・・・でもそう思うからにはこいつ結構親父さん尊敬してるんだな。
たぶんその価値観も。善や道理を重んじながら、教義のためには人殺しもする。それがいいことだと思ってんだなこいつ。
でもそれは表向きで、内面ではなんにも楽しくないから鬱になってる。楽しくなるためにはなんでもするくらいには追い詰められてる、か。
「ふむ、じゃあなんでその奥さんを選んだの?基準とかあった?」
「妻は病で余命幾ばくも無く・・・・・・それで・・・・・・わからない。哀れに思ったのかもしれない。
儚げな姿に魅力を感じたのかもしれない・・・・・・
これは本当に必要なことなのか?あまり思い出したくない。
私は彼女を幸せにはできなかった」
ヒット。このへんがこいつの障害がさらにこじれたトラウマだ。
余命幾ばくも無い儚げな姿が良かった、ってことだよな。
ふーむ・・・・・・なんとなくつかめてきた。あとは確証が欲しいな。
「でも愛してたんだろ?」
「違う!私は彼女を愛せなかった。
言っただろう!喜びも楽しみも無いと!それで苦しんでいると!
愛とは喜びだ。そのはずだ。もっとも尊い感情のはずだ!だが、私は・・・・・・」
じゃあゲスい感情は感じてたんだ。なるほどな。
でもこいつの倫理観から言えば妻は愛するもの、とか思ってただろう。
「愛したかったのに、愛せなかった?」
「そうだ!何故分かる!?」
立ち上がってうーうー言い出したよ・・・・・・
こいつ正直じゃねえなー。っていうかいろいろ自覚してないっぽいな。
しょうがねえケイネスに使った催眠またやるか。正直に本音話せる奴。
「よしそれだ!あんたその件で余計にこじれてるんだよ。おら言ってみろ愚痴とか本音とか!
そこを解きほぐさないと喜びもなにもあったもんじゃねえんだよ!
病で苦しんでる奥さんを見てどうだったよ?」
「そ、それは・・・・・・それは!違う!私はそんなこと感じていない!
違う!私はそんな悪魔のような人間では無い!」
よしこれだ!多分苦しんでる奥さん見てこいつ楽しかったんだわ。あるいは病気で自分に当たる奥さんにムカついたか。
「むかついたのか?」
「いや、違う・・・・・・病で苦しんでいる人間を見て怒りを覚えるなどあってはならない」
「奥さんはあんたを責めたか?」
「妻はそんな女ではない!私を、常に愛してくれて・・・・・・いつも感謝を・・・・・・」
よしここで確認だ。
「よしあんたはそんな奥さんが死んだ時どう思った?」
「わ、私は、私は・・・・・・つまを・・・・・・そうだ、涙も流れなかった・・・・・・」
よし、ちょっとマイルドに言い方変えてどんぴしゃのを言ってやるか。
「いっそ自分の手で楽にしてやりたかった?」
「楽に・・・・・・そうかも、しれない・・・・・・いや、だが・・・・・・」
「よしよしつらかったな。だがもう大丈夫だ。全部分かった」
椅子に座らせて落ち着かせる。泣いてんじゃんお前。泣けるんじゃん。
よーし整理しよう。こいつ多分バイのサドでリョナだわ。
男女関係なく苦しんでる姿が楽しいってタイプだ。
で、喜びを感じられないのはそういう脳の障害。
だけどこいつはこいつなりに奥さん愛してたんだよ。
喜びがないから自覚できなかったんだろうけど。少なくとも大切だったんだ。
で、サドのこいつは苦しんでる姿を見て喜んでる自分が嫌だったんだ。だからそれを封じ込めた。
見ないことにして忘れちまったんだ。
こいつの価値観そのものはわりとまともで、潔癖なもんだから自分が変態だと認めなくなかったんだろう。
で、奥さんが大切だと自覚できないままなくしちゃったから鬱にも多分かかってる。
そりゃこじれるわ。障害持ちで、性癖おかしくて、それを認めたくないから無意識に忘れて。
奥さんを亡くして鬱。まあ狂うのも無理ないよ。
さーてどうするかな・・・・・・これ下手に自覚させたらこいつ猿になるぞ。
暴力にめざめるならまだしも自制心つよいタイプは陰湿になるからな・・・・・・人をいじめて喜ぶクズになりかねない。
しかも生まれて初めて楽しみを自覚するだろうからエンドルフィンどばどば出まくって歯止めがきかないだろう。
聖職者の獣ほどヤバいみたいなもんだ。欲望は抑え込んでも貯まっていくだけだからな。
猟奇殺人犯になるかも。やべえ猟奇殺人犯捕まえに来てなんで増やしてんだ俺。
よし、穏便に自覚させよう、自制できる陽気な変態なら無害だ。
「よっしゃ。いろいろ聞いて悪かったな。つらかっただろ。
まあ落ち着くまで俺の身の上話でも聞いてくれ。
あんたに話させてばっかりじゃフェアじゃないからな」
俺は身の上話をあえてグロく、露悪的に語ることにした。
被害者の苦しみをくわしく写実的に語ってみる。
うわぁ、すげえ笑顔。ヤクきめてるみたいだ。
「・・・・・・と、こんな感じだったんだよ。あんたも大雑把には知ってるだろうけどな。
さてと、なんとなくわかってきたんじゃないか?あんた、笑顔になってるぜ」
ひたっとキレイくんは自分の顔に手を当てる。はっとした顔をしたな?
