マトウの狩りを知るがいい《完結》   作:照喜名 是空

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第六話「獣と右回りの変態」前編

俺たちはアジトに帰ってきて顔見せと作戦会議をすることにした。

 

「ほう、分身出来て人格が80人!?ふーむ、なかなかの変わり種だのう。

だがこれで再び軍勢を率いて戦争できるわけだ!心が躍るな!」

「我らはあくまで主のサーヴァント、あなたは主の同盟相手であって指揮下に入るわけではありませぬ。そこの所をよくご留意くだされ」

「うむわかっておる。しかしこれで余を含めて81人の英霊を受肉させねばならんのか・・・・・・ふむどうしたものか。

そもそも、受肉するには聖杯に願うのだったか?そのへんの仕組みはよく知らぬしな。そこでカリヤ、ウェイバーよ。何か良い知恵はあるか?」

 

ウェイバーは俺の渡したジジイの書いた聖杯戦争の資料を読みながら答える。

 

「はい王よ。どうも調べた所、受肉に必要なのは聖杯に入れられて無色の魔力となった英霊の魂と術式のようです。

術式の一部はこちらの資料にありますし、大本はアインツベルンが保有している様子です。

必要なものの残りは生け贄となる英霊の魂ですが、都合良くこれも残り3体。王とアサシンが受肉するには十分な量かと」

「となると、要るのは魂を保管しておくための道具か。まあこれもアテはあるし最悪血の遺志にしちまえばいいだろう。

あと80人受肉させる必要は無いんじゃねえの?まず1体ってカウントでハサンを受肉させてそれから治療していけばいいだろう。

受肉しても多分ザバーニーヤは使えるだろうし。使えるよな?」

 

ハサンっていうかアサコは少し考えてうなずいた。

 

「は、おそらくは問題ないかと。生前はただの多重人格でしたが、英霊となってスキルとして昇華された様子。受肉しても使えるでしょう」

 

うむ、ビジネスライクな距離がちょうどいいわー。

イスカンダルは顎髭をなでて考えている。

 

「ふむ、ところで何故聖杯を使わずに受肉する前提なのだ?使えるものは使った方が便利だろう」

 

まあそれも一つの手だけどなー。

しかしこのアジトにイスカンダルとハサン数人いると狭いなこれ。

 

「んー、まず第一に聖杯をあんまり信用してないんだよ俺。

あれにはどうも意思があるっぽいしな。

となるとそいつがろくでもないことする可能性は十分ある。

あとそもそもこの聖杯戦争、何百年かけて一度も成功してない計画だぞ?

仮にうまく聖杯を手に入れて使うとして、それ初使用初運転だよ?絶対どっか不具合出るって。

というわけで聖杯に頼り切りはよくない」

 

まー、俺らの素人仕事でも危ないのは危ないだろうけどな!できるかどうかわかんねえし。

でもよく考えたら死んだらそれっきりなのを幽霊になれて死後も未来で暴れられるんだからもうけもんだと思ってくれ!

 

「まっ、うまくいけばもうけものくらいのスペアプラン、いざという時の予備だよ。

そもそも、聖杯に願った場合叶う願いって一つなんだろ?どういうカウントしてるのか知らないけど、下手したら一人しか受肉できない可能性もあるわけだ」

 

おっ。ハサンズとイスカンダルが考えてる。まあ険悪にならなかったらいいか。

 

「ふむ、よくわかった。たしかに備えておくに超したことは無いな。常に退路なり別の手段を確保しておくべきだ。

カリヤよ、お前は軍略の基礎を心得ているのだな、こっちも勉強するか?」

「機会があればね。まあ、聖杯戦争終わった後ゆっくりやるさ。あと受肉がうまくいかなくっても最終手段がすでにある」

 

ハサンがおお、と声を上げた。うんまあ気になるよね。こういう所で信用を稼いでおかないとな。

 

「ケイネスからぶんどった魔力炉あるだろ?

あと俺が個人的に似たようなのも持ってるから計5機。

そんだけ魔力の供給源があれば聖杯戦争終わった後でも2人くらいなら現界できるよ。

聖杯がだめでも、ゆっくり手段を探せる」

 

ハサンズのテンションが無言だけど上がってるわ。やっぱこういう保険は大事だよな。

イスカンダルも目に見えて表情に余裕が出来てる。

 

「なんと、もうすでにアテがあるのか!

