ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~ 作:クロス・アラベル
今回はユージオ君にバチバチ戦ってもらいます。
セリフ少なめなのは許して下さい。戦闘シーンの描写しようとしたら、説明みたいになっちゃうので…
では、本編へどうぞ〜
○
目の前に現れたのは、ウンディーネの男だった。
簡素な服にライトアーマー、
水色の髪。
しかし、サラマンダー達にはそれが何も知らない
「なんだ、お前。まさか俺達の獲物横取りしようってんじゃねぇだろうな…?」
「…待て、コイツ
なんだ、ウンディーネ。迷い子か?ウンディーネ領はスプリガン領の向こうだ。何もせず逃げれば今は見逃してやる」
サラマンダー達には余裕があった。初期装備の雑魚なプレイヤーなど、負けることなど無い。彼らもそれなりの古株で、メインスキルの熟練度はカンストに近い。装備も上等なものなので、武器も防具もスキルも_____プレイヤースキルもある。
しかしながら彼らも鬼ではない。
ビギナーを一方的にキルするのは一部のプレイヤーを除いて、あまりいい気分ではない。殺したところで旨みが無いというのもあるが。
しかし、彼らは勘違いしている。
このウンディーネは確かに
ALOでの戦闘は初めて、魔法など使ったことが無い。
飛ぶことも慣れていない。
初心者、と言っても過言ではないだろう。
_______唯一、戦闘経験を除いて。
「_______ご心配ありがとう。でも、7人で一人を寄って集って殺そうだなんて、見ない振りは流石に出来ないかな」
彼の唯一の武器であるスモールソードの柄に右手を当てる。
サラマンダー達も同時に戦闘態勢へ。
ユージオ自身も現状に関してはある程度理解している。
そこに倒れている紅い髪の少女の頭上に表示されている簡易HPゲージの下には黄緑色の雷マーク。麻痺状態になっているので動けない。
そして、身動き取れない彼女に武器を片手に近付くサラマンダー7人。
はっきり言って、怪しいにも程がある。
ユージオにはエギルからの前情報があった。
《ALOはプレイヤー間の《
エギルからの情報と今の眼前に広がる状況。
例えゲームの事や現実世界での当たり前に疎い彼でも分かった。
ユージオも理解している。
このゲームの世界で正義面をするのもお門違いだ、という事。
ロールプレイングがどういうことなのか、現実世界と仮想世界を切り替える考えも
しかし。
彼にも、譲れないものがあった。
1対7。
圧倒的不利な状況の中、ユージオは思考を巡らせる。
後ろで倒れている少女は勿論戦力には入らない。
彼女を守りつつ戦うのは、かなり厳しい。
故に彼が辿り着いた最適解は_______
「_______は?」
くるりと後ろへ振り返り、彼女の元へ。
逃げの算段だ。
無論、彼女を連れて。
「___ごめん、我慢して」
そして、一言謝って、彼女を抱き上げた。
彼女は何か言おうとしていたようだが、体が麻痺して動かない。
彼はそのまま_____左手にコントローラーを呼び出し、羽を起動してそのままの勢いで空に駆け出した。
「…お、おいおいおい!!」
「___やられた!!追え!!」
即座に彼らも察した。
このまま逃げ切ろうとしているのではないかと。
サラマンダー達も急いで羽で飛び出した。
「______」
慣れないコントローラー操作。
しかし、真っ直ぐ飛ぶだけなら彼にも可能だった。
はっきり言って足でまといな彼女を守りながら戦うほど彼に余裕はない。一刻も早く遠い所へ避難してもらいたい。その為に____彼は空を駆ける。
すぐに追いつかれる。追いつかれなくとも、
彼は既にSAO時代には無かった『魔法』という要素を頭に入れていた。
それなりに距離は離した。後は_____抱きかかえた彼女をどうするか。
ユージオはキョロキョロと辺りを見回し、目的のものを見つけて即座に行動に移した。
「____一応加減はする。丁度いい所に落ちるようにするから、その後は自分で逃げて」
ユージオはそう言い残して紅い髪の彼女を________
「__________!?」
声にならない悲鳴をあげているような気がしたが、彼女が無事逃げられるように祈り、後ろへ振り向く。
……
