東方忠助の奇妙なヒーローアカデミア   作:寅猛

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雄英入試 その②

 割り振られた時間内に、試験用のロボットを倒してポイントを稼ぐ。

 言ってしまえば雄英の入試はそれだけだ。当然言葉で言う程それはた易くない。

 ロボを瞬時に見つける索敵力、すぐさま駆けつける機動力、追い詰められてもなお焦らない判断力、そして純粋な戦闘力、総合的な力を求められ、その上他者と競わねばならないこの試験は十分に難関だ。

 

「ま、何とかなるとは思うがよ~」

 

 試験用に作られた疑似市街地のビルを見上げながら、忠助は一人ごちた。

 

「君、随分と余裕だね、僕ほどではないけど」

「あん?なんだぁおめーは」

「青山優雅、ここにいる誰よりも輝いてる男さ☆」

 

 声をかけてきたのは、首の近くにふわふわとした生地をつけたジャージを着た男、腰には仰々しいベルトを巻いている。

 

「青山優雅、ね。で、その輝いてる男が、俺に何の用だ?」

「そうつんけんしないでくれよ、ただの気まぐれさ……それにしても、君も運がいいね」

「運がいい?」

「この人数で戦いになるわけだからね、一人分人数が減るのは小さくない出来事さ!」

「一人、へるだぁ~?早退者でも出たってのか~?」

「ノンノン、あれだよ」

 

 そう言って青山が指をさすのは、胸に手置いて呼吸を必死に整えている緑谷出久だった。

 他の学生たちが話していたことをまとめるに、どうやら出久はさっきの説明の際に他の生徒に態度が悪いと指摘され小さくなっていたらしい。

 その様子を見て侮られているのだろう、彼を見る周囲の目は明らかに出久と同じ会場であることへの安堵が感じられた。

 

「彼もここに来たってことは頑張るつもりなんだろうけど、あの様子じゃどう考えてもムリ☆」

「……そいつぁどうだろうな」

「どういう意味だい☆」

「ま、どう思おうがお前の勝手だがよ~油断してっと、足元すくわれるぜ~?」

 

『ハイ!スタ――』

 

 直後、何の前触れもなく付近の放送器具からプレゼントマイクの声で試験の開始が告げられた。

 ――その音声が収まり切るよりも早く、忠助は動きだす。

 

「うおい!なんだあいつフライングじゃねえか!」

 

 見ていた生徒の一人が放送器具に向かって抗議の声をあげる。

 

『いいや!あれで正解!実際の現場に開始の合図なんてないんだぜー!お利口に待ってる必要なんてないのさー!』

「――くそっ!」

 

 先を越された受験者たちは次々と動き出す。当然だがロボットは無限にわき続けるわけではない。リソースが限られているのだ、動き始める速さは何よりも重要。

 

「あの奇抜な頭の彼はそこまで理解して動いたと言うわけか、負けていられん!」

 

 図らずも後続集団となってしまった人ごみの中にいた眼鏡をかけた体格のいい男子生徒が鼻息を荒くした。

 足に着いたエンジンのような機関も、本人のやる気に連動しているのか温まってきている。

 

 忠助のスタートダッシュに、続くようにして走りだした後続だったが、そのさらに最後尾付近を走っていた緑谷出久は、視線を動かしてロボットを探しながら、いの一番に走りだした学ラン姿の生徒の後ろ姿を思い出していた。

 

(あれって、もしかして――)

 

※   ※   ※   ※   ※

 少年は焦っていた。少年の名前は波立衝(なみたてしょう)

 個性は『衝撃波』右手からしか出せないと言う弱点はあるものの、人間程度なら簡単に吹き飛ばすことができるその個性は、少年の自慢だった。

 幼いころからあこがれ続けた雄英入学も、決して夢ではないとそう思っていた。しかし蓋を開けてみればどうだ。

 

 倒そうとしたロボは横から来た生徒に奪われ――。

 慌てて次のターゲットを探せば、視界に入った瞬間には別の誰かが倒している。

 完全に少年は後手に回っていた。苦し紛れにロボを相手にしている他の生徒に妨害の衝撃波を放てば、それさえもた易くかわされる。

 

 これが、雄英を目指す者のレベル。

 自分とここにいる他の生徒との絶望的な差が次々と明らかになっていく。

 自分のいた中学校では、自分はいつだって上から数えた方が早い成績だった。他の誰かに大きく劣っているなんて考えたこともなかった。

 もともと大した挫折も味わってこなかった衝の心は、生まれて初めて味わう本格的な劣等感に折れかかっていた。

 

 それでも少年の足が止まらなかったのは、一重に言えば憧れのおかげだ。

 テレビや新聞、小説やドラマ、今日び様々な場所で見かけるようになったヒーローへの、憧れ、自分がそこまでたどり着ける位置にまで漕ぎつけているのだという複雑な感情が、周然となって少年を支えていたのだ。

 

 諦めるわけにはいかない、なんとしても諦めるわけには――!

