東方忠助の奇妙なヒーローアカデミア   作:寅猛

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※原作キャラ強化注意


USJに行こう! その⑤

 幸いーーと言っていいかは微妙だがーー常闇の骨折は腕だけだった。

 クレイジーダイヤモンドでの治療も済ませ、今三人でセントラル広場、みんながいるはずの場所へと向かっている。

 

「みんな、無事かな⁉︎」

「行ってみなくてはわからないが、そんなに柔な奴はいないはずだ!」

「あったりめーだぜ、全員無事に決まってんだろーがよ〜〜!」

 

 それに、もしそうでなかった時のためにこうして自分は来ているのだ。

 誰がどんな怪我をしていようと、死んでいない限りは必ず治す。

 実質忠助が広場にたどり着いた時点で、このゲームは雄英サイドの勝利になるに決まっている。

 

 その、はずだ。

 なのに、なのになぜだろう。

 全てがいい方へと進んでいるはずなのに、嫌な予感が一切消えてくれないのはーー。

 忠助は、その予感を振り払おうがごとく、一心不乱に走った。

 

※   ※   ※

 

 緑谷出久はひどく焦っていた。

 水難ゾーンから命からがら帰って来たーー特訓の成果もあり、今のところどこも折れてないーーと思えば、イレイザーヘッドと13号は瀕死、助けに来てく

れたオールマイトもーー。

 

 出久の眼前で、強烈な攻撃を受けたオールマイトが後ずさった。

 

「ほら、どうしたよ平和の象徴、もうギブアップか?」

「なぁに、まだまだ楽勝すぎて困っちゃうくらいさ!」

「そうは、見えないけどなぁ……」

 

 敵の首魁らしき、手の男は劣勢のオールマイトを見てひどく可笑しそうに嗤う。

 事実、オールマイトは押されていた。

 あの、誰もが名を知るナンバーワンヒーロー、出久の憧れが、明らかに劣勢に立たされていた。

 矢も盾もたまらず、出久は叫ぶ。

 

「オールマイト!」

「なにそんな声出してるんだ緑谷少年! 見ておきなさい! ここから華麗に勝利を飾ってみせるさ!」

 

 オールマイトは、眼前に迫る二人の黒い巨人を前にそう嘯いた。

 

「ったく、どこまで去勢はりゃ気がすむんだよ平和の象徴、こいつらはドクターに無理言って、用意した特別性、それも二体だ、お前の攻撃もまともに効きはしない」

「おしゃべりが好きなら、刑務所には面会に行ってあげよう! そこでしこたま聞こうじゃないか!」

「往生際の悪いやつだ……脳無、さっさとやっちまえ」

 

 黒い巨人たちは、無言のまま恐ろしいほどの連携でオールマイトを攻め立てる。

 片方が寮の拳によるラッシュを放ち、オールマイトが防いでいる間に、もう片方が横から蹴飛ばす。

 距離をとらせずに一気に接近、オールマイトが離れようとすれば、その先にはすでに二体目の脳無がいる。

 

 ギリギリで致命となる一撃を避けてはいるが、反撃の糸口がない。

 いくらオールマイトといえど、このままではーー。

 出久は、もはや限界だった。

 爆豪も、切島も、轟も同じだった。一度は下がれと言われ待っているが、このままでいいはずがない。

 

「俺ァ行くぞ」

「か、かっちゃん!」

「オールマイトが負けるとは思えわねえ、けど手が足りてねえのは見りゃわかる」

「……そうだな、隙を作るくらいなら俺たちでもできるはずだ」

「ここまでくりゃ、男として見てるだけってわけにはいかねえな!」

「轟くん! 切島くん!」

「お前はどうすんだ緑谷! 行くなら四人で行った方がまだ可能性があるぜ?」

「来なくていいわカス! この期に及んでうだうだ迷ってる雑魚は邪魔でしかねえ!」

「――っ!」

 