いやあカリヤよおぬしこう言う仕事でも有能なのだな!やっぱ余に仕えんか?」

「そりゃまあ、修羅場でもなんとか解決手段を模索しなきゃいけない状況ばっかだしね。

物を買えたりするだけイージーだよ今回は。

ああ、あんたがクライアントとして俺を傭兵として雇うなり、共同経営なりならいいよ。人の下につくのはあってないんだ」

「残念だのう・・・・・・」

 

あっ、ウェイバーがなんか言いたそうにしてる。

 

「カリヤ、その道具とかの対価はなんなんだ?相当高いだろこれ」

 

まあ、タダより高いものはないしな。王佐としてはそりゃ気になるだろう。

勘定もってんのはウェイバーだしな。

 

「あー、そこ聞くかやっぱ。まーカネでいいよ。他のもんもらっても別にうれしくないし。生活費は必要だしな。

あっ、もちろん必要経費は別だぞ?必要経費プラス俺の手数料。まあ、そんなに高くしないさ。

そもそもあんたらの協力あってのものだし。ハサンもな?それに今回ぶんどったもんが売れればそれなりには金になるしな」

 

ウェイバー、顔がひきつってるぞ。まあその年だと使える額も少ないだろうしな・・・・・・

 

「まあ俺も鬼じゃ無いから支払いはローンで分割でもいいし、ちょっとは待ってやるよ。

利息もつけない。まあ出世払いの一種だな」

 

イスカンダルがガハハと笑う。

 

「ウェイバーよ、そんな不安そうな顔をするな!なあに戦争が終われば余が会社でも興して一儲けしてやるわい!

案ずるな、経営も軍資金の入手も慣れておる。王だからな!」

 

あんた略奪で軍を回してなかったか?まあ、国にいた頃もいろいろやってるから大丈夫かな・・・・・まあがんばれウェイバー。

 

「さてと、ハサン。君らを活用するに当たっていろいろしなきゃいけないな。

まず外に出て諜報活動できそうなの何人くらい?そいつらの背格好教えてくれる?」

 

アサコさんがうなずく。

 

「は、20人ほどかと。背格好についてはこの国の標準的な成人と変わらない者がほとんどです」

「オッケー。服を適当に注文しとくわ。あと君ら何者か聞かれた時の設定を考えておこう。

そうだな・・・・・・海外から招かれた劇団で、公堂で公演する予定だから下見に来た。そんなんでどうよ?」

「良いと思います。我々の中には曲芸や演劇が出来る者もいますから」

 

ほんと何でも出来るな君ら!すげえ。

 

「なんでもできるな君ら。ありがたいよ。さて、いよいよお待ちかねの治療方針だけどね。

俺はそういうのに詳しいって言ってもやっぱ本職じゃないからね。

知り合いの信用できるプロを紹介したい。

まあ、その前に大雑把な治療方針を立てておいてもいいけど。どうだろう?」

「少々お待ちくだされ」

 

ハサンズがめっちゃ論議してる。うるせえ!たしかに四六時中脳内がこれならこりゃたまらんわ。

 

「一応の答えはでました。

主に解決していただけないのは若干不満ではありますが、

主の信用できる方であるならば・・・・・・という意見が過半数です。

私もそれで良いと思います」

 

「よし、まあ俺もざっくりとしか知らないんだけどね?

現代の多重人格についての基本的な知識はあるよ。

えーっとまず根本的な方針として、『無理に統合にこだわらなくていい、それよりも多重人格で起こる苦しみや不便な症状を緩和していこう』ってのが基本なんだわ。

俺もそれでいいと思う。まあ、それで無理があるなら最悪、魔術的な手段で切り離して独立してもらうか統合するってことになるな。ここまでいいか?」

「・・・・・・意見が割れております。質問をお許し願えますかな?」

「ああいいよ。そりゃ聞きたいことあるだろうし」

「感謝を。『統合するということは今の人格である自分が消えるのでは?』という意見が三分の一でしてな。

これが治療をかなり恐れている者達なのです。彼らに何か言葉を」

 

えっとどうだったかな。これも資料にあったよ。基本的な入門書をざっくり読んだのとあとは知り合いの多重人格者の話くらいしか経験無いんだけどな俺。

 

「なるほどそりゃ心配するのももっともだ。だけど大丈夫だ。統合しても消えるわけじゃ無い。

そもそも統合する作業ってのはあれだ。お互いの記憶を共有するって感じのものなんだ。

バラバラになったパズルを組み立てる感じだな。組み立ててもピースが無くなるわけじゃないだろ?そういうものらしいんだよ」

 

