後、今エピソードは完全創作なのでキャラ崩壊がいつも以上であると予想されます。
もし『このキャラこんなんじゃないやい!』 ってなっちゃった方いらっしゃいましたらすみません。
空を、見ていた。
特別空が好きだったのかと言われると、首をかしげざるを得ないが、それでもいつも空を見ていた。
薄汚れた壁、怒声、殴打音、痛み、痛み、痛みーー。
そんなものばかりで構成されていた少女の世界の中で、唯一空だけはいつ見ても青かった。
薄汚れた世界を、ほんの少しだけ忘れさせてくれた。
でも今は、その空さえ、薄汚れたものが覆い尽くしていた。
「な、な、なんだよ、てめえそれが親に向ける目かッツってんだよ〜〜!!」
ほおがズキズキ痛む。
目の前に立つ血走った目の男が殴りつけたからだ。
狭い路地で転がりながら、少女は呻く。
男は地面に転がった少女に跨ると、その顔をまた殴りつけた。
「てめえは昔っから、生まれた時からそうだ! 生まれた時からよ、俺のことを化け物でも見るよーな目で見てんじゃねーー!!」
ずっと前に、かあさんに言われた。
「あんたさえ生まれなければ」って。
だから、邪魔にならないようにしようと思ったのだ
ただ、邪魔にならないようにしようと思っただけなのにーー。
なんで、この男はーー義父は自分を殴るのだろう。
なんで、同級生たちはひどいことをしてくるのだろう。
そんなに特別なことなんて望んでない。
ただ、普通に生きて生きたかっただけなのにーー。
義父の手が少女の首に伸びた。
何かを喚き散らしているようだが、もはやそれだってどうでもよかった。
もういい。もういいのだ。
何も悪いことをしていないのに、こんな目に合わなくてはいけないのなら、辛くて痛い目にあうばかりならーー。
もう、こんな命なんてーー。
「その辺にしとけよおっさん」
義父の背後から声が聞こえた。
慌てて振り返る義父の顔面に、拳が深々と突き刺さる。
いともたやすく吹き飛ばされていった脅威を、少女は呆然と見送った。
「大丈夫かい?」
「あの、あなたは……?」
「俺か? 俺はヒーロー……って言いたいとこなんだが」
そう言って照れ臭そうに鼻の下を擦っているのは、顔を隠すようにパーカーを深くかぶった青年だった。
青年はいささか乱暴で、それでいてどこか優しさに満ち溢れている声でこう言った。
「俺はな、ヒーローのなりそこないだよ」
そう言って悲しそうに微笑む彼の顔は、今でもなお色濃く記憶に残っている。
いや、忘れるわけがないのだ。
間違いなく、少女のーー汐華春乃のオリジンなのだから。
※ ※ ※ ※
「ーーよし、ホームルームは終わりだ」
「きりぃつ! 気をつけ、れい!」
「ありがとうございました!!」
日直の芦戸三奈が溌剌とした声で号令をかける。
クラスメイトもその声に引っ張られるように、頭を下げて大きな声で挨拶をする。
実に爽やかな青春の一ページだ。
「おおっとぉ!? 偶然胸ポケットから落ちたボールペンが八百万のスカートの下に! これは事故! 不幸な事故だぜぇ!!」
完璧な初動、完璧な作戦。
クラスの誰もがまだ峰田の方を見ることすらできていない。
見終わった後どうなるかについては全く考えていない峰田だったが、後は野となれ山となれの精神でパラダイスへと突撃する。
ーーが、突然伸びてきた腕が峰田の足を掴んだ。
「なっ!? バカな!? 誰だ!」
慌てた峰田が足元を見れば、クレイジーダイヤモンドの右手がガッチリと峰田を捉えていた。
それをやった当人である忠助は呆れたようにため息をつく。
「誰だ! じゃあねえぜ〜〜、懲りねえ野郎だな、おめーもよ」
「ひ、東方ァー!! なにをするだァー!! 許さん!」
「そーかよ、ま、許されねーのはどっちだろーなァ〜〜?」
「はっ!?」
気づけば峰田を取り囲むようにA組の女子たちが集まってきている。
皆一様に目を尖らせてーー。
「ま、待ってくれ! 違うんだ、これは違うんだよぉ!」
