ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~ 作:クロス・アラベル
すごく遅れてしまいましたが、これからもできる限り、投稿ペース上げていけたらなと思うます。というわけで、今回は詐欺事件の終わりです。原作にすごく助けてもらいました。
それではどうぞ!
○
「ウインド・フルーレの武器の強化をお願いします。」
11月25日、夜9時半。ユウキさんの詐取されたカルサイトソードを例のオプションで取り戻した後、第二層のタランの街の東広場でアスナさんはネズハさんに武器の強化を依頼しました。
「は、はい。種類の方は…」
「正確さでお願いします。」
「…分かりました、武器をお預かりします。」
そう言ってアスナさんのウインドフルーレを受け取るネズハさん。
「プロパティを確認させて頂きます…よろしいですか?」
その問いにアスナさんは無言で頷く。
「……!凄い…+4ですか…しかも、2A1D1S…ここまでよく強化出来ましたね…」
「強化素材は90%分使ってください。」
ネズハさんは顔を歪めながら、商品棚にある強化素材を取り出しました。
「……分かりました…」
私たちはネズハさんのお店の後ろにある建物の両端で丁度見えないくらいの所から見ています。
「えっと、手数料と素材料込みで……二千五百コルになります…」
「……お願いします。」
アスナさんは料金を払って強化が始まるのを待っています。
アスナさんのウインドフルーレを鞘に入れたままの状態で左手で持ち、携帯炉に強化素材を入れて加熱すると大きな音と同時に緑色に輝きました。キリト先輩の推理があっているのならあの瞬間に詐欺が行われていると言うことですが……私達のいる場所からはギリギリ見せません。
パリィィィィイインッ!
そして、槌でウインドフルーレを叩き始めて、10回目。剣が砕け散った音が聞こえました。
そして、ネズハさんが立ち上がり謝罪の言葉とともに頭を下げる、その直前、アスナさんは落ち着きを払った声で静止しました。
「いえ、謝らなくていいです。」
「…えっ……」
そして、アスナさんが消さずに残していたメインメニューにあるクイックチェンジのショートカットボタンを押し、控えめな音が聞こえた直後、私たちはアスナさんの元へ向かいました。
「……っ‼︎」
私達の顔を見て驚きを隠せないネズハさん。
「あ、あなたは…あの時の…」
「ああ…待ち伏せみたいな真似して悪かったな…そうじゃないと、これは解決しないんだ。」
「……‼︎」
ネズハさんは下がった眉を八の字に曲げ、顔を歪めて私達を見ました。
「……驚いたよ、アインクラッド初の鍛冶屋がこんなに早くクイックチェンジのMODを取ってるなんて…まあ、誰も気づかないよな…その上、クイックチェンジの発動に必要なメインメニューを商品とカーペットの間に隠すのアイデアも見事なもんだ……このトリックを考えた奴は、正直天才だと思うよ…」
その言葉を聞いてネズハさんは顔を伏せ、肩を震わせています。
「……謝って、許されることじゃない…ですよね…せめて騙し取った剣をお返し出来ればと思ったんですが…それも出来ません。全て売って、お金に変えてしましました…僕に出来ることは……これくらいしか……ッ‼︎」
最後は半ば叫ぶように言ってふらりと立ち上がり、右手から槌………スミスハンマーが滑り落ちてしまいましたが、それには目もくれず走り出しました。
ですが、走ったのはほんの数メルだけでした。なぜなら、ネズハさんの行く手からユージオ先輩達が来たからです。ティーゼの隣にはユウキさんもいます。
「………死んじゃダメだよ。君が死んでも、何も変わらないよ?」
ユウキさんを見て、また驚いて声にならない呟きが漏れる中、ユウキさんはネズハさんに諭すように言いました。
「……僕、この詐欺が誰かにバレたら、その時は死んで償おうって、決めてたんです。」
「今のアインクラッドでは自殺は詐欺よりも重い罪よ。強化詐欺は依頼人への裏切りだけど、自殺はこの世界を終わらせようとして戦っている全プレイヤーを裏切る行為なんだから。」
「……ッ‼︎」
あ、アスナさん……鋭すぎですよ……
「…自分も自殺しようとしてたのに。」
「な・に?」
「イエ、ナンデモアリマセン。」
「キリト先輩、おふざけはそこまでにしてください!」
「わ、わかったって…」
「こう言う時にふざけるのは流石に良くないよ、キリト。」
「……おう、反省する。」