 爆豪の言葉が胸に突き刺さる。

 そうだ、自分が目指しているヒーローは、困っている誰かを必ず救ける。

 だったら、今困っているオールマイトを見捨てるなんてーー。

 出久が決意とともに口を開こうとーーふと、何かが見えた。

 それはこそこそと誰にも気づかれないようにセントラル広場の入り口へと向かう三人。

 あまりにも見覚えのあるリーゼントヘア。

 出久は、ヴィランたちに気づかれないようにそれを伝える。

 

「三人とも! あれ!」

「あれはーー」

「おお! ひがしかーー」

「喋んなクソバカ!」

 

 切島の頭を叩いた爆豪が、不機嫌そうな顔でリーゼントヘアの一瞥した後、吐き捨てるように言った。

 

「方針変更だ」

「うん、目くらましだね!」

「勝手に言うなクソナードォ!!」

 

※   ※   ※

 

 死柄木弔は興奮していた。

 あの、あのオールマイトを後一歩のところまで追い詰めている。

 間違いなく、その命を終わりに向かわせている。

 死柄木に信念はない。

 ただ衝動のままに、壊したいという気持ちのままに生きている。

 

 だから、こんなのはゲームにすぎない。

 RPGと同じだ、違うのは敵を倒して経験値を稼いでなんてまどろっこしいことはしない。

 金と武器は与えられている。

 最初から最強の装備を揃えることができた。

 そして、とある筋から入ったオールマイト弱体化の情報。

 

 これだけ情報が揃えば、もはや後は簡単だ。

 現に、二体の脳無の前にオールマイトは手も足も出ていない。

 ついに、ついに、この国から平和の象徴がいなくなるのだ。

 どす黒い底なし沼のような、歪な興奮が死柄木の体を満たしーー。

 

「くったばれええええええ!!」

 

 爆音が鼓膜を震わせた。

 これはそう、さっきオールマイトに助けられていた生徒のうちの一人の個性だったはずだ。

 強烈な光と爆音、それに煙があたりの風景を奪う。

 脳無とオールマイトの戦いが見えなくなった。

 

「……目くらましで援護のつもりか? 今更こんなことで優劣がひっくり返るとでもーー」

「返るんだよ、しっかりとな」

 

 ありえない声が聞こえた。

 その声は、つい先ほど脳無によって完膚なきまでに叩きのめされ、顔まで潰されたはずのーー。

 死柄木はとっさに声が聞こえた方へと手を伸ばした。

 しかし、煙の中から現れた相手は死柄木の手をあっさりと躱すと、強烈な蹴りを腹部にはなってきた。

 

「グゥッ! イレイザーヘッド!」

「ったく、お前のおかげで生徒の前で赤っ恥だ、借りは返させてもらう!」

「クッソが! 黒霧ぃ!」

「お前の相手は後でしてやる!」

 

 とっさに助けを求めた死柄木をもう一発蹴り飛ばしたイレイザーヘッドは、遠くにうっすら見える脳無の首へと、捕縛布を放つ。

 

「相澤くん⁉︎ 大丈夫なのか!」

「ええ、東方のおかげでなんとか」

 

 イレイザーヘッドがあごで示す方へ視線をやれば、特徴的な髪型の少年がこちらに向かってサムズアップしていた。

 オールマイトは、ニッと笑って同じポーズを返しておく。

 イレイザーヘッドが、オールマイトに並ぶようにして構えた。

 

「手伝います」

「いや、こっちは大丈夫だ、あの二人を見張っておいてくれ」

「しかしーー」

 

 失いかけの意識の中で、かすかに見えていた劣勢。

 あの二人を同時に相手するのは、いくらオールマイトでもーー。

 

「いや、コンビネーションに翻弄されてしまってね、溜めの時間が作れなかっただけさ」

「――使う気ですか、あれを」

「ああ、最近ご無沙汰だったから久々だけどね」

「わかりました。それならこっちは任せます」

「ありがとう! そっちも気をつけてくれ!」

 