「ち、違う。私は・・・・・・」
「落ち着こう。それは恥ずかしいことでも珍しいことでもないんだ」
「ああ・・・・・・」
まるで爆弾解体してる気分だよ!下手こくとそのまま発狂しかねないな。
俺は一息吸ってぱん、と手を合わせて空気を変える。
「よし、じゃあ答え合わせと行こう。
まずあんたが喜びを感じられないってのは脳の障害だ。医者に行け。
だけどあんたはまったく喜びを感じないって訳じゃない。人の苦しむ姿が好きなんだろ?」
「私は、生まれついての罪人なのか、汚物なのか?
なぜ、私のようなものが生まれてしまったのだ・・・・・・!」
すげえ顔芸だ。なんかポエミイになってるし。このまま悲劇に酔わせてると絶対やばい。
俺はキレイの言葉を遮ってまくし立てる。
「落ち着け。ぶっちゃけて言えばあんた脳の障害と鬱と、それにサドだ。
どれもそれぞれは珍しいものじゃない。複数あってこじれてるからすごい歪みに見えるだけだ」
「……ははッなんだそれは。私はただの狂人で、ただの変態だったと?」
発作みたいに笑いまくってるよ。うわー、こういう笑い方ヤーナムでよく見た。
俺はできるだけそっけなく突き放して言う。なんでもない、当たり前のことのように。
だってそれぞれは当たり前のもんだろ?自覚しろよ自分は特別じゃないって。
「そうだよそれの何が悪い。受け入れろ。受け入れて医者に行け。
あと変態は別に犯罪じゃない。ちゃんと自制して合法的に発散するならただの面白い人だ。
神父だから、なんて体面気にして精神を病んだから何にもならないぞ。
一度SMクラブにでも行ってみろ。すっきりするぞ」
おっ、馬鹿笑いが収まったな。ため息ついて頭抱えてる。
「私は、どうすればいい・・・・・・悪徳に堕ちろとでも?」
めんっどくせえー!だから魔術師って大嫌いなんだよ!
すぐ極端から極端に行ってはっちゃけるから!
「だからなんであんたらそう極端から極端にいくんだ。
世の変態はだいたいの奴は自分の性癖に向き合って自制してる。
障害者だって一般的にはそうだ。不便だろうけど、受け入れるしかない。
それが不服で犯罪に突っ走るとかはそれこそ犯罪者の寝言だし甘ったれのクズだ」
ようやく本来の目的が言えたよ!つまりはっちゃけて犯罪とかすんなよ!って釘刺しに来たんだよ俺は!
「そうだな・・・・・・一生、抱えてくすぶっているのがクズの私にはお似合いか」
「まあそうだよ。そういう欲望があるにしろ、それに従うのも抗う事も選べるのが人間だ。
頭使え我慢しろいい大人だろ。
本能に動かされるままに暴れるのはそれこそ獣だよ。そんなもん駆除するしかない。今回の殺人鬼マスターがそうなようにな」
卑屈な表情が消えてなんか悟った感じになった。
どうやら納得できたらしい。よかったな!俺は疲れたよ!
「ああ・・・・・・そうか。飢えたままでいいのか。飽いたままでいいのか。
誰しも、そうなのだな・・・・・・」
「そうだよ当たり前じゃん。誰だっておかしな性癖や生まれついての悩みくらいあるよ。
でもだいたいの奴はそれでもグレずにまともに生きてるんだ。だからあんたもそうしろ。
欲望に流されずにまともに生きろ。気持ちいいのが楽しくて人に迷惑かけるのは理性の無い猿だ」
キレイくんは立ち上がって俺の手を取って頭を下げた。また泣いてるよ・・・・・・
「ああ・・・・・・ありがとう。私は、救われた」
よし退散だ!これ以上関わるとなんか依存されそうって言うかケツ狙われそうだよ!怖いよ!