「言いたいことはそれだけか?」
八百万と仲のいい耳郎がゴミを見るような目で峰田へと向ける。
ガタガタと震える峰田へ、ゆっくりゆっくりと耳郎の『イヤホンジャック』が迫りーー。
「ノォーーーーーーーー!?」
愚か者の悲鳴が教室中に響いた。
ちなみに相澤先生はとっくの昔に職員室に向かったので制裁を止める人間もいない。
まあ耳郎もやりすぎる性格ではないし、もしもの時は麗日か蛙吹あたりが止めるだろう。
忠助は愚か者に見切りをつけると、危うく被害者になるところだった八百万へと声をかけた。
「ま、災難だったけど未遂で済んだしよ〜、できればこれで許してやってーー八百万?」
どう見ても、八百万は忠助が声をかけていることにも気づいていなかった。
その視線はあらぬ方へ向けられている。
忠助はつられるように視線を追った。
放課後の教室、峰田に制裁を加える女子たち、それを呆れ半分、親しみ半分で眺める男子たち、そしてそんな喧騒には一切加わらず、誰にも気づかれないように去っていくーー
「……おい、八百万よ〜?」
「ーーえ? あ、ごめんなさい、ぼうっとしていて、どうかしまして、東方さん」
「いや、どうってわけじゃあねーんだが、汐華となんかあったのかよ〜?」
「……お恥ずかしい、バレてしまいました?」
「グーゼンだよグーゼン」
「いえ……じっと見ていた自覚はありますもの」
どこか憂いを帯びたその顔に、忠助は人懐こい笑みを浮かべる。
「別におれは特別役に立つ人間ってわけじゃねーけど、一人で考え込んじまうよりはよ〜、話してみりゃー楽になることだってあるだろーぜ」
「東方さん……そう、ですわね。場所を変えても?」
「おう」
※ ※ ※ ※
教室から離れた、あまり人が来ない踊り場で忠助は階段に座り込んだ八百万の横に立っていた。
何も知らない人が見れば十中八九カツアゲだと勘違いされそうな絵面だ。
その実、優等生が不良に相談しているのだがーー。
八百万はちらりと忠助を見て、ふいっと目を逸らす。
打ち解けたと思っていたが、まだ怖がられているのだろうか。
苦笑まじりに待っていると、八百万が恐る恐るといった風に切り出した。
「東方さんは、汐華さんと仲がよろしいのですよね?」
「おれが? 汐華とか〜?」
「だ、だってクラスのみんなと話そうとしない汐華さんが東方さんとだけは話すんですのよ?」
確かに汐華はあまり積極的にクラスメイトと絡んでいる様子がない。
芦戸や麗日がたまに声をかけているが、会話も必要最低で済ませている気がする。
かと言って敵意を持っているわけでもなく、強いて言えば周りに興味がなさそうなのだ。
「き、昨日だってお昼を一緒に!」
「……ま、たまにだけどな」
はっきり言って、仗助も別に汐華と仲がいいわけでもない。
確かに他のクラスメートと比べれば話をする機会も多いだろうが、それだけだ
昼食だって、出久や飯田たちと都合が合わなかった時や気が向いた時に、近くにいれば声をかける程度だ。
「で、でも朝だって一緒に登校してくるではありませんか!」
「家が近所らしーんだよ、行ったことねーけどな」
クラスメイトなのだから、朝に合えば世間話くらいするし、行き先が同じなのだからそのまま一緒に行くのだっておかしいことではない。
が、八百万はその答えに不満げに口を尖らせた。
「そ、そんなのずるいですわ」
「ず、ずるい〜!? 話が見えねーぜ八百万、おめーいったい何が言いてーんだよ?」
「……です」
「あ? なんつった?」
「……と……ぃです」
「あーもう! もっとでかい声で言えってんだよ〜」
「だ、だから!」
八百万は顔を真っ赤にして立ち上がると、忠助に向かってぶつけるように叫んだ。
「汐華さんと、お友達になりたいのです!!」
忠助は滅多に聞かない八百万の大声に、そしてその内容に目をパチクリさせた。
八百万は、堰が切れたように一気に饒舌になるとペラペラと喋り出す。
「汐華さんと仲良くなりたいのです! でも話しかけることができないんです!」