 力を振り絞り、足を動かした衝は、何かに躓いて派手に転んだ。

 

「く、くそっ!なにが――」

 

 大きくすりむいた肘や膝を気にする暇もなく、衝は苛立ち混じりに自分を転ばせた何かを見て――固まった。

 そこにあったのは試験用のロボ、だったもの。

 粉々に砕けたものがほとんどだが、いくつかは奇妙なことに地面や壁と一体化しているように見える。

 そしてそれを成したであろう人物は、廃材と化したそれらのすぐ傍に立っているリーゼントの男。

 

「えーと、これで何ポイントだぁ?四十くらいはいったと思うんだが……合格ラインなんてよくわっかんねぇしなぁ~」

 

 どこからか取り出した櫛で髪を整えながら、リーゼントの男はぶつぶつとぼやいている。しかしすぐに「まぁどうでもいいか」と一人で完結すると、次の相手を探そうと歩き出そうとして、転んだまま呆然としていた衝と目があった。

 男は衝の手足の傷に気づくと、無言で近寄ってくる。その不良然とした姿に、衝は思わず委縮した。

 

「な、なんですか!?直接的な妨害行為は禁止ですよ!」

「そんな意味のねえことするかよ、ほら、怪我してんだろ?見せてみな」

「な、何を――」

 

 男は衝の傷口を押さえている手を無理やりどけた。自分でも気付かなかったが、想像以上に酷く転んでいたようで肘もひざもボロボロになっている。しかも傷口には小石やアスファルトの破片が入り込んでいて、後で治療する時に酷くしみるだろうなと、衝はつい場違いなことを考えた。

 

「クレイジーダイヤモンド」

 

 突然謎の言葉を呟いた男を見れば、その腕から男のものではない別の腕が伸びてきて衝の体に触れたように見えた。

 確信をもって言えてないのは、その腕があまりに早すぎて目視できなかったからだ。それが何だったのかは理解できなかった衝だが、それがもたらした結果は一目瞭然だった。

 

「傷が……治ってる!?」

「もう大丈夫そうだな、じゃあな」

 

 今の今まで体を痛々しく彩っていた傷の数々が、綺麗さっぱりなくなっている。感じていた痛みまでなくなっているおかげで、自分が怪我をしていたのは気のせいだったのかと疑いたくなるほどだ。

 困惑している衝を尻目に、リーゼントの男はさっさと歩いていこうとする。

 

「ま、待って!!」

 

衝は思わずその男を呼びとめた。男は不思議そうに衝のほうを振りかえる。衝は男に向かって、短く問うた。

 

「な、なんで……なんで僕を救けた?僕が動けなくなってた方が、君とっても有利なのに、何で――」

 

 男はその問いを聞いて、後頭部をがりがりと掻きながら大きくため息をついた。

 それは言外に、『そんなことをわざわざ聞くなよ』とでも言いたげな行いだった。

 

「怪我してるやつが目の前にいて、治す力を持ってる。迷ってる時間なんかいらねえ、ただそれだけだ」

 

 その答えを聞いて、おかしな話その話を聞いたせいでといってもいいかもしれない。衝は自分の心がぽっきりと折れる音を聞いた。

 リーゼントの男は、この状況下ですら他人を優先させることができる。もちろんそれを可能にしているのは彼の実力だろう、これだけの短時間でロボの山を作れる彼の能力だろう。

 

――だが、それだけではないのだ。

 たとえばこの男にそんな力などなくても、この男は自分を救けただろう。それは男の目を見ている衝だからこそ分かった、直観のようなものだった。

 自分の利益を投げ捨ててでも人のために動ける、そんな黄金のような精神を目の前の男から感じてしまったのだ。

 

 自分にはない、この状況下で、自分以外のことを考える余裕など、ない。

 その場に蹲ってしまった衝に、リーゼントの男は焦った様子で駆け寄ってきた。

 

「おい!大丈夫かよ、怪我は治したはずだぜ」

「いや、いいんだ。少し、少し疲れちゃっただけだから……ありがとう。もう大丈夫だから」

「…………そうかよ」

 

 暗く淀んだ衝の瞳を見て、男は何かを悟ったらしかった。男はすぐさま衝から背を向ける。冷たく見える対応だが、下手に何かを言われるよりもずっと楽だった。

 お互いにもう言葉はなかった。衝は遠ざかっていく背中を見ながら、自分の夢の終わりを感じていた。

 




唐突に入るモブ視点……あ、彼の登場予定はもうありません、多分。
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