直後、ユージオの視界は赤い焔に包まれた。
「______っ!」
林の中に不時着する。
ダメージは______1割。ギリギリ羽を消して落下したのが功を奏したか、赤い焔をかするだけで済んだようだ。
素早く立ちあがり、抜剣する。
「…この剣、刀身が本当に短いな」
ユージオはSAO時代の
初期装備であるスモールソードは性能としては最底辺。攻撃力もリーチも、耐久も著しく低い。
対して相手は歴戦の猛者らしきプレイヤー達。武装も上位の高性能なものばかりだろう。
「____武器は格下だ。けど、培った技は負けちゃいない」
心を落ち着かせて、深呼吸しようと大きく息を吸った直後。
「オラァ!!」
上空からの斬撃。
が、ユージオは紙一重で躱した。そこからバク転して少し距離をとる。
奇襲は読めていた。
馬鹿正直に斬りかかってくるのは中々居ない。
チッ、と舌打ちをしたサラマンダー。ユージオと同じ片手剣使いのようだ。しかも盾持ち。
続々と降りてくるサラマンダー達。
パッと数えたところ、7人丁度。不安だった先程の少女の元へ行った者はいなかったらしい。
全戦力がユージオへと集中した。先程ブン投げた彼女はおよそ落ちる寸前で麻痺状態が回復するだろう。逃げるのは容易い。
一安心し、彼らに向かって中段に剣を構える。
彼らの態度_____しかめっ面からするに、邪魔をしたユージオを最優先で潰してきている。
この一対多の絶対的不利な状況の中、ユージオは約1年半前_____SAOがデスゲームとなった直後のキリトとのある会話を思い出していた。
「_____一対多の状況になった時の対処方法?」
「うん、それを教えて欲しいんだ。だって昨日もそうだったけど、この世界じゃ化け物……モンスター、だっけ?それが僕ら2人より多く出てきてたでしょ?
単独行動している時にそうなったらどうやって切り抜ければいいのかなって思ったんだ」
「……まぁ、一人になることもあるかもしれないしな。教えておいて損は無いか」
キリトは頭を掻きながら、少し考えて答えた。
「まず、これは最初に言っておきたいんだが……」
「…何?」
「______一対多の状況は絶対に作るなよ」
ずいっとユージオの方に寄ってきて、人差し指を立てて言った。
対処方法について聞いたのに明確な答えではなく、忠告から始まった。
「え?」
「前提条件だ。なるべく一対多の状況は作らないこと。はっきり言って、デスゲームになったこの世界じゃ、1つのミスも命取りだ。
…………いや、俺が言えたことじゃないけどさ」
少し頭を掻きながらキリトは明後日の方向に視線を向ける。
「うん、でも…」
「お前の言いたいことは分かる。確かに、俺とユージオでコンビを組んでても俺たちより多い数のモンスターと鉢合わせることなんてざらにある。その時は何とかなってるけどな」
「……キリトの言いたいことも分かるよ。一人じゃ、支え合う仲間がいない。たった一つののミスで死ぬことになるってことだろう?」
「うん、理解してくれて何よりだ。まぁ、大前提として
けど状況によってはそうなってしまうことも有り得る。じゃあ、俺からのアドバイスだ。一対多の状況になった時の対処方法」
「…!」
「言ってること矛盾してるとは思うんだけどさ……
「…どういうこと?」
「…一対多の状況になれば高確率で負ける。どれだけレベルが高かろうと、物量には負けるんだ。だから、そこからどうやってより相手するモンスターの数を一時的に減らすかなんだよ」
「一時的に減らす……た、例えば?」
「例えば……んじゃあ、あそこにちょっと大きめの岩あるだろ?」
キリトは前方____ユージオの後ろにあった大きめの岩を指さした。
「あれを障害物にするんだ。あの物陰に隠れれば、相手の行動は限られてくる。右から来るか、左から来るか、上から飛び越えてくるか。岩を砕いてくる可能性と無きにしも非ずなんだけど、それは置いとこう。」
「うん」
「言っちゃえば、相手の行動をこちらから誘導して制限するんだ。ダンジョンの中でもそう、迷宮区でもそう。ダンジョン内の柱を利用して柱を越えようとしている一体を置き去りにして後ろにいるもう一体を処理する。
まぁ、この戦略も相手がモンスターだからこそ成立する作戦なんだけどさ」