「そうかよかったな。じゃあちゃんと病院行けよ。医者に全部隠さず話せよ。
間違っても犯罪に走るなよ。ちゃんと欲望を自覚して自制しろよ。
風俗とかで迷惑かけない範囲でちゃんと発散しろよ。
俺と約束できるか?」
「・・・・・・できる」
ちょっと幼児退行もしてるじゃねえか!もうやだこいつ。
「よしわかった。でもどうしても我慢ができそうになかったら、俺に言え。
あんたが獣になる前に介錯してやる」
「・・・・・・ありがとう。誓おう」
「おう、しっかり休め」
「礼がしたい。何がいい?」
「そうだな・・・・・・」
おっ、棚ぼたでなんか貰えそうだぞ!どうするかな・・・・・・よしダメ元で言ってみよう。
「いっそあんたのサーヴァントのアサシンくれなんて言ったら困るかい?」
おっ、考えてる考えてる。まあダメだったらアレ欲しいんだよね。黒鍵。いいよねあれ。
「いや・・・・・・そうかその手があったな。よく考えればもはやいらんのだ。
元よりあの悩みの答えが欲しかったから参戦したのだしな。
目的を達してくれたお前にやるならば理にかなっている。手を出してくれ。渡そう」
「あっ。ちょっと待て。ちゃんとアサシンにも確認しろよ?」
「なぜだ?サーヴァントだぞ?」
だからなんでお前ら報連相しないんだよ!
ちゃんと話し合え!話し合わないからこんなにこじれたんだろお前!
魔術師はだいたいそうだよね、知ってたよクソッタレ!
「英雄でもあるし、幽霊でもあるだろうが。誰だっていきなり身売りされたらキレるわ。
そんなんもらう身にもなってほしい」
「そうか、そうだな・・・・・・というわけだアサシン。見ていただろう?どうする?・・・・・・そうか。
貴様らとは異教徒だがそれでも、貴様らに救いと導きのあらんことを祈る。
私は一足先に答えを得た。幸運を」
ちょっと待って何言ってるの。なんで話が合ってんの。
何なの。こいつのサーヴァントもこじれてんの?
ひょっとしてこいつも触媒なし召還?マジで?うっわぁ・・・・・・
またこういうのやんの?勘弁してくれよ!俺はお悩み相談室じゃねえんだよ!
そういうのは新宿の母みたいな占い師とかカウンセラーに行け!
「サーヴァント、アサシン。百貌のハサン、間桐雁夜殿の指揮下に入ります。
我らの中の過半数が、あなたに従うことに賛同しております。
私は妖美のa■sa■co■。我らのうちの取り纏め役のようなものです」
多重人格かー!治せるか馬鹿!医者に行け!ほんとに!
つーか妖美さん名前よく聞き取れないよ。アスァコ?アシュァクォ?まあいいやアサコって呼ぼう。ポニーテールで腹筋割れてる褐色美女だ。
もうなんか美女ってだけでわりと許せる気がする。つーかその仮面かっこいいね。
「お、おう・・・・・・がんばろうな。ところでつかぬ事を聞くけどあんたのザバーニーヤってひょっとして分身とか多重人格とかそのたぐいだったりするの?」
「おお、さすがは幾たびの人外魔境を超えられた主!いかにもそのとおり。一つ一つの人格が肉体を持って分身する。そのようなものです。
ただの分身と侮るなかれ。我らは一人一人が何らかの専門家にございます。誰かの不得意は誰かの得意。故に我らは万能なのです」
めっちゃ期待されてる・・・・・・だから俺は職業柄変態と狂人に慣れてるだけなんだって!
医者じゃないんだよ!治せるわけないだろ!?
・・・・・・しょうがねえ、治せそうな奴らは何人か知ってるからそいつらに依頼しよう。高くつくなこれ!
「おお、そりゃすごいな。期待してるわ。ところでひょっとして聖杯にかける願いってもしかして君らも悩みの解決だったりするの?治したいの多重人格」
「はっはっはっ、さすがは主。やはりわかりますか。私の中の数多の私は御しがたいものでございましてな、常に脳裏が騒がしいのです。
可能ならば統合して完全なる私になり、静寂の中でゆっくりと休みたい。それが我らの三分の二の望みでございます。もちろん私もそのうちの一人です」
そっかー。たいへんだねー。
・・・・・・経験上こういうのって一人一人の個性を大事にしたいとか言い出すんだよな。
一人一人と面談しなきゃ駄目かこれ?