がやがやしてるけど、さっきよりは明るい感じだな。どうやら良いニュースだったようだ。

 

「主よ、ほとんどの者が賛成に回りました。しかし懸念を示す者がいます。

『そうは言っても我々はあまりに個々で体型も性別も違う。人格が消えずとも今の姿形がなくなってしまうのでは?』だそうです」

「うんまあ、そうだよね。だから統合するなら、望む性別が同じ奴ら同士でしよう。姿や背格好もおなじくらいのからな。

あとはお互いに統合してもいいっていう奴ら同士であるのも大事だ。そういう感じでまずは大雑把にグループを組んでほしい。

ぼっちになっても心配しないでいい。統合しなくないなら独立すればいいし、統合したいんならまあなんとかするよ」

「おお・・・・・・!感謝を。これでほぼすべての者が統合に賛同しました。

残りは問題児か狂人か、幼子。道理の分からぬ者だけです故、主の許可があれば抹殺しても良いという意見が大勢です」

「子供には手加減してやってくれ。後で考えよう。だけどイカレポンチ共はもうやっちまおう。俺がやってもいいよ?外出ようか」

 

俺たちはいそいで近所の河原に行って戦うことにした。アサコさんが内部に閉じ込めて押さえてるけど長くはもたないからな。

イスカンダルとウェイバーもなぜかついてきた。見物だろ知ってる。面白そうな顔しやがって!

 

「主よ、お手を煩わせます。お気をつけください、どれも曲者揃いです。我らも援護します」

「ああ、じゃあちょくちょく隙を見て遠距離攻撃して。こんなんで消耗しても仕方ないからね。とくにアサコさん。

リーダーであるあんたがいなくなったらヤバいから絶対死ぬな。オーケー?」

「主命を承諾。・・・・・・来ます!」

 

アサコさんの体からもわっと黒い霧が出て、アサコさんが急いで離れる。

俺は爆発金槌やらいろいろ装備を調えておいた。ウェイバーたちは人払いしてくれたらしい。ありがてえ。

 

「白狼のハンナ。僕が、この僕がこいつらと混ざるだって!?冗談じゃ無い!

僕は不死身の英霊だ!男でもないし女でも無い!子供も残せないってそれはつまり完成してるってことなんだよ!

僕が一つになるならそれは僕がこいつらを食い殺す時だけだ!」

 

白髪のケモノっぽい美少年。

 

「被虐のフェンミ。マスター・・・・・・ああ、いいですね。やはりマスターは最高だ。

まるでケダモノみたいで・・・・・・

あなたに殺されたらどれだけ気持ちが良いだろう。どれだけ恐ろしく素晴らしいのかな。

殺しに来てください。全力で抗いますから。そう、できるだけ乱暴にお願いします」

 

ねっちょりした目のマッチョマゾホモ野郎。

 

「野蛮のサツゥマ。チェストエルサレム!」

 

マッチョ。目が黒い。あと暑苦しい。

 

これで一番ヤバいの全員みたいだな。

変態で蛮族しかいねえ!どうなってんの。全員勃起してるぅ・・・・・・うわぁ。

まあ殺すしか無い奴らだしな、仕方ないか・・・・・・

おっとサツマ野郎が剣振り上げていきなり来てる。俺もさっさと名乗っておくか。

 

「マトウの狩りを知るがいい」

 

うんすげえ大変だったよ。

サツマはすれ違いざまに内蔵攻撃ととどめを刺せたけど。

白狼はものすごく素早くって避けまくるし。最終的にはカウンターを決めたけど。

フェンミがもう大変だった。どれだけ痛めつけても致命傷は避けるし、うっとりしながらえげつない攻撃してくるし。

なにより変態トークがもう面白いやら疲れるやら。一部抜粋しとくね?

 

「待っていました・・・・・・あなたのような変態を」

「人をアルティメットサディスティッククリーチャーみたいに言うのやめてくれる!?

そんなんじゃないから!ちょっと血に酔ってるだけだから!」

 

「・・・・・・!?なんで!?なんで勃起してないんですかあああ!?

ひょっとして、屈辱を!?お前程度のマゾ犬では欲情しないという余裕のマウンティングを!?