「な、なんでだよ、おめー別に人と話すのが苦手ってタイプにゃ見えねーぜ?」
「私だって、そう、思ってましたわ……」
八百万は寂しげに顔を歪ませると、俯いてぎゅっと拳を握った。
「でも、なんでかわからないけど汐華さんにはうまく話しかけられないんです。まるで、目に見えない壁があるみたいで、こっちにくるなって言われてるみたいで……」
「あのよ〜、聞いていいかわからねーけど、なんでそんなに汐華にこだわんのよ〜? 前から知ってるってわけでもねーんだろ〜?」
「……東方さん、対人訓練の時に見た。汐華さんの個性、正体はわかりまして?」
「全部じゃねーけどよ〜、そりゃ直接戦ったぶん予想はつくぜ〜」
木を生やす。壁の一部を木にする。どこからともなく猫を呼ぶ。殴った相手を動けなくする。
最後の一つに関しては未だに正体を掴み切れてないが、それ以外の全てを見るに汐華の個性はだいたい予想がつく
それはーー。
「無機物を材料に、生き物を生み出すってところだろーぜ」
「ええ、おそらくそれであっているはずです……そしてそれは『私』という生き物から、『生き物以外』を生み出す、私の個性と対極であり、同時に同系統の個性でもある」
いつもは理知的は光を絶やさない八百万の瞳に、らんらんと好奇心の光が灯る。
「私、両親以外で初めてあったんですの! 同じタイプの個性を持っている方、だから、お話しして見たかったのですが……」
「うまく話せなくて困ってるってことかよ〜」
「返す言葉もないですわ……」
頬を染めて外方を向く八百万に、忠助はふっと微笑んだ。
本人は真剣な様子だが、問題は単純だ。
「ま、どっちにしろ解決方法は一つだろーが」
「え?」
「話したいならよ〜、話せばいーんだよ〜」
「そ、そんな適当な!」
「いいから一回やってみろって、どうしてもっていうなら、おれも一緒いてやっからよ〜」
「ほ、本当ですか!?」
「おうよ! この東方忠助、嘘はつかねーって評判の男だぜ〜!」
「聞いたことありませんわ……」
八百万は呆れたように嘆息しながら、それでも最後には微笑んだ。
それでいい。
今から人と友達になろうとしていう人間が、顔を曇らせていてはどうにもならない。
「んじゃ、そろそろ帰ろーぜ、駅まで送ってくからよ〜」
「ーーおい、もう下校時刻過ぎてるぞ」
「おわぁーっ!?」
いきなり背後から聞こえてきた声に、忠助は転びそうになりながら振り返った。
そこにいるのは、いつも通り不健康そうな顔をした我らが担任。
「あ、相澤センセー! 脅かさねーでほしーっスよ!」
「お前まで残ってるとは珍しいな八百万」
「む、無視もやめてほしーっス」
八百万は、相澤の言葉に思い出したように立ち上がった。
下校時刻のことなど、すっかり忘れていたようだ。
「す、すみません。今すぐ帰ります」
「ん、そうしてくれ、ただでさえ最近おかしいのも出てるしな」
「おかしーの?」
口を滑らせた。
相澤の表情はそう語っていたが、気を取り直したようにすぐに口を開いた。
「……最近な夜の街で暴れてる物騒なのがいるらしくてな」
「ヴィ、ヴィランってことですの?」
「だったらお前たちには話さない……出てんのはな、ある意味その逆なんだよ」
「ヴィランの、逆?」
「正確に言えば逆とも言い切れない、やってることは結局のところヴィランと同じだからな」
「センセーよ〜、回りくどい言い方やめてくださいよ〜、いったいどーいうことなんスかァ〜?」
相澤は、面倒臭そうに瞑目したまま言った。
「自警団気取りのヴィジランテだよ」
今回はオリジナルと言うか、日常回(ちょいシリアス)です。
全3話くらいで、時系列的には委員長決めた後くらいを想像してます。
つまりこれが終わったらUSJです。
あ、こんだけ書いといて毎回同じこと言って申し訳ないですが、パソコン不得手なもので誤字脱字等多いかもしれません。
見つかりましたら、どうか報告お願いします。