 爆発によって起きた煙もいい加減収まりつつあった。

 脳無たちが自分を見つけるのも、時間の問題か。

 だが十分だ、十分な時間を与えてもらった。

 生徒たちが、危険を顧みず作ってくれた隙を、決して無駄にはしない。

 

 オールマイトは掲げていた拳を下ろすと、姿勢を正す。。

 感じるべきは、生命。

 謳うべきは、人間賛歌。

 為すべきは、呼吸。

 

「コォォォォォォォォォォォォ」

 

 長い長い、呼吸が始まった。

 命を呼び起こす呼吸。

 日輪のごときエネルギーを、その身に与える呼吸。

 煙が完全に晴れた時、オールマイトの呼吸を見た切島が思わず叫んだ。

 

「マイティブレスだ!」

「あれが、マイティブレス……」

 

 轟がその様子を見て固唾を吞む。

 オールマイトの最後の切り札。

 個性と並んで、オールマイトが詳細を隠し続けている、秘技中の秘技。

 周囲の人間が理解しているのは、特殊な呼吸法で肉体を活性化させているということくらいだ。

 だが、彼を知るものは知っている。

 この呼吸が出たということは、たった今をもって、オールマイトの勝利は確定した。

 

 その場の全員が希望に顔を輝かせる中、緑谷出久ただ一人が、泣きそうな顔でそれを見ていた。

 

「ダメだ、オールマイト、ダメだよ……」

「出久……」

 

 その呟きを聞き取れたのは、出久の側まで来ていた忠助ただ一人だった。

 

 メシリ、と胸から響く音をオールマイトは聞いた。

 その音は次第に大きくなり、比例するようにオールマイトの体に激痛が走る。

 血が喉へとせり上がってくるーーが、それを強引に飲み下して呼吸を続ける。

 新たに得たエネルギーが、傷ついた体を強引に癒した。

 湧くはずのない活力を与え、普段ならば不可能である出力を可能とする。

 

「待たせたね……」

 

 その言葉とともに、二体の脳無へとオールマイトが向きなおる。

 その体は、幻視させるほどのエネルギーに満ちている。

 ただでさえ逞しい筋肉は、普段の倍ほどにも膨れ上がっている。

 

「長くは保たない、一撃で決めよう」

 

 言うが早いか、オールマイトが踏み込んだ。

 それだけで地面は割れ、周囲に突風が巻き起こる。

 突如目の前にオールマイトが現れた脳無は、それでも素早く反応し拳を突き出した。

 

「震えるぞハート……!」

 

 オールマイトはその拳を軽々と受け止める。

 二体目の脳無がそのすきに側面から蹴りを放つ。

 しかし、それすらもオールマイトは空いている片手で受け止めた。

 

「燃え尽きるほどヒート……!」

 

 掴んだ手にあり得ないほどの握力がこもる。

 普通の人間ならば、そのまま人体をちぎってしまうことすら可能なパワーが、二体の脳無を襲う。

 

「刻むぞ、血液のビート!」

 

 そしてオールマイトは片手ずつに持っている脳無を、まるで棒切れでも投げるかのように空へと投げ飛ばした。

 ドームの天井近くまで飛ばされた脳無は、物理法則に従い一直線に落ちて来る。

 オールマイトの硬く握られた両の拳が、爆発的な速度で放たれた。

 

 

SUNLIGHTYELLOW VIRGINIA SMAAAAAASH!!

 

 

 二撃同時の拳が、脳無の顔面にそれぞれ突き刺さる。

 瞬間、着弾点から響き渡る衝撃で、見ていた切島が尻餅をついた。

 それほどまでの衝撃を身に受けた脳無たちは、凄まじいスピードでドームの屋根を突き破り、遥か彼方へと消えていった。

 

 

 

 

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