神はここにいた・・・・・・!」

「いやほんと、俺はホモじゃないからね?仮にそうだとしてもガチムチは無いんじゃねえかな・・・・・・」

 

「人は死に全力で抗うときにもっとも輝くんです。

そして死を受け入れた時の表情こそもっとも美しいんです。

マスター・・・・・・僕を輝かせてください。きらめきたいんです!あなたにときめいているから!」

「あー、もうしょうがねえな。とことんつきあってやる。来いよ、輝こうぜ」

 

大変だったよ・・・・・・攻撃するたびにあひんあひん言うんだものあいつ。

最終的に金玉に内臓攻撃して握りつぶしてからの垂直落下式デスバレーボムで頭かち割って蹴りをつけた。

ウェイバーはどん引きだった。あとアサコさんあんたもなんでちょっと引いてるんだよ!元々あんたの一部だろうが!

 

「お、お疲れ様です主よ。お見事でした」

「おう、すげえ疲れたわ。あと何人くらい?」

「統合に反対していた者、統合できそうにないものは何人かいましたが、今の主の戦いぶりで全員が統合に賛同しました。さすがは主、素晴らしいですな」

「素直に喜べないよ!シャワー浴びよう。一度帰ろうか」

「ははっ」

 

遠くから歓声が聞こえた。

 

「ははっ、スゲエ!超COOLじゃん!あんた握手してくれ!もっとそういうの見せてくれよ!」

「おーいウェイバーなんかヘンなの来てるけどどうなってんの?」

 

ウェイバーを見ると目線で気をつけろ、と言ってる。

 

「一般人や魔術回路持たない人は来れないようにしてたはずだ。だから、そいつは・・・・・・カリヤ、気をつけてくれ」

「あー・・・・・・そういうことか。分かった」

 

つまりこいつは魔術師か魔術回路もってる一般人?ってことか。

一般人にしろこいつなんかヤバそうだしな・・・・・・まあ、十中八九殺人鬼マスターなんだろうけど。

 

「あー、どうも。これはあれです。特撮の撮影なんですよ。迫力あるでしょ?」

 

俺は適当に演技しながら殺人鬼・・・・・・雨生?だったか。に近づく。

うりゅー君も俺と熱い握手をする。おっ、令呪発見。やっぱこいつか。

 

「マジで!?映像化したら絶対買うよ!あれ?あんたなんかどこかで見たことあるような・・・・・・?

あっ。あんた間桐雁夜さんだろ!?ほら「ロアナプラの女神」って写真集!俺もってるよ!スゲエ!俺あんたのファンなんだ!」

 

あー・・・・・・そういえばそんなん出版したわ。バラライカの姉御が若いうちにこういうのとっときたいとか言って。

姉御の部下の元軍人現マフィアの皆さんに銃つきつけられながら撮ったんだよ。

ついでだからっつーんで、中国人のナイフ使いのねーさんや解体屋のゴスロリちゃんとかも混ざって撮ったんだった。

いやああれも濃い奴らばっかりだったな・・・・・・

 

「あー、あれか。買ってくれたの?ありがとう。つうか俺の名前とかよく覚えてたね。

ただのエログロ写真家なのに」

「エログロ?謙遜しないでくれよ!全巻もってるんだ!あれは芸術だって!

「小兎女将のもののけ草紙」とか「ゾンビ屋通信」とか「吸血姫」とか!

エロが無い奴もすごかったよ!

うわあヤバイなあ。あの、その、もしよかったら仕事終わってからでいいんで俺のアトリエでお茶しませんか!?」

 

マジでこいつ全巻もってやがる・・・・・・うわー、考えてはいたけど俺の購買層ってこんなんなんだ・・・・・・

実際会ってみたくなかったよ・・・・・・えらい監督とかがファンにキレる気持ちわかるわぁ。

霊でもなんでも写る射影機ってポラロイドカメラ手に入れたからつい調子乗っていろんな知り合いの写真とっちゃったんだよね。

あとで出版するとき許可はとったけどさ・・・・・・アーカードの旦那が一番ノリノリだったのはどういうことよ。

 

「お、おう。応援ありがとう。そうだな・・・・・・いいよ、今すぐでも。一区切りついてるしね。

いいよな皆?全員でおしかけちゃうけど大丈夫かい?」

「ぜんぜん大丈夫っすよ!ちょっと変わった所にあるけどすぐ近くなんで!」

 

俺はハサンやイスカンダル、ウェイバーに目配せする。

殺っちゃう?殺っちゃおうぜ!OK了解。

 

 

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