プレイヤーとの戦いとなればそうはいかない、とキリトは付け加えた。
「真正面から戦わず、逃げながらでもいいからな。ここじゃ生き残る事が重要なんだ。無理に勝とうとしなくていい。無理だったら即逃走だ。逃げるタイミングは考えなきゃだけどさ」
逃げてもいい、とそう太鼓判を押したキリトの表情は、真剣なものに違いはなかった。
「______」
1年以上前、まだロニエとティーゼに再会する前の話しだが、ユージオはしっかりと覚えていた。
彼なりの一対多の戦い方。
実践の時。
「……!」
瞬間、サラマンダー達が動き出す。
盾持ち片手剣の前衛二人がユージオに突っ込んでくる。その後ろには大剣使い一人、中衛に槍使いが一人、弓使いが一人、そして1番後ろには杖を携えたローブを被った術師二人。
総勢七人がユージオをユージオを殺そうと襲いかかってくる。
前衛二人の内、前に出てきた片手剣使いの攻撃を剣で捌く。真正面から受けるのではなく受け流すように、川を流れる水の如く。
しかし、直後にはもう一人の攻撃が上から迫っていた。
それも受け流す。
ユージオは理解した。
この盾持ち二人の攻撃でできた隙に後ろで構えている大剣使いの男が一撃喰らわせようという魂胆なのだということを。
およそ、後ろの槍兵は《
であれば、真面目に二人を相手取るのは愚策。
続く盾持片手剣使い二人の連撃。コンビネーションは抜群で、息もあっている。
まず_______この二人を引っぺがす所から。
隙をついて後ろへ跳ぶ。目標は______ほんの数メートル先にある太い大木。
彼らに背を向けることなく右側から大木の後ろへ。
「隠れんぼのつもりかよ____!!」
しかし、彼らも逃してはくれない。即座にその後を追う。
片手剣の二人が盾を構えたまま大木の元へ。
片方のプレイヤーが左側から、もう片方が右から回り込もうと二手に別れる。
少し左側へと走ったプレイヤーが早く追いついた。木の後ろ____ユージオがいるはずの場所へ、剣を振り抜いた。
「_____切り返したか!」
しかし、彼はいない。
とすれば右側へ戻ったのかと彼は考えた。なら、もう一人が交戦している筈。
が、しかし。
大木の向こうから姿を現したのは、もう1人のサラマンダーだった。
「は!?」
「おい、アイツは!?」
俺は見ていない、と言う後から来たサラマンダー。
直後、剣と剣がぶつかり合う金属音が響く。
バッと振り返ると、既に、大剣使いと交戦を始めているウンディーネの姿があった。
「____飛んだか!」
2人は瞬時に理解する。
彼が後ろに下がった理由は自分達を引き剥がし、大剣使いと一騎打ちに持ち込む為だと。
「うお!?」
そして同時に、交戦に入った大剣使いの男も驚いていた。
木の後ろに入って見えなくなったと思えば、直後、木の上____樹冠からウンディーネが自分に突っ込んできていたのだ。
片手剣の二人が作った隙を大剣で一刀両断する、その予定が大いに狂った。
大剣、両手剣の弱点はその重量故に一撃一撃の隙が大きいことにある。当たれば逆転出来るが、逆に当たらなければ意味が無い。
鎧一式着込んだ彼からすれば、初心者装備の軽装相手は相性が悪かった。
袈裟斬りを繰り出すもふらりと躱され、斬撃を受けた。
「ぐ_______!?」
計3カ所。
ただの斬撃なら問題ない。
大剣使いは彼の持つ武器が初期装備のスモールソードであることを見抜いていた。ならダメージはほぼ受けない。彼が着込んでいる鎧はそれなりにハイグレードだ。スモールソードなんていうゴミ武器など斬られるどころか弾き返してしまうだろう。
しかし、しっかりとダメージを受けていた。今の一瞬、3カ所に食らった斬撃だけで6割のゲージが削られた。
驚愕する。
何故____と考える。
ALOにおいて、ダメージの算出方法はさほど難しいことでは無い。
武器自体の攻撃力、攻撃命中位置、攻撃速度、攻撃を受けた側の装甲の防御力、この4つのみ。
ウンディーネの使う武器はゴミ同然、彼らサラマンダーが装備している装甲はかなりハイグレードだ。
なら_______件のウンディーネの攻撃速度が尋常ではない程高かったと考えられる。
しかしだ。それだけではこのダメージ量は考えられない。再度何故、と考えたその時。
はたと思い出す。
攻撃を受けた場所は?