と、いつも通りのお笑いのような会話をした時、ネズハさんがくしゃくしゃに歪んだ顔を私たちに向け、何か思い出すように言いました。
「あ、あなたは……もしかして、アスナさんですか?」
「えっ?」
「それに、ロニエさんとティーゼ、さん?」
「「ええっ?」」
「し、知ってるのか?」
「…はい、攻略組の中でも数少ない女性プレイヤーですから……噂になってますよ。」
「……じゃあ、俺の事も…?」
「…えっと……黒髪に黒い目…真っ黒装備………あ!も、もしかして、キリトさんですか?」
「……そだけど……」
「二人でボスにとどめを刺したって聞きましたよ。もう一人の、えっと…そう、あなたですよ、ユージオさん。」
「ぼ、僕も?」
「……はい。」
「僕も、あなた達みたいに…なりたかったですが……」
「………!」
「その他にも何か目指していたものがあるんじゃないの?目指すべき………そのために戦うべき何かが。だって、そのために始まりの街を出たんでしょう?」
アスナさんの言葉にネズハさんはまた顔を伏せ、静かに言いました。
「……確かに、目指していたものは、ありました………でも、それも、潰えてしまいました。」
「………FNCか…」
「……………はい。」
えふえぬしー?なんのことか、さっぱり……
「……とにかく、立ち話もアレだ。どこか喫茶店にでも行こう。」
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
「……キリト、それで、えふえぬしーっていうのは何?」
とある喫茶店に入り、席についてユージオ先輩が単刀直入に聞きました。
「……フルダイブ不適合……ナーヴギアの自動調整機能の初回の設定を決めると、次からは即ダイブが出来るんだけどな……俺たちはちゃんと五感が機能してるだろ?でも、かなり稀なケースとして、自動調整で『不適合』が出ることがあるんだ。」
なーゔぎあ、ふるだいぶ、自動調整機能……全然わかりませんね…
「……不適合……何が不適合なんですか?」
「五感のどれかが正常に働かないんだよ。運が悪いとフルダイブさえも出来ない。」
コヒル茶と似たようなもの…(ここでは、『コーヒー』と言うそうです)を飲んでキリト先輩が答えてくれました。
「……その通りです、キリトさん。僕は、聴覚、嗅覚、味覚、触覚…その4つは正常に働くんですが、肝心の視覚に問題が出てしまって…見えないわけじゃないんですが、…両眼視機能……つまり、遠近感覚、奥行き感がよくわからないんです。アバターの手と、その向こうのオブジェクトが、どれくらい離れているかがよく分からない……このカップをソーサーに戻すことも、ましてやごく短いスミスハンマーで叩くことさえも僕にとっては難易度高いんです…」
「……君が強化の手順をものすごく丁寧にこなしていたのはそれが理由か…」
私達は剣や槍、斧などを使って戦っています。神聖術が使えないこのアインクラッドでは、視覚は一番大切なもの。特に遠近感覚は敵や物との距離感が分からない……って言うことは…
「遠近感覚が働かないってことは……
ティーゼは私と同じ考えに達したようで、大声をあげました。
「……僕が言うのもなんですけど、よく、すり替えのトリックを見破りましたね。しかも、今日じゃなくて、昨日……ロニエさんのアニールブレードを遠隔回収した時にはもう気づいていらっしゃったんですよね?」
「あー…まあ、あの時は『まさか』ぐらいにしか思ってなくてさ。気づいた時には1時間の所有権持続リミットがギリギリだったから、宿屋のロニエの部屋に突入して完全オブジェクト化コマンドを使わせたら(バシッバシッバシッバシッ!)お、おおう……ごめんっ⁉︎」
………何から何まで言わないでほしいですね。
「そしたら、剣が戻ってきたからさ。それで詐欺の存在は確信したんだけど…手口………クイックチェンジを使っていたって言うことに気づいたのはついさっきさ。これだって確信したのは君の名前だよ、ネズハ………いや、『
「‼︎」
その自分の真の名前を聞いて、鋭く息を呑み、キリト先輩を見ました。
「……まさか、そんなことにまで気づくなんて……」
「まあ、ここのあたりは情報屋の人に頼んで調べてもらったんだ。キリトもそこまで知ってるわけじゃないみたいだしね……」
「しかも、君の仲間…『レジェンド・ブレイブス』の5人も君のことをネズオって呼んでたからさ……あれはつまり、彼らも知らないってことだよな?ねず………じゃ無かった、『ナタク』の名前の由来を……」