「そうかあー、何人くらいいんの君ら」
「そうですな・・・・・・主立った者で80人ほど。目立たない者をふくめた場合百ほどでございましょうか。故に我は百の貌のハサンなのです。
ご安心召されよ。魔術や戦闘、暗殺はもちろん、頭脳担当から経理、お望みならば夜伽担当も好みを取りそろえておりますぞ!」
80!?ふざけてんの!?できるかボケッ!
一人一人面談して何日かかるかとか考えるだけで俺が逆に鬱になるわ!
・・・・・・でも夜伽かあ。アサコさんわりと好みなんだよね。いいよね褐色腹筋美人。でもこの人口説こうとしたら絶対めんどくさいわ・・・・・・
「ああ・・・・・・それはすごいな。まあ、頼りにしてるよ。
うん。なんとかするよ。するさ。がんばる」
ここで俺はキレイに耳打ちする。
「おいこいつすげえめんどくさいぞ!80人の悩みとか解決できるわけないだろ!?どうすんだこれ!」
うわっ、すげえ下卑た笑顔だ。さっそくドSに開花するなよ!
「だが当てはあるのだろう?間桐雁夜ほどの男ならば、これもどうにかしてしまうのだろう。
私はそう信じている。
何、いざとなれば令呪で言うことを聞かせればいい。6画あればどうとでもなるだろう。
朗報を期待してる」
「てめーおぼえてろよ・・・・・・なんか色つけろ!割に合わんわ!黒鍵!あれよこせ!」
余裕の笑みしてやがるこいつかなりふてぶてしいやつだな!ふっきれるとこんなんなるのか!うぜえ・・・・・・
「いいとも。ハサンよ、私は貴様らと貴様らのマスターを祝福する。
貴様らの前途に救いのあらんことを。
といっても言葉だけでは私の気持ちが収まらん。
これは選別であり間桐雁夜への礼の一つだ。持っていけ」
キレイは服の袖から黒鍵を三本づつ、計6本出して俺に渡した。
「使い方はわかるかね?」
「ああ、だいたいね。このへんにこうやって魔力を流すんだろ?
おっ変形した。いいね、やっぱ武器は面白くないと」
「気に入ってくれて何よりだ。さあ、あまり長居すると父に怪しまれる」
よし帰ろう!もうこりごりだ!おせっかいは焼くもんじゃないね!いろいろ得したけどなんかめんどくせえ!
「・・・・・・何というか、本当に感謝する。
とても爽快な気持ちだ。わかってみれば、たいしたことはなかったのだな。健闘を祈る」
俺はため息をついて振り返らずに言った。
「ああ、せいぜい頑張るわ。あっ、そうそう・・・・・・言い忘れたけどな。あんたはあんたなりに奥さん愛してたと思うぜ?
だってあんた奥さんの話するときに泣いてたもん。それに、サドのあんたが愛するのって、つまりそういうやり方だろ?
だからまあ、あんたにも人が愛せるのさ。それでも迷惑かけないように自重して欲しいけどな」
見えないけど、キレイが息をのんだ音が聞こえた。
「・・・・・・!ああ」
おっアサコさんがなんか仮面の奥の目を輝かせてる。やべーなハードルあがっちゃったかもしれない。
「おう、行こうかハサン。えーっと、君の名前はアサコさんでいいの?
悪いね俺日本人だから発音難しくてさ」
「少々違いますが、誤差の範囲でございましょう。それでかまいませぬ」
俺はハサンを霊体化させるとため息をついてキレイの部屋を出た。そしたらまだ面倒ごとがあった。
「間桐君。私の息子に何か用があったのかね?」
あーもう面倒だ。全部言っちまえ。
「あんたの息子さん奧さん死んだショックで鬱になってたぞ。
すげえ思い詰めた顔してたから相談乗ってやった。
そしたらなんか気が晴れたみたいでお礼にハサンもらった。
聖杯戦争自体、極限状況にいたら悩みを解決できるかもで参加したからだってさ。
悩みが晴れたからもういいんだとよ。ああ、別に洗脳も何もしてないよ。
マジでカウンセリングの真似事やっただけ」
壁に手えついて通せんぼしやがったこのおっさん。
「つまりうちの息子をそそのかしたのかね?」
そろそろキレていい?