攻撃を受けたのは_____両手首と、左肘裏、右膝裏。
全て比較的鎧の中でも装甲が取り付けられていない、関節部分だ。
大剣を持っている両手首の間に剣を通すように突き攻撃、左肘裏への突き攻撃、そしてすれ違いざまに左から右への一閃で右膝裏を斬った。
見えなかったが、そうしたのだと大剣使いは悟った。
凄まじい程の精密動作性。
追ってくる盾持ち片手剣の二人、手首を斬られて大剣が滑り落ち、膝裏を斬られたせいで膝をつく大剣使い。
ユージオは片方の片手剣使いに向かって大剣使いを蹴り飛ばした。
ぶつかって吹き飛ぶ片方。
もう1人の片手剣使いに向かってユージオは斬りかかった。
振るわれた初撃は盾によって防がれたがその後も連撃を盾に叩き込む。
攻撃の威力のブーストは最大限に、剣速はトップスピードを維持して邪魔な盾を吹き飛ばした。
「___はぁ!?」
針に糸を通すような精密な突き攻撃と斬撃に片手剣使いは思わず悲鳴をあげる。
彼の攻撃は、まだ止まない。
盾を持つ左手を真後ろに吹き飛ばされた片手剣使いに三連撃を見舞う。
「ぐぉ!?」
先程盾で受けていた連撃の反動によるダメージ二割と今受けた三連撃の7割。
もう片手剣使いのHPゲージは
前衛は3人、中衛1人、後衛3人の7人パーティを相手にするユージオは一刻も早く、相手戦力を落としておきたい。
虫の息となった片手剣使いに向かってトドメの一撃を振り下ろす______その時。
「______ぁ」
呆然とユージオを見上げる片手剣使いの瞳に気がついた。
それがまるで、
「___________っ!」
剣での一撃を止めて、蹴りを入れて戦線から離脱させる。
トドメは刺さなかったが、HPゲージ残り1割では何も出来ない。あと一歩で死んでしまうのだから。
そう、自分を誤魔化した。
もう1人の片手剣使いがこっちへ向かってくる。
すぐさま狙いを向かってくる片手剣使いにシフトして_____直後、後ろへ剣を振り抜いた。
キン、と何かを弾く音。
「____チッ、背中に目でもついてんのかよ!」
後衛の弓兵だ。
先程までの移動速度では狙うのが難しかったのと、位置関係的に弓兵から見て味方の向こう側にユージオがいた為援護出来ていなかったようだが、今は少し移動して当てやすい空にいた。
しかも、後ろから槍兵が迫って来ている。
挟み撃ちの形だ。
ユージオはまず____片手剣使いから対処することにした。
片手剣使いへと駆ける。
盾を前に押し出し、攻撃を受けまいとする片手剣使い。その鬱陶しい盾の上の部分を掴み、倒立前転の要領で上へ。
盾を掴んだまま、動かされる前に手を離した直後、空中で片手剣使いに一撃。
着地してもう一撃を食らわせる。
「ぐ_____クソッ!!」
くらり、とよろけるがしかし、その片手剣使いは反撃しようと回転斬りを見舞おうとするも、そこにユージオの姿はなかった。
ユージオは既に片手でコントローラーを呼び出し、羽のほんの一瞬使ってその推進力で片手剣使いの股下をスライディングで通り抜けている。
回転斬りが空振ってがら空きの背中に
「う、ぁあああ!?」
残りHP2割だった相手には殺しはしない丁度いいダメージ量だろう。
そして、残るは中衛の槍兵。
両手槍を叩きつけるように振り下ろした。ユージオはそれを左に避け、全力で槍兵に肉薄する。
槍、という武器の強さは《リーチ》にある。
剣よりも長く、弓程の有効距離は無いが、かなり優秀な武器だ。
狭い場所での戦いには向いていないと思われがちだが、決してそうではない。挟所でも優秀である。槍は振り回すよりも突き攻撃の方が効果的であり、挟所であればリーチのある槍は突き攻撃だけで相手の歩みを止めることが出来る。
しかしながら、そのリーチを活かせる距離を置かなければかなり厳しい戦いを強いられる。
言ってしまえば、懐に入られると弱い。
ユージオはそれを知っているからこそギリギリまで攻撃を引き付け回避し、肉薄しようとしているのだ。
両手槍使いも同じく理解しているため、適正な距離を保とうと後ろへ跳ぶ。
左から一閃しようとするユージオに対し、両手槍使いは槍を両手で器用に回してそれを防いだ。
近付こうものなら突き攻撃で牽制し、距離を保つ。
少しでも近付いて撃退しようと槍の突き攻撃を捌く。
「________!!」
「_______っ!!」
火花散る数秒の接戦。
集中力を切らした方の敗北だ。
合間に空から飛んでくる矢も弾いた、その瞬間。
「_____今ッ!!」
一瞬の隙を両手槍使いは逃さなかった。
全力の刺突。
左胸への一撃は流石のユージオでも剣での防御は間に合わない。
だから_____左手でその槍を掴む。
「はっ________?」
そのまま槍の矛先を避けつつ、思いっきりユージオの左後方へ引っ張った。