「ネズハで良いですよ。元々そう呼んでもらうつもりでしたから……」
ネズハさんは悲しそうに、そう言ってこくりと頷きました。
哪吒……正しくはナーザ、または、ナタ太子と呼ばれる少年の神だそうです。詳しくは私も呼んでいませんが……
「……レジェンド・ブレイブスはこのソードアートオンラインが始まる前、ナーヴギアが発売された後に出た他のゲームでのチームなんです。ダウンロード専用のロープライスゲームで、一本道のマップの先から出でくるモンスターを剣とか斧で倒しまくって、得点を競うだけの単純なゲームだったんです。……でも、僕にとって、それだけでもすごく厳しかった…奥行き感が分からないせいで武器を空振るばっかりで……いつまでたってもチームのランキングは上がりませんでした。別に僕らはリアルで知り合いだと言うわけでもないですから、もう、抜けた方が良かったのかもしれません……でも、みんなが抜けてくれって言わないのを良いことに、僕はチームに居続けました。」
「……」
キリト先輩達は黙って見守るように聞いています。
「……なぜなら、後もう少しで『ソードアートオンライン』の世界に来たかったからなんです……アインクラッドだけは行っておきたかった……みんなとソードアートオンラインをプレイすることを約束してたので、みんなと一緒に行けば、強くなるんじゃないかって………」
ネズハさんは少しためらいながらも続けました。
「僕は前のゲームでは誰でも知ってるような『オルランド』とか、『クフーリン』みたいな英雄の名前を使っていたんです。それを『Nezha』に変えたのは……言うなら、オルランド達への追従、おべっかです。みんなみたいな英雄の名前は使わないから、仲間のままにしておいてくれって…みんなに由来を聞かれた時は本名のもじりだって言いましたが、嘘です。みんなにネズオ、ネズオって呼ばれながらも内心では僕の名前も英雄なんだぞって、思ってたんです……ほんと、どうしようもないですよね…」
「でも、SAOがデスゲームになって、状況が変わったのね?あなたはフィールドに出るのをやめて、生産職になった。」
「まあ、鍛冶屋なら戦わなくても仲間に貢献できますからね。それで、なんであんたはそこから詐欺にまで飛躍したのよ?それに、詐欺のアイデアは誰のなの?あんた?それとも仲間のオルランド?」
厳しい口調でネズハさんを問い詰めるティーゼとアスナさん。……ちょっと言い過ぎじゃないですか?」
「…僕でも、オルランドでも……他の仲間でもないんです。」
「「ええっ?」」
「…実際、僕は始まって二週間は戦闘職を目指していたんです……このSAOには唯一遠隔攻撃が出来るスキルがありますから…遠近感覚がなくても、戦えるんじゃないかって……」
「……《投剣》スキルか……でも、あれは…」
「……はい…始まりの街で一番安いナイフを買えるだけ買って、スキルの修行をしたんですけど、ストックを投げ終わっちゃうと、何も出来ないし、かと言ってフィールドに落ちてる石じゃダメージが低すぎて、メインで使えるスキルじゃなくて…熟練度50まで上げたところで諦めちゃったんです。しかも、ブレイブスのみんなも攻略組に乗り遅れちゃって……」
……私達があまりにも早く攻略を進めていたせいで、そんなことが……
「……僕が《投剣》スキルの修行を辞めるって決めた時の話し合いは、かなり険悪なムードでした。誰も言わなかったけど、みんなはギルドに僕を抱えてるせいで攻略組に遅れてしまった…鍛冶屋に転向すると言っても、生産職のスキルの修行は何せお金かかりますからね。『いっそ、こいつを始まりの街だ置いていこう』、誰かがそう言うのをずっと待っていた状況でした。」
ついに、この詐欺事件の仕掛けを教えた誰かが分かりそうですね……
「そしたら、それまで酒場の隅っこでNPCみたく全然動かなかったプレイヤーが近づいてきて、『そいつが戦闘スキル持ちの鍛冶屋になるなら、すげぇクールな稼ぎ方があるぜ?』ってそう言ってきたんです。」
「…!」
「そいつの装備は?」
「……えっと…真っ黒なフーデットケープを着てました。なんだか、雨合羽みたいでしたよ。」
「雨合羽……つまり、私と同じようなものね?」
「は、はい……色は違いますけど……」
アスナさんの着ている外套のようなものを、着ていた……
「その雨合羽の男、マージン……見返りで何か…コルか、詐取した剣をくれ、とか言ってきたか?」
キリト先輩がすかさず聞きます。見返りを渡す時、かなり至近距離にいないと出来ませんから、その時にその謎の男を見ることが出来ますしね……