「あっ。そういうこと言っちゃう?じゃあ言うけどさ。そもそもジャッジの教会の関係者が選手として参加とかどうなのよ。
無関係だっていうなら参加者同士のやりとりなわけで、ジャッジの出る幕じゃないよな?なあ?」
あっ、て顔しやがった。こいつ反則に慣れて全然違反行為って意識がなかったな?
「そういうわけだから。あと今俺スゲエいらついてんのよ。あんたの息子さんの悩み相談をわざわざやってやったんだからな!
こういうはあんたが気づくべきことだぞ?家族なんだから。あんたの息子さん悩みすぎで犯罪に走る一歩手前だったからな?
まあ親子っていうのは難しいとは思うけどさ。夢を追う前に足下しっかり見ろよ。掬われるぜ?
息子一人の悩みにも気づかないで何が聖職者だボケッ!」
俺はおっさんの腕を押しのけて足早に教会を後にした。
ウェイバーたちが手を振っている。ああ、早く帰りたい・・・・・・
■
「雁夜よ、首尾はどうだ?」
イスカンダルが待ちくたびれたという感じでベンチに座ってあくびをしている
「うまくいったよ。すげえ疲れたけど。ハサンと黒鍵もらったわ。と、いうわけで1チームゲットだ。その分ハサンの願いを叶えなきゃいけなくなったけどな!」
俺も疲れたので隣に座る。ウェイバーも座れば?拝謁ポーズしんどくない?
「あいかわらずとんでもないことをさらっとやるんだな、あんたは。もう驚き疲れた。どんなイカサマを使ったんだ?」
「どうも何もないよ!最初に言ったじゃん!思い詰めてる顔してるから探りを入れるついでに相談乗るって。
そしたらがっつり相談することになって愚痴とかいろいろ聞きまくったんだよ!すげー疲れた。
で、なんかもうすっきりしたっつーんでお礼にハサンもらった。
聖杯戦争自体、悩みを解決するためだったんだってよ」
イスカンダルはだらけてジュース飲んでる。俺にも1本くれよ・・・・・・喉渇いたわ。
「なるほどのう。極限状況で悟りを得られるとでも思ったのか?浅はかな・・・・・
戦場で悟りなど得られん。得たとしたらそれは摩耗して痛みに鈍くなっただけだ」
「だろ?ほんとめんどくさい奴だったよ。
嫁さん死んで鬱になったのをすげえ大げさに考えててさ・・・・・・苦労したよ。
でも、多分あれなら犯罪に走ることは無いんじゃないかな」
いてっ背中ばしばし叩くな!くっそ人ごとだと思って面白がりやがって。
「ならよかったではないか。戦えんのは少々つまらんが、穏便に話し合いで解決できたのであればそれも一つの偉業というものだ。
人間、話し合いで解決できることなどほとんどないのだからな。それに結果だけ見れば何のリスクも負わずサーヴァントと武器を得られ。
さらに一陣営を落とせたのだ。僥倖と言えよう。まあ愚痴を聞いて疲れただろうけどな」
「まあな、結果だけ見ればな。とりあえず帰ろう。落ち着いたらハサンと顔見せしよう」
まあ、褒めてくれたのはわかったよ。もうあの変態神父のことは忘れよう。得たものを考えよう。
「うむ!アサシンの語源、暗殺者の中の暗殺者、ハサンサッバーハか。
豪傑とは趣が違うが、これもまた面白そうな人材だ!」
「ある意味面白いかもな・・・・・・けどその分かなえる願いが増えたのをわかってくれよ?」
「うむ!何任せておけ。臣下、否この場合は同盟軍か?
そやつらの要望をまとめるのも王の役目よ!」
「ああ、マジで期待してる。本当に」
なにしろ80人いるからな!王様らしいリーダーシップに期待するわ。
俺そんな人数を手下にしたことなんてないもん。今回ばかりは頼らせてもらう。
「あーくそっ、なんでたかが2匹の獣を狩るのにこんな面倒なことになるんだよ。めんどくせえー」
俺は伸びしてベンチから立ち上がる。ウェイバーが笑ってる。まあ、変態と違っておちょくってる訳じゃ無いからいいか。
「ははは、あんたも疲れることがあるんだな。意外に親しみやすい所もあるって思ってほっとした」
「お前の中で俺の印象どうなってんの?!蛮族なのは否定しないけどさ」
「うむ、さて。忙しくなるぞ!相手は外道畜生の類いだ。時間をかければまた民が毒牙にかかる。
アサシンと顔合わせもせねばならんしな!不謹慎だがなかなか面白いイベントがあるものだ!」
そりゃお前この聖杯戦争自体どったんばったん大冒涜チキチキ冬木燃やし血祭り大会だしな。