全力の刺突で下がることを考えていなかった両手槍使いはそのまま引っ張られユージオの剣の間合いへ。
そして、すれ違いざまに渾身の一撃を見舞った。
「うぐ、ぁ_____!?」
威力フルブースト、トップスピードで繰り出された攻撃は軽装に入るとはいえかなりの防御力を持っていたはずの鎧をもろともせず、両手槍使いのHPを8割がた根こそぎ持っていった。
残るは、後衛の弓兵と術士のみ。
気がかりなのは、今の今まで何故術士が全く攻撃してこなかったかだが____
次の瞬間、ユージオはゾワリと何か嫌な予感を感じて横に転がった。
空から片手剣使いが斬りかかってきていた。ユージオの咄嗟の判断と言うより、勘で回避出来た。
「____早い」
思ったより復帰が早い、とユージオは感じた。
今の戦闘は1分もかかっていない。剣と盾のデザインから見るにおおよそ先に斬った片手剣使いだ。既に1割しかなかった筈のHPゲージは8割以上回復している。と言うよりじわじわと今も回復し続けている。
ポーションで回復するにももう少し時間がかかると考えていたユージオは思考を巡らせる。
回復結晶と同じようなアイテムがここにはあるのか?しかし、回復結晶と同じ効果だと、一瞬で回復してしまうので持続性は無かった。
それとも、ポーションの性能が段違いに良いのか。
元より、アインクラッドとは違う世界だ。ユージオの憶測では計れない。
その時、先程斬った両手槍使いが立ち上がろうとしているのが視界に入った。すると次の瞬間、彼を謎の緑色の光が包んだ。控えめな輝き。
「_______ああ、そういう事か」
答えに辿り着いた。
後衛部隊にいる術士を見る。
術士2人は何やら杖のようなものを片手に、何かを唱えている。言葉を紡ぐ事に彼らの周りに回る奇怪な文字列。
治癒術を使われていた。
アインクラッドでは、魔法という物は一切存在せず、あったとしても敵側にしか無かった。無論、回復方法もポーションか回復結晶を使うしか無かった為、そこまで気が回らなかった。
アンダーワールドでも治癒の効果を持つ神聖術はあったが、もう既に1年半も昔のこと。アインクラッドでの知識、経験意識の癖が仇となった。
「とどめ、刺しておくべきだったんだろうな」
この世界では死が現実に直結することは決してない。だから、戸惑ってはいけなかった。
ここでの死は、なにか特別なものではない。和人は言った。『死んでもいいゲームなんて、ヌル過ぎるぜ』と。
この世界でも死んでも、現実世界では死なない。和人は現実世界の人間故に割り切れただろうが、ユージオにとって分かっていても割り切るのは難しい事だった。
状況は最悪。
見れば既に両手槍使いもHPゲージが半分程回復するのが見えた。
一対七という、絶望的な戦況は変わらない。
しかも今度は囲まれてしまった。
その時、術士のいる方角の奥から、数人のプレイヤーがやって来た。
全員サラマンダーだ。
構成は、おおよそ同じ。
何やら、術士の1人と後から来たパーティの1人が話をしている。
嫌でもわかる。彼らの仲間だ。元より2パーティでこの林にいたのか。
人数は______計14人。
絶体絶命。
人数は先の倍。
初心者装備だから、と相手が油断することはもうない。
「_______負け濃厚、かな」
流石のユージオもこの人数差はキツい。
「…いや、そうでもない」
キリトなら、どうするだろう。
そう考える。
ユージオの相棒、唯一無二の親友。
そして、ユージオにとっての、最強の剣士。
彼なら、この状況で屈しただろうか。
一対多の戦闘は避けろ、と言っていたキリトだが、型破りな彼の事だ。
この状況も何とかしてみせるだろう、とユージオは思った。
キリトがやってのけるならば。
ユージオも負けてはいられなかった。
「____躊躇は捨てろ」
スモールソードを中段に構える。
合流してきたもう1パーティの前衛が周りを取り囲む。
囲んできた数、片手剣使い4人と大剣使い二人の総勢6人。
彼は、覚悟を決めた。
死闘、ここに。
彼なりの意地を貫く。
ALO編に突入致しました。このALO編にて特別ゲストとしてテレビゲーム版のキャラクターを登場させる予定です。もし登場させるなら…?
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鍛冶師の二刀流使い《レイン》
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天才科学者のVRアイドル《セブン》
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自称トレジャーハンター《フィリア》