でも、そのキリト先輩の作戦は次のネズハさんの言葉で一瞬で砕け散りました。
「いえ…
「ちょっと待って!それじゃあ、その人はお金も騙し取った剣も要らないんなら、何を望んだの?」
「……今となっては、その人に聞けもしませんからね……打つ手なしですか……」
「じゃあ、詐欺の方法だけ教えて姿を消したっていうの?」
「いや、正確にはもう少しだけ話して行きました。最初はブレイブスのみんなも否定的だったんです。そんなの犯罪じゃないかって……そしてら、あいつはフードの下ですごく明るく笑って……わざとらしいってわけじゃ無いんですけど、なんだか…
「綺麗な…笑い方、ですか?」
「はい。」
黒い雨合羽、綺麗な笑い方をする男…なんだか、そんな感じの人を見たような……アインクラッド……いえ、
私が記憶の奥に行く、その前にネズハさんが話の続きをし始めて意識が戻ってきました。
「なんていうか、その……あいつの言葉を聞いているうちに、なんだか、ことがそんなに深刻じゃないような気がしてきて…そしたら、みんな笑ってました。オーさんもベオさんも……僕までも笑ってたんです………確か……『ここはネトゲの中だぜ?やっちゃいけないことは最初っからシステム的に出来ないようになってるに決まってるだろう?ってことはさ、やれることはやっていい……そう、思わないか?』って……」
「そんなの詭弁よ!」
「そうだよ!そんなのモンスターを横取りすることも、モンスターを擦りつけることでさえ許されるみたいじゃないか!極端に言えば、犯罪防止コードが働いていない圏外でプレイヤーを…」
アスナさんとユウキさんが言い返そうとしますが、最後まで言えませんでした。
「ネズハ、それからそのポンチョ男とは会ったか?」
「いえ、あれから会ってません……………今思えば不思議なんですが、あいつがいなくなってからギルドの中の空気が変わったような気がして、みんなやれるならやっちゃうか、みたいなノリで盛り上がっちゃって……お恥ずかしいですが、僕もみんなのお荷物になるくらいなら、詐欺の主役になってお金を稼いだ方がざっとマシだと、思ってたんです。けど……」
ネズハさんは肩を震わせ、両目をきつく閉じて今にも泣き出しそうな声で続けました。
「初めて教えてもらった通りに詐取をした時………すり替えられたエンド品が砕けた時の、お客さんの顔を見て……ようやく気づきました。こんなこと、たとえシステム的に出来たって絶対にやっちゃいけないんだ、って……そこで剣を返して、何もかも打ち明ければよかったんですが……そんな勇気なくて、せめてこの一回で終わりにしようって思いながら、ギルドの溜まり場に戻ったんです。でも、………………でも、そしたら、みんなが、僕の騙し取った剣を見て、凄く、凄く僕を褒めて……だから……だから、僕は………ッ‼︎」ガンッガンッガンッ!
ネズハさんは耐えられなくなったのか、いきなり頭をテーブルに打ち付けました。その度に紫色の光を放ち、障壁……この世界の真理の一つ『犯罪防止コード』が発動し、ネズハさんの体力は全く減りません。
きっとネズハさんはどうして良いのか、分からないのでしょう。私達に自殺することを否定され、それでも、被害者への弁償も出来ないし………そして、仲間のところにも戻れない。
方法があるのなら、自分のしたことを広く、アインクラッド中に広め、謝罪することでしょうか………それでも、アインクラッド攻略を目指している人たち、そして、被害者……多くのプレイヤーたちが、ネズハさんを許すとも限りません。許されなかった場合、どんな罪がネズハさんに下されるのか……
その時、キリト先輩とユージオ先輩が何かに気づいたように顔を上げ、ネズハさんを見ました。そして、キリト先輩はメインメニューを開き、何か操作をしています。ユージオ先輩とキリト先輩はお互いの顔を見て、黙って頷きあいました。
「……ネズハさん…僕らから、《提案》があります。ネズハさんのレベルは幾つですか?」
ユージオ先輩がそう切り出し、ネズハさんは不思議そうに顔を上げ、答えました。
「……10、です。」
「……じゃあ、スキル所持数は3ですね?」
「……《投剣》と、《所持容量拡張》……あと、《片手武器作成》スキル…」
キリト先輩はネズハさんを試すように言いました。
「……冒険者ネズハ……いや『ナタク』、君に問おう。君にも使える武器があるとするなら、《片手武器作成》スキル……
次回『時間超越者会議』